とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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少年院への襲撃

 浜面仕上は路地から大きな通りへ飛び出した。

 

(と、とりあえず生き延びたか……)

 

 休日を満喫している辺りの少年少女は息を切らしている浜面へ怪訝な目を向けているが、とりあえず襲撃者の眼はなかった。浜面は近くの自動販売機で烏龍茶を買うと、乾ききった喉を潤す。

 

 もはや全てを投げ出してどこかへと旅に出てしまいたい浜面であったが、その時無情にも携帯電話が鳴り響いた。

 

 画面に表示された『麦野沈利』という文字を見て、浜面はうめき声を上げる。

 

『よー。電話に出たってことは、とりあえず生きてるみたいだね。……手錠をかけられて電話を耳に押し付けられている、なんてへまはしていないでしょうね?』

「一応生きているぜ……俺が『当たり』を引いたんだから、そっちは無事なんだろうけど」

『そりゃご苦労さん。おかげで私は楽ができた。んで、悪いんだけどすぐに戻ってきてくれないかな。下っ端の雑用係に仕事ができたの』

 

 仕事? と嫌そうな顔をした浜面に、麦野はあっさりと言った。

 

 ――死人が出たの。こいつの処分を頼みたいんだけど。

 

 浜面が黒い寝袋とその中身の焼却処分を頼まれてやってきたのは、誰も使っていない廃墟となったビルだった。その建物の半端な階の真ん中にあるのは、実験動物排気用の電子炉である。3500度近い膨大な熱量をもってして、動物の死骸と各種最近をまとめて殺菌処分することができる。

 

「……どうやって電力を引っ張ってきているんだか。コンセントくらいじゃ足りないだろうに」

 

 彼はそんなことを呟くと、大金庫の扉のような蓋を開けて袋を放り込んだ。そして金属蓋を閉めると、事前に調整を済ませてある電子炉の着火ボタンを押す。

 

 それだけで、死体はDNA情報すら破壊されてただの灰になった。

 

 寝袋の中身については考えない方がいい――麦野からは事前にそう言われていた。できるだけ何も考えないようにしたら、本当に顔から表情を消してボタンに指先を当てると、恐怖心によって震えた指がボタンを押してしまった。

 

 ゴゥン、という低い音を立てて『処分』が始まるのを見た浜面は、一歩二歩と後ろ下がるとそのまま埃だらけの床に座り込んでしまう。

 

 あの寝袋には誰が入っていたのだろう。

 

 どんな事情を抱えていたのかも、そもそも学生だったのか大人だったのかも知らない相手であるが、それが全て焼かれて消えて行ってしまうことを彼は考えた。

 

 

「はまづら」

 

 

 後ろから声をかけられても、彼はしばらく動けなかった。

 

「はまづら。どうしたの?」

 

 大能力者(レベル4)の滝壺理后と、無能力者(レベル0)の自分。

 

 彼はそのことを考えると、処分を終えた電子炉の灰をかき集める。そしてその後は、彼女を無視して歩き出した。

 

「ちくしょう。無能力者(おれたち)の命って、いったいいつからこんな安くなっちまったんだよ……」

 

 悩んだ結果、結局灰は川に流した。

 

 そんなものはただの自己満足に過ぎないことくらい浜面にも分かっていたのだが、しかしどうしても元は人間だったものを生ゴミの自動処理(オートメーション)の中に放り込むことはできなかった。

 

(……最低だな)

 

 滝壺と別れた浜面は、1人で川沿いの道を歩きながら考えた。

 

 彼はあの寝袋の中身に対して同情したわけではない。ただ怖かったのだ。あの寝袋の中身がいつか、自分になってしまうのではないか、自分もあのように処分されるのではないかと想像して気持ち悪がったのだ。

 

「ちくしょう……」

 

 またあいつらの所へ戻らなくちゃならないのかよ。そう叫びたくなるのを応えて歩き出す浜面。しかしその時、おい、と後ろから声をかけられた。

 

 その次に来たのは、頭にかかる衝撃。

 

 地面に倒れた浜面が、笑い声が聞こえた後方に目をやると、見たことない少年たちが3人ほどいた。1人は浜面を殴ったのであろうゴルフクラブを持っている。

 

 空き巣稼業、ということに気が付いた。学生寮から人がいなくなる時間帯を狙った不良グループがいるのだ。

 

