とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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この街の姿

 木原数多達、『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』の前に突然現れたインデックス。彼らが彼女たちに意識を裂いたその一瞬をついて、一方通行(アクセラレータ)は彼らの車の1つに乗り込む。

 

 そして、車体の一部である鉄骨を引き抜くと、それを運転席の男にシート越しに突き刺した。

 

「進め。さっさと病院に行かねェと、手遅れになるぞ」

 

 ずっとハンドルを握ったままの男は、自分の背中から感じる痛みとその言葉に戦慄し、車をUターンさせると猛スピードで走りだした。

 

 その様子を見た木原数多は叫ぶ。

 

「おい、何をしている! さっさと撃ち落せ!」

 

 仲間の乗っている車だったために発砲をためらっていた、猟犬部隊の男たちは慌ててマシンガンを連射する。

 

 一方通行は、未だに何もせずに子猫(スフィンクス)を抱えて立っているインデックスを車の中へ放り込んだ。

 

「騒ぐンじゃねェぞ、そのまま直進しろ。時間がねェのはお互い様だろ」

「ど、どちらまで」

 

 その言葉に、一方通行は「良い場所を知っているンだ」と返した。

 

 その一方、取り残された木原数多はすぐに次の行動に移した。

 

「アレだアレ、アレ持って来い!!」

 

 『アレ』ばかりで一見意味不明な命令だが、彼の部下たちは従順に行動に移した。つまり、ワンボックスカーの中から荷物を取り出したのだ。

 

 それは、携行型の対戦車ミサイル。

 

 彼はすばやくそれを組み立て、安全装置を解除していった。その動作には一切の躊躇いが見られない。むしろ、命令をされた部下の方が狼狽していた。

 

 今、あの黒いワンボックスカーを運転しているのは、『猟犬部隊』の一員。つまり彼らの仲間だったのだ。

 

 だが、木原数多には関係なかった。

 

 ガチャ、という音と共に、木原数多は全長1mほどの黒い金属の塊を肩に担いで、側面に備え付けられているスコープに目を通す。

 

 スコープによって、彼の目の前にワンボックスカーが大きく映される。

 

 照準を合わせる。

 

(間に合う)

 

 彼は確信と共に引き金を引こうとする。

 

 一方通行は死なないだろうが、確実に足がなくなる。そうなれば、今の彼にとって最大のネックである打ち止めはこちらに確保されたまま、さらに無関係のシスターまで巻き込もうとはしないだろう。

 

 そうなれば、一方通行はそのまま自分に倒されるのみとなる。

 

「あばよクソ野郎」

 

 そう言って引き金に指をかけた瞬間、スコープを黄色い影が遮った。

 

「……ったく」

 

 木原数多は面倒くさそうに引き金を躊躇なく引いた。

 

 町の中心で爆発が起きる。

 

 空気が揺さぶられる。

 

 しかし、その後に立ち込める煙は風によって吹き散らされた。どうやら、あの攻撃を防いだらしい。

 

 そこには黄色い装束を身にまとい、片手に十字の形をした巨大なハンマーを持った人間がいた。

 

「いい街ね。もっと速く『侵食』が進むと思っていたのだけれど」

 

 彼女はそう言って、男たちの方へと振り向く。

 

 その女は顔中にピアスをつけており、その耳にも十字のピアスが付けられていた。

 

「何者だ?」

 

 木原数多は気怠げに訊いた。

 

「殺しの商売敵」

 

 そう彼女が答えるのを聞くと、彼は部下に「殺せ」とだけ命令して立ち去っていく。

 

 その様子を見ていた女が言った。

 

「アンタ、敵意がないのね」

「向けてほしけりゃ、もうちょっと有能になることだ」

 

 木原数多は、それだけ言うと車に乗った。

 

 科学と魔術の怪物同士の立ち合いは、それきりだった。

 

 

 

 

 

 当麻は打ち止め(ラストオーダー)に連れられて、ある場所に来た。

 

 そこにはつぶれた車が1台と、気を失っている黒服の男が数名。

 

「この人たちに襲われたの、ってミサカはミサカは本当のことを言ってみる」

「だけどこれって、お前の知り合いがやったってことなのか?」

 

 当麻はその凄惨な光景に息をのみながら尋ねる。

 

 明らかにかなりの武装をしているように見えるのにもかかわらず、一方的に暴力を振るった後が見受けられるからだ。

 

「それはないかも。あの人の仕返しがこれっぽっちだなんて考えられないもん、ってミサカはミサカは通告していたり」

 

