とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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聖人崩し

(な、に……)

 

 レビ、トマ、ジミーの3人は、神裂火織のとった行動を理解できなかった。

 

 聖人と『十二使徒』の間での戦いに、かつての仲間たちを巻き込ませるわけには行かないからこそ、神裂は敢えて隔てられた場所へと戦場を用意して戦っていたはずだ。

 

 なのに、

 

「おおおおおおおおっ!」

 

 ある者は剣を携え走り抜け、ある者は槍を手に大きく跳ぶ。死を恐れぬ者たちはあっという間に集合すると、満身創痍の神裂を守るように布陣を築きあげた。

 

 彼らからすれば、それは非常にもろい壁だ。

 

「弱者に救いを求めるとは……それほどまでに、命が惜しいのですか」

「そう見えますか」

 

 神裂は、血まみれの両手で七天七刀を握りしめながら言った。その口元には、笑みすらあった。

 

「確かに、私の側にいることで、傷つけられてしまった仲間たちがいました。私はそれを恐れて、一度は天草式十字凄教から離れようとしました」

 

 ただし、と彼女は力強く言葉を切る。

 

「その悲劇は、彼らが弱かったから起きたのではありません」

 

 神裂自身の、彼らを信じ切れなかった気持ちが。心のどこかで彼らを見下し、自分の背中を預けようとしなかったその行動が。自分の力を過信し、大切な『仲間』という戦力を放置して1人で戦っていた彼女の傲慢さが。『守ってやる』という優越感が。

 

 それらが、全ての元凶だったのだ。

 

 その弱さを自覚し、彼女は克服へと歩み出す。

 

「だから私は克服します。彼らを信じ、背中を預け、互いが互いの力を最大限発揮することで、私は私の天草式十字凄教を取り戻して見せます! 我々のリーダーは我々であり、我々の仲間は我々です! そこに『聖人』などというたった1人の上司(トップ)など必要ありません!」

 

 神裂には、先ほどまでにはなかった芯のようなものがあった。それは、己の行動に自信を持ったものが持つもの。

 

 だが、勝機がないことには変わらないはずだ。そもそも、現天草式など、1人の『十二使徒』でも十分に対処ができるような相手。手負いの神裂を相手するのは2人で十分であり、結局は彼らは共倒れするのみ。

 

「根拠なき希望は単なる妄想に過ぎません!」

 

 縮絨棒が振るわれ、神裂の刀と衝突する。しかし、その衝撃を殺すために天草式の面々が防御術式を展開し、そしてジミーの体が力負けして押されていく。慌ててトマが炎弾を放ち、ジミーの硬貨袋が砲弾のように放たれるが、それでも彼らはそれらを防ぎ、時には反撃に転じて行く。

 

 いかに精神論を持ち出そうが、互いの実力差は変わらないはず。しかし、ここにきて神裂たちは『十二使徒』と拮抗した。

 

「『十二使徒』とは、『聖人』と同様に偶像崇拝の理論によって、神の子に付き従っていた12人の聖者の力の一端を畏れ多くも仮受けたものを指します……そうですよね?」

 

 情報では、神裂と天草式の間には数年のブランクが存在するはずだ。

 

 しかし、彼女たちは言葉すら交わさず、たった一息で全てを克服する。

 

「したがって、あなたたちはその力を得るにあたって『神の右席』が絶対に必要とするのですよ!」

 

 そう。

 

 十二使徒は、神の子とは異なりその生まれは人間の間から生まれた存在である。

 

 神の子によって指名・任命された、神の子の復活の証人。宣教のために派遣された者であり、神の子を王とする王国の大使であり、まだ神の子を受け入れていない人への使者――それが、十二使徒の本来の役割なのだ。

 

 したがって、彼らを特別にしているものは何か……そう言われれば、神の子、と答えることも可能であるが、しかしもう1つ可能性がある。

 

 天使。

 

