とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

12 / 76
C文書編 Last_Judgement
世界の騒動


 10月初旬のある夜。黒夜海鳥は、寮の部屋で携帯端末の小さなディスプレイを絹旗最愛と共に見つめていた。

 

 そこには普段なら、大抵は最愛の趣味であるC級映画が映されているのであるが、この日その画面に映っていたのは怪獣達の陳腐な戦闘シーンでもなく、変わった服装をした人間たちが剣や銃の先を互いに向けている姿でもなかった。

 

 その画面に映されているのは、全てが学園都市ではなく海外の……特にローマ正教が広まっている国々を中心とする場所で、学園都市を批判する人々である。これはニュース番組なのだ。

 

『現在時刻から二時間ほど前から始まったばかりのこのデモですが、彼らの勢いは衰えることを知らず、逆に多くの人がその列に加わり続けており、付近の家電量販店など学園都市の製品が並ぶ店舗では破壊行動なども見られています』

 

 アナウンサーが、恐らく先ほど書き上げられたばかりであろう原稿を読み上げている。

 

『フランスでは国民の8割以上がカトリック系ローマ正教徒であると言われており、同様の活動が複数の都市でもみられることから――』

「戦争、か」

 

 そのニュースを見た海鳥が呟く。

 

「学園都市は、どうするつもりなんだか」

 

 特に答えを求めているわけではない言葉であったが、最愛がその呟きに応えた。

 

「これですよ、黒夜」

 

 最愛は彼女に携帯電話の画面を見せる。そこには、学園都市の各地で催されるイベントがずらりと並べられていた。

 

 南米の芸術品の展示だの、著名な音楽家のコンサートなどが多くを占めており、普段なら絶対に開くことのないそのページを彼女が開いたのには、そのページの一行が理由を示していた。

 

『第三学区/迎撃兵器ショー』

 

 迎撃兵器。

 

 本来ならば、学園都市が開発する必要があるのは、暴走した能力者を最低限のダメージだけで捕獲するような武器だけである。実際、警備員(アンチスキル)が使っているのは基本的に暴徒鎮圧などに使われるゴム弾が基本であるし、そしてそのような武器が使われることは基本的に少ない。

 

 しかし、この『迎撃兵器』は異なっていた。

 

 これまでの武器にあったそのような色合いは影をひそめ、その代わりとして登場したのは、戦車の陰に隠れたら、その戦車ごと標的を貫通するような大威力・高殺傷力の兵器ばかりである。

 

「この迎撃兵器ショー。一見すれば、統括理事会側からの超正式な『デモには屈しないという意思表示』ととることができます。しかし」

「あまりにも手際が良すぎる」

 

 最愛の言葉の先を、海鳥が先に答えた。

 

 これは警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)でもなければ、一般人では答えられない。『暗部』にいたからこそ答えられるものだった。

 

「兵器開発というのは、プラモデルをつくるというのは訳が違う。開発の申請、予算の計算、試作機の設計、何回ものシュミレート……物品を作っても、『商品』として売り出せるものにするのには年単位の開発を必要とするものだ」

 

 一連のデモが激化したのはつい先日の話だ。デモが起こってからでは絶対に間に合わない。

 

「つまり、この状況は上層部の連中にとっては超予想通りというわけなんでしょうね」

「ああ」

 

 さらに、このような公開は明らかに外部企業への『売り(セールス)』を目的としていないだろう。どちらかといえば、これは公開軍事演習と言った方が良い代物だ。『外』の技術では決してわからない詳細不明の破壊力だけを『敵』に突きつけ、その威圧感をもって外交のカードを切ろうとしている。

 

「『外』と取引する商品にしても、だ。展示しているものがそのまま売りに出されるわけじゃあない。ライフルのフルオート機能を排除して店頭に並べるように、実際には三世代くらいはグレードを落として売るんだろう……。『外』のことをまるで知らない私たちが言うのも何だが、下手したら、『外』でも作ろうと思えば作れるような代物になっている可能性すら、あるな」

 

 どうして学園都市はそこまでして兵器を売りさばこうとしているのだろうか。

 

「金を集めて新しい兵器でも作るつもりか?」

「まあ学園都市だったら、昔のC級映画に出てくるような、ロケットパンチを繰り出すロボットを作っても超不思議というわけでもありませんけれども」

 

