……恋愛描写とか、恋心の心理描写書ける人ってすげー。無理だわ違和感しかない。
はじまり
随分と色々知ることになった春休みも終わり、新学年。俺は高校二年生になっていた。
結局俺はあのあと、新城の誘いを断った。殺されるかもしれないからって、自分から原作に関わっていったらそれこそ命がいくつあっても足りないと思ったからだ。その後あの二人とは話していない。個人的には、せいぜい頑張って原作に介入しつつ他の転生者たちを退けて欲しいと願っている。
それはそうとして、俺の前には今、原作主人公である兵藤が居た。そう、俺は二年のクラス替えで、不運にも兵藤と一緒のクラスになってしまったのだ! ……はぁ。
その兵藤は、いつもは変態三人組で固まって騒いでいるのに、今日に限ってクラスの男子全員に何やら携帯の画像を見せびらかしながら騒いでいる。というか他の男子に勝ち誇ったような表情でなにやら彼女だのリア充だのと叫んでいるのを見た時から嫌な予感はしていたのだけれど。
嫌な予感ほど当たるとはよく言ったもので、兵藤は俺にも携帯の画像を見せながらいやらしく笑った。ちらり、とその携帯を見ると、そこには黒い髪の美少女が映っているのが見える。兵藤は携帯を持っていない方の右手でガッツポーズを取りながら、鼻息荒く宣言した。
「竜灯! 俺、彼女ができたんだ!!」
……あぁ、恐れていた原作が始まってしまった。
「これで俺もリア充の仲間入りだ! ふははは、羨ましいだろう!」
項垂れている俺を無視して、兵藤は一人で勝手に盛り上がっている。ぶっちゃけかなりうざい。兵藤に見せつけられた他の男子が同情の眼差しでこちらを見てくる。
「ふふふ、竜灯! お前も彼女作れって! 人生バラ色になるぞ!」
何も喋っていない俺を見て、兵藤が何を勘違いしたのかアドバイスのような事を叫んで去っていった。
……。
「はぁぁぁ……、鬱だ」
兵藤が元の変態三人組の場所に戻って松田と元浜の二人にプロレス技をかけられているのを見て、大きくため息を吐いた。どうか巻き込まれませんように……。
*
原作が始まったと確信したあの日から数日後の金曜日。俺はこれまで以上に全力で周囲に溶け込もうとしていた。もう少しだ。あと何週間かで一先ず命の危険はなくなるはずだ。原作からして、はぐれ悪魔とかもいそうだが夜出歩かなければ問題はない、はずだ。堕天使レイナーレさえグレモリーにどうにかしてもらえば、この街は一先ずは安全になるはずなんだ。だから―――、
「(こんなとこでバレるわけにはいかないぃいいいいい!!!)」
そう決意を新たに、俺は周囲の魔力と俺の魔力の量がイコールになるように調整しつつ群衆に紛れて冷や汗をかいていた。現在、放課後。なぜか体育館で急に行われることになった全校集会で、生徒会長からのお知らせを聞いているところだ。
なんでも、最近この付近に不審者が出没しているため、その注意喚起だそうだ。うん、それだけならいいよ? でもさ。なんで使い魔を体育館の隅っこに配置して、自分はうっすらと魔力を放出しているんでしょうか? あれですか、この中にいるかも知れない魔力持ちを炙りだそうとしてるんですか。ってうわあああああ!?
「(あっぶなあああああ! 魔力が通り過ぎたぞおい!? これ下手に反応したらバレるぅううう!)」
危なかった。いくら人体に影響は無い程度の魔力とは言え、それでも魔力を受けたら俺が周囲と合わせている魔力は揺らいでしまう。今下手に収束が乱れようものなら即座に俺という存在がバレてしまうのだ。というか、
「(魔力を完全に跳ね返してる新城と黒咲がすごいなぁ……。これ、完璧に目をつけられるフラグじゃねーか)」
そう、あの二人は放たれている魔力を気にも止めずに、仁王立ちしている。おかげで生徒会長はあの二人を見たときに若干静止して目を細めたのが見えた。ああ、どうかそっちに注目してこれ以上魔力放つのをやめてくださいおねがいします!!
