個性──生態模写 作:月見月 月魅
誰一人とて欠けることなく無事に個性把握テストは終了した。総合成績で奇跡的に最下位が二人出た、みたいな裏工作に塗れたような話ではなく、生徒全員に見込み有りと相澤が認めた形での終幕である。
そんな強烈な初日であったにも関わらず、二日目は強烈な落差を覚えるほど普通な授業が始まった。実は鳴にとって、なかなかにレアな経験である。
丁度三年前、鳴が中学一年生になったばかりの頃。まだ鳴が究極の美女ならぬ絶世の美少女だった頃。
鳴の容姿に対する理解を拒絶した担任の女教師は、当時鳴の被っていた仮面を剥ぎ取り、顔を隠すことを禁止した。
途端に起きたのは、男子達による鳴の奪い合いと、女子達による鳴への陰湿なイジメ。入学二日目にして学級崩壊が始まり、まともな授業ができる程度の環境になったのは冬休みが明けた頃である。そして卒業するまで、鳴がクラスに馴染めることはなかった。
そんな過去と比べたら、なんと雄英の快適なことか。主に服装が原因で馴染み切れていないし、アイマスクは見えづらいし、マスクも息苦しいが、普通に授業を受けることができる。先生に指されて答えられただけでチヤホヤと騒ぐように褒められることもないし、ため息一つついただけでやっかみを受けることもない。誰も彼もが、普通過ぎると落胆する中で、鳴は一人、普通の授業を誰よりも楽しんでいた。
「音無ちゃん。食事の時くらいは、マスクを外したらどうかしら」
そして今はお昼休み。スプーンとフォークを器用に使って、カルボナーラをマスクの下から口へと運んでいた鳴は、対面に座っていた同級生──蛙吹梅雨に声をかけられた。鳴は指先の代わりに、右手に持ったフォークで宙に書いて答える。
はずすと いろいろ まずいから
「顔を見せられない事情って、個性の関係かしら?」
そんなところ かな
わたし ちょー かわいいから
「それだと、むしろ見せたくなるものじゃないの? 女の子として」
かめんを つけたかお が かわいい
きぐるみをきてる あなた すてき
そういわれて きみは うれしい?
「かめん、……仮面? 音無ちゃん、どういう個性なのか聞いてもいいかしら。昨日は秘密ってはぐらかされちゃったけど、気になるわ」
「…………」
鳴は言葉に悩みながら、スプーンとフォークでカルボナーラを小さな一口大に丸める。
「知られたくないなら無理には聞かないけれど、三年間一緒になると思うし、知りたいの」
「……………………」
音無鳴の個性──生態模写は、無理に隠すような個性ではない。知る人ぞ知る、というレベルではあるが知っている人間は当然のように知っている個性である。鳴もそう自覚しているため、あまり隠す気はなかった。
しかしぶっちゃけた話、面倒くさいのだ。
生態模写という個性の説明は複雑が極まっている。一朝一夕に語り尽くせるような性質ではないし、三日三晩で理解できる情報量でもない。
鳴は覚悟を決めるように重い動作で、マスクを外した。しかし声を出す気にはならず、カルボナーラを頬張って、またフォークで宙に書く。
なんでもできる
なんにでもなれる
むげん に かわいくなる
「……驚いたわ」
うそみたいな ほんと の こせい
「個性もだけど、口元。とっても可愛いわ」
め も かいほうすると
せかいが おわる よ!
「……冗談、よね?」
じみに とらうま なの
みようとしないでね
「……字が怖いわ。どうやってるのかしら」
こがす こせい
くうき を こがして かいてる
こういう じも かける
「漢字とカタカナは書けないのね」
中習練
「綺麗な字だけど、反転してるわね」
かがみもじ は むずかしい
「応援してるわ。できれば、声も聞きたいのだけれど」
そんなことしたら あくにん きえちゃう
「ヒーローとしては正解ね」
人類としては不正解である。とは書かなかったのも、面倒だったからかもしれない。
「それはそれとして、やっぱりその格好は不正解だと思うわ。人として」
「……梅雨ちゃん。それが人間の言うこと?」
「人間扱いしてくれてありがとう。そしてやっぱり、可愛い声ね」
うっかり
人並みから外れた人間は、人間扱いされただけでちょっと嬉しい。個性社会特有の闇によって際立った、小さな光がそこにあった。カルボナーラはちょっと伸びた。
「わーたーしーがぁっ! 普通にドアから来たぁ!!」
昼休みの終了を告げるチャイムと殆ど同タイミングで、教室のドアが大きい音を立てて開かれた。そして現れたのは、ナンバーワンヒーロー──オールマイト。騒ぐと睨んで黙らせる相澤とは違い、オールマイトはその力強い声で教室を制した。
「早速だが今日はコレ! 戦闘訓練!」
教壇に立ったオールマイトは、一枚のプレートを提示する。
そこには、”BATTLE”と書かれている。
「そしてそいつに伴ってこちら!! 入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえた
教室の壁が迫り出し、人数分のロッカーが現れる。
この学校はどこに予算をかけているのだろう──そんなことを考えていたのは、鳴だけだった。
「着替えたら順次、グラウンドβに集まるんだ!」
後書き。というか、音無鳴の設定集。その二。
コスチューム──白い拘束衣
オールマイト並の怪力でも破けない、世界一丈夫な服。
鳴が無意識にエンデヴァー並の炎を暴発させても、繊維一本すら燃えることはない。
両腕の拘束具
手から発動する個性は多過ぎるほどに多いため(麗日や死柄木、13号などなど)、鳴には制御し切れない瞬間がある。睡眠時や、戦闘時など。もし暴発したとしても被害を最小限に抑えるため、自力で(
胸、腿を締め付けるベルト
胸は大きくて邪魔だし、揺れると痛い。
腿は上下がアンバランスな気がしてなんとなく締めているだけ。鳴なりのお洒落のつもりだが、誰にも理解されることはない。
全体的に白色を好んで採用しているが、実はストックで何色かバリエーションがある。
サポートアイテム
包帯のような白いアイマスク
見え過ぎる個性を持った人間が、目に掛かる負担を軽減することができるように開発、研究されている試作品。完成次第、発売予定。鳴は目を隠すためだけに巻いている。扱いがサングラスだが、そっちは似合わなかった。
不織布マスク
近所の薬局で定期的に買い貯めしている。百枚千円。
お値段総額なんと!
拘束衣──────500億円(製作費)
両腕の固定具───350億円(製作費)
胸、腿のベルト──15億円(製作費)
アイマスク────8000円(販売予定価格)
不織布マスク───10円(一枚につき)
計────────865億8010円
フル装備は文句無しにぶっちぎりで、トップヒーロー含む中でも最高金額のコスチュームである。
なお、純粋な戦闘力なら脱いだ方が強いしエロいし可愛いため、宝の持ち腐れと言えなくもない。