 

 

 

 

 そんな彼女たちは知らなかったが、今回の大きな『争い』の中心には、彼女たちが良く知る二人の少年の存在があった。

 

 上条当麻。そして、神谷駿斗。

 

 当麻は幻想殺し(イマジンブレイカー)という特殊な力を持つこと以外には、極端に不幸であることを除けばごく普通の高校生であるはずの少年だった。

 

 そして、駿斗は彼女たちとは同じように親に学園都市に捨てられた置き去り(チャイルドエラー)で、同じ施設で育った幼馴染である。また、当麻と同じように幻想創造(イマジンクリエイト)という特殊な力を持ってはいるが、その2つを除けばやはりごく普通の高校生。

 

 しかし、この少年たちは『神の右席』や『十二使徒』の言葉通りであれば、二十億人を敵に回している状態であった。まあ、ここ数か月で彼らがなし崩し的に解決してきた問題の数々を思い返せば無理もない話ではある。

 

 そういうわけで割と争いの中心っぽい少年の片割れ、上条当麻は、

 

 

「――で、何でこんな事をしたのか、先生に話してみなさい」

 

 

 職員室で長身の、ブランド品の逆三角形の眼鏡をかけた女教師、親船素甘から思いっきり説教を受けていた。

 

 より厳密には彼1人というわけではなく、同じクラスの土御門元春や青髪ピアスも一緒であり、つまるところ、いわゆる『クラスの三馬鹿(デルタフォース)』と呼ばれる彼らが説教を受けているのであった。

 

「もう一度尋ねるわ。この学び舎で好き勝手に乱闘し、コブシを武器にアツいソウルをぶつけ合っちゃった理由をこの私に説明しなさい」

 

 沈黙が生まれた。

 

 職員室の壁際に置かれたテレビでは、『度重なるデモによって、イタリアのサッカーリーグが今季の試合を中止した』といった内容のニュースが流れている。

 

 この女教師は『しつけ』に関して厳しいことで有名だった。いつもなら彼らのバカ騒ぎは小萌先生の管轄なのであるが、昼休み中は彼女がいなかったのでたまたま居合わせたこの教師が彼らを連行することになったのだ。

 

 当麻はキッ! と正面を強く見据えると、

 

「だって! 俺と青髪ピアスで『バニーガールは赤と黒のどちらが最強か』を論じていたのに、そこに土御門が横から『バニーガールと言えば白ウサギに決まってんだろボケが』とか訳の分からないことを口走るから!」

 

 ガタガタン! という大きな音と共に、素甘が椅子ごと後ろへとひっくり返った。

 

 起き上がった彼女は三バカの背後に立っていた吹寄制理に目を向けると、

 

「ま、まさか、あなたもそんなくだらない論議に参加して……?」

「あたしはこの馬鹿どもを黙らせようとしただけです! 何であたしまで引っ張られなくちゃならないんですか!?」

 

 こめかみに血管が浮き出ている吹寄だったが、この教師が教室に入った時には吹寄が土御門にヘッドロックをかけながら青髪ピアスを蹴り倒し、当麻に硬いオデコを叩き付けているところだったのだ。ガキ大将度で言えば間違いなく彼女がナンバーワンだったりする。

 

「神谷君はどうしたの? 普段、彼らの行き過ぎた悪ふざけは基本的に彼が食い止めていたと思うのだけれど」

 

 素甘の言葉を聞いた当麻が言う。

 

「駿斗ですか。あいつはなんだか忙しいみたいで、最近は昼休みも屋上に行ってよく携帯電話で誰かと話しているみたいなんですけれど。なんでも、『準備をしている』とか」

「準備?」

 

 素甘はその言葉に疑問を発するが、第二ラウンドを始めた彼らを治めるために生活指導の災誤先生(ゴリラ)を呼ばなければならなくなった。

 

 結局、その後彼らは放課後に体育館裏の草むしりをすることとなった。

 

「土御門と青髪ピアスめ……あいつら雲隠れしやがったな」

 

 だが、現場に集まったのは4人の内2人だけであった。

 

「どうせ全部抜く前に完全下校時刻になって追い出されるだろ。それまでまったりと草むしりをしていようぜ」

 

