とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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ヒューズ=カザキリ

「ぐっ!?」

 

 勢いよく、背中を壁に叩き付けられた当麻の肺から空気が漏れる。

 

 ジェームスが放ったのは、確かに魔術であるはずだった。そして、当麻はあらゆる異能の力を打ち消す右手を、それに向かって突き出したはずだった。

 

 しかし、その結果は予想に反したものとなった。

 

幻想殺し(イマジンブレイカー)が、効いてない?)

 

 当麻は、今の感覚に覚えがあった。

 

 大覇星祭の、1日目。

 

 『使徒十字(クローチェディピエトロ)』と学園都市の命運をかけた、オリアナ=トムソンとの最後の戦い。

 

「あらかじめ空気を圧縮封入しておいて、逆流させているのか!」

 

 その言葉を聞いたジェームスの眼が、大きく見開かれる。

 

「この術式の正体を見破るとは、これは驚きですね」

 

 彼の名前は、十二使徒の一人、大ヤコブに由来する。その人物の伝承の1つ。

 

 大ヤコブの最期は斬首であったが、その遺体は弟子たちによって持ち出された。風のままに船を進ませたその先で、遺体を大きな石の上に置いたところ、石は自然と棺の形になったという。

 

 つまり、石が彼の肉体を収納するために最適な形に変形した。この話を参考にして構成された術式。

 

 霊装である貝殻を何かを収納するのに最適なものと化す。その貝殻は、どんなものでも、どんな量でも、たとえ物質でなくとも、『収納』してしまうのだ。

 

 そして、そこから解放されるとき、一気にそれが飛び出した。水をためていたダムから、水を放流したように。

 

「やっぱり『右手』に対して対策を練ってきたな!」

「というよりは、相性の良い術式を持っている私が選ばれた、という方が正確ですが」

 

 彼は霊装に天使の力(テレズマ)を通し、周囲の空気を再び収納し始める。

 

 当麻はすぐに立ち上がると、別の男、ピエールに向かって走り始めた。当麻に対し、彼は呪文を紡ぐとその鍵を当麻に向けながら前に出た。すると、そこにアンドレが炎を放つ。

 

 ピエールごと、巻き込む形で。

 

(バカっ!?)

 

 当麻は思わず、ピエールの後ろから迫る炎に向かって手を伸ばす。しかし、彼はその右手をつかむと、無造作に横の壁へと放り投げた。

 

 再び、当麻は体を壁に叩き付けられる。その直後、ピエールの肉体を炎が包み込んだ。

 

 当麻は、その光景に唖然とする。

 

「テ、メエ……!」

「おや、敵のことを心配している余裕があるのですか?」

 

 再びジェームスから貝殻を向けられた当麻は、すぐに近くの椅子の陰に飛び込む。その直後、風によって飛んでいったテーブルが、レストランの窓を割って飛び出していった。

 

「危な――!?」

 

 店の中と外に、ガラス片が飛び散る。その速度に、当麻の背筋に寒いものが走った。

 

 しかし、当麻にはそれよりも気になることがあった。

 

「お前、なんで……」

 

 アンドレの放った炎に包まれたはずのピエールは、そこに平然と立っていた。そして、彼の霊装である鍵を当麻に向かって突き出す。

 

 当麻は混乱から抜け出せないまま、その場から飛び去った。水の塊が地面をへこませ、亀裂を入れる。

 

(くそ、一先ずは他の人を巻き込まない場所に移動しねえと!)

 

 当麻は、一度店内から飛び出した。3人の聖職者たちは、その後をゆっくりと追いかけてくる。

 

「ここからだと、一番近くて広くて、人がいないのは……」

 

 当麻は第七学区の中でも端にある、第五学区に近い公園へと彼らを誘導する。ジェームスたちは目的が当麻1人であるためか、その誘いに簡単に乗ってきた。恐らく、駿斗のことは完全にヴェントへ任せて、自分は当麻のことに専念するのであろう。

 

 街の中を、4人の男たちが駆け抜ける。彼らは、時として光を放ち、互いに腕を振り回し、競うようにして移動していった。

 

