「傍観協定に基づき、
奴―――牢村はそう叫ぶと同時に背中のバーニアを噴かせて今いる位置よりもさらに上空、地上十数メートルの高さまで上昇した。光り輝く雪片弐型を大上段に構えて、見るからに一撃必殺の構えをしている。
何故牢村が一旦距離を取ったのかはわからないが、この時間はありがたかった。俺はすぐさま魔力を収束しにかかる。普段なら他の人に絶対バレないようにゆっくり、慎重にやるのだが今回はそうも言っていられない。俺が操作できる限界の速度で周囲に満ちる魔力を乱雑にかき集める。その際、魔力の流れの急激な変化に伴って、俺を中心として弱い風が吹き荒れる。傍から見ればきっと、周囲の空気が俺に向かって流れているかのように映るのだろう。制服の裾がパタパタとはためいているのを感じる。
「貴様ッ! 報告では貴様の
牢村は何やら見当違いのことを叫びながら、俺との距離をさらに開く。いいぞ、そう言う勘違いなら大歓迎だ。そう思いながら俺は言葉を返さずに、ニヤリといった感じに口元を釣り上げておく。これでさらに何か勘違いしてくれたら儲け物だ。
そうしながらも俺はずっと魔力を収束させていた。既に魔力は、俺の体が耐えれる限界一歩手前あたりまで収束できている。だがまだだ、もう少し……! 以前は限界一歩手前、といった感覚の今くらいの状態で収束を止めて性能を確かめたが、今回はそうも言っていられない……!限界まで、魔力を集める―――! ッ、ここだ!!
魔力が限界まで収束できたことを感覚で理解した俺は、すぐさま周囲の魔力を体内に取り込む作業を中止する。急に収束をカットしたせいか、こちらに向かって吹き荒れていた風が四方に飛び散り局所的な突風を巻き起こした。その突風は牢村のところまで届き、牢村の態勢を崩すほどの勢いで周囲に吹き荒れる。
「クッ、風を操る系統の神器か!! 風を操れる魔眼等聞いたこともないが、そう言うものがあってもおかしくはない、か……!」
体勢を崩した牢村は、空中で一回転て態勢を立て直す。そして再びこちらを見た牢村の顔を見て、俺は奴が完全にこちらの能力を誤解したことを確信した。
そんな誤解は解かずに、俺は牢村に話しかけつつ最後の仕上げに入る。俺が体内に取り込むのをやめたせいで周囲に過剰に溢れている魔力を、今度は体表面を覆うようにして収束する。イメージは某学園都市の『窒素装甲』だ。
「さて、悪いな。俺の戦闘準備が整うまで待ってもらって」
「準備、だと? 先ほどの風が、ただの準備だというのか!」
俺の言葉を聞いた牢村は、さっき自分の体勢を崩した風は攻撃ではなくただの戦闘準備だと聞いて何やら怒ったような声をあげる。
ああそうだよ、アレは準備。コレをすることによって、俺の戦闘能力は跳ね上がるんだ。そう、言うなればアレは特撮で言う変身シーン。そしてこの魔力収束状態を名付けるならば―――!
「―――
そう、まさに今の俺は『魔人』。周囲の魔力を俺という一個人に一点集中させるこの形態。身体能力は人類が出せる限界値を記録し、さらに魔力で上乗せ可能で、魔力で編んだ装甲まで装着している。魔力に至っては、周囲に魔力が尽きていない限り使用し放題というちょっとチートの域に足を突っ込んでいるような理不尽な状態。『魔』力によって『人』を超えた形態、故に『
「魔人形態ぉ? ハッ、大層な口ぶりだが、何も変わったように見受けられん。ハッタリだな」
俺の言葉を聞いた牢村は、そう鼻で笑ったあとこちらに雪片弐型を向けて息を荒げながら言う。
「なにより、僕の“零落白夜”にかかればお前が何をしようが無意味だ! この防御無視の一撃、受けてみよ!!」
叫ぶなり牢村は『先程から発動させっぱなしだった』雪片弐型を突きの構えで持ち、こちらに突っ込んできた。……お前、最初の大上段の構えはなんだったんだよ。
思わずそんなことを思いながら、俺は『魔人形態で強化されている』動体視力と身体能力で相手の突進に合わせて、突きを避けながらカウンターの右回し蹴りを胴体を狙って叩き込む!