「やっぱそうだぜ。こいつ、見た顔だ。第七学区のスキルアウトじゃねえの?」

「あそこは潰れたんじゃなかったっけ」

「事情なんてどうでもいいだろ。ここで潰すんだしさ」

 

 そんなことを話し合いながら、笑い声と共に浜面は四方から蹴りを入れられる。

 

「知っているかい、スキルアウト。俺たちはついこの間まで生活に苦労していたんだぜ」

「お前らのアタマ……駒場っつったっけか。あいつがなかなか鬱陶しくてさ。ろくに『仕事』もできない状態だったんだ」

「そんなこんなで、テメエの顔を潰して少年Aにするくらいにはムシャクシャしてんだわ。分かってもらえたかなー?」

 

 それは俺のせいじゃない、と言おうとした浜面の脇腹に、蹴りが入れられた。呼吸困難になった彼の脳裏に、先ほどの灰が川に流れていく光景が浮かぶ。自分もそうやって消されて行くのだということが、無能力者の命の軽さが、頭に来た。

 

 汚い路上に転がっていた鉄パイプを掴む。そして、L字に曲がったそれを勢いよく横に振った。

 

 ゴルフクラブを持っていたクソの足首に直撃すると、ゴキリと骨を砕く感触が手に伝わってきた。絶叫して転がる馬鹿と入れ替わりざまに起き上がり、血まみれの浜面は追撃を加える。

 

 倒れている少年の絶叫を聞いた仲間に1人が、カバンから金槌を取り出した。

 

 これは死ぬかな、と彼は思った。鉄パイプの破壊力は強力なものだが、一撃で意識を奪えるほどの物ではない。泥沼の『殴り合い』になれば相討ちも考えられる。

 

 しかし、攻撃の手をやめる気は起きなかった。しかし、彼の掌に黒い寝袋の感触が、驚くほど鮮明に浮かんだ。

 

「こっちだ、浜面!」

 

 すると、金槌を握る少年の首がゴキン! と真横にはねた。煉瓦のようなものを投げつけられた、と浜面が気が付く前に、彼は誰かに腕を掴まれたまま移動する。

 

「来い、バカ野郎! さっさと逃げるんだよ!」

 

 

 

 

 

『グループ』は、『ブロック』の手引きで侵入した傭兵の1人を捕まえることに成功した。結局ほとんどの人数は『六枚羽』に殺されてしまったし、その他にも駿斗によって無力化された上で『外』に物理的に放り出されたために、『ブロック』が現在引き連れている数は当初彼らが予定していた数をはるかに下回る100人ほどになっていた。

 

 第十一学区の倉庫街で海原が自分の集めた情報を公表すると、土御門が捕まえた傭兵に質問した。

 

「5000人の傭兵をかき集めて、お前たちは一体どこを襲撃しようとしていた?」

「な、何の話だ」

「5000人というと大した数に聞こえるが、別にそれだけで学園都市を潰せるって物量でもない。『商売』の内容を言えよ、傭兵。それだけの人数を使ってどんな計画を立てていた?」

 

 傭兵は黙って、『グループ』の4人の顔を順番に見た。

 

 心の中で葛藤していたようだが、この惨状を見て自分たちには既に分が悪い状況であることを知ったのか、彼はゆっくりと口を開く。

 

「……第十学区だ」

「第十学区?」

 

 あそこは最も土地の値段が安く、実験動物の廃棄場や原子力関連の研究所など、ろくな施設がなかったはずだが……。

 

「第十学区にある、少年院を襲撃する予定だった」

「っ!」

 

 その言葉に、1人の少女が表情を変えた。

 

 その場所は能力者に対して様々な対策が施されている。確かに、それならば学園都市内の人材よりも『外』から人材を調達した方が成功率も上がるだろう。

 

 結標は傭兵の胸ぐらを掴み上げた。

 

「何でそんな所を襲撃するのよ……VIPの犯罪者でも助け出すって言うの?」

「俺たちの、目的は……座標移動(ムーブポイント)だ」

 

 ピクリ、と結標の眉が動いた。しかし、目の前にいる女の正体を知らない傭兵はそのまま話をつづけた。

 

 あの少年院には座標移動の仲間が入っているという情報を手に入れた。だから、『窓のないビル』の『案内人』である彼女のことを知った『ブロック』は、彼女のことを徹底的に調べ上げて交渉材料を集めることにしたのだ。

