個性──生態模写   作:月見月 月魅

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マスメディアと学級委員長

 

 入学早々、一週間ともたずマスコミにバレたらしい。

 オールマイトの就任と音無鳴の入学に、あらゆるマスメディアが注目してしまった。注目を集めてしまった。

 ナンバーワンながらも謎の多いヒーロー、オールマイト。

 有名ながらも顔や声を隠している謎の多い万能の超人、音無鳴。

 そんな二人のプライベートを覗き見ることができるなら、彼らは多少の無礼は厭わない。雄英高校の正門前に取材陣が陣取り、雄英生ならば誰でもいいと言わんばかりに無差別に、カメラとマイクを掲げて捕まえる。

 あと数分でホームルームが始まってしまう。果たして何人の生徒が間に合わず遅刻となってしまうか。……そんな心配をしているのは生徒達ばかりで、聞き込んでいるにも関わらず取材陣は彼らの言葉に耳を傾けない。

 

 そんな修羅場に遂に、本命の片割れが現れる。

 

 まるで天使が地上に降り立つように神々しく、天より飛来してきた。自転車通学ならぬ、飛行通学である。

 

「キタキタキタ!! 逃すんじゃねーぞテメェら!! ただの雄英生なんてほっといてこっち来い! 一ミリも撮り逃すな!!」

 

 四方八方から、産毛一本すら撮り逃がさんとカメラが向けられる。吐息一つでも持ち帰ろうと、幾つものマイクが鳴の身体に触れるかどうかという距離まで近づけられる。まだ春になったばかりだというのに、見るからに重たそうな機材を抱えている男達の汗ばんだ顔はヴィラン予備軍と呼ばれても仕方ないほどには、興奮を隠しきれていない。

 

 

 ──鳴は大抵の荒事、面倒ごとを暴力と魅力で解決してきた。

 

 彼らはいわば、油断していたのだ。

 

 ヒーロー志望なら一般人を襲うことはあり得ないという思い込み、油断。

 著名人ならば何を言われても仕方がないという有名税という名の免罪符、油断。

 美少女が誰かを恐れることはあれど、恐怖させることはあり得ないという、油断。

 

 彼ら──マスメディアは、音無鳴という概念を、甘く見ていた。音無鳴という存在を、軽く見ていた。音無鳴という人間を、見たことがなかった。

 

 鳴は初めて、カメラの前で素顔を晒し、マイクの向こうへ生声を流した。

 

「もう、こういうことはやめてくれないかな」

 

 たった一言。人類よりも上位に位置しているかの如く尊き言葉に、カメラもマイクも、取材陣も、テレビの向こうの視聴者すらもが首を垂れた。

 

 美人ほど、怒らせると恐ろしいものもない。

 

 カメラはアスファルトを映し、マイクはこの隙にと駆け抜ける雄英生の足音を捉えるばかり。

 もう今後、鳴を目当てにここへ来ることはそうないだろう。鳴が進もうと歩き始めると、彼らは真逆の方向に駆け足で撤退していく。

 

「おはよう、音無。……事情は見ていたから知っている。が、いくらお前でも、対人での個性行使は厳禁だぞ」

 

 騒ぎを聞きつけて駆けつけた相澤は、昇降口へと向かう鳴を呼び止めて注意する。

 鳴はマスクを急いで戻し、目を覆う包帯型のアイマスクを後ろ手に巻きながら、髪先で書き答える。

 

 

 こせい つかって ませんよ

 すがお です

 

「そうだとしても、側から見ればそう見えちまうって話だ。顔を隠せとは言わんが、気をつけろ」

 

 ぜんしょ は してみます

 

「そうしてくれ」

 

 

 


 

 

 

「学級委員長を決めてもらう」

 

「学校っぽいのキター!!」

 

 早朝早々の騒動があった後に待ち受けていたのは、A組がこれまで経験した雄英高校の日常の中でとびきりに学校らしいイベントだった。学級委員長、並びに各委員会や係の選定。

 ヒーロー科は殆どが進学せずにヒーローとなる為、内申点の重要度は決して高くはないが、学級委員長は特別。集団を導くトップヒーローとなるための素地が鍛えられる役職なのだと、ヒーロー志望の学生はしっかりと予習しているのだ。

