とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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暗部抗争編 Forceps
独立記念日の始まり


 10月9日は学園都市内部に限り、『独立記念日』のために祝日となる。

 

 この日、神谷駿斗は第七学区コンサートホール前広場にやってきていた。

 

 彼の親友もついて来ようとしたのだが、『宿題』と『補習』、この2つに追われているおかげで結局やってきていない。

 

 また、彼の側には幼馴染である2人の少女も控えていた。

 

 彼ら3人が遊びに出かけるときは大抵がアミューズメント施設が集中した第六学区か、繁華街のある第十五学区、あるいは商業区画となっている第十六学区なのであるが、この日は異なっていた。

 

 その理由は、彼らの目の前で演説をしている1人の女性にあった。

 

 親船最中(おやふねもなか)

 

 この学園都市を12人で治めている重鎮、統括理事会の1人である。

 

「……つーか、仮にも統括理事会の野外公演なのに、こんなに杜撰な警備でいいのかよ」

 

 そう呟いたのは黒夜海鳥だ。

 

 過去には『闇』の中でも有名な『暗闇の五月計画』という非人道的な実験によって、絹旗最愛と同様に精神の一部と引き換えにその能力を無理矢理に強化された大能力者(レベル4)――という経緯を持つが、今は『表』の学生として名門、常盤台に通っている中学1年生である。

 

「全く、警戒する気は超ないみたいですね。あの服装を見れば、防弾装備がないのが超まるわかりですし」

 

 黒夜の言葉に答えるようにため息をついたのは、絹旗最愛。『攻撃性』に特化した海鳥の能力、窒素爆槍(ボンバーランス)に対し、『防御性』に特化した窒素装甲(オフェンスアーマー)という能力を持つ。

 

「はあ……あの様子を見てそんな感想を漏らすのは、お前らくらいだっつーの」

 

 駿斗はそう答えた。

 

 祝日ということもあってか、彼らの周囲には同じような人が多くいた。ざっと見渡しても、2、300人はいるだろう。

 

 それだけ、彼女には人気があるのだった。

 

「親船最中……確か、学園都市の子供たちに選挙権を超与えようとしているんでしたっけ?」

「ああ」

 

 最愛の言葉に、駿斗は首肯する。

 

「この街の住民の大半は未成年だ。したがって、参政権の最たるものである選挙権を有している人間はそれ以下ということ。大人の都合で明日から消費税を30%に引き上げますなんて言われても、子供たちは反論ができない。だから、それを与えようとしているらしい」

 

『外』の世界なら学生に選挙権を与えるなど考えられないことなのだろうが、こういった発想が出てくること自体、この学園都市の独自性を示しているのだろう。

 

「ま、他の統括理事会(クソ野郎ども)にとっては、分かりやすい『目の上のたんこぶ』なんだろうな」

 

 海鳥はそんな感想を漏らした。

 

「まあ、歴史を見る限り、例え子供に選挙権が与えられたところですぐに変革が起きるわけじゃない。きっかけはしょせんきっかけだ。俺たちの意識が変わって、積極的に世の中を変えようとしない限り、この街は変わらないだろうな」

 

 駿斗がそう言った。

 

 彼も学校で日本史や世界史は習っている。だがそれらの内容を思い起こす限り、そんなに簡単に世の中が変わったことはなかったはずだ。

 

 だから、自分たちの意識も改める必要がある。

 

(まあ、この街には変わってほしいことがたくさんあるからな)

 

 駿斗は2人の幼馴染を見つめながら思う。

 

 大切な2人の少女がかつて受けていた苦しみを、誰かに繰り返させるわけにはいかないから。

 

 しかしその時、見覚えのあるAIM拡散力場を4つ感じ取った。これは、最愛や海鳥のものではない。

 

 駿斗はまず周囲に目を走らせる。

 

 すると、後ろの方に白髪と金髪の2人の男が身を潜めているのを発見した。

 

「(おい、最愛、海鳥)」

 

 駿斗が小声で後方へ注意を促すと、彼女たちもその視線の先をたどった。

 

「(一方通行(アクセラレータ)? どうしてあんなやつがこんな場所に超いるんでしょう?)」

「(分からねえよ。それだけじゃない、あっちだ)」

 

 今度は駿斗が2人の少女を指した。10歳くらいのアホ毛と白衣が特徴的な少女と、頭に大量の花飾りをつけた少女が手をつないで歩いている。

 