 そもそも、神の子にしても受胎告知の時には大天使の一角である神の力(ガブリエル)によってなされている。

 

 神の子が存在するためには、神が必須であるように。

 

 十二使徒が存在するためには、神の子と天使が必要となる。

 

「その反面、あなたたちには弱点があります」

 

 そう、たとえどんなに優れた兵器があっても、それを運用するための燃料と、それらの供給源がなくてはならないのだから。

 

「そう――つまり『神の右席』。あなたたちが彼らと行動を共にしているのは、単にその直属の部下であるというだけではありません。あなたたちは『神の右席』から力の一端を供給してもらっているからです!」

 

 看破する。

 

 その正体を突き止める。

 

「であれば、『神の右席』を撃破すればどうなるか。答えは問うまでもありません。力の供給が絶たれ、『ただの魔術師』へと成り下がるのみです!」

 

 彼らが特別な資質を持っているのは、『神の右席』の存在によるものだ。

 

 であれば、近くで力を供給している『神の右席』を撃破すればどうなるか。

 

 その時、最高のタイミングで、横から青い体が飛んできた。その後には、1人の少年も。

 

「俺が抑えつける! バトンタッチだ!」

 

 そして、周囲に配置されたのは、コンクリートが形を整えて出来た、いばらの冠、十字架、槍――神の子の処刑の象徴。聖人は、神の子の力の一端を持っているがために、逆に神の子の弱点がそのまま弱みとなる。

 

 最も、こんな即席のガラクタで聖人が倒せるというのなら誰も苦労はしない。実際、神裂のような『ただの聖人』には大した効果はない。

 

 しかし、アックアは『神の子』だけではなく『聖母』の素質も持った『特別な聖人』だ。

 

「揺らいでいます」

 

 神裂はきっぱりと言い放った。そして、駿斗は3人の『十二使徒』を抑えにかかる。

 

「準備は整った……槍を持つ者(ロンギヌス)よ、今こそ『処刑』の儀の最後の鍵を!」

 

 駿斗の言葉に応じるように、五和がおしぼりを取り出して、その上から槍を掴み直す。

 

 管槍。

 

 本来は掌との摩擦を上げて槍を突き出す速度を上げるためのものであるが、彼女がそれを今使う理由は違う。

 

 今から放つ一撃は、細工をしなければその術式で自分の手首が吹き飛びかねないからだ。

 

「……面白い」

 

 しかし、それよりも早くアックアが動く。

 

「天草式十字凄教であるか。その名は我が胸に刻むに値するものとする!」

 

 その強靭な肉体が、上へと跳び上がった。途中で何十本、何百本もの鋼糸(ワイヤー)が宙を舞ったが、それらを強引に引き裂いてアックアは天井へと突き進む。

 

 再び、その肉体が降下を始める。その時、背後にある、第四階層にぽっかりと空いた円形のクレーターから洩れる光が、月のように見えた。

 

 その人工的なつきの加護を受けながら、アックアはメイスを構える。

 

聖母の慈悲は厳罰を和らげる(THMIMSSP)

 

権天使(アルヒャイ)』状態の駿斗が放つ中で最大級の面攻撃を誇る『幻想天軍(エンジェル・レビリオン)』と拮抗するその一撃。今の天草式を含め、神裂でもそれには耐えきれない。第五階層ごと、吹き飛ばされるだろう。

 

「アックアぁ!」

 

 駿斗の叫び声が聞こえるが、『十二使徒』に足止めを食らって動くことができない。彼ら4人は自分の身を守ることができるのかもしれないが、少なくとも神裂と天草式は助からない。

 

時に、神に直訴するこの力(TCTCDBPTTROG)光に包まれ天へと昇れ(BWIMAATH)!」

 

 莫大な速度で、青白い尾を引きながらメイスが落下してくる。

 

(まずい!)