ガァァァン! と鈍い音が響く。
「ガッ!?」
「痛ッ」
思わず漏れた、といった風な声は二つ。俺と牢村両名だ。牢村は俺のコンクリくらいなら軽く砕ける威力を誇る回し蹴りをカウンターで喰らったことに対する生理的反射だと思う。俺から見て左方向に吹き飛んでいった牢村は放っておいて、俺は奴を蹴り飛ばした右足に視線を落とす。複写眼を発動して魔力を観測する。すると、魔力で編んだ装甲が右足の部分だけ砕けているのが見えた。強度が足りなくて、明らかに金属な奴のISを生身で蹴り飛ばすことになったせいで予想外の痛みが発生したようだ。すぐに修復するが、今後牢村に攻撃するたびに装甲が部分的に壊れるのはあまりよろしくない。そう思った俺は、とりあえずの応急処置として周囲から魔力をかき集めて両手足部分の装甲に上乗せ、圧縮した。その過程で、風が俺の両手足にまとわりついたような現象が起こる。
おお、これいいな。牢村の前でやればよかった、と俺が更なる勘違いを起こしそうなことを考えていると、牢村が蹴られた横腹を抑えながら空に飛び上がった。
「なかなか痛かったぞ。だが、収穫もあった。貴様、自分の体の周りに膜を作っているな? 先の突風も合わせて考えるに、風、いや空気の膜か。となると、貴様の力は『窒素装甲』、もしくはそれに準ずるもの、と考えられる」
なにより、と牢村は横腹を抑えていた手を離し、そこに雪片弐型を展開した。
「僕の零落白夜を避けたのは、その膜は何らかのエネルギーを消費して作り出されているからと仮定できる。ならば、僕の優位は揺らがない!」
そう言うや否や、牢村は零落白夜を起動しながら俺に向かって再度突撃してきた。今度は雪片弐型を腰だめに構えている。……なぎ払いか。確かに、防御無視の斬撃なのだから当てれば勝ちはほぼ確定する。故に間違った選択ではないだろう。だが!
「誰がいつ、俺が遠距離攻撃ができないって言ったよ!!」
俺はそう叫びながら、周囲の魔力を手のひらの上に収束・圧縮させて球体を作り出す。その様はさながら周囲の空気を圧縮したかのよう。似たような技をあげるならば、『螺旋丸』だろうか。まあもっとも、全然乱回転させてないっていうかただ圧縮しただけだが。そんなことを思いながら、魔力圧縮弾(仮)をそのまま猛スピードで一直線にこちらに迫ってくる牢村目掛けて全力で投擲する!
「なっ!?」
驚いたような声をあげた牢村だったが、自身がかなりのスピードを出していたことも相まって避けられずに直撃する。直撃した瞬間、圧縮されていた魔力が解放されて小規模な爆発が起こった!
ボンッ!
「うおっ」
その
―――怖ぇ……。魔力って下手すると爆発するのか。てことはこの魔力収束、下手したら死んでたのか? うわぁ、大きな失敗がなくてよかったぁあああ。
その爆発を直接受けた牢村は、スピードそのままに方向だけ変えて墜落した。ドシャ、と音を立てて地面と接触した牢村は、堕ちた時の体勢のまま動かない。……あれ? もしかして、殺っちゃった?
「やべっ、人殺しは勘弁だぞ……」
そんなことを呟きながらゆっくりと牢村に近付く。実は死んだふりで、近寄ったらグサリ、とかは嫌だしな。
そーっと近付こうとしていると不意に牢村の装着していた白式が光り、おそらく待機状態であろうガントレットに姿を変えた。黒いジャージ姿になった牢村は気絶しているようだ。
「……ああ、絶対防御とかいうのがあったな。てことはエネルギー切れか? え、でもあれだけでか? ああいや、そういえばこいつ、ずっと零落白夜使ってたな。無駄にエネルギー消費してもしょうがないわ」
自問自答し、納得した俺は改めて牢村を見下ろす。さて、どうしよう。一応、魔人形態はまだ続いているが、正直いつ限界が来るかわからない。魔力収束率が限界の一歩手前で手加減してた状態だと一時間は継続できたが、限界まで収束している魔人形態はどこまでもつのか不明だ。というか一回限界来たら俺、戦えないしなぁ……。悲しきかな我が低魔力。なんで周囲の魔力、いわゆる外力だけで収束・吸収が出来ないかなぁ? 毎回自分の魔力、俗に言う内力を消費しないとろくに戦えないってのは、大きいハンデになっている。さっきの戦闘でやったみたいに、適当に魔力弾作ってぶっぱなす程度なら、威力はガクッと落ちるけど普段でもかなり集中すれば多分できそうだけど……。
「っと、今はそのことはいいや」
脱線していた思考を廃棄して、俺は改めて周囲を見渡す。抉れたアスファルト、盛大にヒビの入っている空家っぽい家の塀。……うん、一秒でも早くこの場から立ち去るべきだな。明らかになんらかの事件が起きた感じになってる。よし逃げよう。
「あー、でもこいつどうしよう」
俺は逃げようとするが、牢村の存在を思い出して思わず頭を抱えた。くっそ、こいつ疫病神か何かかよ。ああ、原作介入派にとっては敵だったな。
コツ。
「―――ッ!!」
頭を抱えていると、突然背後から足音が聞こえてきた。その音の距離からかなり近い場所で背後を取られていると悟った俺は、数メートル前に跳びながら体を反転させた。そこに居たのは、黒い髪に青っぽい学ランを着た高校生らしき人物。だが、その瞳は絶望的なまでに『蒼』かった。
―――直死の魔眼、か……!?
俺は着地しながらさらに数度のバックステップで距離を取りながら、姿勢を低くして相手を警戒する。もし本当に直死の魔眼だとしたら、俺に勝ち目はないと言っても過言ではない。直死の魔眼持ちをどうにかする方法など、相手の認識外から一撃で確実に仕留めるか、「」に到達して常識外の攻撃、つまり死の存在しない攻撃をするかの二択しか思いつかない。そして現状、そのどちらも俺には実行不可能だ。つまり、このまま戦いになれば、俺に待っている結末は、死―――!