「……面倒なことが起こりそうな気がしねえか?」

「駿斗兄ちゃんは、いつから上条の不幸体質がうつったんだよ」

 

 海鳥は呆れたような表情で駿斗を見るが、彼はそれを苦笑いをしながら受け流した。

 

「とにかく、初春さんに声をかけようぜ」

「そうですね、ちょっと行ってきます」

 

 最愛は後ろから彼女たちに近づくと、声をかける。

 

「初春」

「はい……って絹旗さん?」

 

 初春飾利は思いがけない場所で出会った友人を見て、驚いた表情を見せる。

 

「で、久しぶりですね、打ち止め(ラストオーダー)

「久しぶり! ってミサカはミサカは最愛お姉ちゃんに勢いよく抱き付いてみたり!」

 

 最愛に飛びつく打ち止め。その後ろから、駿斗と海鳥も声をかける。

 

「どうした? 一方通行と一緒にいるんじゃなかったのかよ」

「あの人がどこかに行っちゃったから、このお姉ちゃんに探すのを手伝ってもらっていたの、ってミサカはミサカはヒーローさんに報告してみる」

「ヒーローさんはよしてくれ……」

 

 駿斗が苦笑いをしながら、打ち止めと話した。

 

 その様子を見た初春が言う。

 

「あれ、神谷さんたちはアホ毛ちゃんと知り合いだったんですか?」

「ああ、まあな……」

 

 駿斗は適当に答えつつも、少し焦っていた。

 

 この状況は少しまずい。

 

 なぜなら、この打ち止めという奇怪な名前の少女は、彼らの共通の知人である第3位の超能力者、御坂美琴の能力、超電磁砲(レールガン)を増産するための軍事用クローンである妹達(シスターズ)であり、この少女はその中でも司令塔的な役割を果たしているのだ。

 

 さらに言えばこの妹達というのはその存在だけでも国際法違反であるにもかかわらず、この春から夏にかけては『絶対能力進化計画(レベル6シフト)』というふざけた実験によって、全2万2体(プロトタイプ0号のドリー+2万+打ち止め)のうちの10031人が、今この場にいる一方通行によって殺されていたりもする。

 

 絶対に彼女に関わらせてはいけないのだ。

 

 その時、ベコン、という金属がへこむような音が耳についた。辺りの喧騒に誤魔化されそうになるが、駿斗の耳にははっきりと聞こえた。

 

「なあ、4人とも。今何か……そうだな、金属の鍋の底がへこむような音が聞こえなかったか?」

 

 駿斗が訊く。

 

「え? 私には特に……」

 

 初春はそう言うが、最愛と海鳥は険しい表情をしていた。

 

「駿斗兄ちゃん。あの空気清浄機です」

 

 最愛が指さした場所を見ると、最新式の機械の横に、親指ほどの穴が開いていた。

 

「あれは恐らく『妨害気流(ウィンドディフェンス)』だったんでしょう」

「『妨害気流』?」

「遠距離から狙撃されないための対策だよ。乱数で発生した強風で、ライフルの球の軌道を捻じ曲げるためのものだ」

 

 最愛と海鳥の解説を聞いた駿斗が、その表情をこわばらせる。

 

「おい、それって……」

「まずいことになったな。どうする?」

「とりあえず」

 

 防御術式を使おうと、駿斗が動こうとした瞬間だった。

 

 

 ゴバッ! と広場の一角にある空気清浄機が爆発した。

 

 

「くそ、今度は何だ!?」

 

 周囲から悲鳴が上がる中、駿斗は思わず叫ぶ。初春さんが呆気にとられた後すぐに風紀委員(ジャッジメント)として動こうとするが、それよりも早く護衛の人たちが親船最中を取り囲んだ。

 

 ライフル弾が当たったのか、1人の護衛が倒れる。

 

「初春さんはとりあえずその子を連れて行け! この場のことは、他の人に任せろ!」

「混乱している人たちは、私たちがなんとかします! あとは風紀委員と警備員(アンチスキル)に超連絡してください!」

 

 駿斗に続いて最愛が叫び、初春は慌てて少女の手をつないで走って行った。

 

「俺はとりあえず消火する」

「頼みます、駿斗兄ちゃん!」

 

 駿斗は水系の魔術を連続して使用すると、黒い煙と共に炎に包まれている妨害気流を消火する。

 

「全く、今日も穏やかに生活することはできなさそうだな!」

 

 彼らの休日は、とんでもない騒ぎから始まったのだった。

 

 

