「なるほど、ロシア国内の日本人・イギリス人たちか」
「ロシアも、急に戦争、になったもの、ですから、慌ててあちこち、に基地を作っていますから、ね。そういう時、敵国の人、たちの集落をどかした方が、世論とし、ても受け入れられやすいです、し」
「『保護』という名目での『監視・厄介払い』ってところか」
馬車型霊装『スバジルファリ』の中に入れられていた人たちを確認した駿斗は、ひとまず彼らを解放した。
とりあえずユリヤの提案で、彼らには近くの田舎町に移動してもらうことにした。地形的にも、一時的な拠点としては使用しづらい湿地帯であった。もっとも、11月の今は、他の地域と変わらず雪に覆われていたが。
そこに移動しているときに、ユリヤがぽつりと言った。
「懐かしいです」
「え?」
「私、一応ここの出身、なんですよ」
彼女は笑顔でそう言った。
(……『一応』?)
その言葉にひっかかりを覚えた駿斗であったが、彼女にもいろいろな事情があるのだろう。強引に聞き出すようなことではないと駿斗は考え、それ以上その話題は続けなかった。
「そっか、じゃあ、道案内は任せるよ」
「はい、お任せあれ、です!」
彼女は元気にそう言うと、鼻歌交じりに先を歩き始めた。
「じゃあ、この辺りの空き家を、使用し、てもらうのはどうですか? 過疎化が進ん、でいる地域な、ので、そういった物件、は多いですよ」
「確かに、この戦争が終わるまでの、暫定的な住みかとしては十分かな。必要な建物の修理とかは、俺が能力や魔術でやっておこう」
こういうとき、活躍するのが『
そんな駿斗の特技と能力のお陰もあって、とりあえずの人々の宿は確保することができた。
用意された家々に、人々は嬉しそうに家族単位で入っていった。その場で不満などが生じないように、家族ごとに人数に比例して十分な大きさの家を分けていき、余った家は集会場のように使用してもらうことにする。
人々が笑顔で新しい住まいを確認しているのを見て、駿斗もユリヤも頬を緩めた。
「じゃあ、この人たちも、戦争までの仮の住まいを手に入れたところで……俺はフィアンマと『十二使徒』の残りの3人について対策を立てていこうと思うんだが、ユリヤはこれからどうするんだ?」
駿斗は、このままこの場所に留まっている理由はない。対しユリヤは、その目的上利害が一致しているため、一緒にいただけだ。
しかし、その過程で発生した今回の人助けによって、ユリヤは今回の目的をほぼ達したということになる。
しかし、彼女は言った。
「私の、魔法名、は、『
「つまり、このままロシアが目を付けそうな場所を、順番に探っていくって感じか?」
ユリヤはその言葉に頷く。
一方で、駿斗もどう動いていこうかを考えていた。
(フィアンマについては、ロシア軍やロシア成教の動きを監視して『微妙におかしな動き』を探していけばたどり着ける気がするが……その裏で、あいつら『十二使徒』がどのように動いているのかが気になるんだよな)
今回、『十二使徒』は未だその姿を見せていない。
しかし、今回の戦争の目的として、ロシア・フランスがローマ成教側に協力していることを考えると、そちらの関連施設にいる可能性が高い。
そして、フランスがイギリスと戦わせるための尖兵だと考えると、魔術の儀式に最適なのはロシアだ。何しろ、ロシア成教のおひざ元であり、そこにはさまざまな魔術的な物があるはずなのだから。
(今回、当麻は自分の右腕を狙っているフィアンマの野郎と直接対決することになるだろうし。そうすると、俺は『十二使徒』の3人を探しだすのが最適か?)
