転生したら竜でした 〜無敵の竜騎士は自重知らずで最強です。〜 作:ありけるみー
「ヘッ、随分なやられ様じゃねぇかみっともねぇ」
命からがらで鬼岩城に戻り、傷を癒すクロコダインを罵倒気味に嘲笑していたのは氷炎将軍フレイザードだった。
フレイムの様に猛り狂う炎の半身と、ブリザードのように凍てついた氷の半身を持つ魔物だ。
彼もまた魔軍司令ハドラーの全軍招集に応じて駆けつけた軍団長の1人だ。
「キェーッヘッヘッへ……所詮は力だけが取り柄の間抜けな木偶の坊よ。このワシの知恵無くしてはそれもいた仕方あるまいて……」
「なんでえザボエラのジジイじゃねぇか」
その側でニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていたのは同じく六軍団妖魔士団を率いる司教ザボエラだった。
何を隠そうこの蘇生液はザボエラがこさえたもので、これでクロコダインに恩を売り、ついでに策を授け彼が勇者を討ち取った暁には大魔王にその手腕と功績をアピールしようと考えていたのである。
「フレイザード。そういう貴様にはオーザム侵攻を任せられていたはず……」
「ヘッ、大したことはねぇ。このオレさまにかかれば容易いことよ」
「相変わらず早いのぅ……魔王軍の切り込み隊長と呼ばれるだけのことはある……」
「そういうアンタの方はどうなんだよ?」
「もちろん上手くいっておったとも……ま、こうして全軍招集とあっては残念ながら途中で断念せざるを得んかったがの……」
(嘘だな……。ベンガーナは相当な戦力を有する軍事国家……いかに妖魔士団が強力な魔法使いといえどもこんなにも短期間で片が付くはずがねぇ。大方他の軍団長に擦り寄ろうとして侵攻の方はウマイ理由付けて先送りにした……ってのが関の山だぜ)
しかしザボエラの嘘をフレイザードは冷静に見抜いていた。
尤もそれを告げたところで意味はないだろうと踏んでいたため、フレイザードは別な話題を振った。
「クロコダインがガキ相手にやられちまったって聞いてな。思わず飛んで帰って来ちまったぜ」
フレイザードが嬉しそうに炎の半身を震わせて笑う。
彼にとっては手柄を横取りされる可能性のある軍団長が1人でも消える方が良かった。
さらにそんな強い相手を自分が倒せばより一層自身が注目されるなどフレイザードにとって他の軍団長がやられることは美味しいことこの上ない出来事だった。
そんな彼ではあるが、蘇生液に浸り付けられたクロコダインを見て挑発的な口調とは裏腹にその精神は静まり返っているものだった。
「しかしなるほどな。この傷をつけたヤツがまだガキだとしたら、そいつはとんでもねぇ化け物だぜ。クロコダインの鋼鉄の肉体をこんなにも鋭利に、しかもここまで見事に切断できるとはな。ハドラー様を切り刻んだって話もどうやらまんざら嘘ではないらしいぜ」
炎の様な凶暴さと氷の様な冷徹さを兼ね備えたフレイザードの観察眼に、さしものザボエラも舌を巻くどころか感心していた。
しかしこれを見て恐れをなすどころか、逆に彼の心は自身を包む炎よりも激しく燃え上がっていた。
「楽しみだぜ……!!そんなとんでもねぇ化け物を俺が打ち倒したとあっちゃあな……!!こんなどデケエ手柄を立てた日には、次の魔軍司令だって夢じゃねぇぜ」
「慌てるでない……。六軍団は全員集結じゃ、来るべき大戦の日にはこのワシがクロコダインと貴様に策を授けて勇者どものクビを取らせよう……」
「ケッ。いーやダメだね。今度のヤマはテメェにもゆずらねぇぜザボエラさんよ」
「サナには無策では勝てんぞ……?何せあやつは武力だけでなく魔法力も優れておるのじゃから……」
フレイザードとザボエラ、
どちらも功名心と自身の名誉のために戦う者同士――ある意味では似た者で、ただある意味では全く本質が異なる2人であった。
そんな彼らだからか相性は水と油もいいところで、どちらもどちらの手柄を横取りしようと考えているため馬が合うことはなく早くも互いに火花散らしていた。
「
「そ、その声はハドラー様……!!」
2人が振り返った先には魔軍司令ハドラーが立っていた。
彼はクロコダインの前に立ち、彼の姿を眺めていた。
「クロコダイン……。やはりこうなったか……」
「なぁ、サナってヤツはそんなに強ぇのか?」
