とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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罰ゲームとデート

 初春飾利さんがログアウトしました。

 

 というのも、御坂は当麻との約束のために、指定した時間の30分前――12時半から待ち合わせの場所に来ていた。

 

 だが。

 

「来ない……」

 

 待ち合わせには早めに来るのが当然でしょ、などと甘い考えを持っていた彼女はその幻想を軽々と壊されてしまい、約束の1時になっても待ちぼうけを食わされていた。

 

 そんな時、1人の少女が彼女特有の甘ったるい声で声をかけてきた。

 

「御坂さん」

「ああ、初春さん」

 

 御坂がその声に携帯電話の画面から顔を上げると、そこには冬服のセーラー服を纏った初春飾利がいた。彼女は白井と同じく風紀委員(ジャッジメント)であり、御坂も彼女と知り合った夏からは仲の良い友人となった。

 

 彼女のトレードマークである花飾りに目を瞑れば、一見普通の女の子に見えるだろうが、実は風紀委員の試験を『情報処理』の一点突破で合格し、ハッカーの中では『守護神(ゴールキーパー)』などという二つ名で通っているという、意外すぎる特技を持っている少女である。

 

「あの、白井さんが荷物を受け取りに来ることになっていたと思うんですけれど……私、白井さんに風紀委員の仕事を押し付け――いえ、仕事で手が離せなくなってしまったようなので、代わりに私が」

「そうなんだ」

 

 と答えた御坂だったが、そこで気が付く。

 

 部外者は原則として、常盤台中学の中には入れない。

 

 彼女の寮は『学舎の園』の外にあるのだが、それでも寮の中にまで入ることは難しい。必然的に、同じ寮の誰かに運んでもらうことになるだろう。

 

 同室の白井に頼むことができないので、他に頼めるような人と言えば最愛か海鳥ということになるが、彼女たちは友人の佐天に誘われて出かけると言っていたので、頼むのも悪いだろう。

 

 そう考えた御坂だったが、初春は彼女の持っているケースに入ったバイオリンをまじまじと見つめる。

 

「それにしても、さすがは常盤台中学ですよね。授業でバイオリンなんてすごいです」

 

 常盤台のお嬢さま方にとっては、これでも『一般教養』に入るのだろうが、庶民である初春にとっては触れる機会もないような楽器である。

 

「大げさね。なんなら、ちょっと弾いてみる?」

「ええっ!?」

 

 突然の御坂の提案に驚く初春であったが、提案した本人は気に留めることなくケースから中身を取り出すとバイオリンを初春に持たせる。

 

 そして、彼女を後ろから抱くような格好になり、教えていった。

 

「そう、鎖骨と顎で楽器を支えるの。左手は添えるようにそっとネックをもって――」

 

 普通では味わえない体験に、初春は感激しながらもゆっくりと右手に持った弓を、その右手に重ねられた御坂の手と共に引いた。

 

 ギイ、と少し不器用ではあったが、確かに音が響いた。

 

 憧れのその感覚は、どこか夢を見ているようにも初春は感じられ――

 

「ひい!?」

 

 とその時、初春は悲鳴ともうめき声とも区別のつかないような声を上げた。

 

「どうしたの?」

 

 御坂が聞くも、初春は「あ、あ……」と声を漏らしながら後ろ向きに歩くばかりで何も言わない。

 

 まさか、急に体調でも悪くしたのか、と一瞬思った御坂だったが、すぐに彼女がバイオリンの弓で1つの方向を指していることに気が付く。

 

「初春~」

 

 その方向にはどす黒いオーラを纏った白井黒子が……という訳で、彼女は強制退場(ログアウト)させられたのである。

 

 その様子を冷や汗をかきながら見ていた御坂だったが、その時ようやくお目当ての人物がやってきた。

 

「いやー、ごめんごめん」

 

 全く悪びれることのないその様子に、さらに彼女は腹が立ってしまう。

 

「あのねえ……罰ゲームをかけた戦いの勝者は私なのよ。なのに、どうして1時間も待たされなきゃならないのかしら!?」

 

 前髪から電撃をバチバチと鳴らしながら、御坂は当麻に食って掛かった。

 

「いや、それには深い訳が……」

 

