個性──生態模写 作:月見月 月魅
音無鳴に両親はいない。
中学三年生にして一人暮らしである。
亡き両親の遺した遺産や遺族年金、他にも収入源があるとはいえ、やはり中学生が一人暮らししているというのは誰の目にも異様に映るもの。本人が平気そうにしていたところで、学校の教職員は気に掛けないわけにはいかない。両親が自殺しており、本人は顔も声も覚えていないというのだから、尋常でない過去があるのは誰の目にも明らか。
故に、雄英の入試が終わろうとも鳴への手厚い気遣いは終わらなかった。
「音無さん。もうあと少しで卒業だけど、いつでも此処に帰ってきていいからね。私たち先生を家族だと思って……は、難しいかもしれないけど、みんな味方だから。ちょっとでも困ったことがあったり、寂しいなってだけでもいいから、頼っていいからね」
どれだけ規格外な個性を持っていようとも、此処では一人の人間でいられる。一人の中学生でいられる。
中学三年生になってからのおよそ一年間、進路指導室は鳴にとって、居心地のいい空間の一つとなっていた。迂闊に声を発するとただでは済まないため、指先でなぞるようにして、空中に光の文字を書くことで返した。
ありがとうございます せんせい
でも しんぱいは ふよう です
きっと ともだち できますから
紙に書くように書くと相手には反転して見えてしまうため、鳴は鏡文字で右から左に書く必要がある。どれだけ多芸な個性を持っていようと、未だ漢字は書けなかった。
「きっとみんな応援してくれますよ。でも気負わず、焦らず、自分のペースで頑張りましょうね」
はい!
”!”を付けているにも関わらず、マスクの向こうにある口はピクリとも動いていない。しかし余計なお世話だなんてかけらも思ってはおらず、煙たがってもいない。
学校での鳴は、物静かで大人しく大人らしい少女であった。少女というには、ところどころが大人顔負けレベルで育っているが。
断じて、教職員たちに下心で優しくするような不届き者はいなかった。
「実技総合成績が出ました」
大画面に、受験生の名前が成績順でズラリと並ぶ。連なる数字と名を見て教師陣からは感嘆の声が幾つも上がった。
「今年の一位はブッチギリだなオイ!」
一位──音無鳴──500点
前代未聞の偉業、満点である。
隠し要素である救助ポイントは形式上0点だが、誰よりも前を走り、危機を人前に持ち込まないという姿勢はヒーローとして満点であり、それは敵ポイントとして現れている。同じく救助ポイント0点の二位と比べても好感触だ。
「しかし、どういう個性なんだ? ペンを浮かせて空も飛び、かと思えば超パワーに炎。複合型にしても統一感が無さすぎる」
「彼女の個性は生体模写。とある界隈では名の知れた、究極の万能型個性さ」
「声帯模写? ただの声真似でどうしたらああなるんだ? プラシーボ効果じゃ説明つかないだろう」
「文字が違うのさ。他者の生態を我が身に模写する個性。確かに珍しいけれど、いないわけではないコピー系個性のハイエンドモデルさ」
教師達の話題は、音無鳴とその個性に集中する。中でも詳しいらしい根津校長が、鳴について熱く語った。
生態模写。目視した生物の外見、身体能力、個性などをコピー、記録し、混ぜ合わせる個性。どの顔、どの身体、どの個性、どの生態を色濃く出すかを意識的に選ぶことのできる音無鳴。
コスチュームやサポートアイテムを製造している企業をはじめ、異形系専門のファッションブランド、個性専門の研究機関の中では、音無鳴をモデル、検体として独占してはならないという条約があるほどに、今の社会において非常に便利な存在としてその名が知れ渡っている。
かくいう鳴本人も、無意識にコピーした個性を無意識に発動してしまうことがあるため、危険な暴発を防ぐためのアイテムの開発、製造をいくつもの企業に依頼している。今日着てきた白い拘束衣もその一つ。凶悪な個性を持つヴィランを安全に捕縛するという名目で作られたが、事実上、鳴専用の普段着兼コスチュームだ。