(インデックスは駿斗の話を聞いて、『十二使徒』の使ってきた術式は十字教徒としては異色だ、と言っていた。普通は、現実的な問題として非常に扱うのが難しいはず、とも。だったら、あのピエールとかいうやつが無傷だったのも、『異色の魔術』とやらの可能性が高い。問題は、どんな魔術なのか全く見当がつかないアンドレか)

 

 当麻は、再び炎を右手で打ち消す。飛んできた瓦礫を『硬化手袋(フリックグローブ)』で弾くと、その懐へ飛び込もうとする。

 

 それに対し彼らは当麻から距離を取ると、魔術を放ってくる。やはり、先ほどと同じようにピエールは仲間の魔術攻撃に巻き込まれようとしても、何もせずそのまま喰らい、無傷でその中から現れる。他の2人にしても、仲間に向けて魔術を放つことをためらうそぶりを一切見せない。

 

(俺みたいな、魔術の無効化? だけど、それだとあいつも『神の奇跡を否定する者』と見なされるはずだ。いや、むしろ)

 

 当麻は、数々の魔術を打消し、よけながら考える。

 

(むしろ、その攻撃を受けると体の動きが良くなっているようにさえ見える)

 

 彼は一度急に立ち止まると、相手が走る速度を緩めたその隙をついて一気にピエールの懐へ飛び込もうとする。まずは、先ほどから身体能力が明らかに向上しつつある相手を倒そうと考えたのだ。

 

 だが、彼は風によって砂埃を撒いた。目くらましだ。

 

「くそ、あくまで攻撃は魔術に依存するつもりかよ!」

 

 早く1人だけでも倒してしまおうと砂埃を突破するが、既にそこにはいなかった。その代わりとばかりに向かってきた炎を、当麻は右手で打ち消す。

 

 すると、そこにジェームスが接近してきて、右手に持った貝殻を前に突き出してきた。

 

「2度も喰らうか!」

 

 当麻は、すぐに横へ跳んだ。すると、先ほどと同じように風が吹き出してくる。

 

「……やりますね。ここまでとは、非常に予想外でした」

 

 アンドレはそう言った。

 

「お前らのおかげで、いやというほど魔術師と戦ったからな」

「ですが、むしろその実力がこちらにとっては問題となるのですよ。たとえ学園都市がどうなろうと、あなたたちを殺さなくてはならないほどにね!」

 

 アンドレは水を生み出すと、津波のようにして放つ。当麻は右拳をそれに向かって叩き付けた。

 

 だが、そこに3人の男はいない。

 

(水による虚像!?)

 

 その直後、後ろにいたジェームスから再び暴風が放たれる。当麻はそのまま吹き飛ばされるが、着地の際に受け身を取ると、すぐに横へ転がってピエールから放たれた攻撃を避けた。 

 

「くそ、これじゃ体力を消耗するだけか……!」

 

 しかし、そのタイミングで『十二使徒』の動きが突如停止する。

 

「ご、ぱあ……?」

 

 彼らは、口から血を吐いていた。

 

「な、お前ら……」

「一時撤退します。いいですね?」

 

 アンドレの言葉に2人が頷くと、彼らは煙を発生させて去って行った。

 

 

 

 

 

 『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』は嗅覚センサーを頼りに、打ち止めを探していた。

 

「嗅覚センサーは?」

「待て、今結果が」

 

 その時、周囲の照明が落ちて突然光を失った。

 

 警戒する猟犬部隊のメンバーだが、周囲からなる音を頼りにしても敵は見つからない。

 

 何かが割れる音がしたと思ったら、近くにあるガス管が割れていた。

 

 そして、何かが倒れる音がしたと思ったら、仲間が地面に倒れていた。

 

 彼、あるいは彼女らの緊張が極限に高まった時、金属音が鳴り響く。反射的に、彼らはマシンガンの引き金を引いた。

 

 仲間の位置を、正確に把握することもなく。

 

 共倒れによって混乱する彼らを、さらに一方通行は確実に追い詰めていく。

 

 床に倒れた1人に向かって、工場のシャッターが降りて行く。それを見た仲間の1人が、すぐにそのスイッチを切りに走った。

 

