「ああ、ごめんなさい。つい最近も聞いた名前だったから、つい、ね」
俺が新城の名前を出しただけで疲れたような顔でため息を吐いたグレモリー先輩が、そう言う。俺が疑問を抱いたことを悟られたようだ。
「……いえ、えっと、流石に名前出しただけでそんな顔されるのは予想外なんですけど、あいつ、何やったんです?」
この際なので聞いておく。今この場所にいないことから、グレモリー眷属ではない、ってことだろうが、どういう関係なのか気になるし。そういえば白式使い―――牢村、だっけ? がグレモリー眷属になるのは阻止できた、とか言ってた気もする。
「それは、そうね。あなたの話を聞いたあとで話すわ。それで? その新城くんはどういう風に接触してきたのかしら。いやまあ、予想はできるのだけれど」
グレモリー先輩が、何やらすっごく憐憫に満ちた眼で見ながら言った。って、なんでそんな眼で見られるんでしょう……? やばい、気になる。何やらかしたんだ新城!
そんな好奇心を押さえつけながら、返答した。
「去年の終業式の日に、校舎裏に呼び出されまして……。それで、お前
流石に転生者云々は言えないので誤魔化す。まあ、広義的に見れば多分間違ってないだろ、きっと。
「協定?」
「ええ、争いごとから遠ざけてやる、つまりまあ、俺にちょっかいかけそうなやつを近付けさせないようにするから怪しい奴見かけたら報告しろって感じの」
そういえばあいつ、強い奴と戦うのが望みだったよな。つまりあの協定、見方を変えれば俺を囮にして自分は強い(かもしれない)敵と戦おうって腹だったのか?
「それはそれは……。当時は中学卒業したばかりでしょう、大言壮語も甚だしいわね。この街はグレモリーの管轄なのに」
俺の言葉を聞いたグレモリー先輩が、薄く笑う。怖い。綺麗なんだけど、怖い印象を他者に与える笑みだ。俺に向けられているものではないと頭ではわかっているが、それでもゾクリとする。
「それで? あなたはその協定を受けたの?」
俺が恐怖を覚えていると、グレモリー先輩が先程までの怖い笑みをやめて普通に微笑みながら続きを促してきた。内心全力で安堵しながら、無表情を装う。
今更だけど、なんで俺こんな無表情貫いてるんだろう? いままあ、今更表情豊かにー、なんて流石にアレだから頑張るけど。相手悪魔だから、って頑張る方向間違ってる気がしてならない。よくよく考えれば、イッセーもいるわけだしこの場で即始末、とかはないはずだ。あれ、本気でなんで俺こんな表情固めてるんだろう。意味なくね? 原作から考えてもこの人、じゃない悪魔たちは人情深い感じだし。表情から嘘バレルとやだし、とか考えてたのって無駄なんじゃ……っと、それより返事、返事。
「いえ、断りました」
俺が答えると、グレモリー先輩は驚いた顔をした。視界の隅ではほかの人たちも驚いている、ように思う。
「それは何故?」
グレモリー先輩が聞いてくる。
「えっと、そもそも俺にとって、新城って不良のイメージしかなかったんですよ、当時は。だから正直な話、信用できなかった、っていうのが大きいですね。あと、協定結ぼうって言われた時に打ち明けられたあいつの神器が、超強そうだった、ってのもあります。当時の俺じゃ太刀打ちできないと思いました」
「
俺の言葉に、木場が反応した。苦笑しながら言われた言葉はつまり、あいつと一戦交えたということだろう。
「やっぱり強かった?」
俺は木場に向かって聞いた。正直、興味がある。強い奴と戦いたいなんてこの世界で望むほどの人物の実力だ。知っておいて損はないだろうし、木場の評価によって俺も対策を練る必要が出るかもしれない。新城、確か一回傍観派の一人と引き分けてるはずだし。
「そうだね……。パワーはある。見えないから正確にはわからないけど、スピードもかなりあるほうだろう。不良っていうだけあって、戦い慣れているんだろうね。体の動かし方もよかった。だけどまあ、それだけだ。俗に言うバトルセンスというものが彼にはなかった。力押しに頼りすぎている傾向があるね。あれだと、街中の不良レベルならどうにか出来ても僕ら人外相手には役者不足かな」
戦いになるのは同レベルの相手までで、格上相手には通用しないだろうね。
木場はそう言って締めくくる。すっごい辛口な評価だった。というか、そうか。スタープラチナなんて持っておきながら、誰相手かは知らないけど傍観派の一人と引き分けまでしか持っていけないのってそれが理由なのかな。俺が知ってるのって三人しかいないから、確かなこと言えないけど……。
「そう、か。つまり、もし俺が戦ってたら負けてた訳か、格闘術なんて習ってないし。逃げて良かったな、あの時……」
しみじみと呟く。
「逃げた? どういうことかしら」
俺の言葉に、グレモリー先輩が反応した。俺はグレモリー先輩に向き直る。
「いえ、新城が説明ついでに神器発動させたんですよ。で、俺の
「そ、そう。まあ、複写眼なら見えてもおかしくはない、のかしら? 彼の言うことを信じると、アレは守護霊のようなものらしいし……。そういえば去年魔力がどうの、ってソーナが言ってたわね……。それのことかしら」
俺の言葉を聞いて、グレモリー先輩がぶつぶつと独り言を漏らしている。えっと、聞こえてるんですけど?