 当麻は言う。

 

 土御門舞夏がやってきた後、料理を教えてもらうことには成功した。しかし、それは舞夏(教えてくれる人)インデックス(食べる人)両方の心に火をつけてしまい、昼食の時間が予定外に伸びてしまったのだ。

 

「って、あれ? 確か約束って1時だったよな?」

 

 御坂は「1時間も待たされた」と言ったが、現在時刻は1時半。それに対し約束の時間は1時。

 

 つまり、約束の時間からは30分しか経っていないはずであるが……。

 

「お前30分前からここにいたのか? そりゃあまあ、悪かったな」

「ば、別にきっちり1時間前から待っていたわけじゃ……」

 

 顔を赤らめてそう言う御坂に対し、当麻の表情が真剣なものに変わる。彼が滅多に見せないその表情に、さらに彼女の鼓動が速くなっていった。

 

「御坂、お前……」

「だから、その……」

「そんなに罰ゲームで苦しむ俺を見たかったのか」

 

 (まだ認めたわけではないが)自分の気持ちがばれるのでは、と緊張していた彼女だったが、そこに予想外の言葉が返ってきた。

 

「お前って、実は結構陰険なんじゃ」

 

 当麻がその言葉を言い終わる前に、御坂の前髪から電撃の槍が迸った。当麻は反射的に右手をかざして、それを打ち消す。

 

 そんな、ある意味において彼ららしい騒動が終わった後、罰ゲームが始まった。

 

 

 

 

 

 そんな頃駿斗は、当麻とは対照的に平和に(というのも変ではあるが)佐天、最愛、海鳥の3人の少女と合流した。

 

「遅刻してすまん。待たせたな」

 

 駿斗は、謝りながら彼女たちの方へ駆けて行く。

 

「いえ、そんな。突然声をかけたのは私の方ですし」

 

 初春と同じくセーラーの冬服を着ている少女はそう言い、笑って駿斗のことを許した。

 

 彼女は佐天涙子。柵川中学に通う中学1年生の少女である。

 

 特にエリート校でもないその中学においては珍しく、異能力者(レベル2)の能力、空力使い(エアロハンド)を持っている。

 

 もっとも、彼女は夏休みの始まる直前までは無能力者(レベル0)であったのだが。

 

「謝罪を超言っている余裕があったら、とにかく行きますよ!」

「お、おい! 最愛?」

 

 すると、最愛が彼の腕を引っ張って(窒素装甲(オフェンスアーマー)は未使用)真っ先に歩き出した。すると、その行動を見た他の2人の少女が「あ!」という声を上げて彼らを追いかける。

 

 修羅場ではあるのだが、何かがあると真っ先に雷撃がほとばしる親友たちとは違って、物理的な攻撃がないという点においては比較的穏やかであった。

 

 そんな訳で、彼らが最初に着いたのは『セブンスミスト』であった。

 

「随分と懐かしい場所に来たな」

 

 懐かしい場所、というのは夏休み前に起こっていた虚空爆破(グラビトン)事件において、彼が当麻と2人で爆破の対象となったこの建物を守ったということがあったからだ。

 

 駿斗はそこまでおしゃれなどをするタイプではない。基本的にちぐはぐな服装でなければOKといった感じであり、さらに日頃から平日の放課後は制服のままでいることが基本なので、あまりこのような場所に来ることが少ない。そのため、その時以来この場所に来てはいなかったのである。

 

「こんなのはどうでしょうか?」

「えー、少しスカート丈が短すぎるような……」

「つーか、佐天は基本的にパンツだろ。どうして自分の好み丸出しのミニスカ勧めているんだよ、絹旗」

 

 海鳥の言う通り、最愛はその常盤台中学のスカート丈が結構短い。流石に、学校や寮の中では校則通りの長さにしてあるのだが、本人曰く「見えそうで見えないギリギリの角度を計算してある」のだとか。

 

 幼馴染のお兄さんである駿斗としては、もう少し女の子らしい恥じらいをもってもらいたいものだ、と思う。傍から見たら、彼女は名門のお嬢様学校の制服を着ていながら、同時に挑発的な格好もしているのだ。

 

 性質(たち)の悪い男に掴まりはしないだろうか、と駿斗は少しだけ心配になった。

 