 スイッチを押すと、無事にシャッターの動きが止まる。

 

 だが、そこに白い影が現れた。

 

 工場の中が、赤く染まっていく。

 

 ほとんどの黒服たちを『片付けた』一方通行は、最後の1人を倒すために外へと出た。

 

「ま、待ってくれ一方通行!」

 

 フェンスの向こうにいる男が叫ぶ。

 

 その時、数台の車がやってきて、近くに停止した。警備員(アンチスキル)だ。

 

「や、やった……俺は助かったぞ! ざまあみろ! 手を出せば、散々守りたがっていたクソガキとの関係も終わりだぜ!」

 

 一方通行であっても、警備員の手前では人を殺すことはできない。それは、彼が警備員に手配されるようなことになるわけにはいかないからでもあり、今の一方通行は、無関係な人々を巻き込むことができなくなってしまったからでもある。

 

 だが、今の彼は違った。

 

 一方通行は、しばらく離れたところにいる警備員を横目に、『猟犬部隊』の男に近づく。そのチョーカーのスイッチを入れた状態で。

 

「おおおぁぁぁぁ!」

 

 獣のようなうめき声と共にフェンスが砕け、その1つが警備員の車に直撃した。そして、彼らの注意がそれたところで、砂埃によってその姿を隠す。

 

 男の断末魔が響いた。

 

「ま、待ってくれ一方通行! 助け」

 

 その様子を見ていた警備員の男たちが、すぐに拳銃を構えなおす。

 

「そ、その人から離れろ!」

 

 声が震えていたが、それでもやめなかったのは警備員としての強い正義感があったのか。

 

 しかし、煙が完全に晴れた時、そこには血だまりしか残されていなかった。

 

 だが、それでも彼らは動く。

 

『第五学区内。事件現場での証言を元に、書庫(バンク)より照合』

 

 その頃、黄泉川愛穂の車を見つけて駆けつけた芳川桔梗は、全警備員に配信されたその写真を見て、顔色を変えた。

 

『この者を、殺人事件の重要参考人として手配する』

 

 その一方で、当の本人は考えていた。

 

(能力の使用モードは、あと4分も残されていねェ)

 

 路地裏で、彼はライフルを杖代わりに歩く。

 

 その時、携帯電話が鳴った。

 

『元気かな、一方通行ァ!』

 

 その声に、彼の瞳が大きく見開かれる。

 

「何の用かな、木原クン?」

『なあ、その辺りにガキのシャツの切れ端とか落ちてねえ?』

 

 それは、木原数多がわざと残したものだった。一方通行に、敗北を味わせるために。

 

『それにしても、学習装置(テスタメント)ってのはすげえよなあ? 人間の頭にウイルスぶち込めるなんて、普通じゃねえよ』

 

 木原数多の笑い声が、携帯電話越しに届いて来る。しかし、一方通行は挑発的に返した。

 

「で、俺は何てリアクションすれば良いンだ?」

『は?』

「腹抱えて笑ってやるのが良いのかァ、マゾ太君?」

『おいテメエ、状況判断能力が壊れちまってんのか?』

 

木原数多の言葉に対し、一方通行はあくまでも余裕をもって言う。

 

「どうせお前に命令した奴は、傷一つ付けず回収しろなんて人情あふれるセリフを吐いちゃあいねえよなァ?」

『殺す』

 

 その言葉を最後に、通信が途切れた。

 

 一方通行は考える。

 

(こんなのは木原らしくねェ。ということは、あいつに命令した奴がいるってことだ。となると……上層部、統括理事会か!)

 

 そして、その頂点に立つ統括理事長。

 

「ふざけンじゃねェぞ!! ナメやがってええええ!!」

 

 彼の叫びと共に、首のチョーカーに取り付けられた電極のスイッチが入れられる。

 

 学園都市最強の能力が躊躇なく振るわれた。

 

 地球の自転、そのエネルギーのベクトルを操作し、今までの中で最大級の一撃を『窓のないビル』に喰らわせる。

 

 間にあったビルは障害物と呼べもしない、ただ壊れていく背景にしかならなかった。

 

 『窓のないビル』が煙に包まれる。

 

 だが、煙が晴れたとき、そこには『窓のないビル』が無傷で立っていた。

 

「くっ、ァァああああああああああああああああッ!!」

 

 届かない。自分の最強の力をもってしても、核攻撃にすら耐えうる『演算型・衝撃拡散性複合素材(カリキュレイト=フォートレス)』でつくられた『窓のないビル』には傷1つ、つけられない。

 

 圧倒的な差。届かない高み。

 

 それを見せつけられた彼の咆哮が、学園都市に響く。

 

(殺す。あのガキを巻き込む奴は全てなァ!)

