上条当麻が帰ってこない。
『あー、また何か不幸に巻き込まれている気がするな、あの親友。悪いインデックス、ちょっくら当麻の様子を見に行ってくるわ』
そんなことを言って、神谷駿斗も当麻を探しに席を立って行った。
2人の少年と、有料のクラッカーを待っていたインデックスは、ついに空腹に耐えきれずに席を立つ。
しかし、彼らを探し出すつもりで『壁』のエリアに向かうと、そこには誰もいなかった。
「?」
首を傾げつつも、来た道を彼女は引き返して歩き始める。すると、後ろから声をかけられた。
「インデックス」
「あ、はやと」
振り返ると、駿斗がそこにいた。しかし、その横に当麻はいない。
「……とうまは?」
「それが、どこにいるかイマイチ分からないんだよなあ。すれ違っているのかもしれんし、俺一応別の階も見てくるわ。悪いけど、席に戻って待っててくれるか?」
駿斗の言葉に承諾の返事を返し、彼女は再び自分の席へと戻っていった。
しかし、ここでも足が止まる。
上条当麻の席に、誰かが座っていた。
地味な色合いのスーツを着た、色白の男だった。年は20代前半だろうか。背丈はそこそこ、フランス語で書かれた新聞を大きく広げているため、顔の下半分が隠れていて、人相まではよく分からない。
しかし、確かに言えることは、この男が、さっき別れた神谷駿斗でも、いつまでも戻ってこない上条当麻でもない、別の人間だということだった。そして、完全記憶能力を持っているインデックスが、自分の座席を間違えているという可能性は、まずない。
「そこはとうまの席だよ」
その声に、新聞男の肩がピクリと動いた。
改めて男の様子を見てみると、彼は片手で新聞紙を広げ、空いている方の手で新聞に隠された、黒っぽい色のケータイデンワーを握っていた。同じく新聞に遮られていた男の膝上には、デンワーのパーツなのだろうか、細井ケーブルのようなものや、爪切りのようなものまである。
「……くそ、なんで120秒も待てねえんだ」
男はフランス語で何かを吐き捨てるように言った後、新聞紙を畳んで膝上に乗せ、さりげない調子で手を差し出した。
いや、厳密には違う。その手に握った刃物を、インデックスの脇腹に押し付けたのだ。
「空港のセキュリティは、基本的に金属探知をメインに行う」
男はフランス語でそんなことを言った。
「だから、意外に気づかない。……動物の骨を削ってつくったナイフだって、内臓も刺せるし動脈を切ることもできるっていう、簡単な事実がな」
しかし、ひとまず目撃者を封じたものの、男は焦っていた。
(……最悪だ。一番最初の一手で間違えてから、何一つ計画通りに進まない!)
彼はインデックスを刃物で押さえてはいるものの、実際には彼女に対して何もできないのだ。
そればかりか、少女が騒ぎ出してことが露呈すれば、それで終わり。ナイフを振り回せば数人は刺し殺すこともできるだろうが、結局は正義心というよりは恐怖心からパニックを起こした人々によって、数の蹂躙にさらされるだろう。マシンガンでもあれば別であろうが、少なくとも今持っている小さな刃物1本でどうにかできるものではない。
「……何してるの?」
インデックスは、彼が片手でいじっているケーブルや携帯電話を見て言った。男にそれを応える義理はないが、ほとんど独り言のような形で告げる。
「プログラムを流す。携帯電話のデータ通信機能を使って、不時着安定装置に干渉できるようにするためのプログラムだ」
「ふじちゃく?」
眉をひそめる少女を無視して、男は窓のすぐ下にある壁に目をやる。丸めた引き金を引き延ばし、壁に空いた隙間に滑り込ませると、そのまま横へと動かした。すると、まるでカッターで切り取ったような一直線のラインが生まれる。そして、そのまま手前に引いた。