 

 

 

 暗部組織『グループ』に所属している土御門は、親船の安全が確保されたのを確認すると、すぐに射撃予測地点へと向かった。

 

 ホテルの一室。

 

 だがそこには誰もおらず、しかし状況証拠として窓の一部が四角く切り取られていた。

 

「チッ」

 

 彼は舌打ちすると、携帯電話で一方通行と連絡を取る。

 

「回収には失敗した。ただ、砂皿がここで逃げたってことは、続けて狙撃が行われる可能性は低いな。一応親船の公演は中止させて、警備体制を組み直したうえで移送させてくれ」

 

 きっかけは土御門が潰した『人材派遣(マネジメント)』であった。その『商品』として取引されたのは腕利きのスナイパーである砂皿緻密。紹介料だけで70万ということから『目玉商品』なのだろう。そして、それと共に用意された武器がMSR-001――磁力狙撃砲。

 

 その途中で『グループ』の構成員の1人である海原光貴(偽名)が襲撃を受けて行方不明という事態が起こったのだが、彼らは簡単にそのメンバーを見捨てた。

 

 だが海原からの報告にあった紙幣の中のICチップを解析すると、出てきたのが砂皿だったという訳だ。また、その過程で海原が変装魔術によってどこかに潜入していることも判明したのだが……。

 

『こっちは結標から伝言だ。読み取れなかった4枚目のICチップの中身は予想通り、砂皿緻密を雇った連中の名簿だとさ』

「誰だそいつは?」

 

 土御門が言うと、一方通行は鬱陶しそうな声で答えた。

 

『――「スクール」』

「何だと?」

『俺たち「グループ」と同じ……学園都市の裏に潜んでいる組織だとよ』

 

 昼時になると、彼らは部下がまわしてきたキャンピングカーの中に乗り込んて昼食を取る。ボルトで床に固定された小さなテーブルの上には、ファーストフード系の食べ物が並んでいた。

 

 しかし、土御門はハンバーガー、一方通行はフライドチキン、結標淡希は地中海にある産地直送ブランドの高級サラダ、と昼飯1つにしても意気投合しない面子である。

 

「……早死にするわね、貴方達」

 

 男連中の食事を見ながら、1人だけ野菜を食べている結標が言った。

 

「にゃー、緑黄色野菜だけってのもヘルシーすぎねーかにゃー。肉も野菜も適度に食べてこそ健康体を維持できるのですよ? 何事も偏りすぎは良くないぜい」

 

 ハンバーガーにかぶりつきながら土御門が言った。

 

「ハッ。つか肉を食って死ぬってのは幸せじゃねェの?」

 

 最後まで好きなことをして死ねるンだからよ、と一方通行が結標に話す。

 

「で、『スクール』って連中については何か分かったのかよ」

「『書庫(バンク)』にアクセスはしてみたけど、名前以外は何も」

 

 機密レベルは『グル―プ』と同等のようだが、しかしそれ以外の名前も出てきたらしい。

 

「二つだけじゃないのか」

 

 土御門は、ハンバーガーから肉がこぼれないように抑えながらかぶりつく。

 

 今の処判明しているのは、『グループ』『スクール』『アイテム』『メンバー』『ブロック』の5つ。恐らくは、その全てが『グループ』と同じような少数の人員を寄せ集めて作られた非公式部隊。

 

「親船最中の狙撃を企てたのは『スクール』。なら人材派遣のマンションを爆破したり護送車を襲撃したのもコイツらなのかしら? 海原光貴もそこにもぐりこんでいるとか」

「さあな。ただ『スクール』でスパイ活動をしているならサインくらいは出してほしいもんだ。敵だと思ってうっかり潰してしまうかもしれないし」

 

 一方通行は缶コーヒーに口をつけながら、土御門と結標の話を聞いていた。

 

 ……それにしても、その『スクール』とやらはどうして親船最中を暗殺しようとしたのだろうか?