「ああ、ごめんなさい。で、無事逃げれたのね? 誰かが大怪我をした、なんて聞いたこともないし」
我に帰ったグレモリー先輩が、こちらに安否を聞いてくる。まあ、五体満足でここにいる時点でわかってはいるでしょうが、はい大丈夫でしたよ。
「問題ないです。ちゃんと逃げ切りましたから。逃げる時にこのままここにいたら人外来るぞって言い捨てたのが良かったですね。何かあいつの目的強い奴と戦うことらしいんで、追ってこなかったんですよ」
「そ、そう。……あれは本当のこと言ってたのね」
だから聞こえてますよー? てかあれってなんだ、気になるぞ。何やらかしたんだ新城……。グレモリー先輩が呆れた顔をする。周囲を見ると、イッセー以外みんな呆れたような顔をしている。イッセーはよくわかっていなさそうだ。
「……。バトルジャンキー」
「あ、あはは……」
容赦なく突っ込む塔城さんに、苦笑している木場。俺としては塔城さんの意見に同意である。いつぞやに黒咲から聞いた、『ヴァーリと戦う』なんて目標を持ってる奴を他にどう表現したらいいのか、俺にはわからない。
「話は大体わかったわ。神器云々については、その時聞いたって認識でいいのよね?」
俺が新城をバトルジャンキー認定していると、グレモリー先輩がそう聞いてくる。
「おっけーですよ」
俺は軽くそう返しておく。よし、これで全責任は新城に押し付けれたぞ。何か変なこと言っても、新城がそう言ってたので、っていう言い逃れができる! あとは……。
「で、新城ってば一体何やらかしたんです?」
俺の話が終わったので、気になっていたことを改めて問いかける。本当、名前を聞くだけで疲れた表情を浮かべるほどだ。相当なことをやらかしていると期待、じゃない興味がある。
「あなた、さっきまでの無表情はどこいったのよ……。すっごく楽しそうな顔で聞くのね」
俺の顔を見て、グレモリー先輩がため息を吐く。って、あれ、いつの間に無表情が崩れて……。手を顔に当ててみると、頬がつり上がっているのが分かる。ちょっと意識して無表情にしようとしたが、すぐに口元がつり上がってしまう。俺は早々に表情の制御を諦めて、話を急かすことにした。
「俺のことは些細なことなので、気にせずに。ささ、何があったか話してくださいな」
わくわく。
内心を言葉にすると、こんな感じだろう。いわゆるワクテカというやつだ。そんな感じのことを思いつつグレモリー先輩を見ていると、大きなため息の後にとても疲れた声で呟いた。
「彼、一週間くらい前にはぐれ悪魔と戦って死にかけたのよ。それも、私たちが先に戦っていたところに乱入してきた結果として、ね。目の前で死なれるのも嫌だし助けたわけだけれど、彼、目覚めて最初に言った言葉が『オレと戦え』、よ? 結構値の張る魔法薬まで使って治療したのに、感謝の言葉すらなし! 頭痛がしたわね」
「……はぐれ悪魔というのは、主をなくした悪魔のことです。野良犬、という認識で問題ありません」
グレモリー先輩が頭を抱えて言葉を切った時に、隣に座っていた塔城さんが囁いてきた。どくん、と心臓が高鳴る。顔が赤くなってないか心配だ。どうやら新しく出た言葉を解説してくれたらしい。ばくばくと高鳴っている心臓を静めるためにも、ちら、とイッセーの方を見る。すると、こちらと同じように姫島先輩に耳打ちされている。が、イッセーの顔はわかりやすいほどにデレッデレだった。あれでは、内容を理解しているかすら微妙だろう。思わず呆れる。が、そのおかげで少し平常心を取り戻すことができた。
「ありがと」
俺は小声で塔城さんにお礼を言った。塔城さんは軽く頷いたあと、ソファに座りなおす。その様子を見ながら、改めてグレモリー先輩の言葉を考える。
……新城、流石にそれはバトルジャンキーすぎるだろう。乱入して死にかけて、助けてもらったのに感謝なしで戦えって……。
「あまりにしつこく言ってくるものだから、仕方なく祐斗に相手してもらったのよ」
俺が呆れていると、グレモリー先輩が続きを話しだした。おお、ここで木場が出てくるのか。そう思って木場を見ると、あちらも気が付いたのか頷いた。
「結果は祐斗の勝ち。負けた彼は、そのまま走り去っていったわ。次は勝つ、なんて捨て台詞を残してね」
グレモリー先輩が簡単にその後を語って聞かせる。が、声からして既に疲れていた。思い出すだけで疲れるほどって……。新城、おまえ本気でなにやってんの……!?