すると、自動車のダッシュボードのように蓋が開き、20本以上のケーブルが出てくる。
「要求が無事に飲まれれば、こいつを使う必要はなくなる。そうだ、俺だって別に好きでこんなことをしているわけじゃ……」
言いかけた男の声が、ふいに途切れた。
原因は、その視線の先。ケーブルとケーブルをつなぐためのコネクタだ。携帯電話の下部コネクタから伸びたケーブルを、旅客機の壁の中にあるメンテナンス用ケーブルに接続する手はずだったのだが、それになぜか亀裂が生じていた。そのため、うまく接続ができないでいたのだ。
ケーブルはつながらない。つまり、プログラムは流せない。
「あれ、それはとうまが」
隣の少女が何か言ったが、男は聞いていなかった。
「くそっ!」
男がフランス語で上げた怒鳴り声に、周囲の乗客の視線が集中した。これ以上注目を浴びるのを防ぐために、男は壁から開いた扉を乱暴に閉めると、隣の少女に刃物を突き付けたまま天井を眺める。
(どうする)
エコノミークラスの座席からプログラムを流すことはできないということは、すなわち構造的な欠陥を使った『交渉』はもう続行できないことを意味していた。
次なる手を考える必要がある。
それは、貨物室の中にある『アレ』だ。しかし、そこへ続くハッチをこじ開けるには、フライトアテンダント以上のセキュリティ権限を持つカードキーを手に入れる必要がある。
だが、それよりも前に、隣で身を強張らせている少女を完全に黙らせる必要もある。
「立て。少しでも逆らえば殺す」
たくさんの電子レンジが壁際に並ぶ機内食の加熱スペースで、当麻はピクンと顔を上げた。
足音が聞こえてきたからだ。
(1人ではない……)
恐らくは、最低でも2人。そして、その後には追加で聞き覚えのある音まで聞こえてくる。
ぴーぴー、という笛のような音だ。
(……これ、インデックスの?)
フライトアテンダントさんから、彼女はいつまでたってもやってこない機内食にイライラしていた時に、安っぽいボールのような笛のオモチャをもらっていたはずである。しかし、聞こえてくる音からして、恐らくは自分で鳴らしているのではなかった。恐らく、服のポケットに入れた状態で歩いているため、おもちゃが体とこすれ、体の動きに合わせて勝手に鳴っているだけなのだろう。
あのオモチャが、必ずしも彼女だけが持っているとは限らないのだが、それでもなんとなく簡素なワンピースを着た少女のことを思い出してしまう。
(……待てよ)
しかし、唐突にその楽観的な意見に冷や水を浴びせるような考えが浮かんだ。
そもそも、自分自身がどうした理由でこんな場所にいるのだ。そして、戻ってこない自分を心配して、駿斗が彼女の下を離れている可能性は、十分にあるではないか。
(いや、そんな訳が……)
当麻が否定しようとした時、2つの足音が止まった。同時に、ぴーぴーという笛の音もやむ。
どこかの扉が開くような音が聞こえた。どうやら、当麻が閉じ込められているのと同じ『壁』のエリアにある扉のようだ。つまり、他の乗客から目撃されるようなことはない。
そして、
「入れ。刺されたくなかったらな」
声はフランス語で、当麻にはその意味が分からなかった。
しかし、どう考えても添乗員の物ではない野太い男の声が、笛の持ち主に対して命令しているのは感じられた。
(ふざけんなッ!)
思わず動き出そうとした当麻であったが、しかしドアには鍵がかかっていて、それも電子ロックだ。しかし鍵がダメならドアそのものはどうなのかというと、金属製ではないようだが、一撃で蹴破れるようなものではなさそうである。一撃で外に脱出できなければ、単に犯人を刺激するだけで終わってしまう。
(駿斗は来ないのか、くそ!)