 発火能力者(パイロキネシスト)でもつれてくれば早く終わるのに、とぶつぶつ文句を言いながら当麻はゆっくりと草をつまみ出した。どうして私が……、とその隣で文句を言いながらも吹寄もまた草むしりを続ける。

 

 始めて5分くらいで飽きてきた当麻は、少し離れたところで屈み込んで作業している吹寄に話しかける。

 

「そういえば吹寄さ」

「何よ?」

 

 彼女も退屈していたのか、簡単に話に乗ってきた。

 

「中間テストが中止になったじゃん? にも拘らず休み時間に勉強していたみたいだけれど、あれはいったい?」

 

 その疑問に対し、なんだ、そんなこと? と吹寄はそっけない調子で答えた。

 

「分かってるの上条? 中間テストがないってことは、期末のテスト範囲がその分増えるってことじゃない。単純計算で倍にね」

「……」

「ちなみにノートは見せないわよ。あと、何でもかんでも神谷に頼るんじゃないわよ」

 

 中間テストがなくなったぜイエーイ! と有頂天になっていた当麻に淡々ととどめを刺していく吹寄。彼は平常運転であった。

 

 その一方、駿斗は『準備』を終えて教室へ荷物を取りに向かっていた。

 

「まったく、あの先輩も良い人なんだけれどなあ……。飄々としていてつかめないというか」

 

 屋上で携帯電話を使って通話していた彼であったが、話が終わりこの後の予定が決まったので、帰宅してから速攻で親友を捕まえてその用事を済ませなければならなくなったのだ。

 

 教室に着いた彼であったが、そこにまだ彼のカバンが残っている事に気が付く。

 

「ん? また何かに巻き込まれているのか?」

 

 いつも通りの『不幸』だろうか、と考えていた彼だったが、周囲に誰もいないことを確認すると、『幻想核杖(イマジンコアロッド)』を取り出した。

 

「『幻想千眼(サウザンズアイ)』」

 

 幻想千眼。

 

 千里眼の伝説を始めとした、あらゆる知覚系統の能力・魔術を1つに収束したものだ。

 

(AIM拡散力場が常に消失している座標を検索)

 

 彼は移動を始めた。

 

 そして、体育館裏へと移動した駿斗だったが、その時慌てて走り去っていく親船素甘を目撃する。傍から見ても、彼女はいつものクールな姿とは程遠いことがうかがえた。

 

「で、何があったんだよ親友」

 

 駿斗は後ろを振り向かずに、背後に吹寄と共にいる親友へと声をかける。

 

「ちょっとした、不幸な事故だったのですよ親友」

 

 そもそもの話は、当麻が「学校の勉強だけが全てじゃない」と言ったことに対して、吹寄が「勉強しかできない訳じゃない」という感じで言い返したことがきっかけであった。

 

 そして、「フォークボールが投げられる」という吹寄に対し、「かっとばす」という当麻が箒をバット代わりに使いながら勝負を開始。しかし、『負けた方が5分間草むしりをする』というルールが導入されてから23戦目の時、その事件は起こった。

 

 簡単に言えばこうだ。

 

 

 ファウルチップが、草むしり終了を知らせに来た親船素甘の顔面に直撃☆

 

 

「やばいからな!? それ絶対に鬼の説教コースだからな!?」

「いや、ただの不幸だったんですってば!」

 

 特にあの教師は普段から非常に服装や化粧に気を使っている節が見られるので、説教が少なくとも3割増しになることは確定である。

 

「まあ、私の不注意でもあったから、他人ごとではないのだけれど……本当、もっといろいろと気をつけなさいよ。上条当麻」

 

 吹寄からありがたい説教をもらう当麻。

 

 駿斗はため息をついて、当麻に言う。

 

「とにかく、早く親船先生のところへと行って来い。それよりも、やることができた……ローマ正教関連でな」

 

 駿斗は、最後の方が近くにいる吹寄に聞こえないように言った。

 

 その言葉に、当麻が表情を変える。

 

「急ぐぞ。何しろ、今回待たせている人は統括理事会の人だからな」

 

 当麻は目を大きく見開いて驚いた。

 

 彼らは急いで帰宅すると料理を舞夏に全て丸投げし、インデックスを置き去りにして部屋を飛び出す。

 