そんな俺の心の叫びが聞こえたのかどうかはわからないが、魔力のソナー(と思われる)は止まった。
……、あぁ、よかった。こんな冷や汗かいた全校集会は生まれて初めてだぞおい。
魔力ソナー(仮)が止まると同時に、先生から挨拶の号令がかかる。俺も周囲と混じって、「ありがとうございました」と小声で言い、教室へ急ぐ。というかこんな危険空間に一秒でも長居したくない!
そう思いながら人がごった返している体育館入口へ行こうとすると、振り返ると同時にドン、と人とぶつかってしまった。俺は少しふらつく程度で済んだが、相手は思いきり尻餅をついてしまった。
「っと、悪いっ。だいじょ―――」
即座に謝罪しつつ手を差し出そうとして、俺は固まってしまった。 そこにいたのは白いショートヘアに、黄色い瞳、黒猫を模した髪飾りがチャーミングな小柄な体型の美少女だ。兵藤たちが騒いでいるのを聞いたこともあるし、なにより俺はこの子のことを
―――塔城小猫。原作ヒロインのうちの一人で、学園のマスコットキャラとしても有名な一年生である。
そんな有名な彼女を見て俺は、頭の中が真っ白になってしまい不覚にも体が硬直してしまったのだ。
というか、
「(やばいどうしよう原作が関わってああでもかわいいな……ってああああやばい混乱してるどうしよう頭回らないえっとえーっと!?)」
と、俺が混乱して立ち尽くしていると、彼女はそのままの態勢でこちらを見上げてくる。ドキリ、と胸が一際強く高鳴った気がした。―――遠いところで何か落ちるような音が聞こえた気がした。
「……。いえ、こちらも前方不注意でした。すみません」
彼女がそう言って初めて、俺はようやく現実へと帰って来れた。
「……あ、ああ。いや、えっと、こちらこそごめん。怪我ない?」
無様を晒したことを恥じながら、俺は改めて手を差し出した。多分今の俺の顔は真っ赤だろう。さっきから心臓がバクバクとうるさい。
「はい、大丈夫です」
そう言って彼女は俺の手を取って起き上がった。そしてスカートをパタパタと叩いて埃を落としたあと、「では、これで失礼します」と言って歩いて行った。
俺はその後ろ姿が人ごみの中に消えるまで見送ったあと、彼女に差し出した右手を見ながら呟いた。
「塔城小猫、か……」
口の中で消えていったその名前の響きは、何故だか俺の胸に深く残った。未だに心臓はバクバクと音を刻んで、その存在を主張していた。
*
あれからしばらくあの場で立ち尽くして居た俺だったが、周りから生徒の影がほぼ無くなってようやく我に返った。教師たちからはよ帰れという視線を背中に感じつつ体育館を出て教室へ戻ると、当たり前だが俺以外の全員が既に椅子に座って居た。
俺が教室へ入ったときに一瞬だけおしゃべりが止まったが、教師じゃないと分かると皆おしゃべりを再開した。俺は複数の声が重なってもはや騒々しい教室の中、廊下側最後列から一列前にある自分の机にフラフラと向かう。その間、これまで影の薄い生徒を意識して演じてきたからか誰も特に話しかけてくることはなかった。
椅子に座ると、思いっきり机に突っ伏した。そしてこれまで我慢していた分を吐き出すかのように大きくため息を吐く。
「はぁぁぁぁぁ……。つかれたぁ」
思わずそうぼやいた俺は、そのまま机に上半身を預けるように脱力する。
……あーもう。集会中は生きた心地しなかったし、終わったら終わったで塔城さんとぶつかっちゃうし、いつの間にか収束解けて魔力切れ起こしてるし。今日は厄日だな。
そこまで考えて、俺は不意に先ほどの塔城さんの姿を脳裏に思い浮かべた。
……白い髪と白い肌、黄色い瞳にどこか気まぐれな猫を思わせる雰囲気を滲ませたクール系美少女。黒猫の髪飾りがよく似合っていた。そんな子が、尻餅をついた態勢から見上げて、つまり上目遣いでこちらを見るあの姿は、とても可愛かった……って!