 

 

 

 

 

 そして、一方通行が統括理事会の1人、トマス=プラチナバーグにショットガンを撃ち込み情報を集めているときに、それは出現した。

 

「嘘、だろ……」

 

 当麻は、それを見て呆然と呟いた。

 

「何よ、あれ。電気じゃないけど……」

 

 御坂は、それを見て唖然とした。

 

「これは、天使の力? ううん、酷似しているけど違う。いや、ひょうか……?」

 

 インデックスは、1つの方向に向かって駆け出した。

 

「AIM拡散力場を利用した『天使』だとでもいうのか? 本当に、この街は『科学』だけなのか!?」

 

 駿斗は、真実へと一歩近づいた。

 

「何なんだよ、あれは!?」

「超分かりませんよ。『闇』にいたころだってあんな情報は知りませんでしたよ!」

 

 最愛と海鳥は、自分たちが知っていたことは一端に過ぎないことを思い知らされた。

 

 

 学園都市の中央に、『ヒューズ=カザキリ』が出現した。

 

 

 

 

 

 御坂美琴は、たまたま合流した絹旗最愛と黒夜海鳥とともに、コンビニで買ったビニール傘を指しながら寮への道を向かっていた。

 

「ちょっと、本当に見当もつかないの?」

「悔しいけどな。手がかりも何もつかめない」

 

 学園都市に発生している紫電の翼を指して、彼女たちは話し合う。

 

 その時、彼女たちの横を金の刺繍の入っている、白い修道服を着た少女が通りかかった。

 

「ちょ、ちょっと!? アンタこんなところで何をしているのよ!」

 

 御坂は、彼女の腕を掴んで引き止める。

 

「インデックスじゃないですか。そんなに超急いでどうしたんですか?」

「つーか、お前上条と一緒じゃなかったわけ?」

 

 彼女たちの問いかけに、インデックスは慌てた様子で答える。

 

「離して! 行かないと、あそこにはひょうかが!」

「「「ひょうか?」」」

 

 彼女の言葉に首を傾げた時、2人の少年を発見した。

 

「だめだよ、とうま、はやと! ひょうかを殺さないで!」

 

 その言葉に、彼らは振り向いた。

 

「インデックス、御坂?」

「最愛と海鳥も?」

 

 だが彼らが話し合うのを待たずに、1つ離れた通りに黒いワンボックスカーが停車して、『猟犬部隊』のメンバーが武装したまま降りてきた。

 

「「こっちだ」」

 

 2人は阿吽の呼吸でアイコンタクトすると、4人を路地裏へと連れて行く。

 

「とうまは、あそこにはいかないで! あそこにいるのはきっと、ひょうかなんだよ!」

「風斬……?」

 

 キョトンとする当麻に対し、駿斗が口添えをする。

 

「恐らくは何らかの方法でAIM拡散力場に指向性を持たせて、風斬とその能力である『正体不明(カウンターストップ)』を制御しているのだと思う」

「とうまが触ったら、ひょうかが死んじゃうんだよ! ひょうかは私が何とかするから、だからとうまはひょうかに手を出さないで!」

 

 インデックスの必至の呼びかけ。その言葉に、当麻よりも先に駿斗が口を開いた。

 

「俺が風斬のもとへ行く」

「駿斗……」

 

 その言葉に、その場にいた5人が駿斗へと視線を向ける。

 

「どうやら、元凶であるやつも風斬のいる場所まで移動しているようだしな。当麻、俺がこれから戦う敵の情報をくれ。俺のところに『十二使徒』が来ていたから、恐らく当麻にはその上司が来ていたんだろ?」