 その途中で、御坂と遭遇した。しかもジュースの自販機にハイキックをぶち当てては、「ここの自販機はだめなのか……。あれー?」などとのたまっている。

 

 その様子を見た当麻が、その場でくるりと180度回転した。

 

「……君子危うきに近寄らず。または触らぬ神に祟りなしとも言う」

「何がよ?」

 

 当麻が呟いた独り言に、キョトンとした表情でありながらも鋭く反応する御坂。

 

 恐る恐る、といった感じで180度回転した当麻は、うう……と悲嘆めいた吐息を漏らす。

 

「許してください……」

「いや、それは大げさすぎる気がするぞ」

「だから何がよ?」

 

 その言葉に駿斗はつっこむが、当麻はその後をつづけた。

 

「上条さんは放課後の草むしりとかでヘトヘトなのです! ただでさえこれからも用事があるのに、これ以上のトラブルは本当に勘弁してください!」

「だから何だっつってんのよ!」

 

 マッハで逃げ去ろうとする当麻を捕まえる御坂。

 

「っつーかことあるごとに話しきりあげようとするんじゃないわよ! この間送ったメールの返信もほったらかしだし!」

「メール……? そんなのあったっけ?」

「あったわよ!」

 

 当麻は首をひねって思い出そうとしていたが、どうにも思い出せないようで携帯電話をポケットから取り出した。

 

「あったっつってんでしょ! ぎえ、受信ボックスに何もない!?」

 

 1人でギャーギャー騒いでいる御坂。すると、彼女は当麻の携帯をぶんどって、電話をかけ始めた。

 

 どうやら、当麻の携帯電話の電話帳に彼女の母親である御坂美鈴が登録されているのを確認したため、その理由を聞くために通話しているようである。

 

(たしか、この間の10月3日だったっけ?)

 

 彼女の母親の命が狙われたあの日、酔っぱらっていた美鈴によって半ば強引に電話帳を交換させられていたはずだ、と駿斗は思い返す。

 

 そして通話を終えた彼女はにっこりとほほ笑み、お上品に携帯電話を両手で包んで返しながら、

 

「ア・ン・タ・は、人ん家の母親を酔わせて何をするつもりだったァああああ!?」

「はぁー!? 何だそのエキセントリックな推理は!? あとお前の母は絶対に覚えているよ! なぜなら最期の笑いが超胡散臭かったからッ!」

 

 彼らが2人だけの世界に入ってしまい、完全に忘れ去られている駿斗。

 

(まあ、まだ時間はあるけどな)

 

 そう思いながら彼は遠くを見る。

 

 ここから500メートルほど先には、9月30日の『大天使』の出現と共に切り崩されて行った街並みがあるからだ。

 

 駿斗が思いを馳せているうちに、2人の話題もそちらにシフトしたらしい。

 

 駿斗が分かっているのは、あの日1人の『神の右席』によって学園都市のゲートが破壊された上に警備が無力化されたこと。

 

 そして、それについて来る形で『十二使徒』のうち3人がともに侵入したこと。

 

 さらに、それに対抗するかのように学園都市が風斬氷華を、妹達(シスターズ)を利用してAIM拡散力場に干渉することで『天使』と化したこと。

 

 逆に言えば、それだけなのだ。事件の中心に巻き込まれたためにある程度の情報は知っているが、逆に言えば事件の中心にいたにもかかわらずこの程度のことしかしらないのだった。ならば、ただ巻き込まれただけの人間が知っていることなどたかが知れているだろう。

 

 もっとも、事件の中心から外れているからこそ、『安全な位置から調べ物をする余裕』が発生しているのかもしれない。そして、御坂としても学園都市が発表した『国外の宗教団体が秘密裏に科学的な超能力開発を行っていて、そこで開発された能力者たちが襲ってきた』という話を鵜呑みにしてはいない。

 

 だが、彼女は今は別のもの――ニュースを映し出す飛行艇に注目しているようだった。

 

『今までヨーロッパ圏内で活発に行われていた、ローマ正教派による大規模なデモ行進や抗議行動ですが、今度はアメリカ国内です』

 

 アナウンサーは淡々と原稿を読み上げている。

 

「ちくしょう。また一気に拡大したな……」

 

 画面の中では、マラソンのスタート直後のように道路をいっぱいに覆い尽くす人々が、火をつけた学園都市の看板を掲げたり、横断幕をズタズタに引き裂いたりしている。

 

