「あなた、何者?」
腕を組み、目を鋭くさせながら問うたグレモリー先輩に、俺はどう答えようかと思案する。ちら、と横目で見れば、木場が僅かに足を引いていつでも飛びかかれるように体重を移動させているのが分かる。おまけに現在俺はソファに座っている状態であり、なおかつ斜め前には姫島先輩がこちらを注視している。下手に誤魔化そうとしたり、武力行使に出るような仕草を見せれば即鎮圧されるだろうことは明白だ。一瞬目の前のテーブルを蹴り上げれば逃げれるかな、とか思ったが隣に塔城さんがいるのを思い出して断念する。蹴り上げた途端捕まることは目に見えている。
そこまで考えて、俺は両手を挙げて敵意をないことを示しながら言った。
「駒王学園二年、竜灯来那。
「へぇ」
俺が言った言葉に、グレモリー先輩が悪魔のような背筋の凍える微笑を浮かべながら相槌をうつ。隠し事は許さない、と言外に告げられている気分である。あ、この人悪魔だったか。
「それで? 何故あなたは一昨日のあの時あの場にいたの?」
俺がつまらないことを考えながら黙っていると、しびれを切らしたのかグレモリー先輩がそう聞いてきた。あの時あの場……、というとイッセーが悪魔になったあの時の公園のことか。
「別に。住み慣れた街中で人払いの術式が張り巡らされたら、気になるでしょう。何があったのか見に行ったら、イッセーが殺されかけてたから思わず割って入っただけですよ」
俺はその問いにそう答える。事実、嘘ではない。人払いが張り巡らされてから俺は家を飛び出したし、イッセーの元に駆けつけたのは何か考えてのことではなかった。頭が真っ白になって、気付けば叫びながら駆けていたのだ。
俺のその答えを聞いたグレモリー先輩は姫島先輩に目を向ける。コクリと姫島先輩が頷くのを見て、グレモリー先輩が俺に向き直る。
「そう、嘘は言っていないようね。一先ずは信じましょう。それで? どうしてあなたは人払いが張られたことが分かったの? こちらの調査では、あなた及びあなたの周りは完全に一般人だったはずなのだけれど」
そう言ったグレモリー先輩は、油断なくこちらを見据えている。冷や汗が頬を伝うが、拭っているような余裕はない。さすが悪魔、と言ったところか。こうして対峙しているだけで魔力の波動がビリビリと伝わって来る。正直、さっきから体の震えが止まらない。
だが、ここでソレを悟られるわけにはいかない。俺は声が震えないように意識しながら、事前に考えていた通り
「俺の神器、『複写眼』の効果です。魔力やらなんやらが視える」
「へぇ、それで人払いに込められた力を見て気になったから現場を見に来た、と。そう言うのね、あなたは」
「あ、あぁ」
確認を取られて、少しどもりながらも肯定の意を示す。するとグレモリー先輩は口を閉ざして何やら考えている様子。……何かミスをしただろうか。俺がそう不安になっていると、考えが纏まったのかグレモリー先輩が顔を上げてこちらを見据える。
「アルファ・スティグマ、聞いたことがあるわ。遠い昔に、一度だけ確認されたことのある魔眼型の神器ね。曰く、空間や物体に宿る力を見る。曰く、他者の使用したあらゆる術式を使用者より先に完成させて相殺させることができる。曰く、その両眼はどんな手段をもってしても潰せないし抉れない。曰く、
グレモリー先輩が言葉を切る。ゴクリ、と喉を鳴らし、そこでようやく、俺はグレモリー先輩の話に聞き入っていたことに気が付いた。少し前のめりになっていた体を元に戻して、一度深呼吸をしてから再びグレモリー先輩に向き直る。それを待っていたかのように、グレモリー先輩はその名称を口にした。
「―――『
「―――なッ」
寂しがりの、悪魔、だと……!? ま、さか。まさかまさかまさか、『堕ちた黒い勇者』や『α』といった存在も、いるというのか……!?
