個性──生態模写   作:月見月 月魅

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救助訓練は始まらない

 

 鳴がついうっかり世界征服しかけた翌日の授業には、ヒーロー基礎学があった。しかし相澤の掲げたプレートには、前回のオールマイトとは違う言葉が記されている。BATTLEではなく、”RESCUE”なのだと。

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト。それからもう一人の三人体制で見ることとなった。内容は災害水難なんでもござれの人命救助(レスキュー)訓練だ」

 

 ものにっては動きを制限することもあるだろうと、コスチュームの着用は各自で自己判断することと相澤が告げると、生徒たちはすぐに準備を始めた。

 

 とおるちゃん きょうは ふく

 きてなきゃ だめだよ

 はだか じゃ けがしちゃう

 

「……鳴ちゃんこそ、その服脱いだら?」

 

 女子更衣室にて。コスチュームに着替える面々に混ざり、脱ぐだけの葉隠とそもそも着替えない鳴は軽口を叩き合う。

 

 これ きっても さしても

 けがは しないよ

 

「私も見えないから切られたりしないし!」

 

「今日の訓練は人命救助とのことですし、刺されるようなことは無いと思うのですが……」

 

 やおよろずちゃんの こす は

 たいきゅうせい ひくそう だよね

 

「確かに音無さんの拘束衣と比べたら紙切れでしょうけれど……」

 

 八百万のコスチュームは紙切れというより、布切れといった具合である。露出度的に。

 

「確か、なんだっけ。宇宙服並みに丈夫なんだっけ?」

 

 耳郎が自分のコスチュームのベルトを締めながら言うと、すでに着替え終えている芦戸は鳴と、麗日を見比べながら反応する。

 

「宇宙服っていうなら、麗日のも宇宙服っぽいよね。SF風っていうか」

 

「そ、そうかな? 流石に、切ったり刺したりすれば普通に破れるけどね」

 

「てか、麗日が宇宙飛行士なら芦戸はエイリアンじゃない?」

 

 耳郎は言って、すぐにハッと顔を青白くさせた。

 古くよりある映画の影響もあり、異形系はヴィランのような蔑称をつけられる傾向にある。呼ばれる当人が納得しているならともかく、嫌がるなら異形でなくとも問題だ。

 そしてそんな問題に苛まれる彼らに崇められるような、異形系の希望の星(音無鳴)がこの場にはいた。

 

「いいね。エイリアンクイーンって呼んでよ」

 

 しかしそんな耳郎を嘲笑うように、芦戸は笑って見せた。蔑称になりかねない名を、気に入ってみせた。

 

「いや、気に入るなよ。我ながら酷いことを言ったかと思って謝るところだったじゃん」

 

「耳郎のヒーロー名はあたしが考えるよ!」

 

「許されてない!?」

 

 なら わたし が かんがえるよ

 

世界終末拳(アポカリプスパンチ)のセンスも光栄すぎて(厨二すぎて)遠慮したいかな……」

 

 蛙吹と八百万がお喋りに夢中な面々を急かすまで、残り三秒。

 

 

 


 

 

 

「バスの席順でスムーズに行くよう、番号順に二列で並ぼう!!」

 

 男女それぞれ着替えを済ませ、バスの発着場に集合した。飯田が呼び掛けるように指示を出すと、生徒たちはひとまず従うことにする。女子は男子たちを待たせた引け目もあり、飯田や相澤が思わず首を傾げるほど速やかに行動した。

 

 しかしそんな行動は、無に帰ることとなる。

 

 飯田が想定していたのは、左右二列づつに座席が並ぶタイプなのだろうが──

 

「くそぅ、こういうタイプだったか……!!」

 

 ──待っていたバスの形式は乗客の向かい合う、路線バスのそれに近いものだった。

 相澤に急かされ、番号順のままに乗り込む。

 鳴は尾白と上鳴の間に座りながら、呆然とバスの天井を見上げている。

 上鳴はそんな様子の鳴に話しかけた。

 

「なあ、音無の個性ってよ、ぶっちゃけどこまでできるんだ? マジでなんでもできたりすんの?」

 

 昨日の一件で、音無鳴に関する情報の多くが改めて知れ渡った。特に、ネットでちょっと調べればわかるようなことは皆が知ることとなった。その情報の真偽については、未だ疑うものも多いが。

 

 ばんのうがた を あいて に

 なにが できる

 どのようにして やった

 なんてぎもん は ぐもん

 

 鳴は後ろ手に固定している手の代わりに髪先で答えた。

 

「わりぃ、音無。字が裏返ってて読めねぇ」

 

「あ……」

 

 しかし話し相手である上鳴は隣に座っており、鳴の書いた文字は上鳴からは鏡文字に見えていた。ついうっかり、小さくだが声も出てしまう。

 そんな様子を見ていた尾白が苦笑いしながら尋ねる。

 

「音無さんが顔を隠す理由は昨日のアレでなんとなくわかったけど、声まで隠す理由ってあるの?」

 

 鳴は、今度こそは尾白に見えるように、そして読めるように答えた。

 

 きらいなんだよね わたしの こえ

 ほんとうの わたしの こえ じゃないからさ

 

「それって、普通のことじゃないの? 喋ってる時に聞こえる自分の声と、マイク通して聞く声って全然違うし、誰でも最初は気持ち悪いものじゃない?」

 

 コスチュームや個性からして、音楽に通じているのだろう。それ故の耳郎の知見は、鳴にとって目から鱗の話だった。

 自分は人とは違う。傲慢とも卑屈ともいえるような鳴の自己認識は、先入観として一般的な人間の常識を無意識のうちに無視していた。

 

 ふつう そういうものなの?

