とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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不死鳥とソーロルム

 貨物列車に忍び込んだら、当麻がそこで遭遇したのは両手両足を拘束された少女だった。

 

 駿斗やインデックスがこの光景を見たら、「いつも通りの展開だ」と思われてしまいそうであるが(というか実際に同じことを、先ほどレッサーを見たオルソラに言われてしまっているのだが)、とにかく遭遇してしまったのだから仕方がない。

 

「……こんなゴツイのはめられるなんて、お前一体何をやったんだ?」

「いやあ、悪いことなんて何もしてないと思うんだけどねー」

 

 彼女は、悪いことをしたから、つまりクーデターに協力したために『清教派』に捕らえられたのではない。カーテンを手にしたキャーリサと『騎士派』は、口封じとして彼女を拘束しているのであった。

 

「っつか、そっちも似たような境遇じゃないの? 『騎士派』の不興を買って連行中とか」

「俺はフォークストーンに行くために、この列車にもぐりこんだんだよ」

 

 当麻の台詞も十分に意味深げであったのだが、フロリスは取り合わなかった。『騎士派』の人間でないのであれば問題はないらしい。

 

「とにかく、ほれ、こいつを外すの手伝えって」

 

 フロリスにはめられている霊装は、彼女の行動を指定された2メートル四方に制限するものだ。しかし、肝心の鍵はその外にある壁にかけられている。

 

 その鍵に手を伸ばしかけた当麻は、ふと自分の右手を引っ込めた。

 

「どしたの?」

「いや、俺の右手は幻想殺し(イマジンブレイカー)と言いましてね。手っ取り早く言っちゃうと、この鍵が魔術の一品だったら触った途端に砕け散っちゃうわけで。そうなると、お前の枷を取り外す方法がなくなるという訳なんだ」

 

 と説明した当麻であったが、そこでふと気が付く。

 

「あれ? だったら、鍵とか面倒なことしなくていいじゃん。俺の右手で拘束具を直接壊してしまえばいいんだから――」

 

 その言葉を聞いて慌てたのはフロリスだ。

 

「は? え、ちょ、待て待て! 何をするつもりか知らないけど……ッ!?」

 

 しかし、彼女にかまわず当麻はその足にはめられている拘束具を右手でつかんだ。

 

 バキン、という音と共に、枷が粉々になる。

 

「ほらな。最初からこうしてりゃ良かったんだ」

「あ、あ……」

 

 声にならない言葉を上げるフロリスを無視して、当麻は続けて彼女の両手を拘束している霊装を破壊する。

 

「これでよし、と。はっはー、死ぬまで感謝したまえフロリス君――」

「ちょっ、ぐわー!? そんな雑な方法で枷を壊したら、アンタ……ッ!」

 

 

 

 びー、と。

 

 当然のように貨物列車に警報が鳴り響いた。

 

 

 

 当麻たちのいる車両の前と後ろから、ざわざわという気配と共に、鎧が鳴るようなガチャガチャという音が近づいてくる。

 

「ど、どうすんの? 試合開始10分でどん詰まりですけど!」

「い、いや、諦めるのはまだ早いぞ!」

 

 貨物車両という事もあり、壁は荷物搬入用の巨大なスライドドアとなっていた。当麻は強引に金具を外し、両手を使ってスライドドアをわずかに開ける。

 

「どこだこの辺は?」

「そろそろフォークストーンに着くんじゃない?」

 

 しかし、外に広がるのは緑色の平原であった。

 

「飛ぶしかないな」

「バッカじゃないの自殺なら1人でやれ!」

「そうじゃない、もうすぐ川に差し掛かる! 手袋からワイヤーを出して橋にひっかければ、あとは水面をクッションにする」

「ちょ、本当に死ぬっつってんだろォォおおおおおお!」

 

 それだけ言うと、当麻はフロリスの腕を強引につかんで飛び降りた。そして同時に、ワイヤーを射出してその先についている鉤爪を橋にひっかける。

 

 水面まではおよそ10メートル弱。この程度なら、学園都市製のワイヤーが切れなければギリギリ行ける、と思っていた当麻であったが、

 

「その川は水深1メートルないんだよォォおおおおおお!」

 

 当麻の目が点になった。

 

 ワイヤーに引っ張られて体が円弧を描き始めるが、ふと上を見上げれば、長弓を手にしている騎士たちさえ、どこか呆気に取られているように見えた。

 

「だぁーもーちくしょう!」

 

 すると、フロリスがその背中についていた霊装を展開する。蝙蝠の羽のような『翼』を見た当麻は、頬を引きつらせながらこう思っていた。

 

 

 

 えーっと、俺の右手の説明聞いてた?