親友がどこにいるのかは分からない。だから、とにかく目と鼻の先にいるであろう少女の下へ駆けつけることを考える当麻。
今は
ためらいなく、そのハンドルを乱暴につかみ、その矛先をドアへと向ける。弁償など考えている余裕はなかった。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
渾身の叫びと共に前進、激突する。
グッシャア! というすさまじい音と共に、アルミ製のカートの全面がつぶれる。しかし、それと引き換えにドアのロック部分も大きく弾け、蹴破るように大きく開かれた。当麻は、壊れたカートごと外に転がり出る。
すぐに周りを見渡すと、『壁』のエリアにある複数の小部屋の内、閉じているドアは1つしかなかった。
迷わずに開く。
そこにいたのは、1人の男とインデックスだった。男の手には用具入れにあったのであろうゴムホースがあり、それが少女の首に巻き付いている。
何をしているのか。
考えるよりも先に、手が動いていた。
「っ?」
男は目の前のインデックスに夢中になっていたのか、自分の襟の後ろを掴まれるその瞬間まで、当麻の存在に気付けなかった。
当麻は、男の襟をつかんだまま上半身を回し、遠心力を利用して男の体を掃除用具入れの外へと放り出す。
ゴトン! という轟音が炸裂した。
絶叫を上げる男を無視して、当麻は振り上げた自分の足を敵の胸板めがけて振り下ろそうとする。
男が避けると、その真横の床に足がめり込んだ。どうやら、コスト削減のためなのか床が薄いようだ。そこへ、男が腕を振るう。
熱いような痛みが走った。見れば、敵の手にはナイフが握られていた。金属探知機対策なのか、それは動物の骨でできているようだ。それを確認すると、機内食用の壊れたカートから、ハンドルに使われていたアルミ製のバーを引き抜く。
互いに凶器を手にした状態で、男があとずさりを始めた。
そこへ、ドタドタと連続した足音が近づいてくる。恐らく、当麻がドアを破った轟音にフライトアテンダントたちが気が付いたのだろう。それを聞いた男は逃走を始めた。
「当麻!」
聞き慣れた親友の声に振り返ることもせず、掃除用具入れの中でグッタリとしているインデックスの下へと向かった。首に青黒い痕が残っているが、命に別状はないようだ。
「インデックス!」
駿斗が
すると、少女の唇が微かに動いた。
「なに? 不時着、安定装置……?」
聞き慣れない単語、それも、機械音痴のインデックスから出てくるとは思えない単語だ。
そのタイミングで、機長がやってきた。彼は当麻の顔や壊れたドアを見ると不機嫌そうな表情をしたが、ぐったりとしたインデックスの姿や当麻の切り傷を見ると、ただ事ではないと察したようだ。
「不時着安定装置っていうのは何のことだ? インデックスが犯人から聞いた可能性がある」
「……胴体着陸って知ってるか」
テレビなどでは時折見られるもので、名前だけなら知っている人も多いであろう。
それが危険なのは、直接燃料に引火するわけではない。なぜなら、飛行機の燃料というものは胴体ではなく翼の中に入っているからだ。
最も問題なのは、エンジン。
スカイバス365は設計上、胴体着陸時にもエンジンが地面に接触することはない。しかし、それでも強い震動がその内部へと伝わってしまう。そして、回転中のエンジン内部は、ただでさえ燃えやすい航空燃料を空気と反応させているため、爆弾のような状態となっているのだ。
「そんなところに、強い振動が加わったら……」
「エンジンでの出火から火が回って、主翼のタンクまで火が回ったらドカンだな」
そのため、スカイバス365には不時着安定装置が組み込まれている。胴体着陸時の衝撃をセンサーが自動で検出すると、全てのエンジンが自動停止する上に、燃料パイプを完全に塞いでエンジンからの出火と燃料タンクへの引火を阻止するものだ。最後には、慣性の力だけで滑走路を進みながら減速していく。
