転生したら竜でした 〜無敵の竜騎士は自重知らずで最強です。〜 作:ありけるみー
彼はこほんとわざとらしく咳払いをすると、押し寄せるモンスターどもの大群に向かって走り出していった。
「ちょおおおおおおぁああっ!!」
その奇妙過ぎる叫び声と迫真の走り方で、側から見た誰しも狂人のそれにしか見えなかったが彼にとっては必死だ。
「あ、危ない!!」
ダイくんが叫ぶとその隣に兄弟子――ポップくんが立っていた。
「心配するなって。先生はすげぇんだから」
「せ、先生?」
はいポップくんの生ボいただきました。
本物の声です。はい。もう思い残すことはありません。
そう確かにあなたの先生はすごい。
剣を抜くわけでもなく、ひたすら鞘に収めた状態で地に擦り付けながら迫り来る魔物どもを弾き返し、やがて島一周を果たしてしまった。
あれもとても高度な当て身の技術だ。
モンスターを倒すでもなく、気絶させるためだけに弱点を瞬時に見極めてそこへ最小限の力で突撃する。
弟子入りする前から色々と勉強になるな〜先生!
そうして彼が奇天烈な叫び声を上げ終える頃、同時に島一周マラソンが終わりの時を迎えた。
「邪悪なる威力よ、退け。マホカトール!!」
アバン先生が光の破邪呪文を唱えると、彼が必死で走り回っていた跡の地面の線が光出し、島全体を包み込む五芒星の形となっていった。
なるほど。こうやってマホカトールを出すんですね。
これは勉強になるぞ……。
「す、すげぇや……!!」
その秘技の派手さにダイくんも思わず声を上げていたが、この奥義の真価はそこだけではなかった。
なんと、アバン先生によって吹き飛ばされたモンスターたちが起き上がり、皆正気を取り戻していったのだ。
魔王の邪悪な意思から再び解放され、元の大人しいモンスターたちになった。
「荒れ狂っていた血が治っていく感じじゃ……!!これは……奇蹟か!?」
ブラスじいちゃんも震えが止まり、自分の意思で自由に動けるようになっていた。
やがて島全体にドーム状の光の魔法陣が展開し、完全に島を包み込んでいった。
「これは、邪悪な意志を持つ者は絶対に入れぬという魔法陣、マホカトールっていう呪文だよ」
ポップが自信満々に説明してくれた。
「マホカトール??」
ちんぷんかんぷんなダイくんにブラスじいちゃんが説明を補足した。
「誰でも彼でも使えると言う呪文じゃ無い。高度な結界呪文じゃ。……あなたは一体……?」
「あ、コレは申し遅れました。私は……」
アバン先生は懐から怪しげな巻物を取り出し、みんなの前で広げてみせた。
「こういうものでございます!」
そこには『勇者の育成ならおまかせ!!この道15年のベテラン アバン・デ・ジニュアールⅢ世』と書かれており、さらに隅っこに『魔法使い、僧侶も一流に育てあげます。〝私に連絡下さい。ドゾヨロシク〟』とまで書いてあった。
「アバン・デ・ジニュアールⅢ世、勇者育成業――ま、平たく言えば家庭教師ですな」
「「家庭教師ぃ!?」」
そのあまりにもぶっ飛んだ自己紹介に一行は面食らっていた。
「そう!正義を守り悪を砕く平和の使徒!!勇者、賢者、魔法使い!!彼らを育てあげ、超一流の戦士へと導くのは私の仕事なのです!!」
先生が大見栄を切って堂々とポージングを決めている時、ポップくんは隣で紙吹雪を撒いたり「いえーい」と囃し立てたりした。
恒例行事なのだろうか。
あと先生めっちゃテンション高かったんだな。
アニメとか漫画とかで見るやつより1オクターブくらい声高いしハリがあるぞ。
「これは弟子のポップです。現在魔法の修行中の身であります」
「へへ……ども」
そうして隣のポップくんが紹介され、私たちに軽く会釈した。
(アバン……?どこかで聞いた名じゃ……)
摩訶不思議な自己紹介を受けて、じいちゃんは何やら考え事をしているようだった。
まぁ、こんな胡散臭いナリでかつての勇者に見えなくても無理はない。
「何か、ご質問でも」
そんなじいちゃんの胸中を見透かすように先生が切り出した。
「それでその家庭教師がなぜまたこの島へ……?」
「もう既にお気付きでしょうが、魔王が再び現世に復活してしまいました」
「や、やはり……!」
「魔王の配下の邪悪な怪物たちが世界中に溢れ出し、人々を苦しめ始めています。ロモス王国にも……パプニカなどの王国も危機に晒されています」
「えっ、ロモスの王様やレオナ姫が!?」
「私はパプニカ王国の王家から頼まれてここに来たんです」
彼は事の経緯を話した。
アバン様。デルムリン島に住むダイ少年とサナ少女こそまさしく未来の勇者。彼らを一日も早く真の勇者に育て上げて欲しい――
「……そう言われてこの島へやって来たのです」
レオナ姫を助けた縁が巡り巡ってこの島に先生を引き寄せたのだ。
もっといえば、そのレオナ姫を呼び寄せた一因となったのもニセ勇者一行の件でロモス国王とご謁見願えたことも……だが。
全ての縁は繋がっている。
私たちの日常はそうした縁の巡り合わせと奇蹟の連続で出来ている。
「どうしますかダイくん、サナさん。私の修行を受けてみますか?魔王を倒すために。もちろん修行は無茶苦茶ハードですよ」
先生が得意気に微笑んだ。
え?こんなん悩むまでもなく「はい」一択やんね。
「はい!やりますやりますやりまーっす!!」
私はそれまでの沈黙を破って思い切り腹の底からアピールした、
「よぉし、やる!レオナがピンチだっていうなら救いに行かなくちゃ!それに魔王を倒さない限りじいちゃんや島のみんなも平和に暮らせない!俺も鍛えてください!そして本当の勇者になって魔王を倒す!!」
続けてダイくんも意気込みを発表した。
「よし。では……」
一同が息を呑むと、アバン先生が懐から二枚の紙を取り出した。
「この契約書にハンコを。あ、なんだったらサインでも結構っすよ?」
みんながずっこけた。
あーそういえばこんなだったけな先生。
意外と『ぬけめがない』というか、ちゃっかりしてるな〜先生。