メガテニストはディストピアでもヘコたれない。 作:はめるん用
…………。
た、助かった……のか? よな?
雰囲気的になんか褒められたっぽいが、今後も励めとはいったいどういう意味で──むむ? ミノタウロスの輪郭が徐々に薄れてきて霧状に変化して~るのも謎だけど確実にこっちに迫って来てちょい待ちなんだなによ何事ですか待て待て待てぴにゃぁぁぁぁッ!?
目がァッ! 左目がァッ!!
別に痛くも痒くもねぇや。
よ~しよしよし落ち着けマモルにホノカ落ち着きたまえよ悪趣味なイタズラのつもりなんてマジで無いんだってだから真顔で拳を構えないでいやホント俺だってビックリして一瞬だけ痛いような気がしたんだってマジで驚かして悪かったって!
talk判定に成功したので、ふたりは穏便に拳を下ろしました。なにもそこまで過剰反応しなくても、と思うと同時に俺がミノタウロスに乗っ取られた可能性なんかも考慮するなら仕方ないかなという気もする。なんなら俺の話を聞く姿勢でいてくれるだけでも控え目にいって聖人レベルの対応では?
さて。
聞きたいこと、知りたいことはたくさんあるだろうが……その前に、だ。重ね重ね手間かけてスマンのだが、俺の左目っていまどうなってんの? さすがに自分では確認のしようがないんだわ。
「……宇宙が広がってますね」
急にどうした。
「そうとしか表現できんよ、これは。コロニーのガラス張りから見上げていた星の海がリーダーの瞳の中にある」
「パッと見た瞬間は星の光が煌めいているようにも見えますが、僕には出口の無い迷路に誘い込もうとしている罠のように感じます」
もしかしなくてもミノタウロスがなにかしましたね? 神話や伝承にそれっぽい宇宙が関係するようなのあったかな……。
迷宮の番人的な話はボンヤリと覚えているが、昔読んだマンガ本に書いてあった“ミノタウロスを討伐した英雄が恋人を寝取られた挙げ句ショックによる連絡ミスが原因で息子が討伐に失敗して死んだと勘違いした父親が身投げした”とかいう内容のほうが印象強くてなぁ。
ちなみに繋がりのほうはどうなっているんだろう? どれ、少し自分の内側にあるMAGを探ってみるか。ふむ……うん……なるほど。やっぱりピクシーさんたちと違って明確な繋がりは感じないな。少なくとも俺の中に留まっているワケではなさそうだ。だからといって完全に縁が途切れたとは思えんがね。だって今後も励めって言われたもの。なにを? メシテロ肉天でも生贄に捧げればいいんですか? それなら別に躊躇う理由はないけど。肉天大盛り1丁、喜んでぇーッ!
考えても答えが出ないことを考えるのは時間のムダ。いまは要塞から脱出するのを優先するべきだろう。
もしも事態が俺の予想通りなら、動力室からMAGパッケージを運び出す作業は滞りなく完了するのが前提で動いているハズ。
そんな中で、1ヵ所だけ音信不通になったら? 誰だって想定外のトラブルが起きたと判断するし、派遣されたメンバーが全滅したとなれば──その場にいたであろう人間をどうするか。
帝国軍の、陸軍か海軍かは知らんが高級将校がいたにも関わらず戦闘が起きてるワケだからな。まぁ疑われることでしょうよ。
ん~~~~。
とりあえず~~~~。
MAG結晶体を拾い上げて、中身が入ってないのを確認して……久しぶりに、いただきますッ!!
「「リーダーッ!?」」
モグモグ……まっず。うわ、オェッ!!
さて、もう1個……モグモグ……ケェァァッ! ペェッ!! クッソ不味いな本当にッ!!
だがしかしッ! これでMAGの補給は充分ッ!
ピクシーさんッ!
「よ~し、やっちゃうわよッ! ディアラマッ!」
……うむ。実に素晴らしい癒しでござる。さすがに左腕は生えてこないが、なんとなく将来性は感じるな。ディアラハンまで使えるようになれば欠損も治療できるようになるかもしれんな!
「いまのはいったい……ッ! 小さな女の子が出てきて、それに言葉も……ッ!?」
「癒しの力を持つ異能を使えるのか。なるほど、あれだけ瀕死になりながらもしぶとく戦えているのはその……その……いや、なんなんだその小さいのは?」
お、やっぱり見えたか。
時間がアレだから簡単に説明するが──。
◇◆◇◆
「うッ……お……こ、これは……なかなか、キツい、です、ね……うぐ……ッ!」
「……。…………。………………。スマン、少し離れる」
どうやら初心者にMAGモグモグは難易度が高かったようだな。
君たちさぁ、俺時間が足りないかもって説明したよね? テンプルナイトの増援きたら全滅しちゃうってさぁ? すぐにでもここから脱兎の如く逃げなきゃいけねぇっつってんのにいきなり試して嘔吐してんじゃねぇよ。
血生臭い戦いをしていたハズが仲間たちの酸っぱ生臭い姿を見ることになった俺はどんな感情でふたりを見守るのが正解なんだろう。適度に緊張が解れたのは悪いことではないのかもしれないが。
こりゃ悪魔について詳しく説明するのは後回しだな。とにかく次の行動を考える必要があるワケだが……来た道を戻るしかないか? 高い確率で人造超力兵と鉢合わせることになるが、知らんとこ歩いて迷子になったら簡単に死ねる状況だし。どうにか誤魔化して素通りするしかねぇ!
成長した樹木で通路が破壊されてるのが気掛かりだが、どうにか人間が通れるぐらいの隙間なら作れるんじゃないかな。悪魔の存在も無事バレたことだし、イッポンダタラとワームちゃんにお願いすればどうにかなるだろ。
「案外、さっきのデカブツを召喚した気配を察知してコッチに向かってる最中だったりしてね。ほかのニンゲンたちも一緒に動いてたら大変なことになるかも?」
そんときは割り切って部隊の皆さんを囮にして逃げますがなにか?
チート能力を持ってるワケでもないのに生きるか死ぬかの瀬戸際で綺麗事なんかハナクソほどにも価値なんてねーんだよ。凡人の生き意地汚さナメんな。