「この後に及んでも、続けるつもりか?」
駿斗が、口を開いた。
彼の『
しかし、それでもこの天空の様子は変わらなかった。そして、それによって、駿斗もその意味を理解した。
「確かに、大天使の『
だが、風斬と
駿斗&ユリヤ対タデー&シメオン&ジュダの戦いはほぼ互角状態。だが、徐々に駿斗の行動にユリヤのサポートが呼吸を合わせてきていた。
これでもはや、敵に勝ち目があるようには見えないのだが……。
「冗談を。大天使など、フィアンマ様のための儀式場を整えるために召喚しただけですので」
「儀式場……ただ、四大属性の歪み、を整え、天界をこの世界に近づけ、るためだけ、ということですか!?」
その言葉に、ユリヤが驚愕の声を上げた。
それもそうだ。その気になれば、人類を簡単に滅ぼせるほどの戦力を手に入れておきながら、その力は魔術に必要な儀式場を整えるために使おうというのだから。
それはつまり、
「そんなに重要なのか? あのフィアンマの『右腕』を完成させることが! そのためだけに!」
「ええ、その通りですよ」
彼らにとって、あの『右腕』の完成はすなわち、神話の時代の再来なのだ。
そのため、彼らが迷うことはない。
結果を重視する姿勢。そして、そのための過程に存在する犠牲を軽視する。
それは皮肉にも、学園都市と非常に似ていた。
「そしてあなたは、素材としては最高の媒体です。その肉体を取り込めば、フィアンマ様は真の意味における『神上』として、この地に永遠に君臨するでしょう」
「これ以上、人々が醜い争いをする理由はなくなる、というわけです。真の奇跡の前には、誰もがひれ伏すしかないのですから」
ばかげている、と駿斗は吐き捨てた。
結局のところ、それは管理社会であり、究極の恐怖政治なのだ。
もしも仮にフィアンマが完成すれば、その力の前には、戦争は無意味になるかもしれない。
病気や貧困も根絶させるのだろう。フィアンマが持つものが、『神の子』であり『天使長』の右腕の力だとすれば、それは可能だ。
だとすれば、この世のほとんどの悲劇はなくなる。
だが、それはあくまでもフィアンマの支配下に置かれた存在でしかないのだ。
「……それは、旧世代の絶対王政や、宗教分離がなかった、悪質な宗教国家と変わらない」
だから、駿斗はそれを否定する。
「名君が、あるいは教会が決めた法の下で、多くの者は安定した、幸せな暮らしを送れるのかもしれない。だが、その大多数の人のために、一部の意見は封じ込められ、どんな人生を送ってきたのか……それは、十字教徒のお前たちの方が知っているはずだろ!」
かつて、宗教裁判というものがあった。そこでは、多くの科学者が裁かれ、その功績を捨てるのを余儀なくされた。
魔女狩りなんてものもあった。滅茶苦茶な理屈で『神の加護』という言葉を都合よく振り回し、無実の女性たちが覚えのない罪を着せられた。
しかも、その風習は一部の地域ではあるが、現在にも形を変えて残っている。
目の前にいるフィアンマは、そのような、自分に都合のいい理論を振りかざす『教会』でしかない。
だから、駿斗はそれを否定する。
誰もが、心に抱いたものを口にすることもできない、そんな世界を回避するために。
「勘違いしないでいただきたい。フィアンマ様の救済は、過去の司教や司祭たちの、愚かで中途半端なものとは比べようもないのですから」
「かもしれないな」
意外にも、駿斗はそう言った。
しかし、その上で言葉を重ねる。
「だが、フィアンマの計画が成就された世界には、俺が今言ったこと以外にも、明確な問題点がある。……分かっているか?」
その言葉に、彼らは沈黙で肯定を返した。
そう、彼らも分かっているのだ。
……このような形を取った時点で、ある意味フィアンマの目的は破綻している。