彼はそう考え、この後の行動の指針を考え始める。
「今日はラッキーデイだな」
フィアンマは、エリザリーナと上条を押しのけると、右手で軽く指を弾くような動作だけで、人ごみの合間をとてつもない速度で縫って襲いかかろうとしたサーシャを、あっさりと吹き飛ばした。
フィアンマがここにやってきたときも、同じだった。その右肩から生える奇怪な形の『第三の腕』が振るわれると、明らかにその範囲外にいる人間も吹き飛ばされる。
武器が持つべき間合いを無視した『射程距離』は、皮肉にも、先日のクーデターで
ただし、その威力は文字通り桁違いである。
一度に複数の敵であろうと、倒すのに最適な出力で、間合いを無視し、確実に不可視の攻撃を喰らわせる。
その攻撃で、この場にいた人々は次々と倒され、今動くことができるのは当麻だけになった。
当麻は、静かに右手を構える。
フィアンマの前には、親友からもらった手袋であろうと紙きれのようにされるだろう。学園都市製の防刃繊維でできていようが、手の甲の部分に硬い合成樹脂のプロテクターが備わっていようが、あの『第三の腕』には意味がない。
この場であれに拮抗できるのは、唯一
そう覚悟を決めた時、フィアンマが不自然な行動を取った。何気ないしぐさで、首を横に振ったのだ。
先ほど既に、建物壁は壊されてしまっていて、彼らたちは大勢の民衆がいるどこかの広場へと移動していた。その野次馬たちは、相変わらず何が起きたか分からない顔で呆けている。
しかし、曲がりなりにも『魔術』というものに関わってきた当麻は驚愕した。あのフィアンマが、はじめて自身に向けられた攻撃を回避した、その重大さが分かったからだ。。
「懐かしい顔だ」
黄色い服装をした女だった。派手な、パンクファッションの仲間のような化粧をしているその姿は、他人からあえて嫌悪感を集めようとしているように見える。
前方のヴェント。
9月30日に『天罰術式』によって、たった1人で学園都市の機能の大半を奪った『神の右席』の一員である。
「別に、そこらのガキやロシア成教のシスターに肩入れするつもりはないんだけどさ。いい加減、アンタがローマ正教を引っ掻き回すの、見てらんないのよねえ」
ローマ正教20億人の頂点に立つ2人の衝突が、始まった。
氷の巨大な錨が、フィアンマの肉体を数キロ単位で吹き飛ばす。
ローマ正教が誇る『聖霊十式』のひとつ、『アドリア海の女王』から生み出される氷の帆船『女王艦隊』。
これを実戦レベルに調整したのが、ほかならぬヴェントであり、また、彼女の扱う属性である『風』は、嵐のエピソードを介することによって『水』の力もある程度引き出す特性を持つ。
錨はフィアンマを抱えたまま起爆し、巨大な氷の杭を無数に生み出した。その剣山が生み出されたのが原野だったのが幸いして、地下のシェルターが地表に露出している様子はない。
その姿を見て、前方のヴェントは嘲るように笑う。
「無駄弾を撃ちすぎなのよ、間抜け。……つっても、もう聞こえていないか」
『そうか? 俺様はお前が思っているより物持ちは良い方だぞ』
その言葉の直後、氷の剣山が砕けた。
その光景に反して、氷の欠片が空から降り注いでくることはなかった。だが、それで民衆に怪我が出ないことを、彼らは素直に喜ぶことなどできない。
それは、フィアンマの生み出したエネルギーによって、全てが風に流されるほど、粉々に砕け散ったことを意味しているのだから。
その先には閃光があった。それを見たヴェントの顔が、苦渋に歪む。それは紛れもなく、フィアンマの『第三の腕』であった。
『空中分解そのものは避けられないようだが、この状態で固定することには成功した』
そんな彼の手にあるのは、インデックスの遠隔制御霊装だった。彼はその叡智をもって、既に自分に課せられた制限を取り払っていたのだ。
ヴェントもただ黙っているのではなく、再び氷の戦艦を動かした。砲弾が空気を揺らし、氷の錨がフィアンマを押しつぶすために迫る。だが、フィアンマは避けることすらしなかった。
ただ、その右腕を振るうだけ。
『破壊力は要らない。触れれば終わるのだから、相手を壊すための努力は必要ない』
ヴェントが舌打ちして、ハンマーを取り出す。高速であやとりを行うかのように、急造でありながら、一流の魔術師ですら届かない魔術を生み出そうとする。
しかし。