俺が内心驚愕で混乱していると、それが顔に出たのかグレモリー先輩が少し微笑む。今度は背筋が凍るような怖いものではなく、暖かい微笑だ。
「心配しなくても、あなたがそんな強さを持っているとは思っていないわ。あなたがここに来た時から警戒していたことは知っているから言っておくけど、あなたの神器を知れた時点で私たちにあなたを害するつもりはなくなっているの」
「へ?」
先程までとは比べ物にならないほど優しい口調で言われ、俺はグレモリー先輩が勘違いをしていると悟った。きっと俺がそんな大物と同じ神器持ちで、その神器の特性上来る前から悪魔であることはバレていたと思ったのだろう。更には先ほどイッセーに神器持ちだから殺された、と説明したばかりだ。俺も殺されると勘違いしたと思ったのだと推測できる。だが、好都合だ。俺の動揺の内容を説明しろと言われても、俺には前世のことを隠したまま説明できる自信がない。なので、心苦しいがここは先輩の言葉に乗っかっておくことにする。先ほどの寂しがりの悪魔のことも気がかりだが、今気にしたってどうすることもできない。だから一先ず置いておくことにする。
「え、えぇっと。聞く限りじゃ超強い神器に思えるんですが……。排除とか、しないんですか?」
悪魔だし、と付け加えることも忘れない。
「ええ。言ったでしょう? その神器は所有者の力量に大きく左右されるのよ。そして、あなたから感じる魔力は極微量。いっそあるのが哀れになるような低魔力量ね。そんな存在を、あなたは危険視するかしら? 私はしないわ。むしろこの学校の生徒である以上、守護対象ね」
クスクスと笑いながら告げられた言葉に、俺は内心ショックを受ける。分かっていたとはいえ、他人から魔力があるのが哀れになるような低魔力、と言われるのは悲しいものだ。だが言いたいことはわかった。いくらいい剣を持っていようと、持ち上げる力がなければ意味はない、と言いたいわけだ。
「え、でも、何か夕麻ちゃんの投げた光の槍を消してたような……」
ようやく空気が柔らいで、ほっと一息ついていた時に今まで成り行きに身を任せて黙っていたイッセーがそう発言した。
「……それは本当ですか? イッセーくん」
あらあらうふふ、なんて微笑んでいた姫島先輩が、低い声でイッセーに問いかけた。イッセーは急に態度が変わった姫島先輩に驚きながらも、頷く。
「そう、ですか」
「え、えと、何か問題が?」
急に空気の変わった姫島先輩に、イッセーが問いかける。それを聞いてようやく余裕が戻ったのか、姫島先輩はあらあら、なんて微笑みながらイッセーの問いに答えた。
「ええ、まあ。堕天使が使う光の槍、というのは、魔力で構成されてるわけではないのですよ。光力、という光のエネルギーで構成されているのです。なので、それに干渉しない限り、彼の低魔力で光の槍を消す、というのは不可能でして……。その場合、並外れたエネルギー干渉能力と操作能力が必要になってくるのです。ですが、普通に過ごす上でそのような能力が養われるわけがありません。下手をすれば、彼を我々の監視下に置く必要が出てきます」
そう言った姫島先輩は、こちらを見た。ほかの人たちもみんなこちらを向いているのが分かる。これは、答えないといけない感じ、だろうな。
「ぁ、あー……。えっとですね。複写眼の影響で、自分の内力、じゃないや、えっと魔力か。魔力が一般人と同じか下手すればそれより小さいことには気付いていたんです。で、中学生の頃から外力、じゃなくてえーっと、マナ? っていうの? とにかく周囲の魔力的な感じの奴を操作する練習をやり始めたんですよ。自分にないなら他所から持って来ればいいじゃない、って発想で」
「へぇ。それはまたどうしてそんなことを? あぁ、言いやすい呼び方でいいわよ。内力に外力、ね。なかなかシンプルでいいと思うわよ」
グレモリー先輩がそう言って理由を聞いてくる。俺はそれに、ありがとうございます、と返してからこう答えた。
「あー、笑わないでくださいね? ……いわゆるアレですよ、厨二病ってやつです。ちょっと発症が早かったけど、他人が持ってない
あ、今はちゃんと卒業してますからね! なんて最後に念押しをしておく。これは勘違いされたままだと、特に塔城さんにそう思われたままだと死にたくなるからな、きっちりしておかないと。おいこらイッセー、なんで分かるぞ、的な顔で頷いてんだ。ちゃんと卒業したって言っただろうが。
「……ここ数年の地脈活性化にはそんな理由があったのね。まあいいわ。それより。その出会った神器持ちって、どんなやつかしら?」
「あー、えっと、知ってるかどうかはわかりませんけど、同じここの生徒の新城ってやつです」
グレモリー先輩の質問に俺がそう答えると、グレモリー先輩は何やら非常に疲れた顔をした。……え、何その反応。予想外なんですけど。
先代複写眼保持者
モデルは寂しがりの悪魔。でも今回は見た目普通の悪魔で、周りに埋没する感じの無個性故に目立たない、的な感じの設定。すごい魔法使っても無個性過ぎて自分が使ったと気付かれない感じ。
すべての式を編む者=本人(悪魔)の才能として、複写眼をすべての式を解く者として勝手に解釈して作ったキャラクター。不平不満は並行世界軸だから、ってことで飲み込んでくれるとうれしい。黒い勇者は出ません。女神やらαやらも存在しないです。そういうもの、としてくださいお願いします