とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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崩壊のはじまり

 少年院の運動場では、2人が対峙していた。

 

 アステカの剣、マクアフティルを握るアステカの魔術師、ショチトル。

 

 素手の状態で、いつでも能力や魔術を発動できるようにした駿斗。

 

 両者は互いに懐へ飛び込むために、同時に駆け出す。

 

「何!?」

 

 ショチトルが驚愕の表情を浮かべた。駿斗は武器を持っていない。ならば、少年院への被害には多少目を瞑った上で遠距離から狙撃をした方が、楽に決まっているのに。

 

 しかし、そうしている間にも両者の距離が縮まる。そして、マクアフティルと駿斗の腕が拮抗した。

 

 そう、拮抗。念動鎧(フォースアーマー)を纏っていたのだ。

 

「チッ!」

 

 彼の頭上に輝く魔方陣が出現したのを見たショチトルは、すぐに後方に跳ぶ。しかし、その次の瞬間には彼の拳が眼前に迫っていた。

 

(っ、今のは高速移動用の術式か!)

 

 避けるのは不可能、そう思った彼女は反射的に頭を後ろへ降って威力を殺した。そして、手に持った剣を頭部めがけて振るう。駿斗はそれを屈んで回避するとアッパーカットを繰り出すが、それはやはり回避された。

 

「喰らえ!」

 

 地面に魔方陣が輝き、そこから杭が飛び出す。それを受けたショチトルは宙を舞うが、やはり大したダメージを負っている様子はない。

 

(衝撃を殺しているわけではない……単純に防御力が強い?)

 

 いや違う、と駿斗は否定した。

 

(人間のそれと異なる、もう1つの魔力の循環が感じられる)

 

 そのことを感じ取った駿斗は、1つの結論を出した。

 

「お前……『原典』を持っているな?」

 

 その言葉を聞いた彼女は、フッと笑う。

 

「さすがに気が付くか。その通りだよ。私たちの魔術結社では、すでに『原典』が実戦投入されている」

「実戦投入ですか!?」

 

 海原が驚いて声を上げた。

 

「あんなもの、普通の魔術師が御しきれるものではありません! その上、それを実戦で使用するなど」

「言ったはずだろう、エツァリ。私はお前を殺すために、全てを捨ててここへ来た、と」

 

 焦るような声を上げる海原に対して、ショチトルの口調は淡々としていた。

 

「ショチトル……」

 

 彼は彼女の名前を呟くと、少し目をつぶってからしっかりと見開いた。その眼には覚悟があった。

 

「神谷さん。あなたは下がっていてください。彼女は……最後くらい私がやります」

「海原、いや、エツァリ……分かった」

 

 駿斗は彼の覚悟を見ると、大人しく下がる。

 

「増援を断るとは、私たちの組織を裏切ったくせに、学園都市の中で腑抜けたようだな」

 

 ショチトルは嘲笑するが、海原はまっすぐに彼女を見据えるだけであった。

 

 そして、ショチトルがマクアフティルを持って海原に肉迫する。そして、振り上げた剣を己の敵めがけて振り下ろした。

 

 対し、海原は回避をしなかった。ただ、手首の関節もつながっていない右腕を自分の頭上に突き出しただけだ。それを見たショチトルは笑っていた。その程度の防御なら、手首ごと敵を切り殺せると踏んだのだろう。そして、その刃が海原のジャケットを裂き、肉を切る。

 

 しかし、そこまでだった。

 

 腕の肉は斬られたもののその中の骨までは斬られることはなく、剣はそこで止まっていたのだ。

 

「な……!」

 

 海原は、驚きのあまり動きを止めたショチトルの腹に、思い切り蹴りを叩き込んだ。その小さな体が地面に倒され、彼女の手からアステカの剣が離れた。

 

 マクアフティルが海原の腕を切り裂かなかった理由は簡単だ。あの剣にはそこまで優れた切れ味はない。そもそも、あれは前述したとおり『引き切る』ための剣であって、日本刀のように『叩き切る』ようなことはできないのだ。

 

 だから、海原は自分の腕で剣を受け止めるという暴挙に出た。このままでは失血で追い詰められると判断したためだ。

 

「命まで奪おうとは思いません。どこへでも消えてください」

 

 その様子を見ていた駿斗は、すぐに彼女の下へ駆け寄った。『原典』を回収し、彼女を無力化するためだ。

 

 しかしその時、褐色の少女の体が崩れ始めた。

 