 

 魔術を使って速度を落とすって、なんかものすごーく不幸な予感がするなー、と。

 

 

 

 

 

 駿斗は、インデックスがいるらしき場所に、順調に近づいて行った。

 

(ここ、どこなんだろうな?)

 

 ……目的地を探し出すのを探索術式『幻想千眼(サウザンズアイ)』に任せている上に、例え高い壁が立ちはだかろうと、幅の広い川が行く手を遮ろうと、ジミーも駿斗も魔術であっさりとそれらを無視して行動できるので、駿斗は自分の場所がだんだん分からなくなってきたりする。

 

 何しろ(あの場所からこの通りを進んできたから……)という考えができないのだ。自分の場所を確かめるには、ケータイのGPS機能を使用するか、あるいはもっと探索範囲を広げて出発地のバッキンガム宮殿を確認するしかないのである。力を得たがゆえの弊害であろうか。

 

 とにかく、自分の場所を確認するのは後にして、今はインデックスのことに専念しよう……と駿斗が考えると、ようやく超音速で動いている2人の動きが遅くなってきた。

 

「そろそろ、インデックスのいる場所に着くな」

「はい」

 

 そして、彼らはその先にある金属製の馬車を見つけた。どうやら、あの中にインデックスが拘束されているらしい。

 

 当然ながら、その周辺には人質を監視しつつ護衛するための騎士がいるわけであるが。

 

「行きましょう」

「おう!」

 

 駿斗とジミーが、一斉に魔術を発動する。

 

 ジミーの縮絨棒から炎が噴き出し、そして駿斗がそこに形を加えた。厳密には、駿斗の持つ『幻想核杖(イマジン・コアロッド)』の形状が変化したのだ。

 

 形は杖から、小さな樹へ。

 

幻想命樹(セフィロト・レプリカ)』。

 

 その名の通り、楽園に生えていて食べたものに無限の命を与える『生命の実』が生っていたとされている、十字教に関わらずとも、誰でも知っている『生命の樹(セフィロト)』である。

 

 すなわち、本来はあらゆる怪我を治す回復術式なのであるが、莫大な生命力(マナ)を与えるもの、と考えれば、異なる使い方も可能だ。

 

 そう、すなわち、2つが合わさり、永遠の命を持つ炎――不死鳥(フェニックス)へと変化した。

 

 術者が解除しない限り決して消えることのない炎が、騎士たちを襲う。

 

 しかし、彼らも一流の騎士の集まりでありながら、『全英大陸』によって強化された戦力である。魔術1つで、そう簡単に倒れるような相手ではない。

 

 だから、2人は突撃した。

 

「インデックスは返してもらうぞ!」

 

 駿斗が、超音速で金属製の馬車に突撃する。

 

 馬車には魔術的な拘束効果と防御効果が付与されていたため、そんなに簡単に壊されるものではなかったが、駿斗はそのまま馬車の側面に張り付いた。

 

「敵襲だ!」

 

 騎士の中の誰かがそう叫び、慌てて剣を引き抜く。しかし、その背後からジミーが縮絨棒を叩き込むと、その体制を崩した。そのチャンスを逃さず、駿斗は素早く魔方陣を展開する。その判断は普通に見えたが、唯一『数』だけが異常だった。

 

 辺り一面の地面を埋め尽くさんとばかり、合計で100を超える数の魔方陣が、わずか半径20メートルほどの中に刻まれる。

 

 ところどころで重なっているところもあるが、それすらも駿斗にとっては織り込み済み。むしろ、記号が重なったことによる追加の増強効果すら発生し、立て続けに騎士たちに攻撃が襲い掛かった。そして、その間に魔術の馬車が空中に浮く。

 

『飛行する』魔術は即座にペテロ系統の撃墜術式で地面に叩き付けられてしまうので、『衝撃で宙に飛ばされる』という方法を選んだために多少乱暴な飛翔……否、発射になってしまったが、それでもしばらく距離を稼ぐと、地面から簡易なゴーレムを発生させて、その腕で馬車を掴んで地面に降ろす。

 

 馬車が無事に地面に着地したのを確認すると、その上に乗っていた駿斗とジミーが地面に飛び降りた。

 

「インデックス!」

 

