とある神谷の幻想創造 神の右席編   作:nozomu7

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3人の思い

「ははっ、スゲーなオイ! ありゃあ一体何なんだ!?」

 

 廃ビルのオフィスを改造した『猟犬部隊(ハウンドドッグ)』の拠点の1つで、木原数多は歓声をあげた。

 

 上層部から与えられたウイルス『ANGEL』を打ち止め(ラストオーダー)学習装置(テスタメント)で打ち込んだ結果現れた、大量の紫電の翼。

 

 その姿は、まさに天使だった。

 

「ちくしょう、飛んでやがるなアレイスターっ!! 理論のりの字も分かんねーぞぉ!? 科学者のくせに科学を否定するたぁ、何たる科学者だよ」

 

 彼の後ろに待機している5人の『猟犬部隊』は、あまりに予想外の展開について行けず、ただ呆然と窓の外を見つめていた。

 

「見ろよテメェら! 聖書ってのはいつから飛び出す絵本に……」

 

 彼らは木原数多の言葉に従っているのか、それともただ呆然としているだけなのかも定かでないまま、ビルの窓から紫電の翼を見つめている。

 

 だが、その時窓の外に1つの影が現れた。

 

 紫電の翼ではない。それは白い悪魔だった。

 

 ライフルを片手に持ったまま、一方通行はためらわずに窓を突き破って入って来る。そして、黒服の1人を蹴り飛ばした。当然、すでに彼のチョーカーのスイッチは能力使用モードへと切り替わっており――その男は部屋の壁へと叩き付けられる。

 

 そして、彼はすぐに体の向きを変えると、銃口を木原数多に向ける。しかし、放たれた銃弾は彼には当たらない。木原数多は側にいた部下の1人を盾にしたからだ。

 

「ほら、ちゃーんと狙って撃てよぉ。じゃねーと、皆の迷惑だぜ!!」

 

 一方通行は、木原数多の安い挑発を無視し、慌てて武器を構える男たちを優先した。

 

 1人の男が手榴弾のピンを抜いたのを確認すると、一方通行はためらわずに男へと肉迫する。そして、隣にいた奴も一緒に巻き込みながら、部屋の隅へと蹴り飛ばした。

 

 手榴弾が爆発し、2人の男が爆発にのみこまれる。

 

「ひっ!?」

 

 その光景を見た最後の男は、咄嗟に事務机の上に寝かされていた打ち止めを掴み抱きかかえた。人質として交渉を考えたのだ。

 

 しかし、それは今の彼にとって最悪の選択だ。

 

 脚力のベクトル操作によって、一方通行が一瞬で真横まで距離を詰める。そして、逆手に持ったショットガンのグリップで頬を打った。

 

 あまりの衝撃にショットガンが砕け、複数の金属のパーツが弾けるように飛び出す。

 

 男から解放された打ち止めの体が宙を舞う。しかし、彼は放り出された打ち止めの身体をキャッチすると、再び彼女をオフィスのデスクの上へと乗せた。

 

「カッコイーッ!! 一皮剥けやがって、惚れちまいそーだぜ一方通行ァ!」

 

 しかし、その様子を見ても木原数多は余裕を見せるかのように笑う。実際、先ほど証明した通り彼にとっては学園都市最強の能力である『一方通行』も脅威にはならない。

 

 木原数多は、かつての研究によって『一方通行』を知り尽くしているからだ。

 

 触れただけで即死するその両手は、絶対に当たらないので問題ない。例え、拳1つで人間の肉体全てを破壊できるとしても、触れた途端に血流が逆流して心臓が爆発するとしても、『当たらなければ問題ない』。

 

 彼のキャッチコピーである『核を撃っても大丈夫』な、どんなに強力な兵器を使用しても体に傷1つ付かない絶対の壁『反射』であっても、『自分の体に触れたものの向き(ベクトル)を逆方向に向け直すだけのものでしかない』。

 

