個性──生態模写 作:月見月 月魅
「白い!?」
「……?????」
長いようで短く、楽に見えて多忙だった春休みも終わり、今日という日は入学初日。様相から個性からトラブルには困らない鳴は、幾らかの余裕を持って登校していた。そして通学中に未知の存在と遭遇し、普段のぶっきらぼうな態度も忘れて首を傾げた。
宙に浮き、人の言葉を話す制服。足元を見れば地に足つけたスニーカーと自立しているソックスも見える。
制服を着ていない鳴も鳴だが、お互いに奇妙な様相である。
「あ、でも試験の時にもチラッと見た気がする……制服どうしたの? 届くの遅れちゃったとか?」
鳴の眼前に現れた珍生物は、どうやらこれから同級生になる女子生徒らしい。そうとなれば、無視する理由もないと、鳴は試験の時には封じていた手指で宙に描き答える。
せいふくは もろくてあぶない から
わたしは いつも このかっこう
とうめいにんげん さん?
「えっと、なるほど? あ、私、葉隠透っていうの! そう! 透明人間!」
わたしは おとなし めい
よろしくね とおるさん
不可視の顔を持つ少女と、顔を隠した少女。奇妙な二人組は、多くの新入生に目撃されていた。
「おんなじクラスでよかったね、鳴ちゃん!」
鳴と透は同じクラスであることを道中に確認し合いながら、地図片手に教室へと向かう。難しい道順ではないが、広大な敷地を誇る雄英。うっかり迷子になってしまったが最後、教室にたどり着くどころか、家に帰れるのかすら分からない。
中学校とは何もかもが比べ物にならない昇降口、廊下を通った先で、二人は教室にたどり着いた。
せき はなれちゃってるね
ざんねん
「あー、まあ、出席番号じゃ仕方ないよね」
「──!? 君! 制服はどうしたんだ!? 着崩すとかいうレベルではないぞ!?」
メガネをかけた動作一つ一つに生真面目さの滲み出る男子生徒。人類最高峰のスタイルを
鳴に不真面目さがあるかと言われればそうではないが、それはそれとして。本人が平然としすぎていて道中誰も突っ込めなかったが、鳴の服装は制服ではないし、外を出歩く格好でもない。入試の際にも着ていた、白い拘束衣。荷物を持つために両腕は解放されているが、胸や腿は相変わらずベルトで固められている。拘束というよりは、身を守る鎧のような役割である。
「も、もしや怪我をしているのか? 実技試験の時の怪我が治り切らなかったとか……」
急に態度を変えて心配の色を出し始めた。それは鳴の目を隠す白いアイマスク、鼻から下を隠す不織布マスクを間近で見たからだろう。
けがは してないよ
め も みえてる
せいふく は あぶないから
「個性の都合というわけか? 確かに、異形型や炎熱系は苦労すると聞くが……。申し遅れた! 俺は飯田天哉だ、よろしく」
おとなし めい
きょか は もらってるから
しんぱい ふよう
「そうか、それは早とちりをしてしまったな。お詫びというわけではないが、何か困ったことがあったらいつでも言ってくれ」
ありがとう
でも ほんとうに けがとか じゃないから
しんぱい しないで
「宙に文字を書くのが、君の個性なのか?」
こせい は ひみつ
「秘密だと?」
「……説明が面倒だから、我慢してね」
「──!!」
飯田にだけ聞こえる程度の囁くような声で、鳴は言った。
照れて顔を真っ赤にさせて何も言わなくなったのを見て、鳴は静かに座る。
続々と同級生となる者たちがやってくる。一人装いの異なる鳴は、個性的な面々一人一人に突っ込まれては、似たような答えで顔を真っ赤に染め上げていった。
「エ────
約一名、一言すら言い切れないうちに、念動力で強引に口を封じられたが、同情する者はいなかった。全身を包み隠して尚も、音無鳴の芸術的な色気は隠しきれていなかった。
誰も彼も、男女無差別に口撃を受けて真っ赤にした彼らが席についた頃。
寝袋に包まれたホームレスのような男が教室に現れる。
