当麻と駿斗はポカンとした表情になり、インデックスもキョトンとする。神裂は呆れたようにため息を吐き、
大きすぎる議場の場合、全ての発言が記録されるために思うように発言ができなかったり、あるいは大勢で意見を出し合うために無駄な時間を浪費して非効率になってしまうことも多い。そのため、時には少人数短時間で話を決めてしまったほうが効果的な場合もあるのだ。
「……女王陛下の場合、その事例が多すぎる気もしますけど」
騎士団長がボソリと言う。
その一方で、面食らった男子高校生2人が質問した。
「でも、ええと、そのいいんですか? 少人数でやるのは良いけど、仲間外れにされた方は快く思わないんじゃ……」
「なぁに、その場合はこう言ってやればよい。……文句を言って横やりを入れたがるのは結構だが、貴様の製作通りに事を進めて失敗した場合、全ての責任を貴様が追っても良いのだな、と」
「「……うわあ」」
まあでも、確かに『意見』を言いたがる人は多くても、その『責任』を負うまでの覚悟がある人って少ないよなあ、と納得する駿斗。
すると、女王の言葉にキャーリサが頷いた。
「最低でも『王室派』『騎士派』『清教派』の各代表がそろっていれば構わないの。……私としては、『禁書目録』を召集した『清教派』のトップがここにいないのが気に食わないけど、まあ『聖人』が代理に現れたのなら許容しよーか、といったところか」
「す、すみません。うちの
神裂が頭を下げる。
インデックスの『首輪』の件といい、本当に食えない人間のようだな、と駿斗が怪訝な表情で考えているその横で、当麻はこの部屋の人の比率が気になっているようだ。つまり、『王室派』が多すぎるのである。
「うふふ。良かれ悪しかれ、この国は『王国』……王様の国ということなのよ」
当麻が漂わせている視線の意味に気が付いたのか、第一王女のリメリアがそんなことを言った。要するに、3つの派閥の中で最も発言権が高いのは、実質的に『王室派』である、ということだろう。すると、なぜかヴィリアンが申し訳なさそうに無言で頭を下げてくる。
すると、そこでキャーリサが少年2人を指さした。
「ところで、『王室派』『騎士派』『清教派』の代表はよしとして……そこの小僧たちはどーいう役割なの? 会議に出席させる上での立場を明確にしておきたい」
どうやら、不要な人員は省きたい、とでも言いたげであった。実際、イギリスの政治に学園都市の少年が絡むのはあまり良いとは駿斗も思わない。
すると、女王はニヤリと笑ってこんな言葉を口にした。
「彼らは旅客機を乗っ取ったフランス系テロリストの排除に無償で尽力し、わがイギリスの国益と国民の命を救った、いわば勇敢なる功労者だ。その功績と経験を認め、意見を拝聴しても構わんと思うが?」
「ふーん。なるほど、そーくるの」
キャーリサは笑みを深くする。
「勇敢、か。なら問題ない。悪くない言葉だし」
ずいっと顔を近づけられた駿斗は、思わずううっ、と引き気味の表情になってしまった。しかし、そんな彼にお構いなしに、女王のエリザードは話を締めくくる。
「それでは、適当に会議を始めるか。このまま時間を浪費してしまっていては、なんのためにトンズラするのか分からなくなる」
会議場のある1階から階段を使って3階まで上った上で、広い廊下の曲がり角にある、応接用の簡素なスペースに彼らは集まった。こんな豪華な面子が1か所にそろっているためか、時折そばをメイドが通りかかると、彼らがビクリと肩を震わせている。
イギリスの女王様に王女が3人、騎士団長に聖人、禁書目録とくれば、本当にここが21世紀の現代社会なのか疑うような光景であった。
当麻も駿斗も、このような場面での振る舞いなど心得ていない。そのため、基本的には大人しくしているだけだ。ただ、普段通りなんとなく、ポケットから携帯電話を取り出して時計を確認してしまうのが、現代の一般人の癖であった。
「(……なあ、駿斗。俺たちってどうすればいいんだ?)」
「(さあ? 適当に物静かに時間を潰すしかないな)」
駿斗はそう答えると、適当に窓から外の景色を眺めている。
本当に時間を浪費するつもりなんだなあ、とか考えながら再び手元のケータイに目を向けると、そこに小さなカメラのレンズが付いていることを思い出した。
「(……うーん、女王様にお姫様か。どいつもこいつも思わず1枚撮りたくなってしまうほど有名人だけれど、こんな派手派手な宮殿の中で携帯電話を構えるっていうのは相当にアレだよなあ……)」
小さくブツブツと呟きながら、当麻は携帯電話を折りたたもうとする。
すると、なぜか第二王女のキャーリサが当麻へと異常接近していた。つい先ほどまではその前で向き合っていたはずなのに、今はドレスから露出している肌が触れるか触れないかの位置にいる。そして、その視線の先は彼の持っている携帯電話に注がれていた。
「……フィルムが貼ってあるので、横からじゃ見えないっすよ」
「馬鹿者、王女はコソコソそんなことはしない。そーではなく、撮影がしたいのではなかったの?」
王女様はそう言うと、当麻から少し離れて正面(当麻の持つケータイのカメラの方向)に対して体を斜めに傾け、軽く顎を引いてここ一番の笑顔をつくり出した。
うわあ、と当麻がそのつくられた表情に軽く引いているが、こんなものは民衆から注目を集める者としては基本的な必須技能である。何しろ、直接話すことはほとんどないのだから、写真の映りが良いだけでも好印象を与えることができるのだ。
ついでに言えば、これはキャーリサだけのものではない。彼女曰く『ほとんど条件反射のようなもの』であるとのことで、そんな訳だから、いつの間にかその反対側には第一王女のリメリアがおり、第三王女ヴィリアンでさえも、その撮影範囲の隅にしっかりと映っていた。
(待ってくれ。他の2人とは違って、この人はおしとやかなお姫様とお見受けしたのに!)