 ……これで『仕返しがこれっぽっち』だなんて、そいつの側にいる打ち止めは大丈夫なのだろうか、と当麻は少々心配になった。

 

 これだけの人数相手でも余裕だとは、明らかに最低でも大能力者(レベル4)、下手すると超能力者(レベル5)の領域に入る。

 

「とにかく、通報しないとなあっ!?」

 

 携帯電話を取り出そうとする当麻だったが、その時突然腕をつかまれてひっぱられた。

 

 当麻は打ち止めに連れられて車の陰に入る。

 

「奴らが来た、ってミサカはミサカは車の陰に隠れて報告してみたり」

 

 当麻の全身が強張った。嫌な汗が、ぶわっと体から噴き出る。

 

 幻想殺し(イマジンブレイカー)は異能の力に対しては、この上ない防御能力を持つ。しかし、その反面ただの銃弾の前では何の意味もない代物だ。

 

 このままでは見つかる。そう感じた当麻は、打ち止めを抱えてその場から駆け出した。気付いた誰かが発砲したようだが、後ろを振り返らずにひたすら走る。

 

 行き着いた先には、レストランがあった。その店の非常口へと向かう。

 

 打ち止めの能力、強能力(レベル3)欠陥電気(レディオノイズ)によって店の扉の電子ロックを解除すると、当麻はその中に駆け込んだ。

 

「こんなので本当にあの人を助けられるのかな、ってミサカはミサカは自分の力のなさを嘆いてみたり」

 

 店内の厨房であろうか。暗い部屋の中で、当麻の腕から降ろされた打ち止めが、ぽつりと呟く。

 

「さあな。だけど、俺たちが無事でいない限り、そいつを助けることもできないんだ」

 

 当麻は慎重に扉を開けて、店のホールへと移動した。

 

 そこには、やはり客もウエイトレスもその場で倒れている。

 

「どういう」

 

 どういうことだ、と言おうとしたその瞬間、外から銃撃を受けた。

 

 慌てて身を伏せる当麻と打ち止め。店の電気が壊され、店内から人工的な光が消える。銃撃がいったん収まると、当麻は少女を抱きかかえて店内の奥にある物陰に潜む。

 

 ガラスの破片を踏みながら彼らは確実に近づいてくる。

 

(……使えるか)

 

 この中で唯一使える手があるとすれば、『硬化手袋(フリックグローブ)』に取り付けられたワイヤー射出機構。しかし、それも慰め程度のものでしかない。

 

 当麻は覚悟を決める。しかし、いつまでたっても黒服の連中はやってこなかった。

 

 代わりに聞こえてきたのは、3人の男の声。

 

「やれやれ、ようやく見つけましたか。もっとも、余分な連中もいるようですが」

「ええ。では……はじめまして、幻想殺し。我々は『十二使徒』のピエール、アンドレ、ジェームス。あなたの抹殺に来ました」

 

 その男、ピエールはその手に持っている霊装を弄びながら言う。彼らの周囲には、倒れている『猟犬部隊』の黒服たちがいた。

 

(……鍵?)

 

 その男が持っていたのは『鍵』だった。

 

「『十二使徒』……女王艦隊の時のことといい、何が目的なんだ!」

 

 当麻が叫ぶ。すると、彼とは対照的に、アンドレがゆっくりと話した。

 

「目的は主に2つあります」

「2つ?」

 

 当麻は警戒したまま聞き返す。

 

「1つは、科学サイドの中心である学園都市の破壊です」

「くそ!」

 

 やはり、駿斗の予想通り――『アドリア海の女王』の一件で、ローマ正教は学園都市を倒すべき敵と完全に判断したようだ。

 

「そして、もう1つは……あなたたち、幻想殺し(イマジンブレイカー)幻想創造(イマジンクリエイト)を抹殺、その後に幻想創造の肉体を回収すること」

「ちょっと待て、『回収』だと!?」

 

 当麻は怪訝な目をする。彼らの目的はほとんど駿斗の予想通りだったが、その言葉だけは分からなかった。

 

 当麻の言葉に対し、ジェームスが淡々と答えた。

 

「ええ。彼の力は正しくローマ正教、それも『神の右席』にはうってつけの『素材』となるでしょう。その力をローマ正教に捧げれば、神の子、いや、もしかすればそれ以上の奇蹟をもたらす可能性も否定できません。何しろ、学園都市の歪な能力開発をその身に受けておきながら、何のリスクもなく、強力な魔術を扱えるのですから」

 

 彼は、説明を続ける。

 