 

 駿斗が確認するように目配せをすると、当麻はこくりと頷いた。

 

「当麻は黒服の連中を避けつつ『十二使徒』を発見、そして撤退させること。頼む」

「分かった」

「で、インデックス」

 

 当麻が承諾したことを確認すると、駿斗はインデックスの方へ向き直る。

 

「インデックスは俺と移動。お前の『知識』でこの解決方法を見つける」

「分かったんだよ」

 

 彼の説明が終わった時、ため息が3つ聞こえた。

 

 御坂、最愛、海鳥。3人の少女が、ため息を吐きながら傘を降ろしていた。

 

「何だか知らないけど、またアンタたちはデカい事件に巻き込まれているのね?」

「で、その中心には駿斗兄ちゃんたちの知り合いが超巻き込まれている、と」

 

 御坂と最愛は、非常にめんどくさそうな調子で言った。

 

「知り合いじゃないよ、ともだち!」

「1つだけ確認させてほしいんだけれど、そいつは悪人じゃないのよね?」

 

 インデックスの言葉を聞いた彼女は、当麻に訊く。とは言っても、それはほとんど答えの分かっていることを確認しているような調子であった。

 

「絶対に違う。あそこにいるのは、俺たちの友達なんだ!」

「友達、ね……」

 

 そう呟いた彼女は、路地裏の出た先で走り回っている『猟犬部隊』を一瞥する。

 

「じゃ、あいつらが悪者って訳ね?」

「役割が決まったところで、行こうか」

 

 御坂の呟きに、海鳥が答えるようにその手に窒素爆槍(ボンバーランス)を生成した。最愛も同じように、窒素装甲(オフェンスアーマー)を身に纏う。

 

「おい、お前」

 

 当麻が何か言いかける前に、御坂がコインを弾き、海鳥はその掌を黒いワンボックスカーへと向ける。

 

「悪いな、上条」

「止める間もなく、始めちゃうわよ!」

 

 そして、路地裏をオレンジ色の閃光と無色透明な槍が突き抜けた。

 

 貫かれたワンボックスカーが、爆発する。

 

 さらに、その後へつっこんで行った最愛がその腕を振るい、完全武装の『猟犬部隊』を数人なぎ倒した。

 

「おい、御坂!」

「罰ゲーム、まだ有効なんだからね?」

 

 御坂は、1人の男を踏みつけながら話す。

 

「アンタたちは、友達を必ず助けて帰ってくること! 分かった?」

「必ず守る! だからお前も、死ぬなよ!」

 

 御坂と当麻に続いて、最愛と海鳥は、幼馴染に向かって叫ぶ。

 

「駿斗兄ちゃんも、無理しないで下さいよ! 怪我したら超罰ゲームですから!」

「そうだぞ、絶対に帰ってきてくれよ!」

 

 駿斗も、それに応える。

 

「お前らこそ、俺に心配させるようなことするなよ! インデックス、まずは相手の術式の正体を知りたい。頼めるか!?」

「分かったんだよ!」

 

 3人は、走り始める。

 

「これは多分、『天罰』だと思う」

「『天罰』?」

 

 何処の誰だろうが、神様に唾吐くものは許さないという理屈。ある感情を抱いたものを、距離や場所を問わず叩き潰す、驚異的な術式。

 

「特定の感情……敵意や悪意か!?」

「うん。術者が術式を解除するまで治らないと思う」

 

 くそ、と彼らは歯を食いしばる。当麻は、焦ったように話す。

 

「じゃあ、風斬の天使の仕組みはどうなっている? あいつは大丈夫なんだよな?」

「分かんないよ!」

 

 インデックスは叫ぶ。

 

「外観が似ている魔導書はいくつかあるけれど、使われているパーツはめちゃくちゃ……見たことがないものばかりなんだよ!」

「風斬は科学サイドのAIM拡散力場でできているからな。無理もない。最低限、分かることだけを教えてくれ。俺に分かることは、1人の能力者を核としていることくらいだ」

 

 駿斗は、彼女の言葉に対して穏やかに言った。

 

