とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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救いの意味

 駿斗たちが戦っていた場所が、駆動鎧(パワードスーツ)から放たれた巨大な弾丸によって吹き飛ばされた。

 

 しかし、彼らは1人も倒れない。そのまま戦闘を続けて行く。

 

 火が、水が、風が、土が、時には雷や光が飛び交った。それらは周囲の建物を瓦礫へと姿を変え、自分たちに迫ってきた駆動鎧を吹き飛ばしてしまう。

 

 さらに、『十二使徒』の三人はそれぞれ独特な術式を使っている。

 

 ヨハンは魔術によるダメージを治す『毒抜き』の術式を。

 

 バルテルミは相手が構築しようとしている術式を予知する『天使の加護』の術式を。

 

 フィリペは分からないままであるが、それでも苦も無く駿斗の猛攻を凌いでいるために、やはり並の魔術師にはない力があるはずだ。

 

 しかし、駿斗は次々と攻撃を仕掛ける。

 

「火よ。水よ。風よ。土よ――」

 

 溶岩のような灼熱の液体が吹き出し、それは壁となって彼らの攻撃を防ぐ。

 

「この星を構築する四の元素よ。我が敵を撃つ刃と成せ」

 

 さらに、その壁が崩れた瞬間駿斗の手に灼熱の剣が生み出され、それが斬撃となって放たれる。ヨハンは水を生み出すが、剣は逆にそれを飲み込んだ。

 

 直後に剣が爆発を起こすが、彼ら4人はそれでも無傷のまま戦いを続けている。

 

 事態が硬直している。しかし、それでも駿斗の表情は次第に落ち着きを取り戻していた。

 

「なるほどな」

 

 彼は呟く。

 

「フィリペの術式は『統一』といったところか……確かに、十字教は数々の宗派を産んでいるし、他の宗教にも影響を与えているが、始まりをたどれば『神の子』に帰結する。簡単に言えば変圧器みたいなものだな。あらゆる魔術に対してローマ正教式の術式で対処できるようになる、といったところか」

 

 これで3人の術式の正体は暴いた。

 

 対魔術用の魔術。それが彼らの共通点だ。

 

「だったら、学園都市の人間に相応しく、科学で戦ってやるよ!」

 

 彼は自在変換(マテリアルハンド)で地面を隆起させ、岩の腕を創り出した。それは9月1日のシェリーが使っていたゴーレムを連想させるようなものだ。

 

「安心しろ。自由落下するだけだ」

 

 その直後能力は軌道修正(オービットアドジャスト)に切り替えられ、大小の瓦礫が様々な軌道で彼らに迫る。

 

 彼らはそれらを回避し、あるいは弾いて防御するが、その全てを防ぎきれず、落下した瓦礫で周囲に土煙が立ち込めた。

 

「知っているか? 鎌鼬って言うのは真空の刃じゃない。その中に混ざり込んだ粉末によって物体を切断するらしいな」

 

 その土煙が、風と共に刃となって彼らに襲い掛かる。

 

 三人は、そのまま後ろへと吹き飛ばされた。

 

「まだ、ですよ」

 

 彼らは起き上がると、再び魔術を放つ。駿斗は自在変換でそれを防御術式と併用した壁を作りだして防ぎつつ、同時並行で魔術と物理攻撃、あるいは科学的な知識を利用した攻撃でもって迎撃し、相手を追い詰めていく。

 

「そんなにローマ正教の勝利が重要か? お前らは……自分の信徒たちを利用してでも、か!?」

 

 駿斗は糾弾する。

 

「そんなに『神の右席』の言うことが重要か」

 

 すると、彼らの目つきが険しくなった。

 

「私たちはあの方たちを信じているのですよ。……実際に、本当に困った時に主と共に救いを差し伸べてくださったのは、あの方たちだけだったのですから」

「……何?」

 

 助けた? あいつらが?