 トップヒーローとして名高い英傑達の多くは、単独での戦闘能力もさることながら、サイドキック達を指揮する指揮官としての指揮能力も高い。……ごく一部、単独行動に特化しているヒーローや、サイドキックを雇わないものもいるにはいるのだが。どんな経験だろうと糧になる、ということなのだろう。多くの生徒達は名乗りをあげ、手を挙げる。

 

「静粛にしたまえ!! 多を牽引する重要な仕事だぞ! やりたいものがやりたいだけで出来るものではないだろう!」

 

 俺が私が。僕があたしが。ヒートアップするように騒がしくなる教室を、クラス唯一のメガネ──飯田天哉が鎮めた。高層建築が如く聳え立っている手さえなければ、混沌な有様であるクラスを律するに相応しいと誰もに思わせたことだろう。しかし不恰好にも挙手する手は聳え立っており、ツッコミを入れる余地を自ら生み出してしまっていた。

 

「周囲から信頼あってこそ務まる聖務。真のリーダーを決めるというのなら、民主主義に則り、投票で決めるべきだとは思わないかね!」

 

「手ェ聳え立ってんじゃねーか! なぜ発案した!?」

 

「会って二日目、まだまともに話していない人もいるのに信頼もクソもないわ、飯田ちゃん」

 

 蛙吹梅雨の言うこともご尤もである。しかし他に平等に決める手段もそうないし、実際の選挙で投票者が立候補者はどのような人間か知った上で、信頼、信用に値するか判断しているのかは微妙なところだが。

 

「だからこそ! ここで複数票を取ったものこそ真に相応しいということにならないか!? どうでしょう先生!」

 

「時間内に決まりゃなんでもいいよ」

 

 この場での正解は、担任である相澤に丸投げすることだったかもしれない。彼にとって最も委員長として扱いやすい存在を選べば、角が立つこともなく、すんなりと決まったことだろう。

 

「あれ、音無はいいのか?」

 

 一人、立候補すらしない生徒がいることに気づいた相澤がそちらに目を向けると、近くの席だった男子──上鳴電気も気がつき、声をかけた。

 鳴だけは、最初から今までずっと挙手しておらず、席についたまま微動だにしていない。顔も隠れていることから、瞬きや呼吸をしているのかも怪しく見えたが、右手を動かし指先で書くことで答えた。

 

 かおも こえも しらない

 せいふく も きてないのに

 しんらい なんて できないでしょ?

 

「別にんなことないと思うけどな。顔隠してるくらい。おっかねー爆豪より全然マシじゃね?」

 

「……………………」

 

 少しばかりの間の後、答えた。

 

 ありがとう

 でも めんどくさい から いいかな

 

「めっちゃ正直!? つーか物臭か!」

 

 物静かで文武両道、成績優秀と、生真面目な優等生のように見られやすい鳴だが、実のところかなりの物臭、出不精な女であり、ポリシーやプライドを曲げてでも楽をしようとすることもある、人間らしくもいい加減な女でもあった。自転車でも電車でも徒歩でもなく、個性による飛行能力で登校するためだけに、少なくない金額を投じて個性使用免許という制度を国に作らせ、さらに大金を積んで免許を取ったような女なのだ。

 

 個性使用免許とは、ヒーロー免許ほど自由に個性を行使することは許されないものの、お金さえ払えばあとは講習を受けるだけで即日、免許証が交付されるという、殆どの国民にとって価値の無い資格である。無論、禁止項目の第一条には他者(一般人の他、ヒーロー、ヴィランも含む)への個性使用があり、その下には幾つもの禁止事項や制限が事細かに制定されている。こんなものがなくとも、見せびらかす程度の個性行使であれば黙認されるという現状では、音無鳴専用の資格と言えるだろう。

 

 八百万が個性で投票箱を創り、飯田がルーズリーフを切っただけの即席投票用紙を作ると、投票が始まる。

 

 

 


 

 

 

 殆どの者が悩むことなく投票したおかげか、そうかからずに全員分が集まり、投票結果が開示される。

 

 飯田──二票

 音無──二票

 緑谷──二票

 八百万──二票

 他──一票、およびゼロ票

 

 上位四人の票数は、この数日間の行動、活躍を見て、誰もが納得のものだったのだろう。結果への不平不満の()は、()()()()上がらなかった。

 

 わたし りっこうほ してない

 じたい したいな

 

「ええ!? 鳴ちゃん、強いし頭も良さそうだし、いいと思ったのになー」

 