「強い!!――……奴はあの勇者アバンの弟子となり、知恵と力をつけ、今なおレベルアップを続けておる。この傷から察するに恐らく今の奴の強さは魔王軍最強の超竜軍団に匹敵するか――あるいはそれ以上!」
「なんだと!?」
それを聞いたフレイザードは動揺を隠し切れなかった。
確かにクロコダインを追い込んだ実力こそ認めていたが、そこまで力をつけているとは思いもよらなかったのだ。
「ば、バカな!有り得ねえ!!人間風情が、しかもガキがそれほどまでとは!!」
「フッ、人間か……。ある意味ではそうかもしれんし違うかもしれんぞ」
「どういうことですかいハドラー様」
「これはオレの見間違いかもしれんが、もしクロコダインが目を覚まし、オレと同じことを言ったのならば――それはすなわち真実だ。勇者サナ――奴はあの伝説の竜の騎士とみて相違なかろう」
「あ、あの伝説の――」
「竜の騎士……だとぉ!?」
2人は怯え慌てふためいた。
竜の騎士の伝説は魔王軍でも有名なものだった。
その強さは魔王軍最大の障壁となると予測されており、大戦に供えて準備しているものもいた。
しかし噂によればかの最強の超竜軍団を率いる軍団長バランがその伝説に名高い竜の騎士ではないかとまことしやかに囁かれているだけだった。
バランの鬼神の如き強さを知る2人の軍団長は、確かにそれも有りうる話だと信じていたが、実際に真相を彼の口から聞いたわけではない。
しかし――
「じゃ、じゃが伝説によれば竜の騎士はこの世に2人といないとか……!!」
「だからオレの見間違いかもしれんと言ったのだ。だがもし本当だとしたら――それは我ら魔王軍にとって最強の天敵たり得る存在であることは明白であろう。全軍招集はその実サナを討つための戦力と言っても何ら過言ではない」
「な、なるほどな……そりゃとんでもねぇ敵を相手にしてるわけだぜ。……けどそんなこと知ったら
「だろうな。奴のことだ。もし血縁関係でもあるのだとしたら、真っ先に是が非でも自身の部下に加えようとするだろう」
「良いのかよハドラー様。そんなことになったらますます魔王軍での立場を失っちまうかもしれねぇんだぜ?」
フレイザードが創造主たるハドラーにも構わず挑発的な口調で語りかけた。
それに対してハドラーは取り乱すこともなく冷静に笑ってのけた。
「そうなったらそれまでのことよ……。むしろ魔王軍の戦力が増えるならこの上なく好都合なことだ。バーン様もさぞお喜びになられるだろう……」
そう言って彼は2人の間をスタスタと歩き抜けてしまった。
その後ハドラーは振り返り、2人に向けて言った。
「もっともそんなことができれば――の話だがな」
彼は皮肉めいてそういうと、その場を後にした。
ハドラーは知っていた。
恐らくサナとバランが接触すれば双方タダでは済まないことを。
今度の大戦にて当初はリベンジを果たすのは自分だと考えていたが、今ではその様な気持ちはどこにもなかった。
彼の頭の中にあったのはただ1人の男のことだった。
(我が生涯の宿敵アバンよ。このまま負けて引き下がる様な男ではあるまい……?次の大戦の最中に必ず貴様は現れよう。その時が互いの決着となろう。……どうか間に合ってくれ、まだオレが魔王軍として、人間の敵としてあれるうちに……!)
それを見たフレイザードとザボエラは酷く面食らっていた。
「……感じねえ。ハドラー様からあの頃の野心と闘気がまるで感じられねえ。……ケッ!!くっだらねぇ!!伝説の騎士相手に怖気付いたか!!あーあー、白けちまったぜ。俺ぁあの人の底知れねぇ野心と欲望にちょっとばかし憧れてたってのによ!!なんだあの腑抜けたツラは!」
フレイザードがいつになく饒舌になったのも、そんなハドラーの姿に少なからずショックを受けていたからだ。
一方でザボエラは内心で邪悪な考えをはべらせていた。
(ふうむ……これはひょっとするとひょっとするやつじゃな……もし此度の大戦でワシがこやつらをまとめあげ、功績を上げれば次なる魔軍司令はやる気のないハドラー様に代わってこのワシということに……!!そうなればワシの魔王軍での地位は当分安泰する……というわけか!)
それぞれの思惑を胸に、鬼岩城は残る軍団長が出揃うのを今か今かと不気味に待ち望んでいた……。
バランは不在です。彼は今絶賛リンガイアを壊滅中です。