「社会の利益だけを考えるなら、こんなところで遊ばせていい人材ではないのさ」
「……合理的ではありませんね」
「彼女の美貌を一目見たら、誰もが合理性を捨ててでも倫理的になってしまう。それこそ、ヒーローもヴィランも無差別さ。きっと、清く正しく美しいヒーローになってくれる。よろしく頼むよ、イレイザーヘッド」
後書き。というか、音無鳴の設定集。その一。
個性──生態模写
目視した生物の外見、身体能力、個性、生態をコピー、記録し、混ぜ合わせて我がものにする個性。どの要素を色濃く出すかを意識的に選ぶことはできるが、油断すると無意識に個性が暴発してしまうことがある。
また、コピーする対象を選ぶことはできず、見てしまったが最後、全て記録してしまう。そのため鳴本人にも、自分に何ができて何が出来ないのかは把握しきれていない。
オールマイトやエンデヴァーなどの印象に残りやすい人物の生態は扱いやすいが、逆に印象に残っていない人物の生態は意識的に分別して使うことが難しい。
外見や声、性格もコピー、記録しているが、表面に出てきているのは鳴の無意識下で厳選されたものを混ぜ合わせて出来たもの。鳴の理想の外見を日々微細ながらも自動更新し続けている。色々な人間と似た顔でありながら、どの人間とも違う顔。
物間寧人の個性──コピーとの違い
物間は個性を持つ人間に触れると、同じ個性を五分間使用することができる。
複数の個性を保持はできるが、同時発動はできない。
個性を一時的に真似るだけなため、どうしたって練度でコピー元を上回ることは出来ない。
また、コピーできるのは個性だけなため、何かしらの蓄積が必要な個性は、コピー出来ても何も起きない、いわゆる”スカ”が起きる。
対して音無鳴は、目視した人間の個性に限りなく似た個性を記録、使用することができる。
タイムリミットはないが、印象が薄いと、無数の記録の一つとなってしまい、意識的に
複数の個性を保持、発動しているかのように見せることはできるが、実際は混ぜ合わさった一つの異能。
個性ではなく生態を模写するという性質からか、ワン・フォー・オールなどの蓄積が必要な個性だとしても、本人と同程度の出力、練度で扱うことができる。が、鍛えることは出来ないため、出力を上げるにはより成長した姿を見て記録を更新するしかない。
オール・フォー・ワンの個性との違い
AFOは個性を奪い、複数の個性を個別で使用できるだけでなく、複合、足し合わせて使用することもできる。
個性と同時に、個性に宿る意志も丸ごと取り込んでしまうため、睡眠時に奪った個性の意志が夢に現れ、罵倒することが度々ある。
鳴も同じように、複数の力を同時使用しているように見せることは出来るが、それは混ぜ合わさって一つになっているからであり、小さい違いながらやっていることは同じではない。
模写した個性の意志が鳴の夢に現れたりはしないが、何もかもを模写、混ぜ合わせてしまうため、あまりに我の強い人間を模写してしまうと、人格が別物になってしまう可能性がある。
最大の違いは、AFOは複数個性を組み合わせて使えるのに対し、鳴は混ぜ合わせて使うことしかできない。
AFOは増強系個性を複数組み合わせて強力な増強系として使えるが、鳴に同じことはできない。オールマイトと同等の身体能力にさらに同系統である砂藤力道のシュガードープを足した、自分だけの超パワー、みたいなことは無意味。混ざり合って平均化され、ただ弱体化する。
超パワーに、エンデヴァーの炎や、上鳴の帯電、麗日の無重力を
同系統の足し算は基本的に出来ず、系統の違う個性を掛け合わせることなら出来るイメージ。
オールマイトの身体能力に、砂藤力道のお菓子作りが得意という生態を混ぜ合わせることは出来る。