 とは言っても、実際の所彼女が誘惑したいのは1人の少年だけであり、その彼はそのような誘惑に対してどうしても反応(リアクション)が得られないので、最愛としてはどうしてアピールすればいいのか、分からないままだ。

 

 特に、映画のように彼と再会した挙句、『闇』から救い出されるということがあってから1か月以上たち、今となっては海鳥と2人で駿斗の人気ぶりに頭を悩ませているのである。

 

 流石に、彼の親友のように老若男女問わず、まるで魔法のように次々と――とまではなっていないのだが、それでも年下を主力として片手の指で足りているのかどうか。

 

 ひょっとしたら、自分の知らないところで両手の指の数以上の(フラグ)を立ててきているのかもしれない。

 

 そう考えると、ますますこの『デート』という絶好の機会(チャンス)を逃したくはなく、余計に挑発的な格好を試みたりしてしまうのだが、彼は彼の親友と同じく『好意』に対して非常に鈍感だ。

 

 もっとも、それは自分たちにしても同じなのかもしれない。――ここにいる人で佐天を除く3人が、本来誰よりも『愛情』を注いでくれる存在()がいなかった、ということを考えれば。

 

 だが、やはり強力なライバルが存在するのは危険――この辺りで、一気に距離を縮めておきたい。

 

 特に、『大覇星祭』の前に起こった『エンデュミオン』の一件の中心となった少女、自分たちの友人でもある鳴護アリサは、ライバルとして非常に強力だ。乙女としての本能がそう告げている。

 

「そうだ、駿斗兄ちゃんも秋物の服を買っておきましょうよ」

 

 一通り見終わった時、最愛がそんな提案をした。

 

「いや、別に俺は」

 

 駿斗が今の所秋物の服には困っていない、と言おうとすると、その前に女の子たちに先の言葉を遮られる。

 

「ああ、もう! そんなことを言っていたらダメですよ。高校生なんですから、たまには超カッコいい服装をしてみてください」

「あ、ああ! そりゃもう、私たちがほ、惚れるくらいの姿になってみろよ!」

 

 最愛の言葉に続いて、海鳥が顔を少し赤く染めながら言う。

 

 さらに、その言葉を聞いた佐天も積極的に、

 

「ほら、男の人の服を見に行きますよ、神谷さん」

 

 自然な仕草で駿斗の腕を取ると、メンズ服売り場へと彼を引っ張って行った。流れるようなその動作に一瞬最愛と海鳥は呆けてしまうが、すぐに「「あ!」」と大声を上げるとすぐさま幼馴染の両腕に抱き付く。

 

 周りからの非常に痛い視線を感じた駿斗は、すぐに立ち止まると体を回転させて速やかに少女たちの手から脱出した。

 

「「「えー」」」

「えー、じゃないだろ!? 美少女3人に囲まれている時点で、周りからの視線が痛すぎます。俺としても心臓だとか、理性だとか、いろいろやばいから、勘弁してくれ」

 

 傍から見たら、中学1年生の美少女3人に抱き付かれてハーレム状態、ということは駿斗も自覚しているので、彼は少し彼女たちと距離をとる。その一方で、その言葉を聞いた彼女たちは、

 

(び、美少女!? それって私のこと意識してもらっているってことですよね? わわ……)

(は、駿斗兄ちゃん……私のことを単なる幼馴染と見ていたわけではないのですか。超やった!)

(さ、さりげなく言いやがって……べ、別に美少女とか言われて嬉しくなったわけじゃ)

 

 非常に混乱していた。

 

「ん、おい。お前ら顔を赤くしてどうしたんだ?」

 

 しかし、他人から他人への好意に対しては敏感でも、自分への好意に対しては鈍感な駿斗は、その反応を頭に疑問符を浮かべながら見つめ、そのままスルーしてしまう。

 

「まさか、熱じゃねえよな?」

 

 そんなある意味テンプレな台詞を吐きながら、自然な仕草でその両手を幼馴染2人のおでこに当てる。

 

 かあ、と一気に顔を真っ赤にする2人。そのままボン、と音を立てて沸騰してしまいそうである。一方で、その様子を見ていた佐天は少し不満げな表情だ。

 