「全てのエンジンを、自動停止させる……?」
その言葉に、2人の全身に嫌な予感が駆け巡った。駿斗はそのまま、その内容を口に出す。
「じゃあ、もしもこの状態でその装置が、誤作動なんか起こしたら……」
その先は言わなかった。そして、誰も答えなかった。
その代わりに、機長がわずかにうめいたあとで言う。
「……事情はだいたいわかった。お前の知り合いが傷つけられたこともな。こちらの力が及ばなかったのは残念だったが……」
「何が分かったんだ」
当麻が言葉にしなかったことを、駿斗は口に出して機長の台詞を遮った。
睨みつけてくる男を無視して、彼はそのまま言葉を続ける。
「何が乗客の命を預かる、だ。結局、これがアンタらのした行動の結果だろうが! もう、遅かったんだよ。被害は既に出た。今更マニュアルをなぞったところで、それは何一つ変わらないんだ」
駿斗は、同じような憤りの表情を浮かべている親友の肩を叩くと、インデックスを抱え起こした。
隣にいる当麻はというと、今にでも拳を機長の顔面に叩き付けそうである。
「駿斗、俺は」
「当麻。悪いけど、こいつを殴るのは後だ。それよりも先に、やらなくちゃならねえことがあるからな」
その言葉を聞くと、当麻は拳を腰の横で握りしめたまま肩を震わせて言った。
「偉そうなセリフを吐くだけ吐いて、失敗しても反省もしねえっつーのはどういう理屈だ! こっちは知り合いが手を出されてんだ! 500人の命を預かるとか言っておきながら、しっかり漏れてんじゃねえか!」
「他の乗客に知らせるようなことはしねえよ。こっちもパニックなんてごめんだからな。だが、アンタに指図されもしない。俺たちは俺たちのやり方でやらせてもらう!」
駿斗まで怒りを叩き付けるようにそう叫ぶと、フライトアテンダントにインデックスの介抱を任せ、当麻と共に男が消えた急な階段の方へ足を向けた。
別のフロアにあるビジネスクラスとファーストクラスの間の『壁』のエリアに着くと、すでに日没後の機内が明かりに照らされていた。しかし、『壁』のエリアである階段のある場所は、他の場所に比べても薄暗い。
「当麻、クソ野郎の顔は覚えているか?」
「いや、スーツを着ていたことと、ある程度の人相は覚えてるけど、座席に座っている人間から見分けるとなると難しいな……」
おまけに、夏休みでも冬休みでもないこの時期に飛行機に乗っている人間は、やはりビジネスマン(ウーマン)が多いのか、大半がスーツを着用している。どうやら、1人1人座席に座っている人間をチェックしていくわけにはいかなそうだ。
さらに、相手はナイフを持っている。うかつに突撃するのは危険で、最悪他の乗客が巻き込まれる可能性もある。
「となると、相手から出てきてもらうしかないか」
駿斗がそう言うと、当麻も同じことを考えていたようで笑みを返した。
相手の目的は、イギリスとの交渉だ。すなわち、その決着がつかないうちに大きな問題が生じた場合、テロリストはそれを解決するために行動を起こす可能性が高い。
当麻は先ほどと同じ『壁』のエリアに向けて歩き出した。駿斗は、他の『壁』のエリアへ魔術を構築しながら歩き出す。
ビィィィィィ! というかん高い電子音が鳴り響いた。
緊急用の警報であり、全ての座席の下へ酸素吸入用の透明なマスクが一斉にこぼれ出す。それを見た乗客たちは一瞬キョトンとしたが、それからまるで火が付いたかのような騒ぎを起こす。
テロリストは焦るはずだ。
なぜなら、彼らの目的は『マスターレコーダー』の破壊により、イギリスの空路を完全に封鎖することである。そのためにスカイバス365の構造的な欠陥をついて墜落させることができると示すことで、その交渉を持ちかけることにした。
しかし、この飛行機の墜落が『単なる航空事故』になってしまったら、すべてがおじゃんになってしまう。
テロ事件そのものが消えてしまうのだから。
(まずい、まずい、まずい! くそ、どうにかしねえと!)