 そう意外そうな表情……は、見えないが声を上げたのは、葉隠だった。この数日の間に鳴と交流のあった(そして投票したであろう)蛙吹も意外そうな顔をしている。葉隠のように声に出さなかったのは、授業中に無駄なお喋りをしてはいけないという、数日前まで偏差値70後半を維持していた受験生時代の名残だろうか。

 

 丸投げしたとはいえ、一応当事者である担任の相澤が、投票結果と鳴の文字を見て口を挟む。

 

「教師としてあまり言いたくないが、学級委員長は放課後に残ってもらうことが偶にある。やりたい、やりたくない以前に、やってる暇ないだろ」

 

 雄英生、ヒーロー志望となったとはいえ、鳴がこれまでやってきた仕事が無くなるわけではない。今日、明日にでも新作のコスチュームやその他衣類、ファッションアイテムのサンプルが鳴の住処に幾つも届くだろう。今週中には放課後に顔を見せなければならない企業もある。部活や委員会なんて、鳴にやっている暇はなく、それは雄英も把握していた。

 

「飯田、緑谷、八百万か。……もう一回投票する時間はないな。ジャンケンでさっさと決めちまえ」

 

「適当ではないですか!? 時間が残り少ないといえど、それでは!」

 

 運も実力の内。それは受験生だけの特権ではなく、ヒーローこそ運を味方にせねば成り立たない仕事だと、相澤は気だるげに、だがどこか力強く語った。

 たまたま当たりどころが良かった。数センチずれていたらタダでは済まなかった。

 たまたま間に合うことができた。あと一秒遅れたら救えなかった。

 たまたま敵が弱かった。もし自分より強かったら負けていた。

 

 どんなに強く正しいヒーローだろうと。平和の象徴オールマイトだろうと。

 

 運を敵に回して勝つことはできない、と。

 

 この場の戦いで運を味方につけられなかったのは緑谷出久で、最も運が味方したのは、飯田天哉であった。

 緑谷出久に敗因はなく、八百万百にもやはり敗因はない。飯田天哉が大量のお守りを買っていたというわけでもないため、運とはどうしようもなく気まぐれなやつだった。

 

 

 

 





 後書き。というか、音無鳴の設定集。その四。

 鳴の意外とアレなエピソード

 外を歩いていると注目されるのが嫌で、人目を避けて飛行移動するためだけに個性使用許可証という制度を金にものをいわせて作らせた。取得のためには自動車免許とは比べ物にならないほど大金が必要で、鳴以外に取得している人間は十人もいない。

 手から個性が暴発しないようにする訓練と称して、ヒーロー科受験対策訓練の大半をゲーム三昧で過ごしていた。実際、効果的だっただけにタチが悪いとは担任談。

 夜中だからと油断して素顔で散歩していた際、うっかり素顔を見てしまった一般人の記憶を個性で改竄した。バレていないだけの違法行為である。

 音無鳴を神聖視する神道系宗教団体に神社と巫女を丸ごと与えられると、遠慮なく社務所の居住スペースに住み着き、身の回りの世話を巫女に丸投げしてちゃんと叱られた。
 ちなみに幾つかある住居のうち、最も雄英に近いため、今の鳴のメイン住処は神社である。同居人に住み込みで働く巫女が一人と、床下に住み着いた自称元ヒーローのホームレスが一人いるが、ジャンル的に一人暮らしらしい。

 トイレ掃除、風呂掃除が面倒で、身体の汚物という汚物全て、物体転移の個性で下水に直接放り込んでいる。アイドルはう○こなんてしない(物理)である。風呂には入れと叱る人が長年いなかった弊害だったりする。相澤だけは本気で羨むかもしれない。

 自分の素顔が嫌いすぎて、神社である今の家には鏡がない。どころか、顔を映るようなものが何もない。窓ガラスは磨りガラスで、食器は全てステンレス。洗面所や風呂場に備え付けられていた鏡は巫女に撤去させた。

 経験値が低すぎて、数少ない会話可能な相手と通話中の携帯電話を二回握り潰した。極力声を出したくないのに携帯電話を持つ意義を見出せず、今はスマホを持っていない。メールもパソコン派である。

 生理の時期が嫌すぎて、実は定期的に性転換することで回避している。なぜ出来ているのかは不明。
 女装用のシリコンバストや股間部のおかげで、運動能力はむしろ低下するが、鳴の中の厨二男子が目覚めて個性の扱いは上手くなるらしい。

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