 金槌サイズの威力を顕微鏡サイズで制御する、この拳ならば『反射』が適用されるタイミングで拳を引けば彼の肉体に触れることは可能だ。

 

 能力さえなければ、ただの貧弱なクソガキ。

 

 だから、一方通行の能力の前に、木原数多が負ける要因は……ない。

 

「さァて、スクラップの時間だぜェ。クッソ野郎がァァァァ!」

 

 しかしそれでも、一方通行は絶望的な戦いに挑む。1人の少女を、『闇』から救い上げるために。

 

(制限時間はあと60秒)

 

 彼は、相手を黙って見据える。

 

(とにかく、こいつを倒せばすべてが終わる。俺はもう、光の道には戻れねェ。だから木原と一緒に、地獄へ落ちることだけを考えろ!)

 

 足元のベクトルを操作して、一気に距離を縮める。常人では反応しきれないその速度でも、彼の顔を木原数多の拳は正確にとらえた。

 

 頬から鈍い音が立つ。

 

 だが、一方通行はすぐに体制を立て直すと、再び木原数多に迫った。

 

 もう一度、彼の細い体に拳が叩き付けられる。

 

「どうした小僧! あのガキを助けに来たんじゃねえのかよ?」

「クソッタレが……!」

「おい、テメエ。ここで1人のガキ助けるためにデカい悪に立ち向かって。もしかして自分のことカッコイイとか思ってんのか!? これで自分のやってきたことチャラにできるとか思ってんのか? んなわけねえだろ! ハハッ、テメエは一生泥の中なんだよ!」

 

 木原数多の蹴りが、一方通行を吹き飛ばす。

 

 しかし、一方通行はそれでも机に手をついて立ち上がった。

 

(分かってンだよ。一生泥の中ってことくらい)

 

 それでも、彼には戦うべき理由がある。

 

(地獄に落ちるのは俺とオマエだけで良い。このガキまで巻き込むンじゃねェ!)

 

 一方通行は木原数多に飛びかかり、その顔に右手を伸ばす。

 

 あと少しで手が届く……だがその時、チョーカーのランプが消えた。

 

 タイムリミット。電池切れだった。

 

 木原数多は、一方通行の攻撃を横へ躱すと、そのまま床に倒れて行く彼を見ていた。

 

「ハハ……」

 

 白い少年は、そのまま動かない。

 

「ハハハハハハハッ!」

 

 木原数多は笑う。

 

「電池が切れりゃあ、ただの動かないガラクタってか?」

 

 彼は呟くと、打ち止めの方へと歩み寄る。だが、そこで低い音がした。

 

 木原数多が振り向くと、一方通行が机に手を突きながら、必死で立ち上がっているところだった。

 

「っ! ふざけんじゃねえぞ、このファッキン野郎!」

 

 憤った木原数多はその拳を一方通行に向かって突き出す。今まで、何度も彼を地へ叩き付けてきたその拳を。

 

 しかし、それは一方通行の左手によって捕らえられた。

 

「なっ……!」

 

 木原数多の表情が、初めて驚愕に染まる。今までの彼では、その拳を受け止めることはおろか、よけることすらもできなかったはずだった。

 

 本来弱体化しているべき、能力が使えない電池切れの状態。しかし、ここで窮鼠が猫を噛んだ。

 

 木原数多は、足首をつかまれて床に倒される。

 

(そうか、こいつが能力を使えないってことは、俺が用意した対抗策も無効になる)

 

 そう、彼が一方通行に対して有利を保っていたのは、彼の能力とその使い方を熟知していたからだった。逆に言えば、能力を使用していない一方通行との戦闘は想定外の出来事だったのである。

 

 彼は考える。一方通行を完膚なきまでに叩き潰す方法を。

 

 

 

 

 

 当麻は、駿斗から送られてきた情報を頼りに『十二使徒』の3人、ピエール、アンドレ、ジェームスを探していた。

 

「この次の角を曲がったところか」

 

 彼は携帯電話をしまうと、左手の『硬化手袋(フリックグローブ)』の感触を確かめながら、3人に向かって行く。

 