 生物学的な腐敗ではない。それはまるで、透明人間の体から包帯を外すような光景だった。指先から始まったその変化は、あっという間にひじの辺りまで侵食を進めていった。

 

「ショチトル……? これは、一体――!」

「私の体が、限界を迎えただけだ」

 

 その言葉に、2人の男が表情を変えた。

 

「『原典』との融合だと!? そんな無茶苦茶をやりやがったのか!」

「アステカの儀式では、人の肉を食うことで天国へ届ける……! あなたの肉体を粉末にして散布し、その粉がついた武器は魔術的には『あなたの体の一部』だから、あなたの手足として使用できる」

 

 他人の武器を、自分の肉体の一部とする。それが彼女が使っていた、武器無効化術式の正体だった。

 

 しかし、そんな己の体を削る術式はすぐに破たんしてしまう。常人が霊装などで補助できる領分ではない。だが、アステカには動物の皮に文字を記す『絵文書』という書物が存在しているのだ。

 

「ぐ、ぅ、ァァァああああああああッ!」

「エツァリ! これ以上見るな!」

 

 駿斗が絶叫を上げた海原の体を回した。

 

 ほんの数文字。それも凝視したのではなくチラッと視界に入っただけであるにも関わらず、彼には脳が割れそうな痛みが襲い掛かった。常人向けに解釈を求めて純度を薄くした『写本』とは違う、正真正銘の『原典』。

 

 幻想創造(イマジンクリエイト)を持つ駿斗はそれを相殺できるが、エツァリは一介の魔術師に過ぎない。

 

(く……描かれているのは『暦石』の派生系か)

 

 しかし、それでも彼は少しだけ得た情報を解析していった。

 

「彼女からどうやってこいつを引きはがすか……! 俺が所持するべきか?」

 

 駿斗が呟いてショチトルに近づこうとする。しかし、その時彼をエツァリが制止した。

 

「あの魔導書は、私が引き継ぎます……!」

「おい……」

 

 しかし、彼はずんずんと彼女の下へ行ってしまう。

 

(死なせて、たまるか……)

 

 ショチトル自身のこと。『組織』のこと。彼女から聞くべきことが、海原には山ほどあった。だからこそ、彼は『原典』を引き継ぐという暴挙に出た。唯一の可能性――『自らの知識を広める者』だけに協力するというその性質を利用するために、彼は魔導書の判断能力を騙す。

 

 ショチトルが死亡すれば引き継ぎができなくなると判断させる。しかし、その前例はなく、失敗すれば『死』という形で報いることとなる。

 

 しかし、海原は迷わなかった。褐色の少女を助けるために、彼は全てを受け入れる。

 

 

 

 

 

 浜面のピンチを助けたのは、スキルアウト時代の仲間であった半蔵だった。

 

 彼と別れて『アイテム』の隠れ家に移動している浜面は、袖の中にしまったレディースの拳銃のことを考える。それと共に、先ほどの会話で発した自分の言葉を頭の中で反芻した。

 

『認めるよ。クソみてえな生活だったが、まだあの頃は楽しかった』

『たとえスキルアウトに戻ったって、それは「あの頃」じゃねえんだ。そこに価値があるとは思えねえ』

 

 そんなやり取りの後に拳銃を渡された。そのことを考えていると、『アイテム』の隠れ家の1つの到着する。ここは、第三学区にある高層ビルの一角だ。

 

「遅いよー浜面」

 

 麦野が彼を迎え入れた第一声はそれだった。

 

 ここはスポーツジムやプールなど屋内レジャーだけを集めた施設である。建物に入るだけでも会員証の提示を求められることからも、利用者のグレードの高さをうかがわせた。このような形でなければ、浜面など1度も入ることはなかっただろう。上流階級の人々が、まずステータスとして手に入れたいものがここの会員証らしい。

 

 その中でも彼らがいるVIP用のサロンは、『二つ星』以上の会員ランクがなければ借りる資格すら与えられない、年間契約の貸切個室であった。

 

 浜面はそこにいる面子を見て、怪訝そうに尋ねる。

 

「フレンダはどうしたんだ?」

「消えた」

 

 麦野からはあっさりとした言葉が返ってきた。

 

「死んだか捕まったか。補充している暇はなさそうだし、いずれにしても『アイテム』は3人でやっていくしかないね」

 

『スクール』も1人減って3人だから、数はピッタリ合ってる、という麦野。数に入れられていない浜面はわずかに眉をひそめたが、そこに言及しても仕方がないので黙っていた。