 

 怪訝な顔をする駿斗に対して、ヨハンは話を続ける。

 

「エボラ出血熱、後天性免疫不全症候群(AIDS)、筋ジストロフィー……そのような病気を始めとして、今でも世界には数多くの難病があります。それらの一部は発達した現代医学だけではなく、普通の魔術ですら、治すことはできません」

 

 彼らは、それらの病気に罹っていたということなのだろうか。

 

「病気……でも、学園都市にさえくれば」

「その街に入るのに、どれほどの条件が必要だというのですか?」

 

 彼に言われて、駿斗は考える。

 

「知っての通り、あなたたちはその技術を狭い都市で独占しています。数多くの人々を救おうとすることもせず、技術を独占することでその利益を貪り、人々に怠惰をもたらしているのです。しかも、その街に入ることができるのは一部の認められた存在のみ……あなた方が、どれほど身勝手なのか分かりましたか?」

 

 彼は糾弾する。

 

 学園都市が、その独立性が、この世界の平穏を揺らがしているのだと。

 

 しかし、駿斗はそれでも言葉を返した。

 

「……だったら、どうしてこんなことをしているんだよ」

 

 そのことを認めたうえで、それでも言い返す。

 

「ローマ正教にこれだけの人を動かす力があるんだったら、その力で世界中の人たちを救ってしまえば良いだろうが! 確かに、学園都市の上層部には胡散臭いやつらもいる。だけど、それはお前たちにしても同じ事だ。お前らの魔術を使えば、戦力を別の方向に向けてしまえば、いったいどれほどの人々が救われると思っているんだ!」

 

 初めて出会った魔術師は、1人の少女を守るために行動していた。初めて出会った『聖人』は、あらゆる人に救いの手を差し伸べることを魔法名として己に刻んでいた。

 

『神様。 あなたが選ばれた人々だけを救うというならば、残りの選ばれなかった人々は、一人も余さず私が救う』

 

 駿斗は神裂火織の言葉を思い出す。

 

 そのような魔術師を知っているからこそ、駿斗は余計に彼らが許せなかった。

 

「お前らは救いってものの言葉をはき違えているんだよ!」

 

 ――だから、まずはその幻想をぶち殺す!

 

 彼は再びその杖を強く光らせた。まずは、今までよりも大きな爆発を起こす。

 

 3人は防御に入った。しかし、その爆発によって立ち込めた土煙が、一瞬で切り裂かれた。

 

 背中から4色4枚の翼を生やした――『権天使(アルヒャイ)』の姿となった駿斗は、その力で一気に勝負をつけに来たのだ。

 

 攻撃は音を超えた。

 

 まずは、一気にヨハンの懐に飛び込み、その胴体に蹴りを叩き込む。

 

 天使の力で身体強化でもしていたのか、腕でガードされたが駿斗は蹴りを放った足を地面につけると、風を纏わせた左拳でヨハンを遠くへ吹き飛ばした。

 

 その直後に、天から槍のような雨が駿斗に降り注いだ。

 

 だが、通常の人間では視認さえも困難なそれであっても、今の駿斗にとってはゆっくりとした動きでしかない。

 

「我が盾となりその幻想からわが身を守れ――『幻想防壁(アイギス)』」

 

 彼が呟いた直後、幻想核杖(イマジン・コアロッド)を中心に展開した半透明の光の盾が、その雨を完全に遮断した。

 

 幻想防壁。

 

『アイギスの盾』の伝承を始めとした、様々な能力、防御術式、霊装、結界を1つに集約した防御技である。

 

 物理攻撃は窒素の壁が、能力や魔術の攻撃に対しては防御術式や結界が、それらを完璧に遮断する。

 

「お前らの抱えている事情が何であろうが……こんな人を巻き込む方法が救いだなんていうんだったら」

 

 彼は、その右拳に全ての天使の力を集約する。

 

「まずは、そのふざけた幻想をぶち殺す!」

 

 まっすぐに突き出された右手を起点として、『十二使徒』に向かって光の塊が――純粋な天使の力が放たれる。

 

 魔術とはとても呼べないそれは予知することもできず、傷を治す余裕も与えず、三人を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 当麻たちとテッラの距離は7メートル前後。その距離で、彼らは対峙していた。

 

「最期に尋ねるけどよ。大人しくC文書を渡すつもりはねえんだな」

 

 当麻は『硬化手袋(フリックグローブ)』をはめ直しながら尋ねる。

 

「ええ。遠慮なさらず、存分に玉砕してください」

 

 その言葉を聞くと同時、当麻は前へと駆け出した。

 

 相手が振るってくる小麦粉のギロチンに合わせて、当麻は右手を前に出す。だが。

 

「優先する。――大気を下位に、小麦粉を上位に」

 

 膨大な空気を巻き込んだ小麦粉が、団扇(うちわ)となって当麻の方へと飛ばされてくる。

 

 反応できない。

 

 しかし、五和が当麻の腕をつかんで横に跳んだ。その直後、硬さや鋭さを持たないはずの『ただの空気』が教皇庁宮殿の床や壁を破壊する。衝撃波のような爆音が炸裂した。

 

