あの後、公園の地面に染み込んでしまっていた血を頑張って埋めて証拠隠滅したその翌日。
俺は生まれて初めて
あの日、人払いの結界の端にたどり着いてから複写眼を使って術式に干渉、俺に効果が出ないようにしてから公園に入ったんだ。そしてイッセーが重症を負って死にかけているのを目にしたとき、俺は頭が真っ白になったのを覚えている。その後、何も考えずにイッセーに近寄ろうとしたらレイナーレが光の槍を出現させてこちらに投擲するような仕草をしたのを見て、俺はようやく少しの冷静さを取り戻せたのだ。しかし、その時にはもうレイナーレは光の槍を振りかぶっていた。
―――あ、やべ。
なんとかしないと。そう思いながらも魔力収束すらしていなかった俺は、今にも投げられそうな光の槍をただ見つめるしかなかった。そんな俺の視界に、ふと光の槍を構成している術式が見えた。それを見て、ようやく俺は自分が複写眼を発動させっぱなしだったことを思い出したのだ。
そして俺は、その構成式を見つめながら自然とこう呟いていた。
「
ただ呟いただけではなかった。そう、その言葉を発した途端、俺はこの光の槍を構成している式が手に取るようにわかったのだ。そして、俺はそれに
だからだろうか。レイナーレがその光の槍を投げたのを見ても平然としていられたのは。
「らい、なぁ……!」
ふと、イッセーの苦しげな悲鳴が聞こえた気がして、俺は顔だけをイッセーの方に向けた。イッセーが、何やら恐怖や不安といった表情をしているのを見て、俺は「大丈夫だ」と伝えるために口元を釣り上げる。視線を前に戻すと、猛スピードで迫り来る光の槍が目に映ったが、問題ない。ただ一言、トリガーとなる言葉を発するだけで対処できる―――!
「―――
ただ一言。その言葉だけで、眼前に迫っていた光の槍は霧散した。ソレを構成していたエネルギーである光力がキラキラと舞いながら虚空に消えていく。
その様子を見ていたらしいレイナーレが何やら喚きながら、今度は先ほどの槍よりも一回り大きなソレを創り出して振りかぶる。
「ソレはもう
そう言って俺は、今度は言葉ではなく行動で対処する。右手を顔の高さまで持ち上げて、相手にもよく見えるようにしながら指を鳴らす。
―――パチン。
その音を合図としたかのように、再び光の槍は霧散した。
「なッ……!? なんなのよ貴方はぁ!!」
未だ先ほどの光力がキラキラと粉雪の如くあたりに舞い散っている中、レイナーレは懲りずに先程よりも多くの光力をその手に集め、槍を作ろうとしていた。俺は、今度は創る前に光力自体を拡散させてやろうと意識を集中しようとして、背後―――イッセーの方で新たに魔力を感知した。
「―――グレモリーの転移魔法陣!?」
突如そう叫んだレイナーレは、その手に集めていた光力を霧散させて翼を広げた。何を、と思ったのも束の間。レイナーレはそのまま空へ飛び立った。ある程度の高さまで飛び上がると、レイナーレは俺を指差して喚いた。
「貴方、近いうちに必ず殺すわ。覚えてなさい!」
やなこった。俺がそう思って言い返す前に、レイナーレはこちらを見向きもせずにどこかへ飛び去っていってしまった。一応魔力反応を探ると、どうやら本当に撤退したようだ。一目散に魔力がここから離れていくのを感じる。
戦闘が終わったと思った俺は、今度は複写眼を消してからイッセーに駆け寄った。
そのあとはグレモリー先輩が出てきてイッセーを悪魔にしてイッセーは無事生き返りました、と。で、その際俺に「後日使いをよこす」と言ってきたのだ。だからこそ、俺は今日辺り誰かが接触してくるものとばかり思っていたのだが……。
