転生したら竜でした 〜無敵の竜騎士は自重知らずで最強です。〜 作:ありけるみー
アバン先生との修行も大分軌道に乗ってきたころ、いよいよ私たちは海波斬の修行に差し掛かった。
「素晴らしい上達速度です二人とも。これまで多くの生徒に勇者コースを勧めてきたきた私ですが、未だかつてここまでやり通していった人はいませんでした」
「へっへ。先生の教えが良いからさ」
屈託なくダイくんが笑って言った。
「んも~ダイくんったらお上手なんですからぁ~そんなに褒めても今日の修行は厳しいですよ~」
いかにも上機嫌そうに先生はおどけてダイくんのお尻をはたいてみせたが、すぐにキリッとした真面目な顔つきに変わっていった。
先生はじいちゃんに島の案内をお願いして、私たちはそこに向かうことにした。
「この先にお望みのような大きな洞窟がありますが……そこで一体何をなさるおつもりじゃな?」
「なぁにちょっと派手に暴れますんで、他の動物たちに迷惑がかからにように……と」
とのことだったが、これから始まる修行からすればそれもまた当然の配慮だった。
「ブラスさんとゴメちゃんはここまでで遠慮してください。特訓は私とこの子達だけで行わなければなりません」
そう言ってじいちゃんたちと別れた後、先生と共に私たちは洞窟の奥深くまで入り込んでいった。
「今日の修行って何やるんだろうね」
ダイくんが私に耳打ちした。
私は知らぬ存ぜぬの態度で「さ、さあ??」としらけ切ってみせた。
やがて先生の足が止まり、ゆっくりと振り返ってきた。
「さて……今回の修行ですが、まずはサナさんこれを」
「こ、これは……鋼の剣ですか?」
先生が放ったのは硬くて重い鋼でできた剣だった。
「ええ。さっき私が買ってきました。3500ゴールドで……」
リ、リアルだ……。
リアルな値段設定だ……!!
「ダイくん。あなたはそのパプニカのナイフを装備しておくといいでしょう。……なに、そんなに緊張する必要はありませんよ。今日の特訓は簡単です。私と戦えばいいのです。――ただし私はある魔法を使いますから、キミたちは真剣を使っても構いません」
「し、真剣を……!?」
「そうです。たった今から私の皮膚は鉄よりも固くなってしまいますからね。行きますよ二人とも。……はあああぁぁぁ……」
地面が揺れ始め、アバン先生の殺気が段々と大きくなっていった。
「な、なんだ……!!」
「ドラゴラム!!!」
火竜変化呪文――ドラゴラムを使って、先生は真紅の竜の姿に変身した。
ちなみに先生の伊達メガネもちゃっかり竜の顔に張り付いていた。
「せ、先生がドラゴンに……!!」
こっそりついてきたゴメちゃんがそれを見ると脱兎の如き速さで洞窟の入り口まで戻って行った。
〈ありとあらゆるモンスターの中でも最強の力を持つ種族、ドラゴン!!これと互角以上に戦えなくては真の勇者ではありません!!私は私の意思を消し、あなたたちを殺そうとする一頭のドラゴンになります。助かりたかったら戦うのです〉
「そ、そんないくらなんでも無茶だよアバン先生!」
しかし一度ドラゴンに変身してしまった先生は瞳から人間らしい光を消失させ、暴れ狂う怪物のものになってしまった。
洞窟の天井につきそうなほど頭と首は高くなり、正真正銘の巨大なドラゴンに変身した先生は口から火炎の息を吐いた。
「うわあっ!!」
「危ない!!」
間一髪のところで私たちは火炎をかわしてみせたが、すぐさま竜と化した先生の爪や牙が飛んできた。
「ぐあっ!!くそ……やるしかないのか!!」
「そうみたいね……!!」
まず先行してダイくんが鱗に向かって突撃したが、先生が鉄よりも固いと自称するだけあって、パプニカのナイフで切り付けても全く傷一つ付いていなかった。
続いて私が剣で切りかかろうとすると、先生は口から火炎を吐き出して、私を遠ざけた。
炎自体は竜闘気を開放させて防いだが、炎の勢いは凄まじく、近づくことができなくなってしまった。
「やっぱり使うしかないのか……海波斬を!!」
「海波斬だって!?」
私の発言を聞いたダイくんが驚いて言った。
この状況において、先生の吐く炎を搔い潜って斬撃でダメージを与えるには海波斬しかなかった。
ドラゴンに変身してから先生はまるで本物のドラゴンになったかのように自我を失い、ただひたすら暴れ狂っていた。