 駿斗は魔術的な鍵に無理矢理魔力を流し込み、循環不全でその霊装を完全に破壊すると、その中をのぞき込む。すると、そこには少女が眠らされた状態で押し込められていた。

 

「魔導図書館の回収は、これで完了ですね」

「あ、ああ。良かった……」

 

 とりあえずこの少女が無事であったことに、大きく安堵の息を吐く駿斗。当麻に連絡しようか、とも考えたが、彼の場合、隠れていた時にうっかり携帯電話が鳴っちゃいました、なんてことになりそうでシャレにならないので、とりあえず報告は後回しにすることにした。

 

「しかし、インデックスの救出ができても、気は抜けないな……」

「ええ。それに、ウィリアム様との戦いで騎士団長が敗れれば、第二王女もそれに対して『対処』するでしょうしね」

 

 対処? と駿斗がジミーの言葉に尋ね返すと、彼は気軽な調子でとんでもないことを言った。

 

「『騎士派』のトップが敗れるような事態ともなれば、クーデターに参加している騎士たちの間でも、その信念に揺らぐ者が出てくるはずです。そのような兵士を、キャーリサが敵に寝返る前に『粛清』する可能性はあります」

「なっ……!」

 

 粛清。

 

 その言葉の意味から考えて、そういうことなのだろう。

 

「そもそも、キャーリサはここまでしてクーデターをする必要があるのか……?」

 

 駿斗は、最悪の想像をした後に、ふとそんな疑問を漏らした。

 

 確かに今の選定剣(カーテナ=セカンド)を上回る力を持つ『カーテナ=オリジナル』は強力な戦力だ。仮に、『神の右席』が直接ロンドンへ乗り込んできても、1人で十分に対処できる可能性はあるだろう。実際、配下の人間に手負いであるとはいえ、ウィリアム=オルウェルの対処を任せているほどなのだから。

 

 しかし、後方のアックアを除く『神の右席』は今まで、直接的な『破壊』をあまりしてこなかった。テッラは『C文書』を用いて世界的な学園都市反対運動を展開させたし、ヴェントも学園都市を襲撃はしたものの、直接破壊したのはゲートくらいなもので、他は『天罰』による精神的な攻撃を主としていたのだ。

 

 つまり、分かりやすい力を手に入れたところで、最後の『神の右席』に対処できるのかどうかはまた別なのだ。

 

 それに『全英大陸』はあくまでも『イギリス国内』において力を増強するもの。攻めてくる敵には使用できても、こちらから迎え撃つために国外に出ることはできない。

 

「カーテナの機能制限解除装置でも発明しているのか……それも、合わせて確認したいところではあるが」

「そんな余裕はもらえないようで」

 

 通信でも聞きつけたのか、さらに騎士たちが駿斗とジミーの周りを取り囲もうとしている。2人は馬車に背を向けると、天使の力を自らの霊装に集中させた。

 

 

 

 

 

 轟! と、四方八方から騎士団長(ナイトリーダー)の『射程距離』の長距離斬撃がウィリアムを襲う。

 

 対し、ウィリアムは右手一本でその大剣を振り上げ、手首を返してその背の部分を前面に出した。

 

 その光は赤。それが示すのは斧。

 

 それが地面に叩き付けられると、ドッ! と大地そのものが震動した。その絶大な破壊力で、半径20メートルほどの領域が騎士団長の立っている場所も巻き込んで陥没したのだ。

 

「なっ」

 

 騎士団長は必殺の攻撃を外されたからか、あるいは足場が不安定になったからか、その動きがわずかに鈍った。そして、その一瞬を突いて傭兵は屈めていたその両足を大きく伸ばし、一気に敵の懐へと飛び込もうとする。

 

 アスカロンの色は、赤から青へ。それが示すのは、剃刀のような薄い刃だ。

 

『射程距離』の長い短いなど関係ない。その程度の小細工で勝敗が翻弄されるような相手ではない。

 

 青く光る刃が騎士団長の胴体へと迫る。

 

 しかし、

 

 

 

「扱える『パターン』は『射程距離』だけだと言った覚えはないぞ、傭兵崩れ」

 

 

 

 消えた。

 

 騎士団長が、傭兵の動体視力をもってしても追いつけない速度で動いたのだ。

 

「移動速度」

 

 次の声は真後ろから聞こえた。

 

 無理な体勢でありながらも、ウィリアムはなんとか剣を動かして敵の攻撃を相殺する。そして、体を回転させて追撃を放ったが、

 

「武具重量」

 

 予想外の衝撃に、傭兵がバランスを崩す。

 