 

「はまづら。怪我してる」

 

 滝壺が浜面の顔を見てそう言うので、何でもねえよ、と彼は答えた。

 

『スクール』には『ピンセット』を奪われてしまった。その反撃をするために、滝壺の『能力追跡(AIMストーカー)』を使用する。

 

「検索対象は未元物質(ダークマター)でいい?」

 

 だらりと手足を投げ出している滝壺が言った。

 

「誰だそりゃ」

「第2位の超能力者(レベル5)。『スクール』を指揮しているクソ野郎だよ」

 

 麦野がそう言っている間に、滝壺はポケットから白い粉末の入った小さなケースを取り出した。霧丘は不思議そうな顔でそれを見つめている。

 

「大変、だね。体晶がないと、能力を、発動できないなんて」

「別に。私にとっては、こっちの方が普通だったから」

 

 滝壺が白い粉末を少しだけなめると、彼女の眼に光が戻る。そしてそちらのほうが正常であるかのように背筋をぴんと伸ばした。

 

「AIM拡散力場による検索を開始。近似、類似するAIM拡散力場のピックアップは停止。該当する単一のAIM拡散力場のみを結果報告するものとする。検索終了まで残り5秒」

 

 機械のように放たれる声の後に、結果は出た。

 

 

「結論。『未元物質』はこの建物の中にいる」

 

 

 なに!? とその場にいる全員が愕然とする前に、次の動きがあった。

 

 個室サロンの扉が蹴り破られ、1人の男が入ってきたのだ。

 

「『未元物質』……!」

「名前で呼んでほしいもんだがな。俺には垣根帝督って名前があるんだからよ」

 

 その男の手にあるのは、機械でできた奇妙な『爪』だった。

 

『ピンセット』。素粒子工学研究所で『スクール』が奪ったものだった。

 

「カッコイーだろ。勝利宣言をしに来たんだぜ」

「ハッ。アレイスターに選ばれなかった『第二候補(スペアプラン)』にはしゃがれてもさ。ついさっきまで散々逃げ回っていたくせに、態度ががらりと変わってくれたね」

「いやいや。素粒子工学研究所では世話になったし。おかげで4人しかいない『スクール』の正規メンバーの1人を失っちまった」

「忘れてない? 少し前にはスナイパーも殺しているはずだけど。交換したんだ?」

 

 2人の超能力者の会話が、そこで途切れた。

 

 原因は霧丘愛深。彼女は懐から取り出したナイフを全力で垣根に向かって投げる。すると、それに追従するように近くにあった、ごてごてとした装飾のついていて数十キロは重さのありそうなテーブルがものすごい勢いで飛んでいく。

 

 バガン! という轟音が響いて垣根にテーブルが激突した。

 

 しかし、粉々に砕けたのは垣根ではなく豪華なテーブルだ。

 

「痛ってえな。そしてムカついた」

 

 矛先を自分に向ける垣根にかまうことなく、彼女は自分が座っていたソファを掴むとそれでサロンの壁を叩き壊す。浜面と滝壺の手を引きながら、彼女はその奥へ飛び出して行った。

 

 これが彼女の能力、座標確立(セトルポイント)であった。自分を中心に半径約40メートル以内にある周囲の物体を、合計質量にもよるが最大で6つまで、自分の体、あるいは近くにある物体に対する相対座標でその位置を固定できる。今ソファを掴んで壁を叩いたのも、怪力であるからではなく、彼女の手に対しソファの座標が固定されているからだ。

 

「急いで、車を確保して」

 

 霧丘は浜面に向けて言った。

 

「多分、『スクール』が狙っているのは滝壺だから。彼女の能力を使った追跡を振り切るために、襲撃してきた」

「こいつのサーチ能力が?」

 

 浜面は言った。

 

 確かに、一見すれば見た目の破壊力が高い麦野のほうが優先度が高いように見える。

 

 しかし、滝壺さえ潰してしまえば『アイテム』の活動はかなり制限できる。そのため、彼女1人の存在で『追跡する側』と『追跡される側』が違ってくるのだ。逆に言えば、彼女がいる限り『アイテム』にも逆転の目が出てくる可能性はある。

 

 浜面が何か言う前に、霧丘は彼らを置き去りにして走り出した。

 

 爆発による衝撃で、ビル全体が頼りなく揺れている。騒ぎを知った上客は、慌てた様子で逃げ惑っていた。

 