「(うあああああ!?)」
内心で思いっきりそう叫びながら、俺は机に向かって思い切り頭をぶつける。ガン、と思った以上にいい音が鳴ったが気にせずに俺はさらにもう一度頭を振り上げる。
「ね、ねぇ……。どうしたの、何してるの!?」
無言で机に頭突きをし続ける俺を見て、隣の席の村上さんが声をかけてくる。恋バナ大好きと言って憚らないクラスでも結構目立つメガネ女子である。普段なら軽口でも返しているのだろうけど、悪いけど今はそんな余裕はなかった。
「考えるな、考えるな、考えるな、考えるな……」
ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、……。「考えるな」の掛け声と共に頭を机に向かって振り下ろす。脳が揺れて目の前が歪んで見えるし、頭がガンガン痛むけど、それでも脳裏に焼き付いた塔城さんの姿を掻き消すには至らない。
「ちょ、ちょっと? 痛くないの? ねぇ―――」
「―――無心になるべしッ!!」
ガンッ! と、一際強く頭を振り下ろしてようやく俺は先ほどの塔城さんの姿を脳裏から掻き消すことに成功した。隣で村上さんがビクゥッ、と驚いてこちらに伸ばしかけていた手を引っ込めたのを横目に、俺は頭を上げて頭を押さえる。
「っ痛ぁ……。くぁー、雑念を消すためとは言え、やりすぎたかなぁ……。あ、ごめんさっきは無視して」
そう言って俺は村上さんに軽く頭を下げる。
「えっ!? いや、いいよ。そんな大げさな。というかなんだったの? いきなり」
なんか鬼気迫る感じでびっくりした、なんて笑いながら村上さんが言う。んー……。まあ、言っても問題ない、か。
「いや、大したことじゃないよ」
俺はそう前置きして、体育館でぶつかった塔城さんのことと、さっきの頭突きの真相を説明する。
「―――ってことで、さっき思いっきり机に頭突きしてたんだよ」
確かにちょっと自分でもやりすぎたと思う、なんて言って俺は笑った。しかし、村上さんは俯いてプルプルと震えている。って、
「……え、あれ? 村上さん? ここ笑うとこだよー? おーい?」
普段のノリで行くと、ここは『確かにねー』なんて言って笑ってくれるはずだったんだが……。心配になった俺は村上さんの顔色を見ようと少し前のめりになる。すると俺が顔色を覗く前に村上さんはガバッ、っと言う擬音がつきそうなほど勢いよく立ち上がると、その勢いのまま教室中に響く大声で宣言した。
「―――おめでとう竜灯くん! それは、『恋』だよ!!」
「…………はぇ!?」
いきなりの言葉に俺は思わず変な声を上げてしまう。そしてその言葉の意味を問いただそうとすると―――、
「うおおおおお、ようやくか竜灯!?」
「おめでとう! 実は不能なんじゃないかとちょっと心配してたのよ、私!」
「くっそぉおおお! 悔しいけど竜灯なら納得しちまう俺が憎い!」
「わかるー。竜灯くん誰とでも仲良くなれるもんねー」
「うわあああああ負けた!? 竜灯くんは卒業まで恋愛をしない方に賭けてたのに!!」
「やったぁああああ大穴二年で竜灯くんが恋をする、で大勝利ぃ!!」
「あらゆる我らの作品で、男同士が出会うきっかけに最適なほど人脈を持つ竜灯くんだもの。納得だわぁ」
「そんな!? 次回作では彼と三角関係を考えていたのに!! ああでも、二次元の恋より三次元の恋事情の方が面白いわ!」
わいわいがやがや。
「……えっ」
俺がどう反応していいのか分からずに呆然としていると、この空気を作った張本人である村上さんが俺に向かって言葉を発する。
「実はね、竜灯くんってこの高校入ってから一度もこういう浮ついた話、出たことないでしょう? 二年生の大体のグループと仲がいい竜灯くんがそんなだから、みんな裏でひっそり心配してたんだよ。いっつも自分より他人を優先してきた竜灯くんみたいないい人が、恋愛をしないなんて悲しすぎる、って! でも安心したよー! これで竜灯くんも恋バナ、できるね!」
そう言って笑った村上さんを呆然としたまま見上げた俺は、少しして言われた内容を理解する。
「……えっ。俺いつの間にそんないい人認定されてんの!? ていうか恋愛しないだけで悲しいってひどくね? あと俺は恋なんて認めてないぞおい!?」