 そしてそのまま、幼馴染かあ、と呟く。

 

 彼女としてはそんな『特別なポジション』に納まっている彼女たちが羨ましく、そして少し妬ましい。

 

(私も、幼馴染だったらよかったのかな……)

 

 佐天はそんなことを考えてみる。幼馴染という貴重なポジションに納まっている自分を。

 

 そして、駿斗がメンズ服売り場へと歩いて行く。佐天は、その後姿を見ながら、うーん、と少し考えると、

 

「……駿斗兄ちゃん」

 

 と、誰にも聞かれないようにボソリ、と呟いてみた。

 

 彼女には、彼ら3人と違って血のつながった『家族』がちゃんといる。今年の『大覇星祭』も見に来てくれたし、そこで駿斗のおかげで手に入れた能力をようやく家族に披露することができた。

 

 そんな、駿斗たち『置き去り(チャイルドエラー)』には存在しない、大切なものを自分は持っている。それは自覚しているが、その反面、やはり彼らの関係に憧れてしまうのも事実だ。

 

 それが、少しだけ寂しかった。

 

「あ、駿斗兄ちゃん、この赤いクロスのシャツはどうですか?」

「ああ、結構良さそうだな」

「じゃあ、それにこのTシャツを一緒に来てみるのは、どうだ? いや、これでもいいかもな」

 

 2人の少女が、少年の服装をアレンジしていく。佐天は、それになんだかついていけなかった。

 

 だって――

 

「……天。おい、佐天ってば」

 

 ふと自分を呼びかける声が聞こえたので、顔を上げると海鳥に佐天は呼ばれていた。

 

「おい、どうしたんだよ?」

「いや、別にそんな」

「なんだか、1人だけ仲間はずれな顔をしていたけどな」

 

 海鳥に言われて、彼女はギクリとする。図星だった。

 

「その顔は、超正解のようですね」

 

 佐天の様子を見て、最愛が言う。

 

「いや、その……やっぱり、幼馴染なんだな、と思って」

 

 少し壁を感じてしまったのは事実だ。

 

 すると、駿斗は何も言わずに彼女の頭にその右手をポン、と置いた。

 

 突然のその行動に、佐天は思考が停止してしまう。

 

「別に、そんなこと考えることはないぞ。俺たちも、一緒にいて楽しい友達ができて嬉しいと思っているんだからな」

 

 少しだけ彼女が求めていることとは違ったような気もしたが、その心遣いが温かくて、彼女は元の笑顔を取り戻した。

 

「ありがとうございます、神谷さん」

「ん、どうってことはねえよ」

 

 そう言って、佐天は少し前向きに行動してみる。

 

「あ、神谷さん。こんなのはどうですか?」

 

 佐天は、爽やかな外見の彼に似合いそうな薄い青色と緑色のシャツを手に取った。

 

 

 

 

 

「ハンディアンテナサービス?」

「そっ」

 

 当麻は、御坂に連れられて地下街にやってきた。そして、彼女は1軒の携帯電話サービス店の前で止まる。

 

「加入者同士でネットワークを構築できるの。それに、ペア契約だから通話料も安くなるのよ」

 

 このサービスは、簡単に言えば街中で携帯電話を持ち歩いている人全員が中継アンテナになるのだ。

 

 それぞれの携帯電話をアンテナ基地代わりにすることで、近くにアンテナ基地が無くても通話出来る様になる。また、大学側がテスト運用として補助金を出す為、料金が非常に安く、さらに男女のペア契約はそれに加えてその他の通話料金も安くなる上に、2人の間なら通話料金とパケット代金がかからなくなる。

 

 しかし、そのようなメリットの反面、非常にマイナーなサービスで加入者が少ないこと。そのため利用者みんなが常に電源をオンにして持ち歩かないと中継アンテナ効果が期待出来ないので、そのせいでバッテリーの消耗が増えてしまう、というデメリットも存在する。

 

「ペア契約?」

 

 頭に疑問符を浮かべながら言う当麻に、御坂はなぜか得意げに説明を続ける。

 

「で、今契約するともれなく、ラヴリーミトンのゲコ太ストラップがもらえるの!」

 