そんなことを考えるが、助けてくれるものはもはや誰もいなさそうだ。さらに、リメリアの乳が当麻の腕に密着しているのであるが、気づかれると堅物の騎士団長が剣を抜くとの警告を受けているので、当麻はもはや背中にうっすらと冷や汗すら浮かび始めていた。
すると、そこで待ったをかけたのは女王エリザードだ。
「……まったく、お前たちはここがどこだか分かっているのか?」
刃も切っ先もない剣、カーテナ=セカンドをぐるりと回した後にその先端をどかりと床に押し当てた女王は、呆れたようにため息をつく。そして、その言葉を聞いた神裂と騎士団長はうんうんと頷いていた。そうだそうだ、言ってやれ言ってやれ、という感じに。
だからエリザードはこう言った。
「ここは連合王国、女王の国だぞ? 主役の私を置いて撮影開始とはどォいう事だぁー!」
「ああもう馬鹿め! 今は作戦会議の時間です!」
当麻と自分の娘たちに向けて突進する女王を、騎士団長が全力のタックルで阻む。ドタンバタン、と転がる様子に当麻は冷や汗をかくが、するとその横にいるキャーリサが肘で彼をつついた。馬鹿はいいからさっさと撮れ、とその眼は語っている。
バチーン、という撮影音にガバァ! と絶望的な表情で顔を上げる女王。
そのショックから抜け出したところで、ようやく会議が始まる。
忘れそうになるが、彼らはユーロトンネルの爆破に魔術が関わっているのではないかという話でここに呼ばれている。
「問題の発端は今から5日前に起こった、ユーロトンネルの爆破事故だ」
イギリスとフランスの間にあるユーロトンネルは、3本が並行して海底を走っている。それが全て吹っ飛ばされたのは、フランス政府による破壊工作である可能性が高い。
「証拠はあ・る・の・か・な?」
キャーリサは、さっさと戦争をしたいとでもいうような、物騒な口調でそう言った。
今現在はさすがに誰も騒ぎ立てることなく真剣な表情で臨んでおり、駿斗も会議に加わっている。
「そのために招集したのが禁書目録だ」
つまり、インデックスの10万3000冊の知識を持ってそれを正確に判断するわけである。
フランスに原因があるとわかれば、証拠が集まり次第行動を起こすのであるが……そう簡単にはことが運ばないらしい。なぜなら、フランスは完全にローマ正教の支配下にあるわけではなく、一部にはその干渉を嫌う勢力もあるからだ。その連中とうまく協力できれば良いのであるが、それができれば苦労はしていない。
「フランス……ってことは」
当麻が眉をひそめて言う。
「今日起きた旅客機のハイジャックも関係しているのか?」
フランスのグループらしき犯人たちは、イギリスが一方的にユーロトンネルを爆破したと考えていた。
しかし、エリザードは首を振る。
「あれに関しては、おそらくシロだな。少なくとも、政府の息がかかっているとは思えない」
ただし、すると分かっていて泳がせていた可能性は否定できんが、と続けるのを聞いて、駿斗は嫌そうな表情を隠しきれなかった。
現地の警察によれば、彼らは『銃器を使わないハイジャック方法のノウハウを教える代わりに、複数の組織から協力を得ていた』らしいが……その『複数の組織』が分からない上、フランスが『わが国の犯罪者はわが国で裁く』などと言って、身柄の引き渡しを要求してきているらしい。きな臭いことこの上ない。
しかし重要なのは、この1件のお陰で現在全ての旅客機が安全点検をしなければならなくなっているため、イギリスは陸路に加えて空路までも塞がれた形となっていることだ。
「しかし、仮にフランスを潰したところで、本当に解決するのかは疑問の一言ね」
リメリアが言う。
今回の件は確かにフランスが手引きした可能性が高いが、その背後には真なる敵である『ローマ正教』が控えているはずだ。これはすでに、『イギリス清教&学園都市』VS『ローマ正教&ロシア成教』という構図になっている。
「しかも、問題はそれだけではない」
エリザードの言葉に、全員がそちらに注目した。
「先ほどの旅客機へのハイジャック事件の渦中で、1つ気になることが見つかった」
実は、あの事件では『清教派』の『
しかし、実際にはそんなことは起こらなかった。何者かによって妨害されたからだ。
