今日も今日とて仕事をこなしていく。この最近は怪異の相手も慣れてきた。
何体目か忘れた怪異を倒しつつそろそろ帰る時間かと考える。そんな時だった。
何か、金属を引き摺る音が聞こえた。
樹海ではまず聞くことの無い音。それがなんなのか気になった時には、手遅れだった。
ガゴンッ!と頭に衝撃が走り、気づけば体は地面を跳ねていた。そこからさらに跳ねて地面を転がって、ようやく止まった。
「ぐ、うぅ。何が、おこった?」
頭を振って自分がさっきまで居た場所を見ると鬼がいた。
着物を着た二メートル超えの大男。それが鬼だと分かったのは額から生えている二本の角が月明かりでよく見えたからだった。
「ハハッ、良く耐えたな。お前は楽しめそうだ。」
左手に持ってる金棒で殴られたのか。よく生きてたな、アーマーに感謝。
「今の人間は柔くてすぐに死ぬ。腹の足しにはなるが楽しめなかった所だ。」
右手に持った瓢箪から酒を飲んでいるその鬼は、
「酒呑童子?」
「ハア〜、ん?お前も俺を知っているのか?うむ。俺の名が後世にも伝わっているのは中々気分が良いな。」
ここまで漂ってくる強い酒の匂い・・・まさか。
「その酒は神便鬼毒酒か?」
「当たり前だ。これほど美味い酒を俺が手放す筈がないだろう?」
なんでそれを飲んで平気なんだよ。鬼には毒になって眠らせる酒だろ?
「やはり、酒は肉の体を得てこそだな。お前もそう思うだろう?」
明らかに今までの怪異よりも強い。どうする、俺一人で倒せるのか?
「まあいい。そら、次だ。」
「ぐう!」
いつの間にか距離を詰めていた酒呑童子の金棒を受け止める。
「どうした?耐えているだけでは何も出来んぞ!」
繰り出される乱撃はまるで嵐のようだった。攻撃を受ける度にアーマーの装甲から鈍い音が響く。一通り暴れた頃にはほとんどの装甲がひび割れ歪んでいた。あと耐えれて数発が限度だろう。
「つまらんな。俺を殺すつもりがあるのか?ないのであれば今すぐに潰すぞ?」
まずい。思ってたよりも強い。短期で決めなきゃ嬲り殺される。
「お?ようやくか。さあ、早く来い!」
呼吸を整えて相手に打撃を打ち続ける。それに対して酒呑童子は無防備に殴られた。
「おお!中々に響くではないか!ようやく楽しめるというものよ!」
攻撃を受けても大して効いている様子がない。それどころか楽しんでいる。
「化け物め。」
「今更だな!初めからそうだと言っているだろう!?」
回し蹴りを頭に受けて地面を転がる。
「おっと、加減を間違えたか。興が乗るとよくあるのだ、許せ。」
頭を強く打ったせいか耳鳴りがする。チカチカと目の前が光って鬱陶しい。体が動かない。
足りない。力が、出力が違い過ぎる。同じ土俵に立てればまだ、
「ふむ。気をやったか?まだ動かし足りんが、喰うとするか。よく叩いたからな。さぞ柔らかくなっているだろう。」
首を掴まれて呼吸が出来ない。体は血塗れで意識が朦朧とする。
「まずは、腕を喰らうとしよう。」
聞くに堪えない音が左腕から鳴った。
グチャグチャと何かを食べる音がする。
「なんだ、コレは?今までこんなに美味い肉は喰った事がない。良い、良い拾い物をしたぞ。次はどこを喰うか。」
神便鬼毒酒。あれを、飲めれば、少しは。
「ふむ。やはり酒に合うな。ここで殺すのは惜しい、か?しかし、どうするか。術の類は疎いからな。」
ゴキリと音がなって一瞬意識が飛ぶ。
あ?力が入らない。声を出そうとしても呻くことしか出来ない。
「ぅ、ぁぁ、」
「ん?力を入れ過ぎたか、首が折れているな。よく生きているものだ。」
不意に、バキバキと、不快な音が鳴った。
その音は止まることなく、鳴り続ける。しかし、酒呑童子には聞こえていないのか今も俺をどうするか一人で考えている。
視線を下げるとさっき喰われたはずの左腕が生えている。まるで時間を戻したかのように。
今しか、ない!
酒呑童子が右手で持っている酒を奪い取り、中身を口に流し込む、
「貴様!俺の酒を!」
酒を飲まれたのが気に食わなかったのか首を持ったまま投げ捨てられる。
木に何度もぶつかり、ようやく止まる。
戻った視界で体を見ると傷が塞がっている。さらに不思議と力が湧いてくる。
上手くいった。神便鬼毒酒の効果は本物だった。なら次は、
「反撃開始だ。」
足に力を込めて一息に距離を詰め、まず顔を殴る。そのまま勢いを利用して回し蹴りを首に叩き込む。
「火事場の馬鹿力というやつか!面白い!打ち合ってやろう!」
鬼さながらの耐久性に筋力。そこに上乗せされる獣のような速さ。基礎スペックが違い過ぎる。
もっと頑丈な骨格を
ミシミシと、体が音をたてる。
もっと力強く
ギチギチと体が張り詰める感覚が増していく。
もっと、速く!
体を動かす度に風が音を出す。
「凄まじいな!貴様本当に人間か!?」
「黙っテ死ね!」
「クハハ!決めたぞ!貴様を次なる我が器にしてやろう!」
横から振り抜かれる金棒を粉砕する。
「何!?」
勢いをつけて跳び上がり、首に足を掛ける。そのまま目に指を突っ込んで潰して、
(首を折る!)
何度も木にぶつかり、体を強く打たれても力は緩めない。首に回している右腕を握られ潰れそうになってもユルめなイ。
苦しげな、酸素が漏れ出るような声しかない中ゆっくりと時間が進む。
何分か、あるいは何時間も経ったかのように感じる。
「ようやく、死んだか。」
息を切らし、滝のような汗をかいている。体が痛みを訴えているし、血も流し過ぎた。これ、帰れるかな。
そこで意識が途切れた。