 彼女は重度のゲコラー(ゲコ太ファンの通称)だ。それは、当麻も夏休みのころから薄々知っていたことではある。

 

「という訳で、一緒に加入しなさい」

「……要はストラップ目当てかよ。っていうか、カエルならもう持っているんじゃ」

 

 その言葉に、御坂はつかみかかるように叫んだ。

 

「カエルじゃなくて、ゲコ太!」

 

 どうやら、当麻は彼女のゲコラーとしての地雷を思い切り踏み抜いてしまったらしい。

 

「ゲコ太はこの子の隣に住んでるおじさんで乗り物に弱くてゲコゲコしちゃうからゲコ太って呼ばれてんのよ! こんな簡単な違いが分からないほどアンタおっさんだった訳!?」

 

 別に、男子高校生にまで浸透しているほどゲコ太は人気のあるキャラクターではないのだが、それでも彼女としては当麻の言葉を許せなかったらしい。

 

「とにかく、加入す・る・の!」

 

 その気迫が感じられる表情に、当麻もしぶしぶ御坂に付き合うことを決めたのだが、ふと思いついたように言う。

 

「で、でもさ。ペア契約ってそもそも、恋人同士とかで加入するもんなんじゃ」

 

 すると、その『恋人』という言葉を聞いた御坂は耳まで顔を赤くした。

 

「い、いやバカ、違うわよ! 何言っているのアンタ! べっ、別に男女って書いてあるだけで恋人同士じゃなきゃいけないって訳じゃ、そうよ、例えば夫婦だって問題ないでしょうが!!」

「もしもし。恋人よりも重たくなってますよ御坂さん」

 

 当麻のつっこみに、御坂はさらに一段と顔を赤くすると、当麻の手首をがっしりとつかむ。

 

「ば、罰ゲームなんだから、あんたは文句言わずについてきなさい!」

 

 そして、そう言うと当麻を店の中へと引きずり込んだ。

 

 すると、カウンターで書類手続きをしてくれた店員さんが一言。

 

「書類の作成にあたって写真が必要なんですが、お持ちでしょうか?」

「証明写真とかですか?」

 

 え? と御坂はキョトン、とした表情で、店員に尋ねる。

 

 しかし、店員さんは接客用の笑顔を浮かべながら、

 

「いえ、これはペア契約でして、登録に当たって『このお二方はペアである』事を証明していただきたいだけなので。ツーショットであれば、携帯の写真などでも」

 

 そんな訳で、彼らは写真撮影のために一度サービス店の外へ出た。

 

 ツーショット。

 

 映画や漫画などで、『恋人同士』がよくやる、あのツーショット。

 

 そう考えるだけで、御坂の頭は沸騰してしまいそうである。

 

「証明写真のボックスを探すの面倒だし、携帯のカメラでさっさと済ますか。御坂、お前って他にデジカメとか持ってないよな」

「え? ええ、まぁ、私の携帯電話はカウンターに預けちゃったし」

 

 しかし、傍から見てもテンパりまくっている御坂とは対称的に当麻は、魔術師との戦いをしても一切壊れる様子のない、頑丈さが売りの自分の携帯電話を出す。

 

「じゃあ、撮るぞー」

 

 当麻はそう言って携帯電話のカメラを自分の方へと向けるのだが、顔を赤く染めている御坂は明後日の方向を向いている。

 

 その様子に、当麻は怪訝そうな表情をすると御坂に言った。

 

「一応聞いておくけど、これお前が言いだしたことだよな?」

「わ、分かっているわよ!」

 

 当麻が少しも恥じる様子のないことに、御坂は一層緊張が増してしまっていたのだが、それでも一度拳を握りしめて「待ってなさい、ゲコ太!」と気合を入れると、一気に当麻に寄り添うとカメラの方を向く。

 

 思い切りのいいその行動に、さすがの当麻も少し緊張しながら「と、撮るぞ」とだけ言うと、カメラに自分たちがばっちり収まっていることを確認する。

 

 寄り添うために、片腕を互いに相手の背中に回していることが、さらに緊張感を加速させるが、そのまま親指でシャッターを切る――

 

――その瞬間に、ドロップキックを喰らわされた。

 

「ったく、新参者の奴隷と思って甘く見ていたのが間違いでしたの」

 