『速度は要らない。振れば当たるのだから、当てるための努力は必要ない』
気づいた瞬間には、数キロ先にいるはずのフィアンマがヴェントの懐まで潜り込んでいて、彼女を吹き飛ばした。そして、宙に舞う彼女の舌に付けられたピアスの十字架を、フィアンマは無造作につかむ。
当然ながら、ヴェントはそのままの速度で後ろへ吹き飛んでいく。そのため、ピアスはフィアンマに捕まれた状態でヴェントの舌から引きちぎられた。そして、ヴェントの肉体は広場に突き立っていた氷の帆船の柱に激突する。
そこでようやく、ヴェントの絶叫が炸裂した。
「がァアアアあああああああ!?」
悲惨な光景を前に、広場にいた人々が次々と走り去っていく。その中で、それでもヴェントは立ち上がろうとしていた。
「ご、ぶっ、何が……!?」
「簡単なことだよ。俺様が保有しているのは、『右腕』そのものではなく、右腕に備わっているべき力だ」
十字教において『右』は神聖なものであり『対等』を表すこともある。それゆえに、多くの儀式で用いられる。十字を切るのも、聖書を記す時もそうだ。聖書の中で言えば、天使長『
極端に言えば、十字教で説明できる奇跡の全てを引き起こす『右手』、それがフィアンマの『聖なる右』であった。
しかし、これはヴェントが言ったように不完全な代物である。だが、それはフィアンマに限ったことではなく、世界そのものもまた、ねじれていたのだ。
「『
フィアンマは、そのことを指摘した。
ミーシャ(Misha)は、ロシアの男性名ミハイル(Mikhail)の愛称として使われるべ
き名前だ。そして、その綴りから察せられるように、この単語は天使長『神の如き者』の別名である。『神の力』が名乗るには相応しくない。天使にとって、名前とは神が自らを造った理由そのものであるというのに。
また、前方のヴェントが『
人々が暮らすこの世界を構成する、四大属性。それが歪んでいる。
そう語るフィアンマの背中めがけて、当麻は突進した。
「振り返る必要は、ない」
吹き飛ばされる。
それは『上条当麻を吹き飛ばす』のに最適な出力でもって、間合いを無視した不可視かつ必中の攻撃だった。
RPGで例えるとするならば、『戦う』とか『道具』などと一緒に、『倒す』というふざけたコマンドがあるかのような。
「愉快なやつだ」
フィアンマは、ヴェントと当麻の2人を見ながらそう言った。
「一番愉快なのは、多くの他者へと触発されて自ら死地へと赴いておきながら、結局全ての成果や報酬はお前自身の中へと蓄積されてってるところだな」
「何が、言いたい?」
「お前は自分の行動が善だと、本当に確信をもって言えるのか?」
フィアンマと上条当麻。
どちらとも、その右腕を振るうことで何かを変えることができる存在だ。
「俺様には確信がある。……自らの行動が絶対的な善の到来を意味するものであるとな」
「……そのために、インデックスがさんざん苦しめられていても放っておけっていうのか」
ふざけるんじゃない。
ローマ正教もフランスも自分の都合でチェスの駒のように動かし、その結果イギリスにクーデターを起こさせて、大勢の人々が苦しんだ。
そんなものが善など、認められるわけがない。
「なら、それを止めるお前は善だとでも?」
「善かどうかなんて、問題じゃない」
インデックスが苦しんでいる。
フィアンマの勝手な都合で始まった戦争のせいで、大勢の人が苦しんでいる。
それだけで、理由は十分だ。
「少なくとも、大勢の人たちを苦しめて喜んでいるお前に言われる筋合いはねえ」
「愉快だな」
だが、フィアンマは笑いながら告げた。
「生まれつき
その言葉に、当麻の思考に空白が生じた。
自分が、神谷駿斗を否定する存在だと?
確かに、当麻の右手に宿る『
だが……否定する存在というのは、どういう意味だ?
『あの幻想創造に至っては、その本来の力を発揮することができれば「十二使徒」の3人程度、他の作業の片手間で戦ってもお釣りがくるでしょうにねえ』
かつて、フランスのアビニョンで左方のテッラが言っていた言葉を思い出す。
『お前が持っている「右手」だって似たようなものなんだからな。俺様もお前も、その隣の貴様も未完成であることまでそっくりなんだが』
フィアンマがイギリスで発した言葉も、突きつけられる。
「まあ、仕方がないのかもしれないな。本来教えるべきものを教えるはずだった存在がいないのだから」
(こいつ……!)