 五和は当麻の腕をそっと放すと、その仕草からは打って変わって素早い動きでテッラに向かって槍を突き出す。

 

 ドッ、という音と共に、てっくいのように勢いよく槍が空気を切り裂く。

 

 対し、テッラのやることは変わらない。

 

「優先する。――刃を下位に、人肌を上位に」

 

 彼が呟くと、五和の槍の穂先は人肌に弾かれた。ギィン! と金属の震える音が教皇庁宮殿にこだまする。

 

 しかし、それでも彼女は動きを止めることはなく、足元にあった石をテッラの眼を狙って鋭く蹴りあげた。

 

 対し、テッラは目をつぶることもせずにそのままギロチンを振るった。横薙ぎの一撃が小石と五和、さらには別の角度から攻撃を仕掛けようとしていた当麻さえも巻き込んで押し返す。

 

 彼らはそのまま床に倒れ込んだ。

 

「痛……!」

 

 起き上がろうとした五和が顔をしかめる。テッラが崩した石の壁の残骸の上に倒れ込んでしまったため、足首にダメージを負ってしまったようだ。

 

「優先する。――人肉を下位に、小麦粉を上位に」

 

 小麦粉の刃が放たれる。

 

 足をやられた五和は動けない。だから、当麻は右手を突き出して間に割って入った。テッラの攻撃が四方八方に吹き飛ばされる。

 

 その直後に放たれた第2連撃に対し、五和は当麻を突き飛ばし後に横に転がることで回避する。2人の間を斬撃が切り裂いていった。

 

「おや勇ましい。しかし、もう限界でしょう。足を引っ張る……とは、まさに言葉通りですねー」

 

 余裕を持った表情のまま、そう言って笑うテッラ。

 

「……確かに」

 

 しかしカッとなりかけた当麻よりも先に、五和が冷静に言葉を返した。

 

「でも、ようやくあなたはボロを出してくれました。決定的なボロを」

「何でしょう?」

「あのツチミカドさんが言いかけていたこと」

 

 ――あなたが得意とする優先術式『光の処刑』の弱点。

 

 五和はそう言った。

 

「今のあなたの動きには、不自然なところがありましたから」

 

 へえ、と面白そうに相槌を打つテッラに対して、彼女はゆっくりと槍の穂先を向ける。

 

「天草式十字凄教は呪文や魔法陣なんかを用いず、生活用品や習慣の中に残る魔術的記号を組み合わせて術式を形成しますから。そういった記号探しは得意なんですよ」

「なるほど。それは困りました」

 

 テッラは感情のこもっていない声でそう言った。自分の優勢を絶対に信じているようだ。五和の発見は、それを覆すことができるのだろうか。

 

 だが、戦況は動く。活用までの時間がない。

 

 テッラが掲げたギロチンがその形状を変え、ねじのようにとがって天井へと突き刺さる。

 

「優先する。――天井を下位に、小麦粉を上位に」

 

 テッラの手が天井からつりさげられた紐を引っ張るように動いた。その直後。

 

 フロアの天井が、ゲームやマンガの(トラップ)のように落ちてきた。天井を支える柱さえも、不自然なほど滑らかに地面の中へ飲み込まれて行く。

 

「なっ!」

 

 五和は慌てて槍を地面へ垂直に立てた。

 

 槍が落ちてきた天井と床の間に挟まることで、辛うじて圧殺を逃れる。しかし、武器を失った彼女に向かってギロチンが放たれた。

 

 横薙ぎの一撃は彼女の胴体へ直撃。その小さな体を後方へと飛ばした。

 

 地面に激突しても威力が収まらず、2回3回と地表を転がってからようやくその動きが止まった。

 

「五和!」

 

 当麻は呼びかけるが、彼女は返事をしない。胸が上下に動いていることから死んではいないようだが、呼びかけた言葉には応じなかった。

 

「ま、こんなところでしょうかねー。ただの魔術師が『神の右席』に太刀打ちできると思っていることが、すでに間違いということです」

 

 落ちてきた天井が、ゆっくりと元へ戻っていった。圧縮されていた柱も、ゆっくりと元の長さへと戻っていく。

 

 今のは、『光の処刑』によって変更された『優先順位』を元に戻した、ということだろうか。

 

 五和の槍が、圧迫から解放されカランと音を立てて床に転がった。

 

「テ、メエ……!」

 

 当麻の右拳に力が入る。

 

 しかし、テッラは余裕の表情を崩さなかった。

 