(……『スクール』は、狙撃手を雇っていた。なら、彼が配置されている可能性のある場所は)

 

 彼女が目を向けたのは、近くにあるビル。600メートルほど離れているが、スナイパーにとっては特に遠い距離ではないだろう。

 

 霧丘はガラス越しに自分の体を見せると、そのガラスに穴が空いたのを確認した。後ろにある壁に小さな穴が空いたのを確認すると、その穴の深さと位置から彼女は狙撃手の位置を推測する。そして、懐から武器を取り出した。

 

 それは、携行型対戦車ミサイルの弾頭だ。

 

 弾頭の尻に着いた紐を引っ張ると圧縮空気の力で飛び、途中で自然に着火するようにできているものだ。彼女は狙いを定めると、ためらいなくその紐を引いた。

 

 複数の弾頭がビルの側面を爆破する。耐震性が優れているのか、ビルは崩壊しなかった。

 

「おーおー、スゲエな。砂皿の野郎、磁力狙撃砲と一緒にグチャグチャになってんじゃねえか? ま、急いで補充した人員だからあの程度が限界って感じかもな」

 

 そこへ、彼女の後ろから陽気な声が飛んできた。

 

 霧丘が振り向くと、垣根が通路から出てきたところだった。

 

「『暗闇の五月計画』。それにすら参加させられずに、中途半端に能力をいじくり回された『不適合者』だっけか。当初は一方通行(アクセラレータ)の防御性をぶち込まれる予定だったはずが、あまりにもお粗末な能力となっちまったんだったか?」

「……、」

「んで、結局お前が得たのは座標確立……元は空間移動系の能力だったはずなんだろうけどな。だが防御性というものが出た結果、他者の座標に干渉するのがやっとになっちまったと聞いているが。ま、それでも大能力者(レベル4)になれただけマシか?」

「別に」

 

 霧丘はあっさりと答えた。

 

「『プロデュース』の被験者に比べれば、まだマシ。あの実験、『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』が脳のどこに宿るのかを調べるものだったけど。人の脳味噌をクリスマスケーキのように切り分けたって、話だから」

 

 そうかい、と垣根は興味なさそうに相槌を打った。

 

「麦野は、どうしたの?」

「ああ、大したことなかったな」

 

 そっけないその言葉で、彼の実力がはっきりと示された。また、学園都市でも四番目に強力な超能力者(レベル5)をそんな風に扱える人間に、霧丘ではとても太刀打ちできないことも。

 

「で、『能力追跡』はどこにいる? こっちが知りたいのはそれだけだ。場所を教えりゃ見逃してやってもいいんだぜ」

「そんな交渉に、応じるとでも?」

「応じるやつもいるんじゃねえの? 例えば、『アイテム』のフレンダとか」

 

 その言葉に、霧丘は少し黙った。

 

 1つの選択肢が突きつけられる。そして、それを拒否する権利がないことも。

 

 だから、彼女は迷わずに懐のナイフを取り出すと全力で投げつけた。そして、近くにあったベンチが高速で垣根に迫る。

 

 ゴァ! という爆発音と共に、ベンチは粉々に吹き飛ばされ、そして霧丘の体も後方へ吹き飛ばされた。

 

 彼女が動かなくなったことを確認すると、垣根は下部組織の人間に回収しろ、と簡単に告げた。

 

「回収って……まだ生きているんですか、あれ」

「死んでいたら、ゴミ箱にでも入れておけ」

 

 

 

 

 

『ブロック』による少年院への襲撃は、『グループ』及び騒ぎを聞いて駆け付けた駿斗、最愛、海鳥の手によって解決がなされた。

 

 少年院に平穏が戻ったことを確認すると、面倒なことになる前に駿斗たちは撤収。再び他の組織の同行を追い続けることとなった。だから、

 

「第三学区のある高層ビルで、能力者が暴れる事態となっているそうです。しかし、警備員(アンチスキル)への連絡が不自然に超遅れていますね」

「まったく、何が起こっているんだよ……」

 

 駿斗は最愛からの報告に頭を抱えつつ、移動した。

 

 少年院での戦いを終えた後、彼らは合流した。そして、各々の報告を行った後に再び情報収集ということになったのだ。

 

「監視カメラの情報も既に改竄がなされている。これ以上の情報は、行ってみなけりゃ分からねえな」

 

 彼らは第三学区に入った。すると、そこで駿斗が立ち止まった。

 