「放課後になっても誰も来ず、一応完全下校時刻まで粘ってみたがだぁれも見かけない、と……」
今日一日、イッセーがクラスの奴らに「俺の彼女について知らないか」などと聞きまわっていたから、原作からして今日あたりに来ると予想したのだが……。どうやら予想が外れたようだ。当のイッセーも、何やらいつものメンツでエロDVDがどうのと騒ぎながら普通に帰っていったし、もしかしたら今日じゃないのかもしれない。
「んー……。やっぱり、ろくに記憶しようとしてなかった原作知識なんて当てにならないなぁ」
そう、俺はこれまで原作から離れて過ごそうとしていた為、原作知識をほとんど覚えていないのだ。一応、大筋は分かる、と思う。しかし、細かいところとなるとさっぱりだ。現に、イッセーが悪魔になることは覚えていたけど、悪魔になってから初めてその説明を受けるのがいつだったかを忘れてしまっている。
「しょうがない、帰るか……」
教室の窓から見える空は、夕焼けで茜色に染まっていた。うっすらとだが星すら見えてきている。その様子から、もう少ししたら完全に日が落ちてしまうだろうことが伺える。夜は人外の時間だ。巻き込まれては敵わない。そう考えた俺は足元に置いていたカバンを手に取って、少し早足で歩き出した。
そのまま何事もなく自転車置き場までたどり着くと、自分の自転車を取り出した。特にこれといって特徴のない、普通の自転車である。高校入学祝いに、と叔父さんに買ってもらったもので、休みの日にチェーンに油をさしたり、汚れを拭き取ったりといった整備をする程度には気に入っているものだ。
俺はそんなお気に入りの自転車に乗り込むと、力を入れてペダルを漕ぐ。辺りは既にかなり暗くなってしまった。早く帰ろう、そう思い足に力を入れてスピードを上げたその瞬間。俺のすぐ背後、先程までのスピードで漕いでいたら直撃していた場所で、衝撃とともに轟音が鳴り響いた!
「おわぁああああ!?」
ドガァァァン、という大きな音に驚いた俺は、思わず自転車から転げ落ちてしまった。からから、と主の失った自転車が道の隅で虚しく車輪を回している。
「ああああああ! 俺の自転車!」
それを見て、俺は思わず先ほどの正体不明の衝撃と轟音のことを忘れて大声を上げてしまう。即座に駆け寄って自転車をチェックする。
「ほっ……。よかった、目立った外傷はないな」
俺は安堵の息を吐く。そしてようやく先ほどの轟音が響いたところを見る。アスファルトが砕けていて、その中心にあったのは何やら機械で作られた巨大な白い刀だった。
「なんだこれ……」
疑問に思って、俺は複写眼を発動させて刀を見る。この行動は特に考えて行ったものではなかった。何かあるかな、となんとなく複写眼で見ようと思い立っただけだったのだ。しかし、そのおかげで異常に気付けた。
「ッ!? な、なんだこれ。
俺が複写眼で視たものとは、特に何も見えない刀だった。この世のありとあらゆるものには魔力や、氣といったものが宿っているはずなのに、この刀には
「見れば見るほど、機械の刀にしか見えない……」
何の成果も得られなかった俺が、複写眼を消しながら思わずつぶやいたその時。刀が持ち手の部分から徐々に光の粒子となって空中に消えていくのを目撃する。驚く俺に追い打ちを掛けるかのように、上空から声がした。
「報告通りの黒い髪に黒い瞳、そして俺の雪片弐型を見て顔色を変えた事といい……。貴様が、最後の一人で間違いないな?」
その声は、疑問形でありながら確信を抱いているようだった。というか“雪片弐型”だと?
