とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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未元物質

 フレンダの体が吹き飛んだ。しかし、彼女は自分がまだ生きていることを知る。

 

 先ほどの原子崩し(メルトダウナー)の光線は、確かに自分に狙いを定めて放たれたはずだった。そしてその威力は、フレンダの体を一瞬で(麦野曰く、油がくどい感じの)肉塊にするには十分なものだったはずだ。彼女は序列こそ第4位であるが、純粋な威力だけで言えばその一撃は、第3位の超電磁砲(レールガン)すらも上回るものを持つのだから。

 

 麦野の一撃は直撃しなかった。だが、彼女に手を抜く理由はないはずだ。フレンダは、少し前まで仲間であった麦野たち『アイテム』を裏切ったのだから。

 

「まったく、だめじゃないフレンダ。『スクール』のクソ野郎共に私を売ろうとするなんて」

 

 『スクール』に捕まったから、逆らいようがなかった。そんな言い訳が通じるような世界ではない。

 

 すぐに殺さなかった理由は簡単だ。いたぶるだけいたぶってからフレンダを殺さなければ、麦野の気が済まないから。そして、それをアピールすることによって、これ以上の裏切り者が出なくなるから。

 

 ただそれだけだった。

 

 超能力者(レベル5)である麦野が、ただ爆弾の扱いに長けているだけの少女に負ける要素はない。また、彼女をみすみす逃がしてしまうこともない。

 

「ま、こんなもんかな。そろそろとどめを刺していいわよね?」

 

 麦野はそう呟くと、地面に転がっている少女のもとに歩み寄っていく。

 

 フレンダは綺麗な金髪をしていて、足も細く、ファッションもおしゃれなものを常に着ているために、普段は西洋人形のような可愛らしさがあるのだが、体が泥に汚れ、ところどころではやけどを負っている今は、その影はなりを潜めている。

 

「じゃ、バイバイ。フレンダ」

 

 麦野はその指の先をフレンダに向け、狙いを定めた。そして、光がほとばしり、高速でまっすぐにフレンダへと向かって行く。

 

(……ごめんね、フレメア。こんなお姉ちゃんで)

 

 彼女は最後に、長い間会えていなくて、そしてもう2度と会えないであろう妹のことを考えた。

 

 目をつぶって、自分の意識が途切れるのを待つことしかできない。

 

 だが。

 

「……あん?」

 

 彼女に向けて放たれたとどめの一撃は、途中でその軌道が捻じ曲がった。

 

 原子崩しは、その軌道を途中で曲げるような使い方はできない。そもそも、麦野にはフレンダに対して容赦をする理由が存在しない。そしてフレンダは、そのような都合の良い能力は持ち合わせていない。

 

 だとすれば、理由は1つに絞られる。

 

「久しぶりだな」

 

 路地裏の向こうから、1人の少年が姿を現した。

 

「テメエ……」

 

 その顔は、麦野にとって見覚えのあるものだった。そして、もっとも憎らしい顔だった。

 

「8月に、絹旗をさらって行った……」

「さらうって言うのは語弊があるんじゃないのか? そもそも、彼女は汚い『取引』などなくて、置き去り(チャイルドエラー)ってだけでふざけた『計画』に巻き込まれた上に、闇に落とされていただけなんだから。本来いるべき場所に戻っただけだ」

 

 駿斗はすました顔で言う。

 

 そして、フレンダは混乱していた。

 

(え? こいつって、いつか研究所で超電磁砲と一緒にいた、多重能力者(デュアルスキル)よね? 何で私をかばっているの? え、え? いや、これはひょっとするとチャンス……)

 

 そんな混乱に陥って、何も動けなくなるフレンダ。その横で、駿斗と麦野は勝手に話を進めている。

 

 さらに、そこにもう1人現れた。

 

「フレンダ! こっちだ!」

 

 フレンダは動こうとするが、足をやられている彼女は聞き覚えのあるその声に振り向くことしかできなかった。

 

「浜面……」

「俺とあいつで麦野を何とかする。だから、お前はさっさと逃げろ。どちらにしろ、もう『アイテム』はまともに機能していねえ。だったら、暴走を始めた麦野を何とかするのが得策だ」

 

 彼はそう言いながらフレンダを抱き起した。

 

 その時、光線の雨が3人に降り注いだ。間一髪で駿斗が危機誘導(ハームガイド)を発生させ、その光線をすべて逸らす。

 

「くそ、フレンダだっけか? お前は俺が背負っていく」

「了解だ。能力を使えるお前なら、1人背負っても何とかなるか?」

「任せろ」

 