やるしかない。
やらねば殺られる――
私とダイくんが互いに目を合わせ、両翼に散っていった。
〈グギャオオオ!!!〉
まずダイくんが後ろを取り、私が前でドラゴンの注意を引き付けた。
先生が尻尾でなぎはらうと、それを受け止めて投げ返した。
態勢を大きく崩したドラゴンが倒れ込み、私たちは互いに力をためていった。
「ダイ、私の合図でやるよ……海波斬!!」
「うん……!!」
ドラゴンが起き上り、距離を取った私たち目掛けて再び炎を吐き出してきた。
「今よ!!炎を切り裂くような速度で――!!」
「「海波斬!!」」
先生の炎を波に見立てた私たちがタイミングを合わせ、
二対の斬撃が交差し、バツ印を描くように火炎を引き裂いていった。
俊足の斬撃が先生の顔を切り付けていき、それと時を同じくしてポップくんとブラスじいちゃんが様子を見にやって来た。
「ダイ―!!サナ―!!危険だ!!先生から離れ……ろ?」
〈グギャアアアアァ!!〉
ポップくんの心配とは裏腹に、竜となった先生は傷を抑えて倒れ込むと、徐々に人間の姿に戻っていった。
「ぬ、ぬふおおおおおお~っ!!痛痛痛!!痛ったい~!!」
「あ、ポップ。それにじいちゃん。私たち、とうとうできたよ海波斬!!」
「え、ええええええ~っ!?う、嘘だろ!?あの状態の先生をやっつけちまったってことか……?」
「お~……いたたた……あーあー、えーと。よ、よくぞ海波斬を完成させました二人とも」
かなり痛そうに先生は鼻のあたりを手で覆っていた。
私はすかさずホイミの呪文をかけにいった。
「ふーっ。いやあ、ありがとうございましたサナさん。アナタ回復魔法の素養もあるんですね。ひょっとして賢者の末裔かなにかで?」
「い、いやあ~その……魔法使いブラスじいちゃんの子供ですかね」
それを聞いたじいちゃんは目をウルウルとさせておいおいと泣いていた。
「なるほど……既に私など及びもつかないほど素晴らしい師に巡り合えていたというわけですね……」
「ううっ、ううっ、滅相もない……!すべてはこの子らの成長あってのもので……」
「しっかしそれにしても先生、ドラゴラムまで使うなんて……ちょっと無茶苦茶すぎやしませんか??危うくサナたちが死ぬところでしたよ」
ポップくんもかつて先生との修行の中でドラゴラムを使われたことがあり、その時は命からがら逃れたということだ。
その恐ろしさをよく知っているポップくんはいつになく真剣な表情で走ってきたのだ。
「大分強引なやりかたでしたが、初めてガーゴイルと戦った時、サナさんとダイくんの剣の威力が海を割ったでしょう?だから海破斬はぶっつけ本番でも成功するかな〜なんて思ったんですよ」
確かに習得するなら実戦形式で学ぶ方が早いだろうし、なにより大地斬をマスターした私たちならそれも十分に可能であるという先生の目立ては間違いではなかった。
「そんないい加減な目算でやらないでくださいよっ!!」
しかし我らが兄弟子ポップくんはそんな先生に対して怒りの声を上げていた。
「おや、えらくムキになりますね。そんなに心配だったんですか?」
「えっ?……別にぃー??!」
素直になりきれないポップくんがぷいとそっぽを向いた。
も〜ほんとに。全力疾走で駆けつけてくれたくせにーこの兄弟子はー。
「ちゃんと目算はありましたよ」
先生がそんな不器用な兄弟子に付け加えた。
「大地斬がパワーの剣なら、海破斬はスピードの技です。ここ数日でダイくんとサナさんの技は元々備えていたパワーに加えて、スピードが飛躍的に増していましたからね」
「なるほど、炎が切れたのは猛スピードの剣のおかげじゃな」
「うん。海破斬は炎とか水とか形のないものを斬る技なんだ。これを完璧にマスターすれば、炎や吹雪を切り裂いて敵を攻撃することができるんだ」
「そうですっ!!お二人はすでに海破斬のコツを掴んでいます!この調子なら勇者コースの達成も夢でわ
どーんと見栄を切った先生の鼻先にある私たちがつけた切り傷が切れて流血をし始めた。
「あ、あの。すみませんが。何か冷やすものとかござーませんか??」
全員がずっこけた。
「も〜しまんねぇな先生」
「全く、カッコ悪いっすねぇ。……あは、あはははっ!」
その場でみんなが笑い転げてしまった。
こうして私たちの過酷な特訓も2日目が終わりを迎えようとしていた。