「―――ISかッ!!」
俺は叫びながら上空を睨めつける。そこに居たのは、思ったとおり白いISを装着した黒髪の見知らぬ男だった。
―――IS。インフィニット・ストラトスといい、宇宙開発用に一人の天才によって開発されたとされるパワードスーツだ。だが、ソレはライトノベルのお話のはず。この世界でも、そんな装備の開発に成功したなんてことは聞いたことがない。つまり―――
「ISを特典にもらった転生者かよ……」
俺はそう呟いてゲンナリとする。最悪なことに、俺とISとの相性は最悪だ。ISは機械、つまり俺の複写眼はなんの効果もないということになるのだ。さらに、奴は先ほど“雪片弐型”と言った。やつの機体の外見からして、『白式』なんだろう。ならば、あの機体の
俺が奴との相性の悪さに絶望していると、奴は俺の様子など知らぬとばかりに声を張り上げる。
「貴様という存在が報告と違うことが発覚したのは、先日の兵藤一誠の初デートの日。つまり、原作における最初のイベントの時だ。我々としては、原作に介入しようとするのは新城条規と黒咲苺の二名だけだと思っていたところに、貴様の存在だ。正直目障りなのだよ」
そう言って奴は一旦言葉を切る。俺がなんの行動も起こしていないことを確認すると、再び口を開いた。
「さっき挙げた二名に関しては、グレモリー眷属になることは阻止できて一安心していたところに貴様のあの行動だ。最初から居合わせたのではなく途中で乱入してきたことも鑑みるに、あの日が原作のイベントだと知らなかったと推測できる。報告でも、貴様は原作非介入、言うなれば『原作逃避派』であったはずだ。なのに貴様は結果的に原作に介入した。……実はだな。今日この場に僕が現れた理由は、貴様にひとつ質問をしたいと思ったからなのだ」
そう言って奴は少し間を空け、俺の目を見て問うた。
「―――貴様、原作介入派か?」
「…………」
問われたその言葉に、俺は少し前の記憶を思い出した。
『奴らは原作傍観派、つまり原作をそのまま自分の目で見たいと願う奴らだ。そのために邪魔な他の転生者を見つけ次第殺そうとしている』。確か新城はそう言っていた。つまり、ここで俺がYesと答えれば、俺も殺しのブラックリストに名前が乗ることは確実、というわけか。
「……もし、Noと言ったら?」
「それを信じるに値する行動をしてもらえれば、僕たちとしても貴様を殺さずに済む。僕だって、何も誰かを殺したいわけじゃないんだ」
「へぇ。ちなみに、どんな行動をすれば信じてもらえるのかな?」
「そうだな……。原作の登場人物を一人ずつ罵っていって、それぞれに自分からは絶対に関わらないと誓えば信じてやろう」
つまりそうしなければ殺す、と。俺は奴の言葉からそう理解した。……うわぁ、Yesと答えても殺され、Noと答えても奴の言う通りにしないと殺される。絶体絶命、ってやつじゃないだろうか、これ。
「で、返答は?」
待ちくたびれたのか、奴が再び問いかけてくる。どうする、どう答える俺―――! ここは一先ずNOと言っておくか? いや、無理だ! ほか人たちはともかく、塔城さんを罵るのは死んでもゴメンだ!! ならYesと答えるか? だがそうしたら奴はすぐさま俺を殺しにかかるだろう。どうする、命を惜しんで感情を犠牲に“No”と答えるか? そうして敵に情けをかけられ、見逃されて生き延びて、それでも俺は果たして『生きている』と胸を張って言えるのか? その『生』は、暖かいのか? そしてなにより、その状態で以前と同じく塔城さんに恋心を抱けるのか……!?
―――断じて否、だ。
気が付けば口に出していた。そして、口に出したからこそ、俺はその答えが自分の心の出した結論だと確信する。そうだ、ここで奴から、敵から逃げたら俺はきっと自分が嫌いになる。自分を好きになれない奴が、どうして他人を好きになれるのか―――!
「ほう、ならば原作ヒロインたちを口悪く罵った後、自分からは原作に関わらないと誓ってもらおうか」
俺が口に出した答えが、自分の問うた質問の答えだと勘違いした奴が言う。―――だが!
「さっきのはお前に対する回答じゃねえよ! 誰がそんなことするか! 俺は、俺自身のために、原作に介入することを宣言する!!」
俺が心の中で感情を高ぶらせつつ未だ空中にいる奴に向かって叫ぶと、奴は一言、そうか、と呟いたあとこちらに向かって叫び返してきた。その手にはいつの間にか先ほど粒子化したはずの機械の刀、“雪片弐型”が握られていて、その刀身は眩い光に包まれていた。それはつまり、零落白夜が起動している―――!?
「ならば貴様はこれより我々の敵である! 傍観協定に基づき、
転生者No4
牢村壱火―おりむらいちか
男
黒髪黒目 イケメン
ISの織斑一夏にそっくり
備考:特典は『白式』
魔力量などは未計測のため不明