 彼らは走り出した。しかしその後を、麦野は追ってくる。

 

「このままじゃ、鼬ごっこだな。あいつを倒す必要があるな」

「倒すって、そんなに簡単に言っていい言葉じゃないと思う訳よ……」

 

 幸い、駿斗には彼女を一度撃破しているという実績がある。その上、あのころに比べれば能力、魔術と共に大幅に強化されており、駿斗は今ならばあまり苦戦せずに勝てるだけの自信があった。

 

 しかし、すると浜面が言った。

 

「いや、あいつの相手は俺がやる」

「お前……!」

 

 それは、非常に危険な行為だ。彼には、駿斗のようにその能力を隠しているわけでもなく、そして当麻のようにその右手に隠された力が測定できない訳でもない。正真正銘の無能力者なのだ。

 

 武器は持っているだろうが、彼の服装を見る限りには持っていても拳銃がせいぜいであろう。軍隊1つと対等に戦えるとされる超能力者を相手取るには、装備も戦闘能力も圧倒的に不足している。

 

 だけど、それでも浜面は言った。

 

「どちらにしろ、黄泉川に頼んだ警備員の応援が来るまで誰かがやらなければならねえんだ。だけど、フレンダを放っておくわけにもいかねえ。それに」

 

 浜面は一度言葉を区切って言った。

 

「滝壺を、俺は守らなけりゃならねえからな」

 

 彼はそう言って笑った。

 

「そうか」

 

 駿斗は、その決意を見た。浜面は笑いながら言う。

 

「ま、黄泉川の奴も応援を寄こすって言っていたんだ。それまでに、生き延びているか、あるいは倒すか、どちらかが達成できればいい」

「……死ぬんじゃねえぞ。死んでさえいなければ、俺が応急処置した上で冥土返し(ヘヴンキャンセラー)の下へ運んでいくから」

 

 名医とも知り合いとか、本当におまえって何者だよ。

 

 そんなことを言ってから、彼らは拳を重ねると各々の目的地に向かって行った。

 

 

 

 

 

 ゴン! という衝撃が、初春のこめかみの辺りを突き抜けた。

 

 殴られた、ということに気付くよりも早く、彼女は座っていた椅子からアスファルトの地面の上に転がり落ちていた。オープンカフェで注文した大型甘味パフェが、潰した果物のように路面に散らばっている。

 

 周囲からは悲鳴が聞こえた。

 

 初春はなかなか見つからない打ち止め(ラストオーダー)の人探しに付き合っていたのだが、友人たちに忠告された通り、全く見つかる様子はなかった。そのため、長時間歩いて疲れたこともあり、休憩を取ることにしたのだ。

 

 初春がパフェを食べ始めると、打ち止めは近くで歩いている少女たちが持っていた、チェーン系の喫茶店のセットについて来るキーホルダーが欲しいと言い始めた。そして、初春が打ち止めにタクシーのお釣りを持っていることを指摘すると、少女は一目散に駆け出して行った。

 

 その直後のことだ。ガラの悪いこの少年が来たのは。

 

『失礼、お嬢さん』

 

 そう言った彼は風貌に似あわない柔和な笑みを浮かべていたが、右手には機械でできた爪のような怪しいものも付けていて、危険なにおいがした。

 

『こういう子がどこに行ったか知らないかな。最終信号(ラストオーダー)って呼ばれているんだけど』

 

 垣根帝督と名乗った彼がそう言って差し出してきた写真の中には、先ほどまで一緒にいた少女の姿が映っていた。

 

 その写真と垣根を何度か交互に見比べた後、初春はその言葉を選んだ。

 

『いいえ。残念ですけれど、見ていないですね』

 

 彼からは危険な感じがした。彼女は主に後方からのサポートが主な仕事であるが、風紀委員(ジャッジメント)としての経験などから分かったのだ。

 

『どうしても見つけられないというのであれば、「警備員」の詰め処に届け出を出した方が良いと思いますけど』

『そうだね。その前にもう少し自分で探してみる。ありがとう』

 

 すると、意外にも少年はあっさりと引き下がった……かのように見えた。

 

 しかし、その次に言われた言葉は違っていた。

 

『テメエが最終信号と一緒にいたことは分かっているんだよ、クソガキ』

 

 そして殴られた。

 

 起き上がろうとした初春の肩を、垣根の足が踏みつける。

 

「だから俺はこう尋ねたんだぜ。『こういう子を知りませんか』ではなく『こういう子がどこに行ったか分かりませんか』ってな」

 

 垣根は足に体重をかける。グゴキッ! という鈍い感触と共に、強引に関節を外された。激痛が走る。

 