 

 だが、神裂があらゆる術式を組み上げても、それを食い破ってアックアは落下してくる。だが、あの一撃を受ければ、間違いなく天草式は全滅してしまう。

 

 頼みの綱は『聖人崩し』。彼女は思わず五和の方を振り返るが、しかし五和が頭上に槍を掲げても周囲の準備が終わらない。

 

 だから、神裂は刀を抜くとそれを水平に構えた。

 

 天草式の正面に立ち、そして古今東西あらゆる記号をかき集めて術式を組み上げる。

 

(諦めて、たまるか!)

 

 しかし、その時。

 

 フッ、と微かに笑う声が聞こえた気がした。

 

「……全く、世話のかかる親友だ」

 

 そんな言葉の直後、全ての五感が真っ白に塗りつぶされた。

 

 静寂。

 

 しかし、完璧な破壊とはこれほどまでに『何もない』のか。

 

 だが、その中で1人の少年の声が聞こえた。

 

「本当に、おいしいところをもっていきやがるな。当麻」

 

 最後に放たれた言葉に、神裂は目を見開いて、前方にいつの間にか立っていた少年を見た。

 

 

 上条当麻。

 

 アックアの魔術攻撃を正面から押さえつけ、握りつぶすような勢いでメイスを掴む少年がいた。

 

 

 アックアが放ったのは、純粋な魔術による攻撃だ。そこに、『聖人』特有の強力な腕力は存在しない。

 

 だからこそ。

 

 善悪強弱問わず、あらゆる魔術を打ち消す打ち消すなどというバカげた力を持つ右手は、容赦なくその一撃を無効化させる!

 

「な……ッ!」

 

 アックアの驚愕の一瞬をついて、駿斗は『幻想防壁(アイギス)』を張ると同時にアックアに飛びついた。同様に、神裂もその肩に食らいつく。

 

 倒れるとようにメイスに覆いかぶさった当麻が無効化できるのは、あくまで魔術のみだ。したがって、その腕力を封じる人間が必要となる。

 

『十二使徒』が『幻想防壁』をこじ開けてくるまでには、まだ時間がかかる。そして、アックアはその動きを、腕力を、魔術を、完全に封じられた。

 

 青い傭兵の動きを封じている3人の視点が、1点に集中する。

 

 つまり、ただの魔術師である五和へと。

 

「任せておいてください……必ず当てます!」

 

 咆哮と共に、五和が爆走する。複数の術式の加護を受けた少女の体が、一気に加速しアックアへと迫る。

 

「お、おおおおおおおおっ!」

 

 対し、アックアは雄たけびを上げた。

 

 恐怖によるものではない。必殺の一撃に対し、なお己の信念を揺るがせずに、むしろ突撃してくる五和に対して、さらに一歩踏み込もうとしているのだ。

 

『聖人崩し』。

 

 五和の槍が分解され、雷光へとその姿が変わる。そして、それは一直線にアックアへと襲い掛かった。力の弱まった『幻想防壁』を突破した『十二使徒』が走るが、しかし遅い。

 

 

 ドパン! という空気の震える音と共に。

 

 雷光はアックアの体を貫き、背中から飛び出し、全身を蝕む。

 

 

 直撃の衝撃に押されて、3人の体が地面に投げ出された。

 

 雷光を受けた聖人の背中から飛び出した十字架、その中心を突き破るようにアックアの体が飛んでいく。そして、その体が巨大な人工池の中に落ちて行くのを、彼ら全員が見ていた。

 

 そして、その体が完全に沈んだ直後に、爆発が起きる。

 

 後方のアックア。その『聖人』と『聖母』の力が競合を起こして暴走したのだ。

 

 そこから放たれた光は昼間よりも明るく地下街を照らし、そして大量の水がそのエネルギーによって爆発のような蒸発を起こす。視界が真っ白に塗り潰され、思わず誰もが目をつぶった。

 

 そして、彼らが再び目を開けた時、アックアは存在しなかった。

 