 剣の『パターン』……それらすべてを手中に収めた、武器としての究極の形。

 

 その斬撃を避けることはできない。『射程距離』は剣の間合いを無視し、『的確精度』は確実に急所を突く。そして、その『移動速度』からは逃れることができない。

 

 その斬撃を受け止めることはできない。『切断威力』は敵の武器さえも切り裂き、『武具重量』は受け止めきれない威力をもたらす。そして、どんな防御策を用いようが『専門用途』に合わせた攻撃が放たれる。

 

 その斬撃を壊すことはできない。絶大な『耐久硬度』は、どんな名刀を使っても傷1つ付けることができない。

 

「剣を捨て、英国より立ち去るか。剣と共に、英国の土の一部となるか」

 

 その長大な剣の先を、騎士団長はウィリアムに突きつける。

 

「選ばせてやる。どちらが望みだ」

「……選ぶ前に、尋ねておくのである」

 

 ウィリアムが放った言葉に、騎士団長は眉をひそめた。

 

「貴様は本当に、第二王女を擁護して第三王女を斬れば、この国が救われるとでも思っているのであるか」

 

 多くのことを語らないこの傭兵の言葉に、意味のないものはない。

 

 しかし、『軍事』を選んだ騎士団長が揺らぐことはなかった。最良とはいいがたいことは分かっていても。

 

「いずれかの陣営につくしかあるまい。この国にとって、最も高い利益を生み出す陣営に、だ」

 

 そうか、とウィリアムは血まみれの手でアスカロンの柄を握り直した。その柄から青い輝きが放たれていた。

 

 そして、自身の回答をした。

 

「選択は次の2つ――貴様を斬るか斬らぬか、の問題である」

「どうあっても退かぬようだな」

「語ることに、意味などない」

 

 しかし、騎士団長の意志もまた、変わることはない。『頭脳』『軍事』『人徳』――イギリスのためにそのどれかを選ぶとなれば、この状況での選択肢は1つに決まっているからだ。

 

「そうやって、要らぬ台詞を重ねれば、正義という言葉で己の蛮行の溝を埋められるとでも思ったのであるか」

「かくいう貴様は、この期に及んでまだ語らぬか」

「我が理由は、すでに示されているのである」

 

 その言葉に、騎士団長は思わず聞き返した。

 

「なに?」

「ふん。それこそ、語る必要もないのである」

 

 勝算など不要。

 

 傭兵の鋭い眼光を見つめながら、騎士団長は究極の一撃を放つために、一度剣を上に掲げた。

 

「ならば――退かぬのなら、ここで死ね」

 

 ウィリアムは、敵の懐へ入り込むために駆けだした。

 

 騎士団長は、必殺の一撃を放つためにその足を前に踏み出した。

 

 不可視の長大な斬撃と、竜殺しの聖剣が交わる。そして、

 

 

 

 ゴッキィィィン! と。

 

 必殺であるはずの騎士団長の攻撃が相殺された。

 

 

 

(鋭く、重く、速く、長射程の必殺。……本当にそんなものが放てるのなら、左肩を抉られる程度で終わる訳がないのである!)

 

 そう。

 

 今までも、複数の『パターン』を同時に扱ったことはなかった。そして、真の戦場において戦力の出し惜しみをする理由など存在しない。

 

 単純に、そんな都合の良い必殺技など存在しなかったというだけのこと。『射程距離』だけを優先した一撃なら、傭兵の手でも受け止めることは可能!

 

「おおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 ついに、ウィリアムが騎士団長をその間合いに捉えた。

 

「『移動速度』!」

「甘い」

 

 騎士団長の手は高速で動き、防御は間に合った。

 

 だが、そこまで。そこに重さも硬さも存在しない。それが、わずかにその体をのけぞらせた。

 

 一瞬の隙。しかし、ウィリアムにとっては十分な時間。

 

 アスカロンが白い閃光を放つ。『近すぎる間合いではその威力が落ちてしまう』という大剣の弱点を補う、悪竜の太い神経を抉りだすために、剣の根元近くにあるスパイクが、騎士団長の右胸へと迫る。

 

「『耐久硬度』だ!」

「遅い」

 

 全ては。

 

 軍事的クーデターに翻弄され、咎なく処刑されようとしていた第三王女を救うため。

 

 爆音が野原に響いた。

 

 それまで音速を超える速さで動いていた彼らは、ピタリと静止した。

 