 初春を助けようとする人間はいなかった。なぜなら、彼女には風紀委員であることを示す腕章がつけられているからだ。実際には、基本的に校内の揉め事に対処するだけの組織であるし、その中でも実際に悪質な能力者を実力で取り締まる人は一部だ。

 

 しかし、何も知らない人からすれば『治安維持組織の腕章を付けた人』がいとも簡単にねじ伏せられている状況を見て、それを助けるために飛び出そうなどとは考えないだろう。

 

「最終信号はどこだ。それさえ言えば、解放してやる」

 

 最後に、暴力という牢獄の中で唯一の出口が示された。

 

 風紀委員としての矜持や、初春飾利としての人格が、その言葉に塗りつぶされて行く。

 

 だから、初春はその言葉を呟いた。

 

「なに……?」

 

 信じられない物をみたような顔をする垣根に対して、初春はもう1度その言葉をぶつけた。

 

「聞こえ、なかったんですか……。あの子は、貴女が絶対に見つけられない場所にいる、って言ったんですよ。うそを言った覚えは……ありません」

 

 彼女が人をバカにするように舌を出してまで言った、その言葉を聞いた垣根は、その靴底を初春の頭に向けた。

 

「俺は一般人にゃ手を出さねえが、自分の敵には容赦をしないって言ったはずだぜ。それを理解した上で、まだ協力を拒むって判断したのなら、それはもう仕方がねえ」

 

 だがその時、垣根は初春から遠ざかった。

 

 理由は簡単。その直後、垣根が先ほどまで立っていた場所へ、道路標識が槍のように突き刺さったからだ。

 

「「初春!」」

 

 その言葉に、彼女は2度驚いた。

 

 1度目は、こんな状況でも、自分に声をかけてくれる人間がいたことに。

 

 そして2度目は、その声が良く知った友人のものであることに。

 

「絹旗さん……黒夜さん!」

 

 思わず彼女はその名前を呼んだ。

 

「何があったのかは知りませんが、すぐにそこを超離れますよ!」

「つーか、こいつ……まさか」

 

 慌てて初春の下へ駆け寄る最愛だったが、海鳥はそこでそばに立っている男に気が付いた。そして、初春はその次に彼女が発した言葉に驚く。

 

「学園都市第2位……未元物質」

 

 超能力者。

 

 最悪だった。

 

 2人の大能力者が現れて、正直少しほっとした面もあったのだ。しかし、彼は強度(レベル)において彼女らよりも上。さらに、その序列は友人の超能力者、御坂美琴よりも上。

 

「誰が出てきたかと思えば、『暗闇の五月計画』、かよ」

 

 やれやれ、といったように彼は首を振る。

 

「悪いが、お前らの窒素装甲(オフェンスアーマー)窒素爆槍(ボンバーランス)じゃ俺には勝てねえよ。工夫でどうにかなるレベルを越えちまっている」

「別に、勝つ必要なんて超ありません」

 

 最愛は即答した。

 

「すぐに、あなたを倒す人がやってきますから」

 

 その直後、膨大な烈風が吹き荒れた。粉々に砕けた壁やガラスの破片が、膨大な烈風に巻き込まれて垣根に叩き付けられたのだ。垣根は初めて後ずさりした。

 

 徹底的に破壊されたATMの中から、紙幣が天使の羽のように宙を舞う。

 

「……ったく、シケた遊びでハシャいでンじゃねェよ、三下」

 

 白熱し白濁し白狂した、学園都市最強の悪魔のような超能力者の声が初春の耳に聞こえた。

 

「もっと面白いことして盛り上がろうぜ、悪党の立ち振る舞いってのを教えてやるからよォ」

 

 一方通行が、その場に現れた。

 

「痛ってえな」

 

 垣根は視線を最愛から一方通行へと移す。

 

「そしてムカついた。さすがは第1位、大したムカつきぶりだ。やっぱテメエからぶち殺さなくちゃダメみてえだ」

 

 彼らが言葉を交わしている間に、最愛と海鳥は店の外まで初春を運んだ。

 

「ちょ、あの、絹旗さん!?」

「あなたにもいろいろあるんでしょうけれど、あの場所に戻ることだけは超ダメですよ! ツートップの超能力者が戦っているところに首を突っ込むなんて、普通に考えてただの自殺行為です!」

「それでも」

「悪いがあの状況じゃあ、あいつらはどうやっても止まりはしねえよ。思考の一部を植え付けられている私が言うんだ。間違いない」

 

 海鳥にそう言われると、初春は彼女たちの境遇を思い出して黙ってしまった。

 