「やはり来ましたか」

 

 霊装であるX字型の十字架を持ったアンドレが、真っ先に当麻に気が付いて振り返った。いや、正確には2人もほとんど同じタイミングで気が付いていたようだ。

 

「お前たちはここで倒させてもらう」

 

 当麻は、3人を相手に啖呵を切る。

 

「今駿斗が、ヴェントと風斬の方へと向かっているからな。ヴェントを倒して、インデックスが風斬の『天使』の仕組みを理解すれば、あとはそのまま解決できる」

 

 『天罰』というのは、ヴェントの術式なんだろう? と当麻は言った。

 

 その言葉に、ピエールは頷く。

 

「そうですね。そもそも、ヴェント様が倒されてしまえば我々の力も削がれてしまいますから。もっとも、その心配はしていませんけれども」

 

 ピエールに続けて、ジェームスが言う。

 

「ですから、あなたは安心して玉砕してください」

 

 その言葉が言い終わった瞬間に、灼熱の炎が当麻に向かって放たれた。それと同時に、他の2人が左右へと当麻を囲むように動き出す。

 

「ちっ!」

 

 当麻はその炎には向かわず、まずは何の術式なのか分からないアンドレに向かって走り出す。すると、彼は地面を隆起させて土の塊を放ってきた。

 

 当麻は、それを打ち消すとそのまま彼に迫る。だが、彼はやはり距離を取った。

 

 さらに、横方向からレビが迫り風を水を放ってくる。当麻はそれを避けて距離を取ると、その後ろからやってきたジェームスに向かって突撃した。

 

 ジェームスは慌てて貝殻を突き出すが、間に合わないことを悟るとすぐに体をひねってその貝殻を守る。

 

 当麻の拳が跳ぶと同時に、彼はかがみこんでやりすごした。そして、その霊装を突きつける。

 

(まずい!)

 

 当麻はすぐに地面へと転がる。その直後、貝殻から暴風が放たれて周囲の地面を削った。

 

 強い風によって当麻は少しだけ地面を転がされたが、すぐに立ち上がると飛んできた瓦礫を『硬化手袋』で弾いた。そして、一度彼に向かってワイヤーを射出して牽制すると、そのまま下がって距離を取ろうとする。

 

 しかし、その先には回り込むようにアンドレが立っており、彼は炎の壁を作りだした。

 

(壁破壊後に攻撃か!)

 

 だが、当麻は次の攻撃を予測する。視界を奪った後に死角から攻撃するのは、今までの喧嘩で慣れていた。

 

 壁が右手で打ち消すと同時、彼はその体を屈める。土の槍がその頭上を通り過ぎた。そして、バネのように縮こまった体を思い切り跳び上がらせ、アンドレの顔面を拳が捉えた。

 

「アンドレ、下がりなさい!」

 

 渾身の一撃を放ったために、アンドレの口からは血が出ていた。しかし、それをチャンスとばかりに放たれた攻撃を、当麻は1撃目を打ち消した後に、2撃目を躱す。

 

 しかし、アンドレは霊装であるX字型の十字架を当麻へ向かって突き出すと、小さな水弾を大量に売って弾幕を張った。当麻は横に跳んで転がることで、右手だけでは打ち消しきれないそれを回避する。

 

 そして再びアンドレの顔を見据えた時には、すでに彼の血は止まっていた。当麻はそのことに疑問を覚える。

 

(口の中の切り傷なんて、そう簡単に治るものなのか? それとも、あまり拳に威力がなかった?)