 

 物資搬入ルートの情報を掴み、そして外からなら核兵器にも耐える『窓のないビル』を内側から吹き飛ばす。『ブロック』は多層同期爆弾という戦術兵器――学園都市内での使用を前提とした、『極めて小さな標的へ、高位力の爆風を一点集中させて徹底的に破壊する』という、都市部に紛れた敵要塞を民間への被害を最小限に抑えて爆破するために編み出されたもの――の用意がある、と言っていたらしい。

 

「世界の混乱を収める必要があった。俺は傭兵をやっているから分かる」

 

 この世界には限界が近づいている。そのため、いずれはあちこちで発生する内紛をその前に止める。

 

 しかし、計画に必要な座標移動は仲間として組み込むことは難しいと考えた。

 

「こっちは協力を得られないことを前提に――」

「そう」

 

 遮るように言った結標は、続けて聞く。

 

「ところで貴方、今目の前にいるのが誰だか分かってる?」

 

 は? と一瞬眉をひそめた傭兵は、すぐに顔を青くした。

 

「う、うそだろ、そんな……!」

 

 しかし彼が何か言い終わるよりも早く、その体に10本近い鉄の杭が突き刺さった。

 

 結標はボロボロになった男の体から手を離すと、ただ俯いたまま奥歯をかみしめていた。そんな彼女に対して言葉をかける人間はいなかった。全員が、同じようなものを抱えているからこそ。

 

 恐らくアレイスターは、こんな状況をも得体のしれない技術を使って高みの見物を決め込んでいるだろう。手助けなどせず、自分の作った箱庭の中でもがく人間たちを笑っているに違いない。

 

 だけど、それでも。例え自分がどんな『闇』に落とされたとしても、彼らには守るべき人間たちがいる。

 

「行くぞ」

 

 これは結標の個人的な事情だ。しかし、海原が『ブロック』の中に紛れた時のように『仕事』として窮地を乗り切ろうとするのではない。だから、誰もそのことについて口出しをしなかった。

 

 目指すは第十学区。100人近い傭兵を抱えた『ブロック』のいる少年院は、決して楽観できる状況ではない。

 

 移動用の救急車の中で、土御門が少年院の情報を調べた。

 

「今の学園都市には反逆罪って罪はない。となると、結標の仲間たちは法的には裁けない状況にある。そんな奴らを普通の房に入れるわけにはいかないんだよな」

「となると……隠し部屋があるということですか?」

 

 海原が結標の方を見るが、彼女は何も知らないようだった。

 

 他にもいくつかデータを見たが、完全な見取り図は機密扱いになっているようだ。しかし、土御門と共に画面を覗いていた一方通行が声を上げた。

 

「この少年院、消火部門がねェぞ」

 

 このような施設では火事が起こることが少ない。したがって、消防署の人が的確に動けるように見取り図を受け取っている可能性が高い。土御門はクラックの矛先を変えた。

 

「あった。一部の機密区画は塗りつぶされているが、隠し階段があるとすれば構造的にはここしかない」

 

 隠されていることから結標は『ブロック』が手を出せていないことを考えたが、一方通行はその甘い考えを一刀両断した。彼らの権限は『グループ』と同等なのだ。

 

 少年院の警備は、まず看守が駆動鎧(パワードスーツ)を所持している。しかし、MPS-79という旧式のもので、『ブロック』を押さえつけられるほどの物ではない。しかし、対能力者用の装備はAIMジャマーを始めとして25ほどそろえてあるとのこと。もっとも、集中力を散らす程度の物であって完璧に無効化できるわけではないらしい。

 

 だが、下手に使うと暴走を起こしてしまうために、特に複雑な演算を必要とする結標や一方通行の場合は危険だ。

 

 彼らは塀に囲まれていて中が見えない少年院の前に着くと、勢いよく救急車から降りた。その時点で煙の臭いが鼻についた。結標は歯ぎしりする。

 

 そして中へと向かったが、そこで一方通行と土御門が気が付いた。

 

「音がない」

 

 そう、本来『ブロック』と看守たちが交戦状態にあるならば、銃声くらいあるのが普通のはずだ。

 

 4人が検問を兼ねたゲートをくぐるとそこは囚人護送車用のロータリーであった。そこへ来て一方通行はこめかみの辺りに小さな痛みを覚える。AIMジャマーが働いているのだ。