 

 そんな疑問が一同の頭に浮かんだが、それを話す余裕はなかった。

 

 ビーッ! という警告の電子音がキャンピングカーの中に響き渡ったからだ。

 

『き、緊急です! 今データをそちらに送ります!』

 

 車内スピーカーから、オペレーターを兼ねた運転手の慌てた声が聞こえてくる。そして、運転手と後部の居住区を隔てる壁に設置されたスクリーンに、学園都市の地図が表示された。

 

「第五学区、ウイルス保管センターだと!?」

 

 学園都市製のコンピュータウイルスを解析し、そのワクチンソフトをつくる施設。そこがハッキングを受けているらしい。

 

 本来ならば警備員が解決するべきであるような事件だが、この『グループ』にその担当が回された時点で彼らには手に負えない規模の物であるのだろう。

 

「にしても、俺たちが動かなくちゃならねェのかよ。さっき『グループ』と似たような組織は他にもいくつかあるって言っただろ」

「部署が違うんだろ。連中が必ずしも動く保証はないし、その上、その中でも1つは学園都市を裏切っている可能性が高い」

 

 俺たちが動くしかないな、と土御門は言う。

 

 そのウイルス管理センターには未解析のウイルスだけではなく、学園都市の研究機関が意図的に作り上げたものも含まれているらしい。学園都市と『外』の間には技術的な面で2、30年の違いがあるため……例え学園都市では『時代遅れ』のものであっても、『外』においては最新式のものとなってしまうのだ。

 

 もっとも、そのような圧倒的な技術力の差があるため、学園都市のセキュリティは『外から中へ』よりも『中から外へ』を優先的にガードするようにできている。そのための設備が、

 

「……外部接続ターミナルか」

 

 インターネットの世界において、学園都市と外をつなぐための施設である。

 

 その時、通信が入った。

 

『外部接続ターミナルの緊急遮断を開始……ッ!? 第十三学区、西部ターミナルが応答しません! 遮断確認できず!』

「ハハッ、まァた分かりやすい構図だな!」

 

 その報告を受けた一方通行が大笑いをする。

 

『グループ』は再び動き出した。

 

 

 

 

 

 やりたい放題だな、と浜面仕上は思った。

 

 昼時の、第七学区のファミレス。しかし、テーブル席を陣取っている4人の少女は、必ずしもファミレスに注文したものを食べているのではなかった。

 

「あれ? 今日のシャケ弁と昨日のシャケ弁はなんか違う気がするけど、あれー?」

 

 そう言って窓際で首を傾げているのは麦野沈利。秋物の、明るい色の半袖コートを着込んだ彼女はストッキングに包まれた足を組み直しながら、外で買ってきたコンビニ弁当を堂々と食べていた。端でびくびくしている小柄なウエイトレスが、あまりにも不憫だ。

 

 変わんねえよ、と浜面は心の中でだけ突っ込む。

 

「結局さ、サバの缶詰がキテるわけよ。カレーね、カレーが最高」

 

 麦野の隣にいる金髪碧眼の女子高生は、フレンダ=セイヴェルン。彼女は缶切りがうまく使えないのか、本来はドアをこじ開けるためのツールであるビニールテープのような爆薬をサバ缶の周りに貼り付けると、電気信管を使って焼き切った。

 

 一方で霧丘愛深(きりおかめぐみ)という、黒髪を横で括ったサイドポニーの少女はサンドイッチを一口ほおばると、隣に座っている滝壺理后に話しかけた。

 

「何か、感じる?」

 

 霧丘もジーンズにパーカーというラフな格好をしているのだが、滝壺に至ってはおしゃれ感ゼロの、機能性最優先のジャージ姿である。

 

「……南南西から信号が来てる……」

 

 ――彼女たちは『アイテム』。

 

 『グループ』や『スクール』などと同じく学園都市の非公式組織であり、主な業務は統括理事会を含む『上層部』暴走の阻止である。たった4人でこの街を、ひいては科学サイドを左右させる面子である。

 

 この中でも霧丘と浜面は新入りだ。

 

 しかし正式メンバーの霧丘に対して、浜面は『アイテム』の正式なメンバーではない。以前は路地裏の無能力者(レベル0)が作る組織『スキルアウト』を束ねる一時的なリーダーだったのだが、そこでの作戦が失敗した。そのため今は下部組織の所属……つまりただの下働きで、主な業務は運転手などの雑用だ。

 

(にしても……女だけの中に1人だけ男がいるというのは何とも居心地が悪いな)

 

 さらに言えば、彼はその少女たちよりも立場が下なのである。あてがわれた座席も一番通路側であり、当然のようにドリンクバーの往復係を命じられていた。

 

「んでね」

 

 シャケ弁当を食べ終えた麦野が話を切り出す。

 

「昼前に統括理事会の1人、親船最中が狙撃された事件があったわよね。あれについて、そろそろこっちも動きたい訳なんだけど」

「つか、結局その情報、私は持ってないよ」

 