なぜならば、あの男の前提では、世界は人々のとめどない悪意によって歪められており、それを完成した『右腕』の力によって浄化する、という目的となっている。
しかし、
「確かに、この世界には人々の間に対立がある。貧困がある。難病もある。その他にも、どうしようもない不幸が襲い掛かることもある」
それでも、と駿斗はそこで言葉を区切り、はっきりと言い放つ。
「俺は、奇跡ってやつを知っている。人が持つ思いやりの心も知っている。だから、どうしようもない『不幸』にだって、立ち向かえて来た」
使い古された言葉ではあるが、自分が生きてきたのは、間違いもなく、『ありふれた奇跡』の連続なのだ。
確かに、駿斗は学園都市に捨てられた。しかし、最愛と海鳥、園長先生という人と出会うことができた。
上条当麻と出会ったことで、多くの『不幸』に巻き込まれることとなった。しかし、そのおかげで彼らは唯一無二の親友となることができた。
インデックスという少女と出会ったことで、彼らは幾度も命がけの戦いに身を投じることとなった。しかしそのおかげで、ありふれた日常では決して出会うこともなかった人々と知り合い、時に肩を並べて戦うこともできた。
だから、神谷駿斗がこの世界に絶望しきってしまうことはない。
どんな辛いことがあろうとも、最後は全員で集まって笑いあえるのだと、心の底から信じることができた。
そして、それができるようになったのは、紛れもなく1人の少年のおかげなのだ。
破壊と創造。
死と生。
神を浄い魔を討つ者と、神より
神浄討魔と神也逸登。
両者が揃ったことは、紛れもない奇跡だっだ。
「……だから、ここでこの戦争を終わらせる。奇跡なんてものは、お前らが思っているよりも、誰もが常日頃、享受しているものだ」
その手に、莫大な力を込める。
駿斗は『
この一撃で決める。
その意思が伝わったのだろう、敵も防御態勢を取る。
タデーは、侵入を阻む結界を展開する。
ジュダは、裏切りの逸話を基にした、拒否の術式を発動する。
シメオンは、支配への抵抗の伝承を基にした、防御力向上の術式を重ねてかける。
互いに、この戦争の中で消耗している。そして、この一撃を放ってしまったら、両者ともに、今までのような必殺の術式は放てなくなるだろう。 駿斗はユリヤの助けを得られるかもしれないが、彼女も彼女で、あまり攻撃は得意ではない。どちらかといえば、補助などが専門なのだ。
ふう、と息を吐き、駿斗は術式を展開した右手を掲げた。
いや、それは魔術と呼んでいいものかも分からない。単純に、力を凝縮してぶつけるだけの、繊細さにかけた、暴力的なものだったから。
それはプロの魔術師からすれば、まるで素人が癇癪を起して暴走しているようにしか見えないかもしれない。
しかし、駿斗はあえてそれを選択した。
神に頼ることなどせず、単に己の力で道を切り開けるのだと示すために。
「お前らが、勝手に奇跡の定義を決めつけるっていうなら――」
全力で、その右手を振り下ろす。
「――まずは、その幻想をぶち殺す!」
その彼の一撃は、魔術というよりは単なるエネルギーの塊だった。術式ではなく、ただ手先の感覚に頼るだけで、その一撃を制御していく。
いうなればそれは、オートマチックで誰もが運転している複雑な機械を、全てマニュアル調整で操作しているようなものだった。
だが、本来それが、あらゆる異能の力を、感じ取り制御する駿斗の得意とするところである。
莫大な力の奔流があった。
その眩いほどの一撃に、しかし『十二使徒』最後の3人は、その全力でもって拮抗する。
衝突した力がせめぎあい、駿斗が押されそうになるのを、ユリヤはそのそばで補助的な魔術を使用して援護した。
互いの力がせめぎあい、そして周囲に爆発四散する。
((――倒しきれなかった!))