 

 代理演算を使った能力使用モードは控えた方が良さそうだ、と考える。

 

 せめて打開策を見つけるために機材を確認しようとした彼であったが、そこで思考を中断した。少年院全体を包んでいる違和感の正体に気が付いたからだ。

 

 死体。

 

 その武器は拳銃、ショットガン、ナイフなど様々であったが、その中で1つだけ、共通する項目を見つけた。

 

「こいつら……全員、自分の武器で命を絶ってやがる……」

 

 土御門の呟きを聞いて自殺かと考えた海原だったが、直後にその考えを否定した。

 

 その時。

 

 

「見つけたぞ」

 

 

 背後から聞こえた声に4人が振り返る。するとそこには、赤いセーラー服を着た小柄な少女が立っていた。しかし野の眼光には、単なる殺人者を上回るものを秘めている。

 

「ここにいるってことは、『ブロック』のクソ野郎か?」

「いいえ。私は『メンバー』。利用しているだけだから、別に所属に興味はないけど」

 

 傷1つ追わずに50人以上の傭兵を撃破した少女は、それを誇示することもなく答える。

 

 一方通行は『メンバー』という言葉を聞いて考えた。というのも、衛星のアンテナを破壊するため(結局無駄足になったが)に移動していた時に、『メンバー』の1人である空間移動能力者、死角移動(キルポイント)の襲撃を受け、撃破していたのだ。

 

 しかし『ブロック』と仲間意識を持っているようには見えない。いまいち目的や敵対関係が見えない組織だ。いずれにしても、敵対する以上は撃破するが。

 

 そんな中、海原は1人だけその少女の顔を見て過敏に反応した。

 

「まさか、あなたは……」

「今更私に素性を訪ねるのか、エツァリ」

 

 その少女の口から出てきた名前は『海原光貴』ではなかった。あるいは、それが彼の本来の名前なのだろう。

 

 片手で少女が顔を拭うと東洋人らしい風貌は消え去り、浅黒い肌に堀の深い顔立ちをした少女がそこに佇んでいた。

 

「『ブロック』には感謝しないと。能力者の力が半減されるここでなら、貴様の『仲間』とやらに邪魔される心配も多少は減るだろうし」

 

 一方、海原はその顔と声を確認してその表情を歪ませる。

 

「ショチトルだと」

 

 彼女はかつての仲間。しかし、それでも彼女はこういった汚れ仕事とは無縁のポジションについていたはずだった。

 

「理由は1つしかない。学園都市へ寝返った裏切り者め。貴様を処分するために、私は全てを捨ててここへ来た」

 

 

 

 

 

 駿斗はどこかへと移動しようとする傭兵の前に立ちはだかったものの、半分程度を無力化した時点で残りには逃げられてしまった。するとそこに、彼の幼馴染2人が駆けつける。

 

「駿斗兄ちゃん。どうやら、第十学区の少年院が何者かに超武力制圧されているようですよ。監視カメラからは、ローテクな武装をしたたくさんの男たちがいましたから、十中八九、例の傭兵たちでしょうね」

「少年院? また、どうしてそんな所を狙ったんだ?」

 

 駿斗は首を傾げる。彼には結標の事情など知らないので、分からなかったのだ。

 

 すると、海鳥が口を開いた。

 

「それは知らねえけど、恐らくは重要人物にとって大切な人間が、そこに収容されているんじゃないか? 暗部じゃあ、私たちみたいに元から『闇』にいた人間ばかりという訳じゃない。何らかの取引材料で仕事をさせられているやつも少なくないんだ」

 

 取引。

 

 やはり、そのような方法によって暗部というものは成り立っているのか。

 

「じゃあ、そいつらの目的は、ある重要人物にとって『取引材料』となる仲間が収容されている少年院を……」

「だろうな。それを使って交渉するつもりだ」

 

 くそ、と駿斗は吐き捨てる。

 

 既に行動は決まっていた。

 

「その重要人物とやらも、黙って見ているとは超思えませんけれど?」

「すでにそこで戦っているんだったら、手助けをするだけだ」

 

 彼ら3人は時間が惜しいのでタクシーを使った。さすがに暗部が行動しているすぐそばまで一般人を行かせるわけにはいかないので、それよりも数百メートル手前で降りたが。

 