男は慌てて座席から立ち上がった。しかし、その頭の中に具体的な策は思い浮かんでこない。
一方で、機内で『アーチェリー』を手にした機長はかん高いブザーの音に顔をしかめると、壁にかけられたマイクをつかみ取った。
荒々しい口調でコックピットと連絡を取るが、これは機体のバランスなどは関係なく、計器類の自動警報ではない、機内の手動スイッチによる警報であるという。
そのことに苛立ちながら誤報のアナウンスを流すように命じると、マイク兼通話スピーカーを床に叩き付けた。しかし、そのまま東洋人の少年たちを探しに行こうとした時、再びスピーカーから切羽詰った副操縦士の声が飛んでくる。
『きっ、機長! 緊急です!?』
なりふり構わない様子のその声は、続けて告げる。
『とっ、とにかく、コックピットまで戻ってきてください! ねっ、燃料メーターがっ! この減り方はおかしい! タンクに穴が空いているとしか思えません!』
「マジか……」
熱くなっていた機長の頭に冷や水を浴びせるような言葉だった。
ただ機内のブザーを押しただけで、そんな変化が訪れるはずがない。すると、本当に不時着安定装置が関わった何かが発生している……?
『機長、指示を! このままだと空港まで持ちません! 最悪、幹線道路に不時着するための準備を進めておく必要があります!』
「ちくしょう!」
その言葉で、機長は『アーチェリー』を届けに来た副操縦士と、まっすぐにコックピットへ向かって走りだした。
ガクン、と機体が大きく傾くのを、男は感じた。つまり、機体がその先を下に向け、高度を急激に下げ始めたのだ。
それはつまり、
(不時着? まずい!)
男の目的であるマスターレコーダーの破壊のためには、イギリスがその決断を下す前に不時着をされるわけにはいかない。
そして、万が一『どこかへ不時着した旅客機』があった場合、大型の警察機関が周囲を完全に包囲するだろう。そうなれば泥沼の籠城戦だ。また、最近の飛行機の壁が軽くて薄いのは、原油高によるコスト増大への対策の他に、大型ライフルで確実に狙撃を成功させるためだという噂もある。
イギリスの空港や幹線道路など、敵地のど真ん中なのだ。
しかし、なすすべのないまま飛行機の高度は下がっていく。エレベーターが下がっているときのような浮遊感に、男は苛立ちを抑えきれない。
彼は近くの『壁』のエリアに飛び込んだ。そこには、他の『壁』のエリアと同様に、フライトアテンダント用のマイクが壁にかけられている。それを手に取ると、震える手を抑えながらコックピットへとつながるように調整すし、開口一番にこう叫んだ。
「不時着はやめろ! 今すぐこの機を落とすぞ!」
『っ!?』
男の恫喝に、向こうで息が詰まるような音が聞こえた。
「俺はスカイバス365の構造的な欠陥を掌握している。いつでもこの機は墜落させられる! 500人以上の乗客を殺されたくなかったら、今すぐ高度を元に戻せ!」
当然ながら、エコノミークラスの座席から不時着安定装置へ干渉ことはできなかったし、最後の頼みの綱である貨物室にいる仲間たちも、ハッチの鍵が手に入らない限りには使い物にならない。完全なハッタリであった。
しかし、それを受けても返答は予想していた物とは異なっていた。
『ダメだ。どういう訳か、燃料メーターの数字が急激に減っている。おそらく燃料が漏れているんだ。このままじゃエジンバラの空港までたどり着けない。ロンドンの空港に引き返すのも無理だ! それどころか、下手をすると燃料に火がついて、エンジンそのものが爆発するかもしれない!』
そこまで言われても、男の考えは変わらなかった。
そんなことはどうでもいい。機体が爆発しようが、男には関係ない。
重要なのは、これがテロ事件という形で華々しく結末を飾ることなのだ。
「クソったれ。殺してやる。良いか、3分だ。3分以内に高度を元に戻さなければ、乗客を1人ずつぶっ殺してやる!」
『事態が分かってんのか!?』
「そっちこそ分かってるんだろうな! 乗客の命を握っているのは俺なんだ! 人質は500人以上いる。半分くらいぶっ殺したって、人質のストックは十分に保てることを忘れるな!」