直感で感じ取ったのは、駿斗とシメオンだった。『抵抗』という術式を多用していることが、彼にわずかな余力をもたらしたのだろうか、1人だけ残っていた。
言葉はなかった。普段の様子からは考えられない原始的なうなり声さえ上げながら、ただ2人、両者は互いに向かって一直線に走る。
「まずは、この世界にある奇跡を探すところから始めろ、神様の弟子ども!」
両者の攻撃が交差し、そして片方の影が倒れた。
麦野沈利。
学園都市第四位の怪物であり、この場にいる海鳥以外のメンバー、浜面、滝壺、フレンダ、最愛の誰にとっても因縁の宿敵。
「ふふふ。くっははははははははははははっ!」
――顔を上げた麦野は、大きく舌を出していた。そこに、白い粉が入った小さなケースが乗っている。
体晶。
能力を意図的に暴走させるための薬品(?)であり、ロシアの平原をさまよっている理由のひとつ。
思わず、頭の沸騰するままに浜面は言葉を吐き出していた。
「この期に及んで、まだそんなつまんねえモンを滝壺に使うつもりか!?」
彼の激昂に対し、麦野はニヤリと笑った。
しかし、返答は言葉では返さなかった。
ベキリ、とケースをかみ砕いたのだ。
ジャリジャリ、という音がした。プラスチックの破片が、麦野の口の中を血に染めているはずだが、彼女からそんな様子は微塵も感じられなかった。
「滝壺だあ!? 何でそんな小物のことを、気に掛けなくちゃあならないのよ……」
浜面は、勘違いをしていたのだ。
彼らから、真正面から敵と定められたということは、その全力を叩きつけられるということだ。
「なあ浜面。第四位の超能力をどうしようもないほど暴走させちまったら、どれほど被害が拡大していくと思う?」
直後に、閃光の爆発があった。
上条当麻は、『ベツヘレムの星』の上で、右方のフィアンマと対峙していた。
魔術師のレッサーはこの空中要塞が浮かんだ時に離れてしまい、サーシャ=クロイツェフもまた、フィアンマが生み出した床の亀裂に落ちてしまった。
今ここでは、己の他に頼れる者はいない。
だが、彼には戦う理由があった。目の前の男がその手に持っている、禁書目録の遠隔制御霊装だ。
向き合ったまま少しずつ距離を取る当麻に、フィアンマは酷薄に笑いかける。
「お膳立てはもう終わった。そろそろ、その右腕をいただこうか」
「……そうまでして、ローマ正教の勝利ってのが欲しいのか」
当麻の言葉に、フィアンマは首を振った。
「ローマ正教のことなど、どうでもいい。基本的に俺様の行動は俺様のためのものだよ」
そもそも、フィアンマは自分が戦争の原因だとは思っていない。
彼は、あくまでも引き金を引いただけに過ぎない。世界大戦というものは、個人の思惑では発生しないものだ。世界中の人々が、その中に憤怒、怨嗟、嫉妬といったものをため込んでいなければ、こんなにも簡単に戦火は広がりはしない。
つまり、この世界の人々は、(この男のことを知っているいないは別としても)右方のフィアンマを免罪符としている、ということだ。
「だから、お前がやってきたことが正当化されるとでも?」
「思ってはおらんよ。思う必要もないからな」
第三次世界大戦において、フィアンマは二つの目的を持っていた。
ひとつは、計画に必要な物資を『戦争だから』という理由で集めるため。
そしてもうひとつは、フィアンマにとっての『倒すべき敵』を表に引きずり出すための儀式だ。
「いくら悪の王を切り伏せる剣を持っていたとしても、悪の権化が目の前にいないのであれば、剣を振り下ろすこともできんのだからな」
直後に、斬撃が来た。
真横からの一撃。
しかし、
「ほう」
上条当麻の体が真っ二つになることはなかった。当たる直前に、アッパーカットのようにして、下から拳を叩きつけたのだ。そのため、斬撃は当麻の頭上を突き抜けることとなった。
「単に受け止めるだけではなく、受け流すすべを覚えたか」
つまり、
その時。当麻にもフィアンマにも予想できなかった一撃があった。
白い光。
頭上からのそれを認識した直後、莫大な熱量がフィアンマに降り注いだ。当麻は顔を腕で覆ったが、それでも衝撃で体を後方に吹き飛ばされる。