「すまんな」

 

 海鳥は言った。

 

「少々卑怯な言い回しだったかもしれないが、お前を巻き込みたくないんだよ。あいつらの相手は、駿斗兄ちゃんがするって言ってた。あとから来るって」

「神谷さんが……?」

 

 初春は呟いた。

 

 親友を通じて知り合ったあの少年には、その能力についていくつか不明な点が確かにあった。無能力者といいながら、明らかに超常現象を起こしていたので何かの能力があることは間違いない。

 

 しかし、彼の能力があの2人に及ぶかどうかなど知らない。むしろ、あの2人に対してどのような能力があれば対等に戦えるのか、彼女には分からなかった。

 

 だが、目の前の2人の少女、彼の幼馴染には自分の言葉に自信があるようだった。

 

 そしてその一方で、怪物どうしの戦いは決着を迎えようとしていた。

 

 垣根帝督の能力、未元物質(ダークマター)はこの世に存在しない素粒子を生み出し、それから創り出される物質を操る能力だ。そして、それはこの世にもともと存在していなかった以上、この世の物理法則を受け付けない。

 

 彼の背から生えた翼、その隙間から回折を起こした光は殺人光線に変わった。軽く翼を振るうだけで、凄まじい烈風が発生した。

 

 そして、それらは一方通行の反射を突きやぶった。2万5000種類のベクトルから『一方通行が反射するベクトル』と『生活に必要な光や音など、無意識に受け入れているベクトル』を判別し、『受けて入れているベクトルに偽装されたベクトル』を利用してその攻撃を叩き付けたためだ。

 

『これが「未元物質」。異物の混ざった空間……ここはテメエの知る世界じゃねえんだよ』

 

 垣根帝督には自信があった。一方通行を倒す自身も、そして彼を殺すことで、アレイスターの第一候補(メインプラン)として君臨し、統括理事長との直接交渉権を得ることも。

 

 しかし、一方通行が言った。

 

『三下だな。美学が足りねェからそンな台詞しか出てこねェンだよ、オマエは』

『あ?』

『そもそも、どうして俺とお前が第1位と第2位に分けられているか、知っているか』

 

 彼は、ゆるやかに両手を広げて行った。

 

 

『その間に、絶対的な壁があるからだ』

 

 

 垣根帝督の頭が沸騰しかけたが、そこで彼は気が付いた。

 

 ――周囲には『悲劇』が足りない。

 

 彼らの戦いで、高層ビルの窓ガラスは砕けた。信号機はへし折れて歩道に倒れかかった。街路樹が吹き飛んでコンクリートの壁に突き刺さっていた。

 

 しかし、そこにけが人はいなかった。

 

 烈風は人々に降り注ごうとしたガラスの雨を吹き飛ばした。逃げ遅れた人をかばうように飛んできた看板が盾となった。奇跡のようなその所業によって、けが人は1人も存在しなかった。

 

(ま、さか……)

 

 垣根の喉が干上がった。

 

『守ったっていうのか……』

 

 しかし、一方通行は退屈そうに告げた。

 

『ムカついたかよ、チンピラ。これが悪党(・・)だ』

 

 それでも、彼にとってはまだ悪党だった。ならば、彼の思い描く善人とはいったいどれほどの物なのか。

 

 そして、決着はついた。

 

 ――この世に『未元物質』という素粒子及びその物質が存在すると再定義して、演算式を組み直す。

 

 口で言うのは簡単だが、実際に行うのは不可能であるそれを、一方通行はいとも簡単にやり遂げたのだ。

 

 スクランブル交差点のど真ん中には、垣根帝督が自分の血で描かれた複雑な魔法陣のような中に倒れていた。それでも、彼はまだ死んでいなかった。

 

 一方通行は悪党だ。

 

 8月の時の『善人』ならば、更生のための足掛かりを残すような世話まで焼いて立ち去るのかもしれないが、彼はベルトから拳銃を抜いた。自分の目的のために一般人を、何より打ち止めを巻き込もうとした彼を見逃すつもりはなかった。

 

「あばよ、三下。……ま、善人にやられるよりかは惨めじゃねェだろ」

 

 彼はハンマーを起こして引き金を引こうとした。1人の死によって平和が築かれようとする。

 

 しかし、その直前だった。

 

「待つじゃんよ、一方通行!」

 

 信じられないほどセンスのない緑色のジャージに、化粧っ気のない顔をした体育教師がやってきた。黄泉川愛穂。警備員であり、そして打ち止めが芳川と共に同居している相手だ。

 