「北欧系の術式だね」
目の前のテーブルに置かれた資料を見た魔導書図書館・禁書目録は、悩むそぶりも見せなかった。
北欧の女の術者が得意とするセイズ魔術の『酔い覚まし』の応用で、脳を騙す『幻影』と実際に映像を映し出す『幻像』の両方に対応させた術式。
何者かがこれによって妨害したために、この計画は使えなくなったのだ。
「問題は、その『妨害』の出所が、同じ英国のスコットランド地方だったことだ」
苦い表情で言ったエリザードの言葉に、全員が苦い表情をした。
「敵は外だけではないのか」
しかも、ここで行ったのは幻術の妨害だけ。そんなことができるのであれば、その気になればあの航空機を落とすような攻撃もできたはずだ。もっとも、そこまでやれば駿斗が真っ先に飛行機の外へ防壁を張っていただろうが。
となれば、件の魔術師の目的は、『不時着に使われる予定だった幹線道路の封鎖を解除する』ことが目的であった可能性が考えられる。
「……ってことは、その魔術師はなんとしても、近々その道を通らなければならない理由があった……?」
当麻が呟くと、駿斗は頷いた。
「しかし、相手が『「
「イギリスとフランスの間の諍いだけでも頭が痛いのに、国内にも独立した
「ふむ。私もそう考えている」
騎士団長が駿斗の言葉にそう答えると、女王は同意を示した。
問題の幹線道路は、スコットランドからイングランドへと続く道であることと、妨害魔術の発信地を考えると、敵はこちらへと南下してきていると考えるべきだ。
「念のため、『
神裂が、『清教派』代表として発言する。
「何分、今回の混乱を好機とみなしている国内の魔術勢力も大小色々ありまして。すぐに特定できるかどうかは保証できないのが現状です」
「構わん。全力を尽くしてくれれば結構」
エリザードの返答には余裕が感じられた。
すると、そこで第三王女のヴィリアンが、部外者の当麻や駿斗よりもオドオドしながら口を開いた。
「フランスにローマ正教、それにテロリスト……彼らにしても、伝えたいことがあるからこそ、行動を起こしているはず。その意見に耳を傾け、武力以外の方法で解決に導くことはできないのでしょうか」
「無理に決まっている」
キャーリサが断じると、リメリアも続いた。
「私はキャーリサほど物理的な方法は好まないけれど、この局面を手早く切り抜けることには賛成。なに、国家間の遺恨も最小限にとどめる術も存在するので、ご心配なさらずに」
その言葉を聞いたヴィリアンは、何か言いたげであったが黙ってしまった。
自分の言葉が理想論に過ぎないと突きつけられたように感じられたのであろうか。
ともあれ、イギリスがとるべき行動は大きく2つに別れた。
1つ目は、外的であるフランスに『応対』するため、ユーロトンネル爆破の原因を調べること。そして2つ目は、内敵である魔術師の所属と狙いを探り、そして必要であれば撃破すること。
2つ目を優先するとエリザードが言ったことに『軍事』のキャーリサは不服そうであったが、舌打ちをしただけでそれ以上は何も言わなかった。
「ここはセオリー通りに進めるか。外敵……対フランス用のユーロトンネル調査は『騎士派』に、内敵……イギリス国内の魔術結社については『清教派』に、それぞれ主導権を預ける。ただし、禁書目録は『清教派』の魔術結社の捜索ではなく、こちらの調査のために別行動とさせてもらう」
女王が、指揮官として必要なことを最低限の言葉だけで提示していく。
神裂はアニェーゼからの報告を受けていた。
『ええ、はい、はい、そうです。一応、エジンバラを中心にスコットランドの魔術勢力について調べていますが、やはりこちらの組織構造は「結社予備軍」が主流のようですね』
アニェーゼたちは現在『幻術を使って不時着を妨害し、幹線道路を使ってスコットランドからイングランドへ向かっている集団』を調べているらしい。
『結社予備軍』というのは、魔術結社と呼ばれるほど洗練されている訳でも大規模であるわけでもない集団のことだ。恋占いのようなクラブ活動、あるいは同好会と呼んだ方がふさわしい集まりが100~200ほど確認されており、大抵は『瞑想』などの精神的活動に終始される。
しかし、中には金の卵が集まった、洗練された精鋭たちの集団も存在するのだ。