しかし、
「学園都市の光学兵器か」
攻撃を受けている本人は、涼しい顔をしていた。莫大な光を『第三の腕』で、巨大な日傘のように受け止めている。
そして、その腕の一振りで光は霧散した。つまり、それだけの動作で、人工衛星をひとつ撃ち落としたのだ。
「驚くようなことではない。エリザリーナ独立国同盟でも披露したはずだぞ。俺様の右腕は、必要に応じて、試練や困難のレベルに合わせて、最適な出力を行う」
万能。
その言葉を体現したかのような存在。
速度。
硬度。
知能。
筋力。
間合。
人数。
得物。
それらすべてが、フィアンマの前では無意味なのである。彼のやることはただ一つ。右腕を振る、という動作だけで、全てが完了するのだ。
以前にあったらしい回数制限も、インデックスの知識で補強することで、克服されている。それは『フィアンマ個人の勝利』であり『政治的な勝利』とは異なるために、ロシア成教などを動かしていたのだろう。
だが、このデタラメな魔術を前にして、どうすればいいのかが分からない。
「とはいえ、誇るが良い」
最強の腕は一つの存在を理解できずにいた。つまり、あらゆる敵に対して最適な出力を自動的に調節する機能が、うまくはたらいていないのだ。
しかし、それはさほど問題になっていない。
ドッ! と横薙ぎの一撃が来た。
当麻は右手を『第三の腕』の先端に触れないかどうかというところで、掌をフィアンマの腕に沿わせるように動かした。
わずかにできた間に体をねじ込み、その懐へ飛び込もうとする。
だが、そこにフィアンマはいなかった。この男は、水平方向であれば、望むだけの距離を一瞬で移動できるのだ。
3000メートル離れた場所から、インデックスの遠隔制御霊装が起動する。
「警告。第二十二章第一節。命名『
ゴッ! と血のように赤い閃光が走った。とっさに当麻は右手を突き出す。
待っていたのは、指が折れるのではないかと思わせるほどの重圧だった。
しかも、
「やはり、単純な術式では分が悪い、か」
真後ろ。
第三の腕は、長大な光の剣を振り回した。
当麻の幻想殺しは、複数の攻撃に対処するのが難しい。しかし、当麻は全力で身をひねった。
「おおおおおおおおおおっ!」
同時に、右手の位置を少し変更した。赤黒い光線に対し、わずかに当たる程度の場所まで動かしたのだ。
ボウリングで、ボールをピンの芯を外すように当てることで、横方向に弾くように。当麻は、その光線の先を動かした。
つまり、彼の首を切断しようとしていたフィアンマの方へ。
(やっ――!!)
しかし、当麻は目を見開いた。フィアンマは自分に迫る光線に目もくれず、そのまま剣を振り回したのだ。
自らの足を払うようにして、当麻は斬撃を回避した。そして、斬撃、というよりはほとんど爆撃に近いような一撃は、自らの光線を吹き散らしながら、要塞の壁を破断していく。
「警告。第二十九章第三十三節。『ペクスチャルヴァの深紅石』――完全発動まで7秒」
遠隔制御霊装が赤い光を放った後、床から足の指、足首、脛、膝へと激痛が這い上がってきた。骨の痛みを強引にずらすような痛みが、当麻の足の中を上がってくる。
「くっ……がああああああああ!」
当麻は右手の拳を太股へたたきつけた。
「警告。第三十五章第八節。『硫黄の雨は大地を焼く』――完全発動まで5秒」
オレンジ色の灼熱の雨が、50ほど降り注ぐ。当麻は倒れたまま、迫りくる右手でその中のひとつを払いのけた。連鎖的に、その飛沫が他の雨と衝突して誘爆を起こす。
全ては撃ち落とせないので、当麻のそばに落ちた雨が、地面で爆発を起こした。その衝撃に打たれながらも、転がるように後方へ移動し、当麻は再び2本の足で立ち上がる。部屋も要塞も真っ二つにしておきながら、フィアンマ本人の動きは、常人のそれと変わりなかった。ただ右腕を振るうだけで、山が砕け大地が裂ける。
「この世界は歪んでいるよ」
たとえば、四大属性のズレ。
あるいは、第三次世界大戦の根底にある、ドロドロとした『負の燃料』。
神がつくったこの世界のシステムは、その歯車がうまく回るようにつくられていたはずだった。