 3人は急いでその場所に向かう。最愛は既に窒素装甲(オフェンスアーマー)の展開を終えていた。

 

 少年院に踏み込むと、そこに血を流して倒れている人間がいた。

 

「っ!」

 

 駿斗は彼らが既に死んでいることに気が付くと立ち止まる。そもそも、このような死体を見たのは初めてのことであった。

 

「……駿斗兄ちゃん」

 

 すると、その様子を見た最愛が言った。

 

「駿斗兄ちゃんはこのような殺し合いの場には慣れていません。自分の身を超守ることはできるかもしれませんが、それと『戦う』ということは別物です。ですから……」

 

 この少年は、数か月前まで暗部とは無縁の状態だった。だから、彼が自分からその世界に踏み込もうとする覚悟を持っているのは知っていても、必要以上に踏み込むことはないのではないか、と彼女は思う。

 

「いや、いいんだ」

 

 しかし、彼女の言葉を駿斗は遮って言う。

 

「やることは、いつもと同じだ。それに、俺も今まで何も経験してなかったわけじゃない」

 

 あらゆる幻想をこの世界で創造する。その力をもってしても、死んだ人をよみがえらせることはできない。そのことは前から分かっているし、妹達(シスターズ)の一件でその無力さを突きつけられてもいる。

 

 だが、心からしっかりと割り切れるほど、駿斗は世界の裏側に染まっているわけではない。

 

 自分の無力さをかみしめながら、駿斗は前に進む。すると、そこで1人の日本人の男が1人の褐色の肌を持つ少女と戦っていた。

 

 女が持っているのは、見たことのない石で造った鋸のような歯を持つ剣だった。そして、男は左手で右手首を掴んでいた。その前には、彼の武器であろう黒いナイフが転がっている。

 

 そして、駿斗は独特の感覚を感じ取った。

 

 魔力。

 

「……誰が来たかと思えば、幻想創造(イマジンクリエイト)か」

 

 少女は駿斗の顔を見てそう言った。海原は3人を驚きの表情で見ている。

 

「最愛、海鳥。お前らは周囲を回って他の戦力がいないかを確認しておいてくれ」

 

 駿斗は2人に向けて言った。つまり、暗にこう言ったのだ。

 

 この少女の相手をするのは、自分の役目だ、と。

 

 自分もここに残って戦う。そう言おうとした少女たちであったが、彼の真剣な目を見るとそれ以上は踏み込めなくなってしまった。なぜなら、そこには大きな覚悟が見えたから。

 

 この2人を、『魔術』とは関わらせたくない。

 

 だからこそ、駿斗はそれ以外の役割を押し付けることにした。

 

「……負けたら、超許しませんよ」

「デート、全部奢りで1回な」

 

 りょーかい、と駿斗が苦笑して返事をすると、少女たちは去って行った。

 

「さて、待たせてしまってすまないな」

「私はそこの男さえ始末できればそれで良いのだが」

「悪いが、それは承服しかねる。俺がいる場所では誰も人を死なせたくねえし」

 

 駿斗はいつものように幻想核杖(イマジン・コアロッド)を取り出すことができない。彼女の扱う術式の正体に気が付いたからだ。

 

「武器を使った自滅か。科学の街の内部で人間の文明を否定しやがって」

「貴様にはさすがに分かったか」

 

 その様子を後ろで見ていた海原が言う。

 

「マクアフティル……『死体職人』のあなたに、そういう武器は似合いませんよ」

 

 本来のショチトルの仕事は、死者のアフターケアであったらしい。死体の残留情報から、遺言が正しいかどうかの確認をしたり、葬儀の方法をまとめたりといったことが主な仕事の内容であったようだ。

 

 しかし、彼女は今かつての仲間に向けて武器を振るっている。マクアフティル。アステカの剣士が使う、鋸のように『引き切る』ようにして使う武器だ。

 

「なら、そこにいる貴様は貴様らしいのか。『組織』を抜け出し、学園都市で安寧をむさぼっている貴様は」

「ショチトル……」

「イエスというなら、貴様はやはり裏切り者だ。ノーだというならば、自分を偽る貴様にとやかく言われる筋合いはない」

 

 下手に魔術を放つと、少年院に流れ弾が当たってしまうために威力が高いものは使えない。近距離戦闘に備えて、駿斗は身構えた。

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