 フレンダが言うと、霧丘も頷いた。その反応を見て、半袖コートの女は下っ端に目をやる。

 

「浜面。全員のケータイに事件の詳細を転送」

 

 へいへい、と浜面は適当に答えて自分の携帯電話を取り出した。指図されることに文句を言える立場ではない。

 

「ふむふむ」

 

『アイテム』の全員が自分の携帯電話で情報を確認する。

 

 

 すると、画面に出てきたのはネットで落としたエロ動画だった。

 

 

 その瞬間、『アイテム』の4人はバシンと携帯電話を畳んだ。彼女たちは自分の心の戸締り及び心の地下の核シェルターまでの退避を完了させた。

 

「違っ、待て! やり直させろ! これは何かの間違いなんだッッッ!」

 

 かつては100人以上の不良を束ねていた元リーダー(笑)、浜面仕上は腹から大声を上げて代弁するが、生暖かい視線と共に言葉を贈る。

 

「浜面……」

「結局、浜面ってキモいんだけど」

「バニーさんが、そんなにいいの?」

「大丈夫だよ、はまづら。私はそんなはまづらを応援してる」

 

 その言葉を一身に受けた浜面は、今度こそ親船最中狙撃未遂事件の情報を全員に転送した。

 

 すると、霧丘がいつものゆっくりペースで言葉を発した。

 

「これって、『スクール』が計画していた、あれでしょ? あの、スナイパーは。こっちで、始末しなかった?」

「新しく雇ったんだろうね。ま、つまりこっちの『警告』は無視されたって訳かな」

「結局、あの時も『何で親船最中なのか』ってことで論議してなかった?」

 

 フレンダがサバの缶詰の中身をフォークで刺しながら言った。

 

 親船最中という人物は『統括理事会』の中では最も素性が知られており(とは言っても、あまり知らない人も多いが)、そして市民からの人気もある。しかし、その反面で権力・影響力に関して言えばあまり持っていないのだ。

 

 しかし、『スクール』は『アイテム』の『警告』を無視。新たなスナイパーを補充してまで狙撃を実行した。

 

「親船最中には殺すだけの価値がない。そして目をつけられるリスクを負ってでも、『スクール』は予定を無理に合わせて狙撃を実行した。それはなぜでしょ―――ハイ浜面君!」

 

 突然麦野に指名された浜面は、ビクゥ! と肩を震わせた。

 

(はあ!? どうしてそんなタイミングで『今から面白いこと言って』的な話の振り方をするんだ!?)

 

 急展開に混乱する浜面。

 

「え、ええとだな!? ちょっと待て喉まで出かかっているからあと少しで分かるんだ!」

 

 と、勢いだけは良いのだが、結局何も言うことはできず。

 

 そして、『アイテム』の少女たちからは失望のため息が漏れた。

 

「いやー、浜面……」

「結局、そのうろたえ方がキモいんだって」

「最悪に、キモいよ」

「大丈夫だよ、はまづら。私はそんなキモいと呼ばれ続ける浜面を応援している」

 

 少女たちの口から飛び出す容赦ない攻撃に、浜面は床に屈み込んで動かなくなった。

 

 しかしそんな下っ端のことは全員にスルーされる。

 

「ま、さっきも言った通り親船最中ってのは暗殺するだけの価値がない。それくらい表裏がないんだよね。にもかかわらず、『スクール』は親船をターゲットに選んだ……これってさ、親船に価値がないからこそ、親船が選ばれたんじゃないかな」

 

 一見、意味が分からない言葉だが、霧丘はその言葉の続きを言った。

 

「つまり、誰でも良かった、ってこと?」

「そう。とにかく騒ぎを起こせれば構わなかったって訳」

 

 そのため、『できるだけ死んでも影響がなさそうなVIP』……つまり、『もっとも警備が手薄なVIP』が選ばれたのではないか。

 

 麦野は自分の考えを楽しそうに続けた。

 

「他のVIP……まあ統括理事会だけで考えても、ここ数日で野外公演をする人間なんて他にいなかったわけだしね。潮岸の野郎なんて四六時中駆動鎧(パワードスーツ)を着込んでいるんでしょ。そんな相手に狙撃が成功するはずがない」

 

 だから、『最も狙いやすい相手』が選ばれた。その結果が親船最中の狙撃未遂。

 

「……結局、可哀想な親船」

「もしそうなら『スクール』はいったい何を求めていたのか。私はここで『VIP用安全保障体制』を提唱したい」

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