しかし、この世界は歪んでいる。なぜか? それは、その歯車が限界に達しているからだ。
だから、それを元に戻す。
今までの犠牲は、全てそのためのもの。
目詰まりした埃を取り出すかのように、世界中の悪意をこの戦争を通して表出させた。そして、歯車についた汚れを落としたうえで、十字教規範という潤滑油を差して、元の軽快な動きを取り戻す。
しかし、潤滑油とはいっても、複雑なことをする必要はない。彼は、ただその絶対的な力を見せつければいいのだ。
「さて、人類はどこまで怯えれば現実に気づくかな」
従えば、フィアンマにより世界中の人々が救済される瞬間に立ち会える、と。『ベツヘレムの星』が夜空に輝いた時点で、すでに新しい時代が始まっていたのだ、と。
それは、神への冒涜なのかもしれない。
しかし、当麻が気になったのは違った。
「世界中の人間を救う、ね。……お前、『世界中』なんてものを、本当にくまなく見て回ったことがあるのか? そこでどれだけの人々が笑っているか、見たことはあるのか?」
「なるほど、興味深い意見だ」
ニヤリ、とフィアンマが笑った。
「だが、それは世界を救ってから考えるとしよう」
トン、と。
その音は、人間の右腕が斬り落とされたものとは思えないほど軽かった。
本来ならば、周辺数百キロは不毛の大地と化していたかもしれない。しかし、風斬の力を使って限界まで抑えたことで、最小限に留めることはできた。
ただ――
一方通行は、その前で愕然とする。
――一体、自分は何のために戦ってきたのだ。
本来、最優先で守るべき者を守ることができなかった……その事実に、心が折れそうになる。
結局、あの羊皮紙の使い方も使い道も、分からないままなのだ。
しかし、その時。
「なんとか、できるかもしれません……」
弱弱しい声が聞こえた。
一方通行と共に戦っていた科学の天使、風斬氷華だ。ほとんど消えかかっているが、なんとかギリギリのところで言葉を紡いでいた。
「何を言っている? 何とかできるってのは、何なンだ!」
時間がない中で、一方通行は結論を急かしたが、次の言葉に目を見開くことになった。
「9月30日……インデックス、という私の『友達』は……その子の頭の中に入っていたウイルスを、特定の『歌』を聞かせるという形で取り除いていました」
9月30日。そして、インデックス……禁書目録。
それは、あの怪物エイワスと
つながっている。
だが、その詳細が分からない。だというのに、科学の天使の輪郭がどんどん失われていく。
「オリジナ……ルのもの……は、私……のパラメー……タに対……応しているた……め、私か……ら派生……したあの……怪物には通……用し……ないかもしれ……ませんが……」
(歌? 五感を刺激して精神状態を制御する方法論か?)
かつて、自身が天井のウイルスに対して、頭の中の電気信号を直接刺激して制御したことがあったが、それを歌で行う、ということか。一方通行は考える。
しかし、その歌を一から十まで教えてもらうだけの時間がない。
「……大丈、夫……」
天使は、自分のこめかみにその人差し指を当てた。
「『歌』……は治療を受け……たその子……の頭の中……に記――」
消えた。……いや、強制的に学園都市へと『帰った』のだろうか。
「……生きているか?」
「生憎と。死んだふりをして楽をしようと考えた時期もあったけど」
番外個体もまた、潰れた車の中で話を聞いていた。そして、これからは彼女の力が必要となる。
「こいつは自分の記憶を他の
「そりゃ不用心な。司令塔がバックアップに触れるタイミングに合わせれば、司令塔によからぬデータを埋め込むチャンスが出てきそうだね」
「あァ。だが一般的には、その不用心は信頼って呼ばれているらしいな」
皮肉の応酬がされているが、風斬が言っていた『歌』のデータにアクセスすることができるのは、この場では番外個体だけだ。
しかし……それにアクセスすることができれば。
一方通行は懐の羊皮紙に手を伸ばした。
「パラメータについては、こいつを探れば見つかるかもしれねェ」
学園都市の『外』にある技術。それを使う。