 

 しかし、あの一撃は意識を奪うとまではいかなくとも、10秒くらいは戦闘から離れる必要があったはずだ。それに、あんなに簡単に血が止まるものとは思えない。

 

(魔術、か。簡単なものなら霊装だけでも発動できるとは聞いていたし)

 

 だが、治療が簡単にできるとなると厄介ではあった。基本的な攻撃方法が生身の拳である当麻にとって、一撃で意識を刈り取るような攻撃は、相手を追い詰めてからでないと厳しいからだ。

 

 1対1ならばいつも通りでも良いのかもしれないが、今は1対3であるため分が悪い。そのことも、彼は理解していた。

 

 飛んできた瓦礫を左手でいなして避ける。

 

「なんでお前らはこんなことをしているんだよ! そもそも、どうしてローマ正教は科学と魔術が相容れないものとするんだ! 単に能力者には魔術が使えないだとか、そんな単純な理由じゃねえだろ!?」

 

 当麻のその言葉に、一瞬彼らがキョトンとした表情をする。しかし、次の瞬間彼らの口から血が吐き出された。

 

「おい、お前ら……」

「分かっていないのですね……」

 

 ピエールは、血に染まっていく唇を動かす。

 

「そもそも、あなた方にしても魔術師(わたしたち)にたいして『堕天使』の出現に加えて『界の圧迫』などということを行っているではないですか。このようなことこそが、ローマ正教にとって最大の侮辱なのですよ」

「『界の圧迫』……?」

「今の天界を否定し、歪んだ科学によって我らの信仰の対象である神を冒涜する。そのような行いが、我らにとってはあなたたちに裁きを下す理由としては十分なのです!」

 

 ゴオ! と三人が同じタイミングで風を生み出す。それらは互いに重なり合い、一気にその威力を爆発的に増大させていった。

 

 差し出された当麻の右手に、今までにない重圧がかかる。

 

「ぐっ……」

 

 そこにジェームスによる追撃が迫る。当麻はとっさに体をひねることで、その風を斜め後ろ方向にずらしながら、2つの暴風を回避した。

 

(風が、魔術の軌道がずれた?)

 

 『消去』を利用した『干渉』。ここに来て、上条当麻は新たな戦法を身に着けた。

 

 幻想殺し(イマジンブレイカー)はあらゆる異能の力を問答無用で打ち消すが、一度に打ち消すことができる量には限界が存在する。それは、中学の時に駿斗と自分たちの持つ力を検証しているときから、知っていたことであった。

 

 しかし、具体的な線引きがどうしてもわからず、エネルギー量で計算しようとしても電気量と熱量によって異なっていたりしたために、結局『打ち消しきれないときはどうするのか』の答えは出ないままになっていた。

 

 そもそも魔術と出会っていなかったために、そこまでの死闘を繰り広げてはいなかったというのも、1つ理由にある。

 

「冒涜だと……」

「あの天使の存在そのものが、我々の危惧するものなのですよ」

「ふざけんな! 風斬は俺たちの友達だ! 仲間なんだ!」

 

 当麻は、力強く大地を蹴る。

 

「それ以上バカにすることは許さねえ!」

 

 魔術を打ち消し、軌道を逸らしながら、当麻は駆け続ける。彼らはさらに距離を取ろうとするが、そこで当麻は圧縮ガスのカートリッジを入れ替えると、ワイヤーを再び射出した。

 

 それが、ピエールの腕に絡みつく。

 

「っ! させません!」

 

 アンドレが魔術を放って牽制するが、当麻はそれを打ち消すと、ジェームスよりも早くピエールにせまる。1つの確信をもって。

 

(恐らく、あいつの効果は『魔術の効果の逆転』。防御の魔術とも考えたが、こっちならあいつの身体能力の増強も理由が付く!)

 

 当麻の考えた通り、ピエールはペトロが最期、逆十字で処刑されたことを題材にした『十字術式の効果の逆転』を使用していた。

 

 本来ならば自爆しても無傷で動ける強力な術式だが、彼の右手の前ではそれは意味をなさない。

 

 そしてついに、1人目、ピエールの霊装である『鍵』が破壊された。当麻はすぐに、距離を取る。そこで、1つの事実に気が付いた。

 

 今までの戦闘で巻き込まれたはずの、周囲の人間の中に怪我をしている人がまるでいないことに。

 

「ハハッ、日頃から不幸、不幸、って言っているけれど、これだけあれば十分に幸せじゃねーか!」

 