「したがって、彼はその存在そのものが立派な『戦争』の要因となってしまいます。何しろかつての実験で、能力者に魔術が使えないことは、はっきりと示されているのですから」

 

 かつて学園都市とイギリス清教の間で行われた、『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の魔術師、シェリーの親友であるエリスがその命を落とした、その実験。

 

 そこで、『能力開発を受けた人間は魔術を使えない』ということが証明されてしまった。

 

「あなたたちは、この世に災いをもたらす」

 

 彼らはそれぞれの霊装、鍵とホタテ貝とX字型の十字架を掲げた。

 

「ローマ正教の教えによって手に入れていた安息は混沌へと姿を変え、人々は『学園都市』という悪魔の言葉に惑わされるようになる」

 

 勢いよく放たれた水と炎の魔術を、当麻はその右手で必死に受け止める。 

 

「ですから、その前にローマ正教が、この世界を正しく治めなければならないのです。神の子の言葉を聞く前の人々が、隣人を愛することを忘れていたのを正したように。神の子も天使も、助けを求める彼らの前に現れないなんてことが、決してないように」

 

 打ち止めといるために、『回避』という選択肢を採ることができない当麻は、弾丸のように放たれた土を右手で打ち消す。

 

「行け、打ち止め! 誰か応援を呼んできてくれ!」

 

 その言葉を聞いた彼女は、先の銃撃で割れているガラスの穴から外へと駆け出す。

 

「ふむ。一般人をまず逃がしましたか。あのような幼い少女をそのままにするのは、『報告』とわずかに違うというべきか、それとも巻き込まないようにしたことを報告通りと捉えるべきか。どちらでしょうね」

 

 ジェームスはそう言うと、そのホタテ貝を持った手を当麻に向けて差し出す。

 

(今までとは違って、霊装をこっちに向けた!?)

 

 そう考えた当麻は、右手をまっすぐに差し出す。

 

 するとやはり彼の予想通り、貝殻から放たれた暴風が荒波のように当麻へと迫りくる。

 

 ――だが、それは彼の予想を裏切って、右手で打ち消されずにその体を壁へと叩き付けた。

 

 

 

 

 

「くそ、インデックスも当麻も電話に出ない。インデックスの方は操作ミスの可能性もあるけれど、当麻に関しては既に『遭遇』したのかもしれねえな……」

 

 駿斗は、街中を駆けていた。

 

 いや、それは『駆ける』というよりは『跳び回る』という方が正確なのかもしれない。身体強化術式、高速移動術式、身体制御術式をかけている彼は、すでに並の魔術師では追いつけない速さで街中を移動していた。

 

 しかも、それらの術式に気を配りながら同時に、魔力と天使の力(テレズマ)を頼りに侵入者である魔術師の捜索を行っているのだ。

 

(くそ、『幻想核杖(イマジン・コアロッド)』の製作の後すぐに来たせいで、探知特化型の術式の構築が間に合っていないか。雑な探査ならできなくもないが、それなら天使の力を頼りに走り回ったほうが早いな)

 

 だが、焦りつつも駿斗は確実に捜索範囲を狭めていく。そしてついに、街の真ん中で彼女を見つけた。

 

 つまり、黄色い装束に身を包み、長い鎖の先に十字架のついたピアスを舌につけている女――ヴェントを。

 

「おい!」

 

 駿斗がその前に降り立つと、ヴェントはにやりと笑って駿斗を見る。

 

「あら、これは向こうから獲物がやってきてくれたってワケ? まあ、どっちにしろ後には見つけるつもりでいたんだけれど」

「獲物、か。違うな。倒されるのはお前の方だ! 街中の人たちを昏倒させているのは、お前が今使用している術式であることくらい分かっているんだよ!」

 

 駿斗は、杖の頭をヴェントに向けながら叫ぶ。

 

「目的は俺たちか?」

「よく分かっているじゃないの。私の目的は上条当麻及び神谷駿斗の2名。ほら」

 

 駿斗の言葉に、ヴェントは1枚の紙を見せた。

 

 駿斗は読めないイタリア語だらけの紙を見て、眉をひそめる。

 

「何だ、それは」

「ローマ教皇直々のサイン付き。抹殺命令よ。あの禁書目録でさえ、アンタたちの前では軽いってコト。ま、アンタはそれなりに自覚があるようね?」

 

 彼女は余裕を持った様子で話す。

 

「私は『神の右席』前方のヴェント。ローマ正教20億人の中の最終兵器。そんな訳で、さっさと殺されろ。神谷駿斗!」

 

 ヴェントがその巨大なハンマーを振り回す。それに対し、駿斗も応えるように天使の力によって黄色く輝いた『幻想核杖』を横に振った。

 

 天使の力がこめられた2つの風の塊が、衝突する。

 

(ハンマーの動きはフェイクで、本命は舌から垂れ提げられている十字架。この昏倒術式もあの十字架が核か!)