 ウィリアムの持つアスカロン、その杭のような巨大なスパイクは、確かに騎士団長の防御をかいくぐってその右胸へと突き立てられていた。

 

 1人が苦悶の表情を浮かべ、もう1人は超然とした様子をしている。

 

 ただし。

 

 

 

 苦悶の表情を浮かべているのがウィリアムで、

 

 超然としているのが騎士団長だった。

 

 

 

 そのスパイクには、騎士団長でも確実に行動不能に陥らせる程度の威力は会ったはずだ。にもかかわらず、実際には傷一つない。

 

 まるでスポンジのような不自然な感触に、ウィリアムの不審な表情が浮かぶ。

 

「ソーロルムという北欧の戦士を知っているか」

 

 それは、どんな切れ味を誇る名剣をも、何一つ斬れない(なまくら)へと変えてしまう魔術を使ったとされる剣士。

 

 今騎士団長が使う術式は、彼が認識した『武器』そのものの攻撃力を科学・魔術問わずにゼロへとしてしまうのだ。実際に、必殺の抜刀術である『唯閃』は完全に無効化された。

 

 術式の有効時間はおよそ10分。しかし、真の戦場で10分というのは長すぎる時間だ。

 

「昔、ドーバーでひどい不意打ちを受けたからな。こういう対策を講じたくなるものだ」

 

 ウィリアムは、その手で剣を掴まれるよりも先に距離を取ると、次々の種類の異なる斬撃を放つ。

 

 光の色は赤――悪竜の筋肉を斬るための斧のように分厚い刃。

 

「ゼロにする」

 

 光の色は青――悪竜の脂肪を切り取るための剃刀のように薄い刃。

 

「ゼロにする」

 

 光の色は緑――悪竜の鱗をめくるための剣身中ほどにある缶切り状のスパイク。

 

「ゼロにする」

 

 光の色は黄――悪竜の内臓を取り出すための剣身に寄り添う糸鋸状のワイヤー。

 

「ゼロにする」

 

 光の色は紫――悪竜の骨格を切断するために背側にある巨大な鋸。

 

「ゼロにする」

 

 光の色は桜――悪竜の歯牙を抜くためのある柄尻に取り付けられたフック上のスパイク。

 

「ゼロにする」

 

 光の色は白――悪竜の神経を抉りだすためにある背側の根元近くにある接近戦用スパイク。

 

「それは先ほどゼロにしたぞ! そろそろ品切れか!?」

 

 騎士団長がアスカロンを素手でつかんだことにより、ウィリアムの動きは完全に止まった。それを確認した騎士の長は、赤黒い長剣を掴み直す。

 

「終わりだ」

 

 現在ウィリアムは、魔術を充分に使用することができない。『並の聖人』レベルに力が落ちた今では、騎士団長の動きについてこれていたこと自体が驚異的だったのだ。現状で、両者が同等のスピードであるこの勝負においては、肉体制御用の術式に全てを注ぎ込む必要があった。

 

 そして、彼の弟子であるジミーが助太刀に現れることもない。仮に戻ってきたところで、ウィリアムの足手まといになるのがオチであるからだ。

 

「第三王女と共に、天に上れ」

 

 フルンティングと呼ぶことのできる範疇に納まっているのかも分からない魔剣を、騎士団長はウィリアムの目の前で振りかぶる。

 

「……まだ分からぬであるか」

 

 しかし、そこで目の前の傭兵が吐き捨てるように言葉を漏らした。

 

「こんなもの、わざわざ口に出すほどのことでもないだろうに」

 

 ウィリアム=オルウェルは楽観主義者ではない。むしろ、傭兵として戦場を駆け巡った彼ならば、イギリスに留まり続ける騎士団長よりも、戦争の悲惨さを分かっているはずだ。それならば、騎士団長の選択肢である『軍事』が、他の『頭脳』や『人徳』と比べて最適であることくらい分かるはず。

 

 だが、この男には芯があった。

 

 騎士団長の視線の先が、アスカロンに取り付けられた盾の紋章(エスカッシャン)をとらえる。

 

(まさか)

 

 青地の盾を4つに分け、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北部アイルランド。

 

 そして、緑のドラゴン、ユニコーン、セルキーという3匹の動物が、『王室派』『騎士派』『清教派』。

 

 

 

 ――その紋章が示すのは、英国という国の完全なる調和。誰を殺して誰を擁立するのではなく。第一王女、第二王女、第三王女、そして女王。彼女たち全員の力を合わせたイギリスを望んでいることを示していた。

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