九十九一の保護から三日。対策課は次から次へと研究所から見つかる厄介事の対応に追われていた。その中でも優先度の高い鬼道祓の取り調べが行われている部屋に如月誠が姿を見せた。
「如月課長。どうしました?今日は保護対象の見舞いと聞いていましたが。」
「少し、鬼道さんから聞かなくてはならない事があってね。」
その言葉から伝わる隠しきれない怒りを感じ対策課の職員の体が震えた。
「・・・どうか、落ち着いて下さい。」
「すまないね。これでもだいぶ、抑えているつもりなんだ。」
そう言って如月誠は鬼道祓の元へ向かって歩いた。
「まったく、次から次へと。対策課は忙しないな?」
「その原因はほとんど貴方が作ったものなんですがね。」
「それで、何の用があって来たんだ?そんなに殺気を振り撒いてるんだ。俺と喋るために来た訳じゃないだろう。」
「ええ、本当に。今すぐに貴方を殺してしまいたいくらいですよ。聞きたい事はいくらでもありますが、これだけは先に聞かせて下さい。彼に、何を仕込んだ。」
低く唸るようなその声に取り調べを行っていた職員は総毛立った。
「どれのことか皆目見当もつかんな。もう少し分かりやすく言ってくれないか?」
ガタン、と鬼道祓の座っていた椅子が音を立てて倒れた。
「答えて下さい。」
如月誠の背後から伸びる巨大な骨の腕が鬼道祓を握り締めるように持ち上げていた。
「随分と、余裕が無い、な。」
「ええ、本当に。今の私は余裕が無いんですよ。だから早く答えて下さい。」
ミシミシと軋む音が聞こえ始める。
「如月さん。流石に、それ以上は。」
職員からの制止が入り、如月誠が深呼吸をする。
「・・・はあ。すまなかった。少し、焦り過ぎたね。」
骨の腕が消え、鬼道祓が床に落ちる。
「今の私では落ち着いて話を聞けそうにない。後で書類に纏めておいて貰っていいかな?」
「分かりました。ですが、書類が出来次第休みを頂いても?」
「構わないが、どうして?」
「殺気立った貴方を止めるのに寿命が擦り減ったので命の洗濯に。」
「・・・それは、本当にすまなかったね。」
「はい。後はこっちがやっておきます。」
「ありがとう。」
如月誠は幾分落ち着いた様子で部屋から出て行った。
「現人神?」
「ああ、そうだ。そもそもの話だが、キメラを一匹作っただけで怪異を全て殺せると思うか?無理だろう?怪異は世界中の何処にでも湧いてくる。それをたかがキメラ一匹でどうにか出来る筈もない。」
「だから神を作る必要があった。そう言うんですか?」
「そうだ。」
「馬鹿げています。そもそも神を作れる訳が無い。」
その言葉を聞いた鬼道祓は顔を歪ませた。
「前提が間違っているな。神とは人の思考から生まれたモノだ。八百万の神が良い例だ。名を身に付け、逸話や伝承を纏うもの。それこそが神と呼ばれるモノだ。名を忘れられ、語られなくなったモノは神では無い。
だからこそ、新たな神を創ればいい。一匹残らず怪異を根絶できる。そんな力を持った神を。」
その話を語る男の顔はどこまでも前を見ていた。
「そうだな。あと一手で奴らは滅ぶ。肥沃な土と種は既に用意され、後は雨が降るのを待つだけだ。」
まるで言祝ぐかのように、鬼道祓は語った。