「おやおや。勝手に怒ってもらっても困りますねー。今は戦闘中ですよ? まさか、私には一発も反撃しないで殴られ続けろとか言うつもりじゃありませんよねえ?」

 

 その言葉に、当麻は無言で返した。テッラはそのまま言葉を続ける。

 

「というか、こちらとしてもがっかりですよ。幻想殺し(イマジンブレイカー)幻想創造(イマジンクリエイト)というからには、多少は苦戦すると思っていたのですが、まさかここまで未完成とはねー。その右手の本来の性能を回復していれば、少なくとも今の攻撃からそちらの魔術師を庇うくらいのことはできたはずなのに。あの幻想創造に至っては、その本来の力を発揮することができれば『十二使徒』の3人程度、他の作業の片手間で戦ってもお釣りがくるでしょうにねえ」

 

 何だと? と当麻は眉をひそめた。

 

 幻想殺しと幻想創造――その本来の性能。

 

 思わず自身の右手に視線を移してしまう当麻を見て、テッラはうっすらとした笑みを浮かべた。

 

「おや、もしかして知らない? 普通なら知っていなければならない。だというのに、まさかあなた1人ならまだしも、あの幻想創造までもが? ……とすると、んン? 本来気づかせてくれるべき(・・・・・・・・・・)人がいなかったからですか(・・・・・・・・・・・・)?」

 

 本来存在するはずの、その正体を教えてくれる人――学校の先生でもなく、魔術の英知が詰まったインデックスでもない存在となれば、考えられるのは……親。

 

置き去り(チャイルドエラー)』である駿斗に欠けている存在。

 

「テメエ!」

 

 ここで当麻が怒るのは筋違いなのかもしれない。

 

 しかし、それは彼の親友にとって最大級の侮辱ではないのか。

 

「そうかそうか、いやあ、学園都市は潜り込むのは簡単ですが、個人情報に関してはセキュリティが厳しくてですね。あの手の類は全て電子的なデータとなっているので、魔術(わたしたち)ではなく科学(あなたたち)の領分ですし……そうか、どうしてそんなことになったのか。その者たちは今どこでどうしているのか。そこから調査をしてみるのも面白いかもしれませんねー」

 

 怒りが当麻を支配する。

 

 それは、目の前で親友が丸裸にされていくような思いさえ感じられた。

 

「良いんじゃないですか」

 

 左方のテッラは笑いながら訳の分からないことを言う。

 

「どうせここで死ぬんですし、心配は全て捨てましょうよ」

 

 テッラがゆったりとした動作で小麦粉のギロチンを構える。

 

(あの刃物の破壊力自体は大したことがない。問題は例の『優先』……その弱点を見つける!)

 

 土御門も五和も、それが『ある』と言っていた。恐らく、駿斗であればもっと早く気が付いていたであろう。

 

 だが、当麻ではすぐにそれに気が付くことができなかった。だから、これから見つけなければならない。

 

(あいつの攻撃の中で不自然なこと。そう、嬉しい誤算だったから深く考えないでおいたこと。そう、あれは)

「おや、そちらからはこないんですか」

 

 テッラが小麦粉のギロチンを振りながら、嘲るように言った。

 

「それなら待つのも面倒ですし、こちらからいきましょうか、ね!」

 

 テッラが白い刃物を当麻に向けて放つ。だが、当麻はそれに右手も左手も合わせなかった。

 

 顔面に向かってくるそれを、首を振って避ける。そうしながら、足元に転がっていた弁当箱くらいの大きさの外壁の破片を、手に取った。

 

 起き上がるときの勢いに乗せて、カウンターのようにテッラに向けて投げる。

 

「優先する。――石材を下位に、人肌を上位に」

 

 テッラが歌うように呟き、その直後石材がその顔に衝突する。本来ならば頭蓋骨の額の部分が砕けてもおかしくないが、彼の表情は変わらなかった。

 

 それを見た当麻は、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。それを見たテッラの眼が険しくなる。

 

 何か、武器でも隠し持っていたのか。

 

 テッラはポケットの中から投げつけられたものを、ギロチンで引き裂いた。その正体を見たテッラは眉をひそめる。

 

 それはシンプルな財布だった。

 

「どうしてだろうな」

 

 当麻が彼に突きつけるように言った。

 

「五和の槍や土御門の魔術も簡単に防いだくせに、どうしてただの財布を『優先』で防がなかったんだろうな」

「……ッ!?」

 

 テッラは当麻の口を塞ぐようにギロチンを叩き付けるが、小麦粉でできたそれは右手に吹き散らされた。

 