 ただ、人工の湖の中にある水は全て蒸発しており、その代わりにその場所からは巨木のような蒸気がまっすぐ上へと伸びている。そして、アックアの暴走のすさまじさを表すようなその光景を前に、『十二使徒』は崩れ落ちるように膝をついた。

 

 

 

 

 

 神谷駿斗は、病院のベッドで目を覚ました。

 

(えっと……アックアの爆発を見届けた後、『権天使(アルヒャイ)』を使った疲れが出てきて、安心してそのまま眠っちまったんだったっけ……)

 

 そんなことを考えながら体を動かそうとすると、すぐそばに人の気配がした。

 

「わっわっ、気づかれましたか?」

 

 駿斗がゆっくりと首を回して声の主を見ると、彼のベッドの右側には見舞客用のパイプ椅子に腰かけた五和がいた。そして左側を振り返ると、そこにはきちんと親友が白いベッドに寝かされている。

 

 その様子を確認して胸をなでおろした彼は、五和に話しかける。

 

「アックアは……倒せたってことでいいのか? あの後、体の負担が限界でそのまま倒れちまったけど」

「倒せたんですよ! もはや、これは歴史的な瞬間であって、その上味方の損害がゼロなんていうのはそうサンタクロースが転んでプレゼントを空からばらまいちゃうような大判振る舞いであって……」

 

 五和が、自分たちがアックアを倒せたということ。その後、『十二使徒』は撤退していったということ。そして、民間・天草式の両方に死者が出ていないことなどを話していく。すると、その隣で当麻も目を覚ましたようだ。五和がごちゃごちゃと話している最中に悪いが、駿斗は当麻に話しかける。

 

「おはよう、当麻。んでもって、アックアの打倒お疲れ様」

「ああ……駿斗。アックアはどうなったんだ?」

 

 その質問に、駿斗に答えた内容をそのままコピペするように話す五和。だが、どうやら本人はなんとなく受け流すようにその話を聞いている。

 

 五和は気が付いていないようだが、これは病院を抜け出して奇襲をかけたあたりのことは、意識がもうろうとしていてあまり覚えていないのではないか、と想像を立てる駿斗。

 

「……しっかし、その、スゲエな。アックアって『神の右席』で『聖人』でもあるんだろ。その上『十二使徒』が3人も伴っている中でそいつを倒しちまうなんて……」

「い、一番二番の立役者が何を言っているのですか!? というか、世界で20人といない『聖人』を打ち破るということ自体が奇蹟であって……」

 

 リアクションの薄い当麻に、顔を真っ赤にした五和がわたわたと身振り手振りを交えながら話し始めたのだが、当の本人は、アックアに勝利した天草式と駿斗スゲーみたいな超アバウトな感じに事態を把握しているようだ。

 

 ……ちなみに実のところ、後方のアックアにとどめを刺したのは五和がカギを握る『聖人崩し』なのであるが、五和も五和でそのことについてまるで自覚がないようである。

 

 すると、そこで駿斗がそういえば、と言った。

 

「今日何日だ? アックアを倒した翌日だよな!? まさか既に1日以上立っていましたとか言わないよな!?」

 

 学校の出席日数とかが心配な駿斗は、思わず起き上がろうとするが、そこで五和が「あ、だめですよ起き上がっちゃ!」と抑えにかかったところ、2人の顔が急接近する。

 

「……と、すまん」

 

 思わぬハプニングに一瞬頭が真っ白になった駿斗であったが、すぐに体の力を抜いてベッドに横になった。

 

「すすすす、すみません!???」

 

 だが、そのような事態に慣れていない五和はとんでもなくテンパってしまい、顔を赤くしてゴニョゴニョと独り言をつぶやき始めた。

 

 すると、その後ろにある病室の扉が開いて、インデックスが入って来る。

 

 そして、駿斗と当麻がインデックスの相手をしている頃。神裂もまた、彼らの病室の前に立っていた。彼女も彼女で見舞いに来たのであるが、五和とインデックスに何だかタイミングを外されてしまったのだ(先を越されたとも言う)。