 当麻を地面にたたき伏せた白井が言う。

 

「お姉さまも、さっきからあちこちで大盤振る舞いを」

 

 最近、白井は睡眠不足であった。というのも、全て彼女の憧れるお姉さま(の寝言)が原因である。

 

 愛しのお姉様がまさに恋する少女のように、彼女のベッドの枕をまるで何かを代用するかのようにぎゅっと握りしめ、甘い声で『んふふ……。罰ゲームなんだから、何でも言う事聞かなくちゃいけないんだからねぇー』とか、それはとても幸せそうな感じで呟いているのを聞くたびに、『お姉さま!? その枕はいったい何の代用なんですのー!?』と、寝てもいられなくなってしまっていたのだった。

 

「か、勘違いしてんじゃないわよ! 私はただ、ゲコ太ストラップが欲しくて、ペア契約用の写真を!」

 

 『ペア契約』の言葉を聞いた白井は、自分の頭を抑えながら、お嬢様らしからぬ様子でぶんぶんと振り回す。

 

「だったら、わたくしとお姉さまがペアになれば何の問題もありませんの! さ、行きますわよお姉さま。ここらで一生の思い出を作ってしまうのですの」

 

 先ほどとは一転して、甘い声と共に御坂の腕をつかんで携帯電話サービス店へと連行していく。

 

 すると、ドロップキックされて地面に倒されたままその様子を見ていた当麻は、事態の解決方法を見つけたかのごとく、言った。

 

「それでオッケーなら、俺はもう帰っちゃってもいい?」

「男女のペアじゃなきゃダメだって、言っているでしょうがー!」

 

 返事と共に10億ボルトの雷撃をもらう当麻。

 

 その後、彼女は「ゲコ太だけじゃなくて、ピョン子までー!」とゲコラーモード全開状態になってしまったので、その喜びの叫びを聞きながら、当麻は外でその声を聞きながら待たされることとなった。

 

 すると、そこに別の少女が現れる。

 

「はあ、手続き終わったのか? って、あれ?」

 

 そこに現れたのは、御坂美琴と全く同じ容姿をしていて、常盤台の制服まで全く同じものを着た少女だった。

 

 しかし、彼女とはどこか雰囲気が違う。さらに、未だにサービス店からは御坂の声が聞こえてきているので当麻は彼女の正体に気が付いた。

 

「ひょっとしてお前、御坂妹の方か?」

「はい、とミサカは念のため、10032号と検体番号(シリアルナンバー)を付け加えて返答します」

「ゴーグルつけてなかったから、すぐに分からなかったぜ」

 

 妹達(シスターズ)の検体番号10032号、通称御坂妹。8月に当麻と駿斗、そして御坂と最愛によって命を救われた、御坂美琴のクローンの個体である。

 

 彼女は、自身の手を自分の胸の高さで水平にすると、当麻に訊いた。

 

「これくらいのミサカを見かけなかったでしょうか、とミサカは自分の胸のちょっと下あたりを指し示します」

「ああ、えっと……打ち止め(ラストオーダー)、だっけ? 絹旗や黒夜から聞いたけど、お前らサイズ変更とかってできたのか?」

 

 先ほど最愛と海鳥が一方通行に接触していたが、前述したように彼女たちは御坂妹、そしてミサカネットワークを通じて打ち止めと一方通行のことをある程度は知っている。もっとも、妹達の1人が一方通行とともにいると聞いた場合、御坂は何をするかわからないので、しばらくは伏せておこう、という方向で話をまとめてあるが。

 

「その様子から見るに、あまり知らないようですね、とミサカはあなたの役立たずっぷりに落胆します」

 

 当麻の疑問を御坂妹は軽くスルーしつつ、さりげなく毒を吐いた。

 

「ミサカはゴーグルを奪われてしまったので、早急に回収しなければならないのです、とミサカは暗に手伝えと上目づかいで頼んでみます」

 

 この強引さには、どこか先ほどの二の舞の雰囲気を感じさせられる。

 

 男を強引に引きずり回そうとするのは、御坂の遺伝子を持った女性にデフォルトで備わっているステータスなのだろうか。

 

 当麻はしぶしぶ彼女に付き合うことになった。

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