「考えてみりゃおかしかったんだ」

 

 もはや恐れるものはないと言わんばかりに、当麻は前に出る。

 

「あの白い歯の直撃を喰らって、俺や五和が生きているってことがな」

 

 テッラに手加減をする理由はない。彼らを生かしておく理由もない。だったら、答えは自然と1つに定まる。

 

 簡単なことだ。あえて殺さなかったのではなく、どうやっても殺せなかった。ただそれだけの理由なのだ。

 

 小麦粉の刃物そのものの威力では、人間1人殺すのにも不十分なものだ。だから、テッラはそれを『優先』によって威力を増幅させて使用していた。

 

 だから、答えは1つに絞られる。

 

「テメエの『優先』は融通が利かないんだろ。刃の威力が軽減されたのは、決まって俺たちの攻撃を受け止めた直後だった。つまり、テメエの『優先』は一度に複数の対象に向かっては扱えない」

 

 術式の正体を丸裸にしていく当麻。

 

「1つの『優先』から別の『優先』に切り替えるには、いちいち1つ1つ再設定していく必要がある。そんなところじゃねえのか」

「ふ」

 

 テッラは笑った。

 

「弱点とは、そういうことですか。何分こいつは未調整でしてね。そちらの言葉には多少興味があったのですが」

 

 微笑む聖職者。しかし、そこから一転して彼の顔に嘲りが戻る。

 

「しかし、そんなことが分かったからと言ってどうだというのでしょう。その程度で敗北するほど、左方のテッラは甘くはないんですがねえ!」

 

 ゴッ! と空気を切り裂きながら白い刃が動いた。

 

 当麻はそれを右手で弾き飛ばすと、バックステップで距離を取ろうとしているテッラに向かって突撃する。

 

「テッラ!」

「優先する。――床を下位に、小麦粉を上位に」

 

 石の床が簡単にはがされ、その破片が当麻に襲い掛かった。当麻はそれを横っ飛びで避ける。

 

「テメエがここまでする理由は何だ! 俺たちどころか、アビニョンの人たちまで巻き込む理由があるのかよ!」

「ハッ、騒ぎの半分以上はあなたたち学園都市のせいだと思いますけれどねー?」

 

 テッラは後ろへ下がる。

 

「十字教徒全ての最終目的――『神聖の国』ですよ」

「何?」

「おやまあ、十字教文化圏の人間なら、信号の色よりもポピュラーな情報なんですけれどねー」

 

 最後の審判ののちに、神がその手で築いてくれるという王国。深い信仰によって研鑽したもののみが滞在を許される、永遠の救いという場所。

 

 そんな説明をしている間にも、白い刃と右手が衝突する。

 

「しかし、ふと思ったわけです」

 

 人はこの神聖の国で争いをしてしまわないのだろうか?

 

 十字教はただでさえもローマ正教、イギリス清教、ロシア正教といったように別れてしまっているのに、ローマ正教の中でさえ無数の派閥に分裂してしまっている。仮に『ローマ正教』という枠組みで選ばれた人々が神聖の国に招かれた場合、その派閥の問題がそのまま持ち込まれてしまう。

 

 神がどれだけ完璧な王国を築きあげても、人間が神の期待以下ならば全てがご破算になってしまう。その前に、どのように人々を導けばよいのか。

 

「だからこその『神の右席』なのですよ!」

 

 前方のヴェントは、個人的な理由で科学を憎んでいた。

 

 しかし、テッラはローマ正教のために自らの道を選んでいる。だから、彼は本気でローマ正教の人々を救おうとしているのかもしれない。

 

「……救いって、その程度なのかよ」

 

 だが、当麻は言った。

 

「救いって言葉の意味が全く分かってねえんだよ、テメエは!」

 

 当麻と駿斗を動かすために、自ら銃弾を受けても争いを止めようとした親船最中。

 

 共に戦ってくれた土御門や五和。

 

 そして、今も必死で戦っている親友。

 

 当麻は、この争いを止めるために必死になっている彼らを思い出しながら叫ぶ。

 

「ローマ正教が悪いってわけじゃない。だがな、テメエらの神様だって、こんな争いを生むために教えを広めていったわけじゃねえだろうが! ふざけやがって、勝手に救いの定義を決めつけて1人で満足するっていうなら」

 

 眼前にいる敵をにらみつける。

 

「そのふざけた幻想は、今すぐここでぶち壊す!」

 

 当麻は叫び、テッラの懐へと飛び込む。

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