 

「ねーちーん……そうこうしている間に、日が暮れちまうぜーい」

 

 すると、そこに土御門が話しかける。

 

 神裂はビクゥ! と肩を震わせると、後ろを振り返った。

 

「せっかく激務の中で日本にやって来る機会に恵まれたんだから、ここらで今までインデックスや天草式がお世話になったお礼を言わなくっちゃいけないよにゃー」

「そ、そんなことは分かっています。しかし、一対二でも気恥ずかしいのに、今は五和や『あの子』までいるので、もう少しだけ待っていただけるとありがたいというか……」

「で、堕天使メイドセットは持ってきたんだろうな?」

「ぶふげば!? も、もも持ってくるわけがないでしょう!」

 

 自分が『それ』を着た様子を思い浮かべて、慌ててぶんぶんと首を振る神裂。おまけに、今は完全記憶能力持ちのインデックスまでいるので、実行してしまったらかなりまずい状況になること間違いなしだ。

 

 しかし、土御門はさらにゲテモノメイド服を取り出す。

 

「そんなねーちんのために……じゃーん! 今日はさらに進化した堕天使エロメイドセットを持ってきたにゃー!」

 

 唐突に何かの布地を広げようとした土御門の手を、神裂は渾身の力で押さえつける。しかし、土御門は『聖人』の握力で握りつぶされそうになる自分の両手に気をつけながらも、ビッカァ! とそのサングラスの奥から閃光を放つ。

 

「じゃーどーすんの? まさかねーちん、ここまでひっぱっておいてフツーににっこり微笑んでちょっとほっぺた赤くして小首を傾げて感謝してますとかで終わりとかじゃねーだろうな。気づけよ馬鹿ねーちん! そんなんじゃあもう収まりがつかないところまで話は進んでんだ! 焦らしに焦らして肩すかしなんて許されると思うなよーっ!」

 

 その後も、まくしたてるように話す土御門の言葉に、自分の信念が色々と揺らいでしまっていく神裂。

 

 結論から言えば、当麻と駿斗はミーシャ=クロイツェフとも風斬氷華とも違う、第三の天使の影にしばらく頭を悩ませることになるというだけだった。

 

 

 

 

 

「くそ!」

 

 イギリス清教から連絡を受けたローマ教皇は、降参するためのプランを並べ立てていく戦後交渉人からの話を絶ち切った。

 

 憤る。アックアが敗れたことには2つの意味があった。1つは、それだけ重大な戦力を失ってしまったということ。そしてもう1つは、敵側にそれ以上の戦力が存在するということ。

 

(考えられるとすれば、幻想創造(イマジンクリエイト)だが……)

 

 上条当麻も稀有な力の持ち主であるが、それだけで後方のアックアと3人の『十二使徒』が敗れるとは思えない。したがって、無限の力を秘めている神谷駿斗に、その原因があると考えるのが筋であろう。

 

 しかし、その少年にしたって、複数の場所に同時に存在することができるわけではない。だとすると、あの少年たちを守るために、多くの人間が自然と集ったのだ。単純な仲間や友人による、彼らの勢力が。

 

 しかし、真剣な表情で考え込むローマ教皇の耳に、1つの足音が聞こえてきた。

 

「いかんなあ、アックアが倒れたって?」

 

 その声の主を見て、ローマ教皇は苦渋の表情を浮かべた。

 

 バチカン、聖ピエトロ大聖堂の奥から出てきたこの男こそが、『神の右席』の最後の1人にして実質的なリーダー、右方のフィアンマであったからだ。

 

「どうする……つもりだ」

 

 ヴェントの、学園都市への奇襲。テッラの、世界的な集団操作。アックアの、圧倒的な才能……それらが、『十二使徒』と共にことごとく倒されて行った。これ以上の、学園都市の台頭を防ぐような手が残されているとは思えない。

 