「このAIM拡散力場……1回だけ見覚えがある? 数は2人。他にももう2つ。超能力者相当のものと大能力者相当のもの……」

 

 彼は自分が感じ取ったものを解析していく。そして、結論を述べた。

 

「お前ら、いいか……ここで、『アイテム』2人に対して、超能力者と大能力者2人が加わって戦っている。他にも、無能力者などの人員もいる。能力があるにもかかわらず能力を全く使っていない人間もいることから、恐らく暗部の人間の他にも、巻き込まれた一般人もいるかもしれない」

「「――っ!」」

 

 2人の表情が変わる。特に、以前『アイテム』に所属していた最愛は過敏に反応していた。

 

「俺は止めに行く。お前らはどうする? 特に最愛は、『アイテム』の連中とは顔を合わせるのは危険かもしれない。だから、バックアップに徹してくれると嬉しいが」

「……そんなことを聞くとでも思っているんですか?」

「だよな。まあ、無理はするなよ。特に、超能力者2人を相手するのは俺の役目だ。いいな?」

 

 彼らは走る。そして、1人の少女を背負った男を発見した。

 

「あいつ……10月3日のスキルアウトか!」

 

 駿斗が声をかけると、彼は警戒するような表情を見せる。

 

「お前……あの時の!」

「ああ。その後ろに背負っているのは、『アイテム』の能力追跡……確か名前は、滝壺、だったか」

 

 より一層警戒を深めた浜面に対して、駿斗は慌てて言葉をかけた。

 

「そんな警戒しなくても大丈夫だ。大方、『体晶』の使い過ぎで動けなくなったってところだろ?」

 

 『体晶』というのは、意図的に拒絶反応を起こさせることで能力を暴走させるものだ。副作用が強いために危険極まりない代物であるが、かつては木原幻生が木山春生の教え子たちを利用した『暴走能力の法則解析用誘爆実験』を行い、その上、幻生の孫であるテレスティーナ=木原=ライフラインというマッドサイエンティストが、絶対能力者を生み出すために、彼らを利用しようとしていた。

 

 すると、浜面は言った。

 

「ああ……『スクール』とかいう連中に言われた。あと1回か2回の使用で『崩壊』するって」

 

 崩壊、という不穏なワードが聞こえた駿斗は、思わず浜面の顔を見つめた。

 

「絶対にそんなことはさせねえが、今は時間がねえんだ……麦野のやつを何とかしないといけねえ」

「麦野が、どうしたんですか?」

 

 最愛が警戒した様子で訊く。

 

 彼らは垣根に追いつかれた後、まずは浜面が滝壺を逃がそうとした。しかし、その過程で滝壺は浜面をエレベーターに押し込めるようにして彼を1人で逃がし、そして1人で第2位の超能力者に立ち向かったらしい。そして彼女を助けに戻ってきた浜面は、男に言われた。

 

 滝壺はもう限界が近い。あと1回か2回の『体晶』の使用で、間違いなく『崩壊』する。

 

 しかし、垣根に負けて逃げ出した『アイテム』のリーダー、麦野は自分の反撃のために滝壺を使うことを決定。そのため、彼女から滝壺を守るために浜面は警備員に預けることにした……。

 

 その話を聞いた駿斗は、すぐに決断した。

 

「分かった。じゃ、俺が行ってくる」

「お前1人に行かせるかよ。ただでさえ、お前と一緒にいたあのツンツン頭のやつに、借りが膨らむばっかりだっつうのによ」

 

 そして、彼らは最愛と海鳥に滝壺を任せると、駆け出した。

 

 すると、前方で光の筋が煌めいた。

 

「あれは……」

原子崩し(メルトダウナー)……探す手間が省けたな!」

 

 そこでは、麦野が1人の金髪の少女を追いかけていた。名前は確か……フレンダだったか。

 

 フレンダは爆弾を使って相手をかく乱しようとしているようであるが、しかし確実に追い詰められていく。

 

「全く、『スクール』に私を売るなんて考えちゃダメじゃない? ふーれんだぁー」

 

 彼女は迫ってきた爆弾を気にせずに、光線で打ち抜いた。

 

 原子崩し。

 

 粒子でも波でもない『曖昧な状態』に固定された電子。本来『留まる』性質を持ったそれを、高速で打ち出す能力。1発が御坂の超電磁砲(レールガン)さえも上回る威力を持つ。

 

 しかし、その後フレンダに向けて撃ちだされたそれは、不自然に軌道を変えて外された。

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