 

 

 

 

 駿斗とヴェントが、風斬氷華、いや、ヒューズ=カザキリの下で対峙していた。

 

 その背中に2対4枚の赤、青、黄、緑の翼を生み出している駿斗は『幻想核杖(イマジン・コアロッド)』を構え、いつでも能力や魔術を発動できるように準備をする。

 

 それに対し、ヴェントは余裕を持った表情でそのハンマーを構えた。

 

 最初に動いたのはヴェント。彼女のハンマーが振るわれると同時に、生み出された暴風が駿斗に襲い掛かる。

 

 だが、駿斗はその杖を振るうと、やはり同様に風を起こしてその全てを相殺した。

 

 ヴェントがハンマーを振るい、その舌から垂れ提げられている十字架に当たって高い金属音が響く。そのフェイクを看破している駿斗は、他の攻撃と同様に防いでいった。

 

 そこで、再びヴェントが口から血を吐き出すと、嘲るように言った。

 

「ったく、その肉体をローマ正教に捧げれば、アタシたちが有効活用させてあげるというのに。さっきから、そんなに気持ちの悪い天使まで庇ってまでして戦って、どこまでアタシを笑わせれば気が済むのかしら?」

 

 その言葉に、駿斗が怒りを見せる。

 

「ふざけんじゃねえよ、テメエ! こいつは、風斬は、俺たちの友達なんだよ! 例え、科学的な能力によって生み出されていたとしても、親友がその右手で触れるだけで砕け散ってしまうような儚い存在だとしても」

 

 駿斗は、神の力(ガブリエル)天使の力(テレズマ)を凝縮した水塊に、他の属性の術式を混ぜてから発射する。ヴェントがそれを相殺すると同時に、『聖人』をも上回る速さで彼女に迫る。

 

「それでも、俺たちの『ともだち』なんだ!」

 

 駿斗は杖を彼女に突きつけると、地面に押し倒す。翼から魔術が放たれ、周囲にクレーターが生まれる。

 

 だが、駿斗はすぐに彼女から距離を取る。ヴェントが間一髪で、圧縮した空気でその攻撃を凌いだからだ。

 

 再びヴェントが盾にするように、風を起こす。

 

「アタシは科学が嫌い」

 

 その暴風を、駿斗が杖と翼から魔術で迎撃する。

 

「科学が憎い!」

 

 その暴風をよけた直後、駿斗は気づいた。

 

(まずい、『天罰』に倒されている一般人がいたのか!)

 

 瓦礫の山で隠れていたが、そこにはまだ一般人が倒れていた。

 

 しかし、駿斗の注意がそれたその一瞬を、彼女は見逃さない。

 

「随分と余裕ね!」

 

 今までよりも多くの天使の力がこめられた風の塊が、駿斗を襲う。駿斗は慌てて、風で相殺することでそれを凌いだ。

 

 だが、先ほど放たれた暴風は容赦なく彼の後ろを抉っていった。つまり、一般人がいた場所を。

 

「テ、メエ……!」

 

 駿斗はヴェントを睨みつけるが、彼女は人を馬鹿にするような笑みを浮かべたままだ。

 

 しかし、駿斗はすぐに気が付いた。

 

(AIM拡散力場……粒子状に凝結させて?)

 

 空から光の粉が舞っている。風斬氷華の翼から、一般人を守るように。

 

「この偽善者が、何をやっているのよ!」

「ハハ、ハハハハッ!」

 

 ヴェントが叫ぶが、駿斗は笑い出した。

 

 そして、大声で叫ぶ。

 

「おい、俺の親友! 日頃から不幸、不幸、って言っているけど、これだけあれば十分に幸せじゃねーか! なあ、そうだろ?」

 

 この時、偶然にもその親友が同じことを言っていたことを、彼らは互いに知らない。

 

 しかし、2人は彼らの友達に対して感謝していた。自分が知らない間に、苦しい思いすらも感じられないかもしれない状態であるはずなのに、それでも誰かを守ろうとしている彼女に対して。