「……なんだお前ら、黙りこくって。それでもヒーロー科か?」
元気いっぱい、夢いっぱい。ヒーロー科といえばそんな子供達が例年集まるというのに、今年の一年A組はすでに静まり返っていた。ある意味、異常事態である。
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
しかしこの程度の事態ではお構いなしなのがこの男、相澤消太──イレイザーヘッド。雄英高校屈指の合理主義者である。
「早速だが、全員体操服着てグラウンドに出ろ」
一言、そう言い残し、教室からさっさと出て行ってしまった。
「「「個性把握テストォ!?」」」
鳴を除く全員が体操服に着替えて集まったグラウンドで始まるのは、入学式でも始業式でもガイダンスでもなく、個性把握テストだと相澤は言う。
一人の女子が「入学式は!? ガイダンスは!?」とツッコミを入れるが、相澤は「そんな悠長な時間はない」と冷たく返す。
「音無。中学の時……。お前、体操着に着替えてないのはいいとして、なんで拘束具増えてんだ」
相澤は鳴を指名するも、途中で訝しむように言葉を変えた。その視線の先には、入試試験の時と同様に、両腕を拘束具で固めた鳴がいた。
極力声を出したくない鳴は、口頭では答えられないと目で伝えようとしたが、残念。目も鼻も口も隠れているので何も伝わらない。
「……まあいい。ソフトボール投げだ。円から出なければ何をしてもいい。個性を使って投げろ」
それなら余裕だと言わんばかりに、鳴は頷いた。手渡されようとしたボールは、ソフトボール投げ開始位置である円の中まで足で転がす。
全員が離れた位置にいることを確認してから、鳴は小さく言葉を発した。
「モデル──オールマイト」
全身に紫電が走る。
そして右足を軽く持ち上げ、ボールのすぐ近くで強烈な地団駄を踏む。局所的な地震かと思えるほど地面が揺らぎ、ボールが跳ね上がる。
「ウートガルズ──スマッシュ!」
膝あたりまで跳んだボールを、つま先で蹴り飛ばした。
勢い余って鳴が五回転して止まったところで、相澤の持つ端末に記録が表示される。
──3256メートル
「自分の最大値を知ることはヒーローの素地を作るための第一歩だ」
と、相澤は言うが、鳴はこれが最大値なのだろうかと思考する。ボールの飛ぶ速さなら最大値と言えるかもしれないが、飛距離ならもっと出せるという確信があった。日常的に使いすぎてそれが個性だという認識すら薄らいでいたが、念動力ならもっと遠くまで飛ばせた筈である。もう一回やりたい。
「おおお! 三キロマジか!?」
「なんだこれ、すげー面白そうじゃん!」
「声めっちゃ可愛い……」
「個性思いっきり使っていいんだ!」
ギロリ、と。相澤の鋭い目が何人もの生徒たちに突き刺さった。誰がどう見ても、新入生を歓迎しよう、楽しませてやろうという目でないことは明らか。
「面白そう、ね。よし、ならトータル最下位のものは見込みなしとして、除籍処分としよう」
自由が校風にも程がある。訴えたら弁護士無しでも勝てそうなくらい横暴だ。
しかしヒーローとなるために必要な試練なのだと言われてしまったら、ヒーロー科の生徒はやるしかない。
「合理的に行こう。まずは50m走からだ」
雄英高校ヒーロー科は、入学初日から波瀾万丈に始まった。
後書き。というか、音無鳴の個性把握テスト結果。
原作と大差ない内容になるので本編中では丸々カットしました。
50m走──0.52秒
空間歪曲とオールマイトの身体能力による全力の一歩。
握力──測定不能
念動力で完全なる球体になるまで圧縮し続けた。
長距離走──2.51秒
50m走と方法は変わらず。
反復横跳び──87回
途中で地面が崩壊を始め、思うように記録が伸びなかった。
立ち幅跳び──無限
念動力による飛行能力は超低燃費。
長座体前屈──無限
念動力で計測器をグラウンドのスペースギリギリまで移動させた。
ハンドボール投げ──無限
長座体前屈と同じく。