親友への侮辱の言葉を聞きながら、当麻は壊れそうなほどに右手の拳を握りしめた。
(本当に、駿斗のことを知っているのか……親友に宿る、幻想創造の正体を)
そのことについて、インデックスと出会ったその直後に話し合ったことはあった。
だが、その時には魔術に対する知識が不十分であり、その上インデックスは超能力に対する知識がまるでなかったものであるため(今でも大して変わりないが)、大した考察はできなかったのだ。
しかし、目の前のフィアンマの口調は、その正体の見当をつけている様子だ。
「お前たちはずいぶんと仲良くしているようだが、それは互いに自分のことを知らないからに他ならない。全てを知ったとき、互いにその関係を保ち続けることができるのかどうか。ジャッジが下るのが楽しみだ」
悪意ある言葉にその体を締め付けられた当麻は、フィアンマが再び『第三の腕』を振るったことに反応もできなかった。
「まずはひとつ」
カメレオンの舌に巻き取られるかのように、サーシャの体が『第三の腕』の中に納まっていた。
「二つ目も頂きたいところだが、やはり相性の問題があるな。簡単に死ぬなよ。その右手にはまた用があるからな」
「フィアンマ!」
当麻はようやく声を上げるが、声の代わりに帰ってきた爆風を右手で打ち消すと、そこに2人の影はなかった。
その誰もいなくなった空間を見つめながら、フィアンマの声だけがその耳に残った。
『全てを知ったとき、互いにその関係を保ち続けることができるのかどうか。ジャッジが下るのが楽しみだ』
「結局、最終的にはどうするつもりなんだ?」
浜面は、その言葉に答えることができなかった。
小さな集落に辿り着いた彼は、そこで盗んだディーゼル車の燃料と引き換えに、彼女へ医者と燃料を提供してもらったのだ。
もっとも、学園都市の科学技術で作られた『体晶』の副作用に対して、適切な処置が『外』の医者にできるはずもない。しかし、まともなベッドを提供してもらえるというだけで、今はありがたかった。
「何だか慌ただしいな」
浜面が周囲の様子に目をやると、集落の大きさにしては多すぎる人々が動き回っていた。彼らには知る由もなかったが、当麻が助けた人々である。
「定期的に物資や燃料は運搬される予定だったんだが、こんな状態だろ。ロシア軍が進路上に駐留したおかげで、ルートが分断されてしまったんだ」
「済まねえ……」
俺たちのせいだ、と言ってから、浜面はそれが大げさすぎることに気が付いた。
ディグルヴは、そんな彼に首を横に振った。
「本当は分かっているんだ」
「?」
「第三次世界大戦がはじまる前から、この集落はロシア軍に狙われていたんだ」
この集落のすぐ目の前には、エリザリーナ独立国同盟との国境が存在する。侵攻用の前線基地をつくるには格好なこの土地では、『独立国同盟からの進行を阻止する』などという名目で、輸送機から大量の地雷をばらまかれるなど、軍の横暴な行為がまかり通っていたらしい。
そして、彼らはそれを安全に回収してNGOに渡すことで、平和維持活動への協力の報酬として、食料と物資を得ていた。
しかし、そんな当事者でも、ロシア軍がそこまでしてエリザリーナ独立国同盟に攻め込みたい理由は、はっきりと分からないのだった。
そのとき、後ろからザク、と雪を踏みしめる音がした。
振り返ったディグルヴが、浜面を雪の上へ突き倒してから、抗議の間もなくそのまま建物の影へ一緒に飛び込む。
「ロシア兵だ。周囲には一応、侵入者防止用のセンサー類を取り付けていたんだがな」
しかし、のろのろと歩いていたそのロシア兵は、雪の上に倒れてしまった。たっぷり30秒以上経過してから、2人は兵士に近寄る。
「凍傷だな」
すると、彼は2人を見上げながらおぼろげに何かを呟いた。
「助けてほしい、だと。近くにある空軍基地で『荷物』を待っていたんだが、それが到着する前に学園都市に襲われたらしい」
こいつを見捨てても何も状況は変わらない。そのため、この男をディグルヴと浜面が運ぶこととなった。
だが、診療所の前まで来たところで、状況は突如として変わる。
診療所から現れた10歳ほどの少女が、ロシア語でなにかをまくしたてた。ディグルヴはしばらく怪訝そうな顔つきをしていたが、その言葉の内容が分かると、彼の表情が変わる。それを見て、浜面にも緊張が走った。
少女が出てきた診療所は、滝壺が休んでいる場所だったからだ。しかし、ディグルヴはさっさとその中に入ってしまった。浜面は慌てて中に入ると、入り口近くの電気ストーブの前にロシア兵を降ろす。
「プライベーティアだ……」
「何だよそれ」
日本語では私掠船と呼ばれる制度だ。元は中世に存在した、国家公認の海賊(のようなもの)である。
それを、ロシア軍では現在でも採用しているという。
ロシア製の最新兵器を押し付けて汚れ仕事をさせ、いざとなれば書類上で部隊を解体し、政治犯収容所に送りつけたことにして、各々の国へ逃亡させる。