 

 その想いを、彼らは確かに受け取った。

 

「今、インデックスがお前を助けるために動いている。だから、俺はこいつをここで食い止める。……いくぞ!」

 

 駿斗は、そこでさらに翼を増やした。それは天使の力ではない。

 

 AIM拡散力場……『正体不明(カウンターストップ)』の模倣だ。

 

 科学と魔術。本来相容れないその2つを幻想創造(イマジンクリエイト)は、掌握する手段を創造する。

 

 6枚の翼が、空気を叩く。対し、ヴェントは複数の空気の塊を融合させて、巨大なものを創り上げた。

 

 両者が激突する、その直前にそれは起きた。

 

 

 ドオン! と、ヴェントの制御を離れた空気の塊が爆発する。

 

 

「ヴェント!?」

 

 自爆して後方へとその体を飛ばした彼女に、思わず駿斗は声をかける。

 

「ハッ、何バカみたいな声出しているのよ。あの天使の出現に合わせ、『界』全体に強制的に術的圧迫を加える。魔力の循環不全を引き起こすってトコか……。アレイスターの奴もやらしい手を考える」

 

 ヴェントがぶつぶつ呟いているが、駿斗はそれよりも気になった。

 

「そこまでして戦う理由なんてあるのかよ!」

 

 ヴェントはかなり消耗している。そして、AIM拡散力場による天使の力への干渉がある以上、彼女はその力を最大限に引き出せない。このままではただ消耗して力尽きていくだけの運命だ。

 

 しかし、彼女はそれでも続ける。

 

「白々しいセリフを吐いているんじゃないわよ!」

 

 ヴェントは素早くハンマーを振るい、複数の空気の塊を併せると今までの物を上回る恐ろしい速度でそれを撃ち放つ。

 

 だが、駿斗は翼を前面に展開して拮抗すると、さらに防御術式を展開して完璧に防ぐ。

 

 そして、ついに限界が来たヴェントが、そのハンマーを手からこぼした。

 

「限界が来たか。だったら、さっさと病院送りにしてやるよ!」

「黙れ!」

 

 駿斗の言葉に、ヴェントは声を荒げる。

 

「アタシは科学なんかに身を預けない! ……私の弟は、科学によって殺された」

 

 その言葉に、駿斗の動きが止まる。

 

 弟を殺された? 科学によって?

 

 遊園地のあるアトラクション。科学的には絶対に問題ないと言われていたそれが、誤作動を起こした。

 

 『何重もの安全装置』『全自動の速度管理プログラム』……そんな頼もしい単語が並べられていたそれは、何も役に立たなかった。

 

 その後病院に運ばれたときは、結局2人分の輸血が用意できず、弟の言葉に従って姉だけを助けた。

 

「驚いた? 『神の右席』がこんな理由で戦っているなんて。それでもアタシはね、『神の右席』を利用してでも科学を潰したいほど憎んでいるのよ!」

 

 彼女の想いは、決して駿斗には完璧に救えないものだった。完璧に彼女を救えるのはただ1人、彼女の弟だけなのだから。

 

 だけど、それでも真実を伝えることはできる。

 

「科学がお前の弟を殺した? 違うに決まってんだろ。その医者だって、2人とも命を助けたかったに決まってんだろ。その遊園地だって、ただ大勢の人の笑顔を作りたかっただけに決まってんだろ!」

「黙れ……」

 

 ヴェントはたじろぐが、駿斗はその翼をしまって、彼女に言葉を突きつける。

 

「お前の弟だって、ただお前が生きていてほしいと思ったからだけだろうが。復讐なんてしてほしいと願ったりなんてしないだろうが! お前はそいつの姉貴なんだろ。『お姉ちゃん』が、『弟』の復讐するなんて口実で、人を傷つけて良いはずがねえだろうが! 『お姉ちゃん』なのだったら、『弟』に対して胸を張っていられるような奴にならなきゃならねえだろうが!」

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