 

 駿斗は、ヴェントに向かって駆け出す。一刻も早く、この騒ぎを終息させるために。

 

 対し、ヴェントは立て続けに数回、ハンマーを振るうと、風の弾丸や竜巻を引き起こしてそれを遮った。

 

 駿斗は、冷静に相手を見極めていく。

 

(使うのは恐らく『風』だけの、属性特化型。だったら、相手の攻撃手段を絞ることができる!)

 

 万象再現(リプロダクション)によって、次々と魔術を発動する駿斗。それに対し、ヴェントはやはりハンマーを振るって風を生み出す。

 

 複数の魔術が互いに衝突し、その余波によって周囲の地面が捲れ上がる。

 

(くそ、周囲で倒れている人々が!)

「させねえ!」

 

 あまり残されていない余力で防御術式を周囲に展開し、被害を食い止める駿斗。その様子を見たヴェントは、一層激しく彼を攻撃していく。

 

「あら、随分とがんばっちゃっているようね? 速く見捨てた方が楽なんじゃないの?」

「んな訳あるか、この野郎!」

 

 駿斗は使用する能力を万象再現から自在変換(マテリアルハンド)に切り替えると、地面を『形状変換』して壁を作ると同時、『物質変換』によって魔法陣を描き出す。

 

 自在変換には主な使い方が3種類ある。

 

 物体の形状を変える、『形状変換』。

 

 物質の三態、気体、液体、固体の状態変化をもたらす、『状態変換』。

 

 物質の元素そのものを変えてしまう、『物質変換』。

 

 これらは、主に魔方陣を描き出したり、壁を作るのに役立つ能力だ。そして、ローマ正教による襲撃に備えて創造した能力である。

 

 魔方陣から放たれた魔術がヴェントを襲う。その攻撃に対し、ヴェントはハンマーを振るい、風によってそれらの攻撃を迎え撃つ。

 

 ゴォッ! と2人の間で衝突が起こった。

 

「拮抗、か」

「アンタの方こそ、この私と拮抗できるなんてどうかしてるよ」

 

 駿斗は単純な魔術攻撃だけでなく、自在変換による物理的な攻撃も加えているのだが、それらも含めて相殺されていく。さらに、それらと同時に防御術式を展開して街への被害をも食い止める。

 

「は、お優しいことねえ! ん!? ぐふっ、がは……」

 

 その時だった。

 

 ポタ、ポタ、と赤黒い液体が地面に滴り落ちる。

 

(何だ……?)

 

 それは、ヴェントの口から漏れていた。

 

(魔術による副作用? 天使の力を体内に呼び込みすぎて、暴走したとか?)

 

 いや、違う。駿斗は、自分の考えをすぐに否定した。

 

(周囲のAIM拡散力場が奇妙だ。まるで、似た性質を持つ天使の力を圧迫するように……!)

 

 ヴェントと同じように天使の力を操る駿斗は、すぐに『調整』に取り掛かった。つまり、自分が体内に封入した天使の力が暴走しないように、『加工』する手段を創造する。

 

 その時、ヴェントはハンマーを振るって地面をえぐると、立ち込める土煙に姿を隠しながら去って行った。自分から仕掛けた駿斗も、その退却にほっ、と一息つく。

 

 正直に言って、このまま戦闘を続けられるとは思えなかったのだ。それほどに、このAIM拡散力場は『奇妙』であった。

 

「ひょっとして、今この街で起こっている異変はローマ正教による襲撃だけではないのか……?」

 

 いや、そもそもだ、と駿斗は考える。

 

 ……どうして科学の産物であるAIM拡散力場が天使の力と酷似している?

 

(くそ、どうして今までそのまま放置していたんだ! 少し考えればすぐに気が付くことだったじゃねえか! 『能力』と『魔術』を今までに切り離して考えていたことによる弊害か?)