「まずはイギリスを討つ」

 

 しかし、フィアンマがそっけなく言った言葉に、ローマ教皇は眉をひそめた。確かに学園都市とイギリスの間には強いパイプがある。しかし、イギリスに与えたダメージが、そのまま学園都市に対する有効打になるとは思えなかった。

 

 だが。

 

「違うなあ。それは違うんだよローマ教皇さん。学園都市なんて、こっちは眼中にないんだよ」

 

 今度こそ、ローマ教皇にはその言葉の意味が一切分からなかった。しかし、フィアンマは続けて言う。

 

 イギリスには『あれ』がある、と。

 

「『あれ』とは何だ……」

 

 その正体は……。

 

 

 …………………………………………、

 

 

 

 ガタン、とローマ教皇の体がよろめいた。

 

「貴様、本当に十字教徒なのか……」

「さあな、どっちだと思う?」

「くそ!」

「いかんな。ローマ教皇ともあろうお方が、そういう口を利くのはとてもいかんよ」

 

 嘲笑するようなフィアンマの言葉を、ローマ教皇は無視した。

 

 天使以上の力を手に入れ、『神上』となって世界を救うことを目的とする集団、『神の右席』。それは傲慢とも言えるが、しかし人として理解できなくない部分もあることは認めていた。

 

 だが違う。

 

 この右方のフィアンマだけは決定的に違う。

 

 この男が起こそうとしているのは、正真正銘の戦争だ。

 

「させると思うか。右方のフィアンマ……貴様にはしばらく黙っておいてもらおう。あるいは、永遠にな」

 

 ローマ教皇の魔術が発動し、フィアンマを束縛する。十二使徒の象徴によって構成された魔方陣が、裏切り者のユダがかつて受けた、暗く深く寒く苦しい、どこを見まわしても一縷の希望すら見えない精神の空転、『傷つけぬ束縛』を再現する。

 

 そのはずだった。

 

「ふん」

 

 しかし、その中でフィアンマの唇が確かに動いた。2000年の時を経て、20億人の信徒を導く神聖な力。聖ピエトロ大聖堂及び、バチカン全体がローマ教皇のその力を補強しているにも関わらず。

 

 

 その右肩から現れた光は、大聖堂の3分の1を含めた周囲のものを巻き込んで吹き飛ばす。

 

 

 光は、歪な形をとっていた。できそこないの翼のような、不格好な5本の指を備えた巨人の腕。

 

 右腕。それは奇蹟の象徴。

 

 人々はそれで十字を切り、洗礼の聖水を振り分ける。神の子はそれをかざすだけで病人を癒し、死者をよみがえらせた。『神の如き者(ミカエル)』の右腕には、『光を掲げる者(ルシフェル)』すら斬り伏せる最強の武器が備わっていた。

 

 石畳に体を預けるロ-マ教皇と、講釈を続けるフィアンマ。

 

「だがそんな莫大な力を持つ『聖なる右』ってのは、ただの人間にゃあ扱いきれんのだよ」

 

 これほどの力を持っていながら、『ただの人間』と彼は言った。

 

 だから、その力を引き出せる『右腕』と『肉体』が必要であるとも。

 

 報告書でなら読んだことがある。あらゆる魔術を打ち消す右手と、常人には使用不可能な魔術を自在に生み出し操る少年のことを。そして、その『材料』を十分に使いこなすには、圧倒的な知識も必要になる。

 

 禁書目録。

 

 だから、こいつはイギリスに用がある。

 

「やら、せるか……」

 

 20億人の未来を背負って立ち上がるローマ教皇に対して、しかしフィアンマは嗤った。

 

「楽しいな。圧倒的な勝負というのは、馬鹿馬鹿しくもやはり楽しい」

 

 ただ圧倒的な力がローマ教皇を貫き、その体を吹き飛ばした。




これから当分の間、次の作品であるSAOにかかりきりになるので、次の更新はいつになるか分かりません。

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