 

「聞き慣れればなんとも思わなくなるけど、大体は?」

 

 

 


 

 

 

 大きなドーム型の建物の前で、バスは停まった。相澤に連れられて中に入ると、そこには崩壊したテーマパークのような光景が広がっている。よくよく見れば崩壊の仕方は分類されていて、水難や火災など、さまざまなシチュエーションを再現されているのがわかる。

 

「水難事故、土砂災害、火災。ここはあらゆる事故や災害を想定して僕が作った演習場。その名も──ウソの(U)災害や(S)事故(J)ルーム」

 

 みなさんようこそ! と歓迎するように出迎えたのは麗日以上にストレートな宇宙服デザインのコスチュームを纏う、性別不明のスペースヒーロー、13号。コスチュームのおかげかくぐもった声は、高くもなく低くもない、独特な声である。

 

「えー、では。訓練を始める前に、お小言を一つ、二つ。……三つ、四つ……」

 

 カンペを用意するオールマイトとは、ある意味で逆のタイプなのだろう。生徒たちに話したい小言が増える、増える。

 

「ご存じの子もいるかもしれませんが、僕の個性は”ブラックホール”です。どんなものでも吸い込み、塵にしてしまう個性です」

 

 彼(彼女?)のファンらしい麗日はもちろんのこと、ブラックホールという個性については鳴もよく知っていた。

 使い方次第では、それ単体で、彼一人で地球を終わらせかねない、超に超を重ねてもまだ足りない危険な異能。そんな個性を人助けに活用している手腕は、鳴もどうにか真似られないかと、活躍の映像を繰り返し見ていた。

 

「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」

 

「ええ、そうです。……しかし、簡単に人を殺せる力でもあります」

 

 緑谷の言葉に頷きつつ、忠告するような声音で言った。

 

「そしてそれは、ボクの個性に限ったことではないのです。……皆さんの中にも、制御を誤れば、あるいは良くない使い方をしてしまえば、人を、社会を、世界すらも殺してしまえる個性を持っている子が何人もいるはずです」

 

 推論でも陰謀論でもなく、現実論として。

 近年、危険な個性が増加傾向にある。後天的に破滅の可能性を膨らませた鳴の生態模写はまた例外としても、八百万の創造や、麗日の無重力、Mt.レディの巨大化などなどなどなど。町や国を破壊してしまおうと思えば、片手間にでも出来てしまえる個性が数知れず。オールマイトが一人では足りなくなる時代は、すでに来ているのだ。

 

「前回の訓練では、個性を生かした戦いを経験したでしょう。ならば今回は、個性を生かした人命救助(レスキュー)を学びましょう。今日を通して、君たちの力は人を傷つけるためにあるのではなく、誰かを助ける為にあるのだと学んでいただきたい」

 

 以上、ご清聴ありがとうございました、と。13号は恭しく頭を下げてお小言を締め括ろうとしたが、その言葉が続くことは無かった。

 代わりに聞こえたのは、誰にも覚えのない高貴な女の声だった。

 

「知っていまして? 上条当麻が能力──幻想殺し(イマジンブレイカー)。この右手に触れた超常、異能、幻想は、悉く無効化されるのですわ」

 

「──!!」

 

 突如現れた不審人物──左半分が男で右半分が女。一組の男女を左右で切り分け、入れ替えて組み合わせたような異形の怪人が、その右手で相澤の頭を掴み、片手で逆立ちになる。

 

「どこから這入ってきやがった!」

 

 相澤の言葉で、この場の全員が、それを(ヴィラン)と認識した。しかし相澤は文字通り目上の位置で逆立ちしている人間を睨むことはできず、13号がブラックホールで退けることも、巻き込んでしまうことからできず、生徒たちも担任が人質に取られたような状況で不用意に手出しができない。

 

 たったの一手で、この場はヴィランに支配された。

 

 そしてもう一人。進入経路そのものなのだろう。どこからともなく、かろうじて人型を維持しているだけの、黒い霧のような異形の怪人が現れる。それは見た目のイメージとは違い意外と丁寧な口調で言った。

 

「はじめまして。我々はヴィラン連合。僭越ながらこの度、ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思っての事でして」

 

 その言葉に、誰もが息を呑む。二重にも三重にもありえないが積み重なる敵の言葉を、理解できなかった。

 

「まあ、私達の役目はそれとは関係なく」

 

「黒霧が生徒達(みなさま)を散らし、わたくしが無関係な教師(あなたがた)を足止めし、場を整える」

「あとは脳無と死柄木でオールマイトを虐殺する。ギャハハハハハ! これぞ完っ璧な作戦だろ?」

 

 半男半女の怪人の声が二つに増えた。高貴な女の声と、下品な男の声。

 

 そんなこと させると おもう?

 

 鳴は念動力で半男半女を持ち上げて相澤から離そうとするが、失敗する。まるで相澤の抹消のように、鳴の異能が無効化された。先に語っていた上条当麻の能力、幻想殺し(イマジンブレイカー)だろうか。

 ならば別の手をと、髪を揺らした鳴に、半男半女は微笑んで言う。

 

「よう、親友。久しぶりだな」

「お久しぶりですわね、鳴ちゃん。ずっとずっと、会いたかったわ」

 

 まるで旧知の知り合いのような──本当に親友であるかのような言葉に、鳴は首を傾げた。

 

 だれ?





 後書き。というか、音無鳴の設定集。その六。

 音無鳴の幼少期

 鳴には小さい頃の記憶が無い。具体的には、八歳より昔の記憶が全て失われている。
 気がついたら、一人で見知らぬ町の中にいた。偶然出会った、後に自分の巫女となる女性や、案内された交番にいた警察を頼り、自分の生まれた病院や、自分の住んでいたらしい家を見つけることができた。しかし、すでに両親は他界していた。自殺らしい。
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