そんなごろつきのような連中がこの場所へ来るという事実に、浜面はぞっとした。加えて既に、少し離れた場所にある、磁気で人を探知する見張り用の鉄塔を、先ほど破壊された。彼らの攻撃圏内にこの集落が入ってしまうまで、時間がない。
「どうするんだ……!? どこに逃げりゃいいんだよ!?」
彼が思わずそう叫んだとき、周囲が慌ただしくなった。
「ついに来たか!? にしても早すぎる!」
ディグルヴが叫ぶと、診療所の中に慌てた様子でライフルを持った男が入ってきた。この集落の人だ。そして、早口で何かの言葉をまくしたてる。
そのロシア語を聞いたディグルヴが、怪訝そうな表情になっていくのを見て、浜面の心拍数が上がった。
(まさか、もっとやばい状況になっているんじゃ)
そう考えたその時、彼は思わず叫びそうになった。
なぜなら、その男の後ろから見知った顔が現れたからだ。
「やっほー、浜面。滝壺さんはどこですか?」
「まったく、寒い場所に来たら、どうも面倒な事態になっちまってるようだな」
「結局、行き着く先は同じだったみたいな訳よ」
「久し、ぶり」
外見ではとても戦場に似つかわしくない13歳の少女3人と金髪の少女は、あっけらかんとした様子でそう言った。
ここは、ロシア軍の空軍基地……だったのだが、学園都市暗部組織の襲撃のお陰で、跡地と化した場所だった。
白い髪に赤い目をした彼の姿も異様ではあったが、彼とその腕の中にいる少女を取り囲んでいる、10人ほどの男女の方が異様だった。
単なる兵士とは思えなかった。そもそも、実に纏っている服は軍人のものではなく、修道服だった。そして、手にしている武器も、ロシアに似つかわしいカラシニコフなどの銃ではなく、特殊な装飾がされた剣や槍といったものだった。
彼らからは『グループ』の1人である海原に似たような圧迫を感じる。
だが、今の彼にとって最優先であるのは、それではない。その腕の中にある
彼は彼女に攻撃が逸れるのを防ぐために、意図的に防御力を落とした。そして、攻撃用のベクトルを全て右手だけに集中させる。
ゴッ! という轟音と共に、彼は駆けだした。
彼が軽く腕を当てる。それだけの動作で、槍を持った男がノーバウンドで10メートル以上吹き飛ぶ。
「ヴォジャノーイ!」
薙ぎ払われた修道服の男の言葉で、集団は我に返った。そして、一方通行の斜め後ろに立っていた女――おそらくはヴォジャノーイ――が、手の指を不自然に動かした。
その直後、彼女の周囲の雪が溶け、水の槍となって彼に襲い掛かった。
不可思議な攻撃に対し、しかし不可思議な現象に慣れている彼は、速やかに対応した。唯一『反射』を適用した右手で、それを迎撃する。
だが、水の槍は七色の光となって散り、斜め後方に逸れていくだけであった。それは重圧のある壁となって、周囲の修道服を数人なぎ倒してしまう。
しかし、その様子に、一方通行は眉をひそめる。
(反射が……通用しない?)
おかしい。
本来ならば、水の槍はそのまま彼女へと向かい、その体を貫かなければならなったはずだ。
一方通行にとって不可解なその現象は、彼女にとっても同じであったらしい。再び同じような水の槍を生み出し、一方通行に向けて放つ。もっとも、それは一方通行にとっても好都合であった。
しかし、その2回目は先ほどとは異なっていた。とはいっても、彼の『反射』を貫通したからではない。逸れた七色の光が、打ち止めの顔を掠めそうになったからだ。
「……気をつけろ」
その言葉と共に、周囲の雪が津波のようになって彼らに襲い掛かった。敵が全て気絶したことを確認すると、今の水の槍について考える。
学園都市の水流操作系の人間のものとは、明らかに異なるベクトルを持っていた。
違うベクトル。――違う法則。
そのことについて、襲撃者から聞き出そうと歩き出したその時、上空から学園都市の超音速爆撃機が、何かを落とした。爆弾ではない。ハンググライダーのような、滑空機構をもつものだった。
敵だ。
彼は再び電極のスイッチを入れ替えると、小石を蹴り飛ばして、それを撃ち落とす。だが、それに乗っていた人間がそのまま墜落することはなかった。
紫電が散った。
段階ごとに空気を爆発させて、その人型はふわりと雪原に着地する。
一方通行は、そのことに驚いた。あの高さから着地したことに対してではない。気にしていたのは、使用された能力だ。
それは、とても見覚えがあるものだった。
そして、その後に姿を現したその襲撃者の髪の毛も、とても見覚えのあるものだった。
白い戦闘服を身に着けた彼女は、その顔を仮面のようなゴーグルで覆っていた。しかし、一方通行はその腕の中に抱く少女と、襲撃者が似通っていることを感じ取っていた。
そして。
「
一瞬、その言葉に凍り付いた一方通行に、彼女は容赦なく襲い掛かった。