 

 駿斗は、歯を食いしばる。

 

(そうすると、俺と当麻の常識が根本から崩れることになる! 『魔術』と科学的な『能力』は完全な別物って訳じゃない。そうすると)

 

 彼は、今までの経験を振り返っていく。

 

(魔術。天使の力。その力の塊である天使。科学的な能力開発。AIM拡散力場。それらの集合体である、虚数学区の鍵の風斬氷華)

 

 1つ1つは、パズルのピースのように組み合わさっていく。

 

(SYSTEM……『神ならず身にして天上の意志に辿り着くもの』。まさか)

 

 駿斗は、思わず口に出して言った。

 

「初めから、これが目的だったということか!? だけど、なぜ……」

 

 

 

 

 

 一方通行は、『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』の男の運転する車で、インデックスと共にある病院の前に来た。その病院は、よく当麻もお世話になっている、冥土返し(ヘヴンキャンセラー)の勤める病院だ。

 

 一方通行は、それまで少女の話を黙って聞きながら座っていた。

 

 『とうま』という少年は、非常に不幸であること。『はやと』という少年は、とても親切であるということ。『はやと』という少年は、『さいあい』と『うみどり』――絹旗最愛、黒夜海鳥、『暗闇の五月計画』の少女2人と幼馴染であるということ。

 

(幼馴染、か)

 

 だったら、あの少年があの場にいたことにも納得がいく。恐らくは何らかの因果で超電磁砲(レールガン)、御坂美琴と知り合い、妹達(シスターズ)のことを知り、その結果『暗部』にいた少女と再会した、といったところだろうか。

 

 しかしそうなると、分からないことが増える。そもそも、『暗部』なんてものはそこから簡単に抜け出せるような組織ではない。ましてや、彼女たちは違法な研究の被験者なのだ。そんな人間を、簡単に『表』へ頬り出せるほどこの街は甘くはない。

 

 考えられる理由としては。

 

(『あいつら』が何か重要な役割を持っている。下手すると『プラン』の根幹をなすような、何かを)

 

 一方通行は、インデックスに言う。

 

「この近くに、でかい病院がある。そこに行って、カエルによく似た顔の医者を見つけろ」

 

 そして、彼の首に付けられている黒いチョーカーを左手の人差指で軽くたたく。

 

「医者に会ったら、『ミサカネットワーク接続用電極のバッテリー』を用意しろと伝えろ。それで通じる」

「うん、分かった。『ミサカネットワーク接続用電極のバッテリー』だね」

 

 一字一句、完璧に復唱された。どうやら、今まで彼に見せていた話し方や様子からは予想外に、頭は悪くないらしい。

 

 彼女は三毛猫を抱えると、車の外へと出た。

 

「待っててね」

「いいから、さっさと行け」

 

 シスターが、雨の中を走って行く。それを見送りながら、一方通行は考える。

 

(学園都市は、何を隠してやがる? 今更あのガキを捕まえる必要がどこにあるってンだ?)

 

 一方通行は、車を移動させた。公衆電話を見つけると、そこから冥土返しに電話をかける。

 

「トラブルが起きた。デカいトラブルだ」

『一応、御坂妹さんとやらから大体の事情は聞いているよ』

 

 打ち止めの身に起こったことは、『ミサカネットワーク』を通じて全固体に情報共有がされている。そのため、病院内にいる妹達はそれらの情報を全て把握していた。

 

「だったら話は早ェ。どうなっている?」

『今は、「猟犬部隊」の別働隊に追われているようだね? たまたま居合わせた一般人と、一緒だそうだけど?』

 

 冥土返しの返事に、一方通行はチッ、と舌打ちした。

 

「場所は?」

『彼女自身もつかめていないようだね?』

「そっちに、白い修道服を着たガキは来たか? そこに引き止めておけ」

 

 一方通行はインデックスのことを冥土返しに預けた。

 

『やれやれ。それで、君はどこまでやるつもりだい?』

「木原は殺す」

 

 即答だった。

 

「『猟犬部隊』も潰す。で、あのガキを無傷で助け出す」

『不可能だよ』

 

 しかし、一方通行の言葉にやはり冥土返しも即答した。

 

『この局面において君はあまりにも多くを望み過ぎている。それでは君は絶対に目標を達成できない』

「っ!? 知ったような口を……!」

『僕は君以上の地獄を見てきているよ』

 

 だからこそ、冥土返しには言えることもある。

 

『君は余計なことなど考えず、打ち止めの命を助けることだけを優先しろ。例え内臓が潰されようが手足を捥がれていようが構わない。必ず生きて僕の元に連れて来い。そうすれば僕が絶対に彼女を救ってみせる』

 

 彼の『化物』に対する『説教』は続く。

 

『優先順位を間違えるな、今、最優先なのは彼女の命を守ることだ。違うと言うのなら、彼女の命よりも大切な物を今この場で言ってみろ』

 

 一方通行はその言葉に、口元に笑みを浮かべた。

 

「上等じゃねェか」

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