そして、今回の渦中にいるのが『新たなる光』。構成メンバーは4人であるが、その洗練ぶりは他を圧倒している。どちらかといえば、実力は足りているものの身軽な立場を確保するために『結社予備軍』という立場に甘んじているような組織であるようだ。
「本拠地は?」
『踏み込みましたが、遅かったです』
アニェーゼの口調に苦いものが混じる。
『ただ、そこそこの霊装を製作できる環境は整っていました。北欧系の匂いがしましたね。それと、ある都市の詳細な地図もあります。単に道や建物の配慮だけじゃない。市内に数十万台あると言われる防犯カメラの位置まで含めた、相当に詳細な地図です』
数十万台のカメラ。
「……まさか」
そんな厳重な防犯対策が都市単位でなされている街など、すぐに分かるではないか。
『ええ。ロンドンです。どうやら相手は、本当にそっちでコトを起こすつもりのようですね』
また、彼らはスコットランド地方で何らかの『発掘作業』を行っていた節があるらしい。主に城塞跡地で活動していたらしいが、資金と時間の比重のかけ方からして、掘り出した『それ』が計画の中枢を担う『何か』である可能性が高い。
『何か』――すなわち、霊装。それも、わざわざ掘り出したとすれば、『現代に残された技術では再現が難しい』レベルのもの。
さらに、1つ残されたメモにはこう書いてある。
『――「今日、イギリスを変える」だ、そうです』
「確かに、意味は分かりかねますが……とても平和的なものとは解釈できませんね」
神裂は声に一層の緊張感を含ませながらそう返事をすると、各々の行動方針を話し合った後に通話を切った。
「……私は天草式と共に、これからロンドン市内の警備に当たります」
その言葉に反応したのは駿斗だ。
「じゃあ、俺たちはフォークストーンからユーロトンネルに入るって感じでいいのか?」
「え? ユーロトンネルってドーバーってところを通っているんだろ?」
当麻はそう言うが、あくまでもドーバーは『通っている』というだけであって、イギリス側にとってのユーロトンネルの入り口はフォークストーンなのである。
しかし、そこで横やりが入った。
「いーや、どうやらお前たちは、フォークストーンには同行できないみたいだ」
そう言って近づいてきたのは、女王キャーリサだ。
「一応報告は受けているが、そちらの少年の右手はあらゆる魔術を無効化するはず。それに、『彼』はあらゆる魔術を感じ取ることができるのだろう?」
確かに、
そして、
ただでさえイギリス国内、それもロンドンにいるだけでもイギリスの魔術的技術が盗みだされてしまっている可能性があるにも関わらず、特に重要なユーロトンネルまで連れていったら、どこまで技術が解析されてしまうか分かったものではない。
「これから、わたしたち三姉妹と禁書目録の手でユーロトンネルの調査を行うため、ターミナルのあるフォークストーンへと向かう。護衛には『騎士派』の部隊をつける。騎士団長直属の部隊だ。それなら問題はないだろう」
その言葉に、駿斗だけでなく神裂も何も言えなくなってしまった。
「三姉妹ってことは、女王様は行かないのか?」
当麻が遠慮なく質問すると、キャーリサは頷いた。
「母上は別宅のウィンザー城で何やら作業があるらしいの。フランスに対する小細工の準備かもしれない。おそらく、『清教派』のトップが裏でコソコソしているのと関係があるんだろう」
神裂たち『必要悪の教会』はロンドンへ向かう魔術師たちの捜索。
3人のお姫様と騎士団長及びインデックスはユーロトンネルで調査活動。
女王と『清教派』のトップはウィンザー城でコソコソ。
「……で、ぶっちゃけ俺たちは何をしたらいい?」
「とうま!」
第二王女が答える前に、インデックスが腰に手を当てて叫んだ。
「事件が起きると行かなきゃいけない、っていうのはとうまとはやとの悪い癖だよ! 2人は単なる一般人なんだから、全部終わるまで待っていればいいの!」
インデックスはそう言うが、それは女王の言葉によって否定された。
つまり、『国益を伴わない人員の滞在費用については、国民の血税で賄う訳にはいかない』という台詞で、当麻と駿斗は全力で協力をするしかなくなったわけである。