「結局、感謝もなしですか?」
俺が思わずそう聞くと、グレモリー先輩が首を横に振る。……お? ちゃんと感謝はしてたのか?
「いいえ、その二日後に私の下駄箱に感謝の言葉が書かれた手紙が入っていたわ。内容としては、感謝一割、再戦希望が九割、って感じだったけれど」
「…………」
えっと、なんかもうごめんなさい。同郷のやつがほんとごめんなさい。俺の心は申し訳なさでいっぱいになった。
「そんな顔しなくてもいいわよ。今は使い魔で常に監視させてるから……。言い方は悪いけれど、危険分子だし、ね」
内心が表情にまで出ていたのか、グレモリー先輩に苦笑されてしまった。そして既に手は打ってある、と。
「さて、気分を入れ替えて、イッセー、ライナ。二人に言っておくことがあります」
「なんですか?」
言葉で言ったとおり気分を入れ替えるためか、わざとらしく明るい声でグレモリー先輩が言った。言っておくこと? なんだろう。イッセーもそう思ったのか、思わずといった様子で声に出していた。
「まずはイッセー、蒸し返すようで悪いけれど、あなたはあの夜に死んだわ。だけど生き返った。上級悪魔であるグレモリー公爵家の娘たるこの私、リアス・グレモリーの眷属、下僕としてね」
グレモリー先輩がそこまで言ったとき、その背中に黒い悪魔の翼が出現した。続くように、姫島先輩や塔城さん、木場の背中からも同様の翼が生える。
「うぉあっ」
それらを見たイッセーが驚いて後ずさる。だが、その拍子にイッセーの背中からも同じ黒い翼が出現した。
「うぉ!?」
自分から悪魔の翼が生えたイッセーは、驚きの声を上げて自身に生えた翼をまじまじと見る。……あれ、マジで生えてるのか。へー、面白いな。俺も欲しい。そんなことを考えながらイッセーの翼をじぃっと見る。こっそり複写眼も発動させて視る。だが、どうやら種族特性的な感じらしく、式は見えなかった。
「そんな、俺、人間辞めちゃってた―――!?」
「悪魔も捨てたものじゃないわよ?」
驚き、嘆いているイッセーにグレモリー先輩が囁きかける。
「例えば、どのように……?」
「そうね……。イッセー、頑張ればハーレムが作れるわよ?」
しょぼくれて、見るからに元気がなさそうだったイッセーが、その一言で急にテンションがマックスになった。
「そ、その話を詳しく!!」
「上級悪魔になると、下僕を持てるのよ。さらに、最近は人間からの転生悪魔でも成り上がりが可能になった。つまり―――」
「じ、上級悪魔になりさえすれば、あんなことやこんなことも……!」
「自分の下僕なら、いいと思うわよ」
「おっしゃああああああ! ハーレム王に、俺はなる! 悪魔万歳!!」
叫ぶイッセー。その顔は煩悩に満ち溢れていた。……わかりやす。
「よろしくね、イッセー」
そう言ってニヤリと悪魔らしく笑ったグレモリー先輩は、こちらを振り向いた。
「次にライナだけど―――」
どうしよう、その顔に浮かぶ悪魔らしい笑みのせいで、嫌な予感しかしない……。不安に思うが、時間は待ってはくれなかった。グレモリー先輩が続きを口にする。
「―――あなたはどうしようかしら? ものは試しに、眷属になってみる気はない?」
「なります!!」
…………。……あ。しまった、眷属=仲間=塔城さんとお近づきに、って思い至ると考えるより先に返事しちゃった。俺もイッセーのこと、バカにできないほど煩悩に満ち溢れていたようだ。