 一見すれば、彼らはただ怒りをアピールしながら行進しているだけのようにも見える。

 

 しかし次の映像には、救急車に運ばれて行く男性の姿や、顔に青黒いあざを作ったシスターが、ぐったりとした神父に肩を貸している姿などが見られた。

 

 あの人たちは、確かに十字架や聖書を所持しているローマ正教徒であるのかもしれない。しかし、『魔術』あるいは『神の右席』と関わっているかと言えばNOだと思うのだ。

 

「どうなってんのよ……」

 

 御坂が呟く。

 

「9月30日に何が起きたのかなんて知らない。だけど、別にこんなの望んでいなかったじゃない。あの一件が引き金になったなんて言われても、当の学園都市は全然静かなまま……絹旗も黒夜も、街中を歩いても特に奇妙な動きは今のところ感じられなかったって言ってた。なのに、どうして黒幕は顔を出さずにこいつらだけが勝手に傷つけあっているのよ」

 

 黒幕、と御坂は言った。

 

 だが、通常このような騒動には『黒幕』というものは存在しない。多くの人々の思惑、願い、陰謀……それらが幾重にも重なりあって発生する。そして、そのような問題はたとえ最初の1人がどこかにいたとしても、その人を倒しただけで解決などは望めない。

 

 しかし、それは今回のデモが『自然』に発生していたらの話だ。

 

 

 

 

 

 処刑(ロンドン)塔はイギリスの観光名所としても知られている。

 

 かつてはその名の通り囚人たちの末路として、その名に相応しい建物として機能していたのだが、現在では14ポンド足らずで、喫茶店で紅茶を頼むよりも気軽に、誰でも見学ができる。展示されているものも処刑設備としての歴史を示すものだけではなく、英国王室が所有する宝石類さえ並べられているほどだ。

 

 その一方で、この建物の『死角』は依然として処刑塔としての機能を果たしていた。

 

「……相変わらず、重苦しい空気だ」

 

 そう呟きながら、煙草をくわえて歩いているのはステイル=マグヌス。その隣に並んでいるのは、元ローマ正教のアニェーゼ=サンクティスだった。

 

「尋問対象はビアージオ=ブゾーニとリドヴィア=ロレンツェッティということですけれども」

「彼らには『神の右席』について聞きたいことがある」

「しゃべると思っているんですか? あの神職貴族たちが」

「ま、その辺も含めてイギリス流のやり方を学ばせてあげようという訳だ」

 

 軽口をたたいたステイルは、1つの扉の前で足を止めた。

 

 黒い木の扉を開けると、そこにはテーブル1つとイスが4つ、並べられていた。

 

 しかし、4つの椅子のうち2つにはクッションがつけられておらず、代わりに付けられているのは拘束具だ。そして、その2つの椅子には男が拘束されていた。

 

 リドヴィア=ロレンツェッティ。

 

 ビアージオ=ブゾーニ。

 

 どちらも、かつてはローマ正教内で『重役』だった人間だ。

 

「こちらが訊きたいことは分かっているな?」

 

 ステイルは右側の椅子に座りつつ、面倒臭そうな調子で声を放った。

 

 対するビアージオは、ジロリとステイルを睨みつける。

 

「聞きたいことか。聖書をレクチャーしてほしいなら日曜にしろ」

「『神の右席』。そして『十二使徒』……知っていることを全て話せ」

「イギリス清教自慢の拷問道具でも何でも持って来い。私の信仰心がどれほどのものか、未熟な貴様らに見せてくれる」

 

 ビアージオは不遜な態度を崩さない。そして、リドヴィアは会話の応酬にすら興味がないといった感じで自然な感じで顔に変化が見られなかった。

 

 長期戦になるのを覚悟したアニェーゼだったが、それはステイルの言葉をきっかけとして終わりを告げる。

 

「僕たち必要悪の教会(ネセサリウス)には死体の脳から情報を引き出す技術も存在する。見くびるなよ」

 

 その言葉に横で聞いていたアニェーゼの背筋を寒いものが走り抜けた。

 

 彼らは――というよりもリドヴィアが、最終的にオリアナとイギリス清教の取引を知ると、ゆっくりとその情報を話し始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。