吠えるように叫んだ俺は、思いっきり立ち上がって村上さんに抗議する。しかし、
「またまたぁ~」
村上さんは笑いながらあっさりと俺の抗議を切り捨てる。
「まず、竜灯くんの疑問に一つずつ答えていくとねー。竜灯くん、二年生のうちの大半と友達だよね? それも本来仲が悪いグループ同士でも竜灯くんという共通の友達を通して一時的に一緒に喋るくらいには。しかも、何回か喧嘩してグループごと敵対関係になっちゃったグループを仲直りさせたよね。だから、竜灯くんは二年生の間じゃ恋のキューピットならぬ仲直りのキューピットとして有名だよ?」
「なん、だと……」
確かに、俺はこの一年の間に何度か喧嘩した女子の仲を取り持ったことがある。クラス全体を巻き込むレベルのいざこざだったので、喧嘩されたままだと俺が目立つことになるかも知れないと思ったゆえの行動だった。それがそんなに高評価になっているとは……。
驚愕している俺を無視して、村上さんは続ける。
「次に恋愛しないと悲しいって話だけどー。竜灯くん、高校生の八割は恋愛をするためにあると言っても過言ではないんだよ!!」
そう言い切った村上さんの言葉を裏付けるかのように、クラスの女子ほぼ全員と数人の男子が頷く。
「マジか……」
「最後に―――」
まって、もうお腹いっぱいです。そんな俺の心の叫びは届くはずもなく、村上さんは決定的な言葉を言い放った。
「竜灯くん、全力で自分の頭に何回も衝撃を与えないと女の子の姿が脳裏に焼き付いて消えないその状態は、ズバリ『一目惚れ』ッ!!!! そうっ、竜灯くんはズバリその女の子に『恋』しちゃっているのです!!!!!」
ズガァン、と。ガッツポーズまで決めて力強く言い放った村上さんの言葉に、俺は強い衝撃を受けた。知らず、後ずさる。無意識での抵抗だった。弱々しい抵抗だった。
村上さんは、俺のそんな抵抗等無意味とでも言わんばかりに言葉を続ける。
「疑うならば想像してみてッ! あなたの意中の女の子が、頬を染めながら上目遣いであなたを見上げてくる光景を!! そして恥ずかしがりながら、小さな声でこう言うの!! 『好きにして、いいよ……』って!!」
「な、にを……」
言ってる、そう言おうとして俺は思わず言われた通りに想像してしまった。塔城さんが、頬を染めながら上目遣いでこちらを見上げながら、少し躊躇した後に『……。……好きにして、いいですよ』と言ってくる光景を。
ボン、と顔が真っ赤に染まるのが分かる。胸が締め付けられるような感覚を覚え、思わず右手で押さえた。
「うわああああああああああ!?」
そしてじっとしていられなくなった俺は、全力で目の前にあった机に頭を打ち付ける。
「わかった? そう、あなたが抱いている想いはまさしく、『恋』ッ!!!」
そんな俺に向かって、村上さんはそう言い切る。それを聞いて、俺はついに意地を張るのをやめた。
「~~~~ッ。ああそうだよ好きになっちまったんだよ悪いかこらぁ!!」
「ひゅーひゅー!」
「応援してるからねぇ!」
「あっついねー」
俺が恋をしたことを認めると、俺の中で何かがストン、とあるべきところにハマったような感覚がした。それと同時に、クラス中から冷やかしの言葉が投げつけられる。
「ねね、でさ。結局、その恋のお相手は誰なの?」
そんな中、俺に向かってクラスの女子の一人――確か逢沢さんが聞いてくる。……ああ、そうか。俺が話したのは今のところ村上さんだけか。女子の情報網は広いから、明日にはクラス中に知れ渡るんだろうが、今は―――。
「―――悪いな、黙秘する」
「えー、ずるーい。いいじゃん教えてよー」
断る、教えて、そんなに知りたいなら村上さんを締め上げたらいいだろう話してるし。そんな会話のあと、逢沢さん含め多数の女子が村上さんに群がっていた。あぁ、他人の恋路は見る分には楽しいからなぁ。
そんなことを思いながら、俺は窓に近寄って空を見上げた。
―――恋をした。
これはきっと、俺が原作に関わることになるだろう、と思う。でも不思議と嫌悪感はない。それどころか、あれほど嫌っていたはず原作も悪くない、と思えてきて。
―――俺は、塔城小猫に恋をした。