 彼女は銃を渡すように要求してきた。ただの野次馬たちは、彼女を馬鹿だと思っただろう。あれほどのことをした暴走能力者相手に、素手で立ち向かっていくなど。

 

 しかし、警備員として働く彼女は、そこら辺にいる野次馬よりもよっぽどそのことを理解していた。その上、彼女は止めると言った。倒す、ではなく、止める、と。

 

「一方通行。お前が善人か悪人かなんて関係ない。お前がどんな世界に浸っているかなんて関係ない。重要なのは、そこから連れもどすことじゃんよ。どれだけ暗い世界にいようが、どれだけ深い世界にいようが、私は絶対にお前を諦めない。そこから必ずお前を引きずりあげてやる」

 

 彼女は、その時確かに一方通行と同じフィールドに立っていた。

 

 一方通行は彼女を撃とうとした。守るべきものを敵に回してでも、闇から彼女たちを守るために。だが、彼はそれでも撃てなかった。引き金を引けないまま、黄泉川によって自分の手から拳銃が外されて行くところを見ていた。

 

 だから、それが決定的な隙になった。

 

 黄泉川が意識を取り戻した垣根によって刺され、そして一方通行は激昂した。

 

 右脳と左脳が割れて、その中から何かが飛び出して行くような感覚があった。そして、彼の背から発生した黒い翼が噴き出す。

 

「は、スゲェな。やれば出来んじゃねえか、悪党」

 

 そして、ついの未元物質の本質を垣根は理解した。

 

 『神にも等しい力の片鱗を振るう者』と『神が住む天界の片鱗を振るう者』。これで条件は互角だった。だから、我を忘れていない垣根が暴走している一方通行に負けはしない。

 

 そう思ったその矢先、彼は叩き潰された。

 

 その直後。

 

「一方通行!」

 

 1人の少年が、その場に現れた。

 

 

 

 

 

 少年は赤、青、黄、緑の4色の翼を生やしていた。そして、それは苦しげにうごめいていた。

 

(AIM拡散力場と天使の力(テレズマ)の間で干渉が起こっているのか……ヴェントみたいに、循環不全が発生していないだけマシだろうな)

 

 次の瞬間、2人は激突した。

 

「くそ、我が盾となりその幻想からわが身を守れ――『幻想防壁(アイギス)』!」

 

 ぶつかり合った2種類の力が爆発しそうになるが、駿斗は周囲に防御壁を展開して余波がもたらす被害を防ぐ。

 

(ダメだ、押される!)

 

 彼は慌てて黒い翼を上に受け流した。しかし、さらに数を増やした翼はあらゆる角度から駿斗に迫る。

 

 防ぎ、弾き、そしてさらに出力を上げて拮抗する。

 

(くそ、これじゃあただの消耗戦だ……誰か、これを止められるやつはいないのか!?)

 

 その一撃のあまりの重さに、彼は弱音を吐く。

 

 一方通行から放たれる黒い翼は留まる事を知らず、そして駿斗の操る天使の力は削がれて行く。

 

「一方通行、もうすぐ打ち止めがここに来る! だから、暴走なんかしている場合じゃねえだろ!」

 

 駿斗は叫ぶ。彼にはもう、それしか方法が残されていない。

 

「一方通行ァァァ!」

 

 そして次の瞬間、彼の技が強引に突破された。

 

 無防備になった駿斗の体に、黒い翼が迫ろうとする、その直前。

 

 最後の希望(ラストオーダー)が舞い降りた。

 

(ハハ、今日のノルマはこれでクリア……かな)

 

 黒い翼が自分の手前で停止した。そのことを確認した駿斗は、意識を手放す。

 

 最後に、彼を呼ぶ幼馴染の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 全ての騒動が終わった後、『グループ』は再び終結した。

 

 垣根帝督を倒した一方通行。

 

 ショチトルとの決着をつけた海原。

 

 かつての『仲間』を助け出した結標。

 

 そして、土御門はいつの間にか『ピンセット』を回収していた。正式名称は『超微粒物体干渉吸着式マニピュレーター』。磁力、光波、電子などを利用して素粒子を掴む(正確には吸い取る)事ができる代物だ。

 

 それが掴んだのは学園都市中に5000万機ほど散布されている70ナノメートルのシリコン塊『滞在回線(アンダーライン)』。それによってアレイスターは、常に学園都市中を観察することができるのだという。

 

『ピンセット』を使用して『滞在回線』を解析していくと、1つの新たな単語が出てきた。

 

『ドラゴン』。

 

 戦いの果てに得た小さな突破口を鍵として、『グループ』はさらに動き出す。

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