「私にも、あの天使と核が別の場所にあることくらいしか……」

 

 インデックスの口調が、静かなものになる。しかし、そこで駿斗は素早く提案する。

 

「俺もできれば核の場所を一緒に探していたいが、あまり時間がない。当麻、まずはインデックスのケータイを御坂とつないでくれ」

「おう、了解」

「繋いだら、インデックスにそれを返せ。インデックスは、科学について分からないことをあいつらに訊け」

「分かったんだよ」

 

 駿斗は、1人1人指示を出す。

 

「当麻は、先ほど言ったように風斬から離れた場所にいる『十二使徒』を倒すこと。おおよその場所はケータイで送る。俺は風斬の場所まで行って、ヴェントを止めて、風斬を助ける」

「おう、まずは御坂だな」

 

 当麻は、電話を掛ける。そして何回か言葉を交わしたのちに、彼はインデックスに携帯電話を投げ渡した。

 

 3人は、1つの大きな交差点で別れる。

 

「行くぞ」

「おう!」「うん!」

 

 

 

 

 

 駿斗は風斬の下へと走る。そうしながら、同時にヴェントを倒すための戦略も練っていた。

 

(相手が『風』及び『天使の力(テレズマ)』特化型であることは間違いない。だが、今までに戦った魔術師とは威力が桁違いだ。純粋な力量で倒すにはやっぱり切り札の1つを切るしかないか)

 

 駿斗は、『幻想核杖(イマジン・コアロッド)』を作ると同時に、インデックスの協力のもといくつかの術式を創り出している。その中で、今までにない強力な術式も切り札として用意しておいた。

 

(学園都市の中で戦う以上、本来なら『あれ』の方が良いんだがまだ準備の方が足りていない。そもそも、あの術式は特定のフィールドでしか使えないからな。やっぱり『権天使(アルヒャイ)』でいくしかない)

 

 権天使。

 

 それは神学において、天上の存在の中でも大天使の上位の階級に存在するとされる存在。

 

 駿斗は、インデックスからの知識をもとに、大天使がそれぞれ対応している四大元素を全て掌握する。そしてその翼をもつことで、偶像崇拝の理論によって力を高めることを考えたのだった。

 

(どのくらいの時間使えるのかが、問題だな。『神の力(ガブリエル)』だけだったら1時間くらい続くかもしれないが、四大属性を一度に扱うために『権天使』だったら15分。長くても20分が限界)

 

 しかし。

 

(このAIM拡散力場の中だったら、下手に『神の力』だけにするよりも『権天使』で、各属性を相生や相剋を利用して制御した方が良い。それに、純粋な力だったら『権天使』の方が上だ)

 

 そして、駿斗は風斬の下まで辿り着いた。

 

「風、斬……」

 

 特徴的な丸メガネ。長い髪を、左側を少しだけ括ってある髪型。

 

 背中から紫電の翼を生やし、頭上には(ハイロウ)まで持っているが、彼女は間違いなく風斬氷華だった。

 

 駿斗は、迷いなく彼女の下へと駆け出そうとする。しかし、そこに1つの陰が現れた。

 

「あらあら。大罪人同士、傷のなめ合いでもやっているところだったかしら?」

 

 ヴェントだ。

 

「折角後回しにしてやろうと考えていたのに、自分から殺されに来ちゃったの? それとも、これ以上悲惨なものを見たくないから、先にぶっ潰してほしいってコト?」

「風斬はやらせねえよ」

 

 駿斗は、臆することなく前へと踏み出した。

 

「お前はここで倒す。『天罰』は解かせてもらう。それで終わりだ」

「私は、『神の右席』の一員としてそこの怪物を見過ごすわけにはいかないの」

 

 ヴェントがそのハンマーを振るう。猛烈な風が、風斬へと襲い掛かった。

 

 だが、駿斗は『幻想核杖』を振るうと、それを相殺する。

 

「俺の友達に、手を出させはしねえ!」

 

 駿斗の背から、赤、青、黄、緑――四大元素を示す色を持った四枚の翼が噴き出した。

 

 『権天使』。

 

 駿斗は、1人の友達を守るためにヴェントの前へと立ちはだかる。

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