ハイスクールD×D 転生者たちの宴   作:七忍ルキ

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決別《はじまり》

 唐突だが、『生きる』とはどういうことだろうか。

 

 我思う故に我在り。その言葉の通りその人が『自分は生きている』と信じていれば、それは『生きている』ことになるのだろうか? 例え奴隷の如き扱いを受けていたとしても、その本人がそれを受け入れていたらそれは『生きている』のだろうか?

 

 俺はそうは思わない。俺が考える、いや定義する『生』とは、『暖かい』ことである。なぜなら、『生』とは対極に位置するはずの『死』が冷たいものであるからだ。

 前世での最期のその瞬間。俺の体は冷え切り、凍え、体中から一切の熱を感じることができなくなって死んでいった。これまで生命の鼓動を刻んでいた心臓が動きを止め、体が外からも内からも冷えていくあの感覚……。あの感覚だけは二度と味わいたくない、と思う。

 

 だからこそ。自分が味わいたくはないからこそ、それを味わうと分かっている友を見捨てても良いはずがあるだろうか。いや、ないだろう。

 原作において、イッセーは一度殺され、『死んで』から悪魔として蘇るはずだ。 いくら蘇るとは言っても、その間にイッセーはあの極寒の冷気を味わうこととなるのだ。寒く、暗く、ただ自分一人がどこまでも深い穴に落ちていくかの如き『死』。そこに一度は転がり落ちることが分かっている友を見捨てて、それでも俺は胸を張ってイッセーの友だと言えるのか。

 

 そんなことを考えてしまったからだろうか。夕方、街中に展開された人払いの術式を『複写眼(アルファ・スティグマ)』で捉えたあと全力で家を飛び出してしまったのは。

 もう夕方だからか、家に帰る人が行き交う道を全力で駆け抜けていく。だんだんと目的地である公園に近付くにつれて人の姿が減っていく。息を荒げながら公園を視界に入れたときは、もう周囲に一般人の姿は見られなかった。

 

 息を整えようともせずに俺は公園内に駆け込む。そこで俺は、血の海に沈むイッセーと噴水の淵に腰掛けてイッセーに何か話しかけている背中から黒い翼を生やした黒いボンテージ姿の天野夕麻―――いや、“堕天使”レイナーレの姿を目にする。

 俺は思わず叫びながら、何の準備もなしに走りだした。

 

「イッセーッ!!」

 

 

   *

 

 

 その叫びは、刻一刻と死に近づいているイッセーにも聞こえていた。

 

「ら……い、な?」

 

 カフッ、と血を吐き出しながら、イッセーはうまく動かせない体を酷使して首を声の聞こえた方へ向ける。そこにあったのは、黒いTシャツに白いジャージを履いた、両目に朱く光る五芒星を浮き上がらせた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ライナが、こちらに走り寄ろうとしている姿だった。

 

「あら、見られちゃった。あなたのお友達? でも残念、見られたからには死んでもらうわ」

 

 天野夕麻―――レイナーレは、イッセーに向けてそう言いながら立ち上がってその手に光の槍を創り出した。それを見たライナは立ち止まってその槍を警戒する。

 

「来たばかりで悪いけれど、死んで頂戴」

 

 冷たく言い放って、レイナーレは手に持った槍を振りかぶる。

 

構成式(存在)を解析―――完了」

 

 その様子を、ライナはそう呟きながらその場に立ち尽くしたまま動かない。魔法陣の浮き出た両目でその槍を凝視したままだ。

 

「サヨナラ」

 

 動かないライナに対してそう告げると、レイナーレは振りかぶっていた光の槍を投擲する。光の槍は空気を裂きながらライナに高速で迫る。

 

「らい、なぁ……!」

 

 血反吐を吐きながら、イッセーが悲鳴をあげる。それを聞いて、ライナはチラリとイッセーの方を向いて口元を釣り上げたあと、光の槍に向き直って一言こう告げた。

 

「―――消えろ(・・・)

 

 瞬間、今にもライナに突き刺さろうとしていた光の槍は、まるで最初から存在していなかったかのように虚空に消えた。

 

「なんですって……!?」

 

 その様子を見ていたレイナーレは、思わずといった風に声を漏らす。そしてもう一度、今度は先ほどのものより一回り大きな光の槍を創り振りかぶった。

 

「ありえない、ありえないわ! この私の攻撃が、たかが人間に防がれるはずがないのよっ!」

 

「ソレはもう視た(・・)

 

 今にも投擲しそうなレイナーレに向けてライナがそう言って右手を鳴らすと、またもやその光の槍は消失する。

 

「なッ……!? なんなのよ貴方はぁ!!」

 

 そう言って再度レイナーレがその手に光の槍を創ろうと―――した瞬間、イッセーの近くで赤い魔法陣が展開された。

 

「―――グレモリーの転移魔法陣!?」

 

 それを見たレイナーレが悲鳴のようにそう叫ぶと、背中の翼を広げて空に飛び上がる。

 

「貴方、近いうちに必ず殺すわ。覚えてなさい!」

 

 最後にレイナーレはライナに向けてそう言い捨てると、翼をはためかせてどこかへ飛び去っていった。あたりに黒い羽が散らばる。

 

 

   *

 

 

「―――イッセー!!」

 

 レイナーレが本当に撤退したのを魔力反応(・・・・)で確認した俺は、複写眼を消すと急いで死にかけのイッセーの元へ駆け寄ってその傷口に手を置いて出血を抑えようとする。

 

「おい、意識はあるか!? イッセー!!」

 

「……へ、へへ。ごめ、ん、ライナ。せっかく、一緒、に……考えた、デー、ト、プラン。失敗、しちま、った」

 

「そんなことはいいから! おい、目を閉じるなイッセー!! 逝くな! そっちは、『冷たい』だろうが! 戻ってこいよイッセー!!」

 

 俺の叫びも虚しく、イッセーはだんだんとその目を閉ざしていく。もうダメかと思ったその時、俺は先程からあった転移魔法陣から転移完了した気配と、新たな魔力を感知した。

 

 

「―――私を呼んだのは、貴方?」

 

 イッセーの傷口を抑えていた手はそのままに、目線だけそちらを向ける。そこに居たのは、『赤』。イッセーを濡らす血と同じ色の赤い長髪が特徴的な、駒王学園でも有名な先輩。

 

 ―――リアス・グレモリー。原作、ハイスクールD×Dにおけるイッセーのメインヒロインにして、イッセーを“悪魔”として生き返らせた魔王の妹。イッセーの主。

 

「俺は、何もしてない。いや、何もできなかったんだ……」

 

 そのグレモリー先輩に対して俺はそう返答しながら横たわるイッセーの姿を示す。グレモリー先輩はイッセーを見て、その近くに落ちていた魔法陣の描かれたチラシを確認して言う。

 

「……、どうやらそのようね。じゃあ、そっちの死にかけの子が私の契約相手ってことね―――」

 

 グレモリー先輩は少し考えたような仕草をしたあと、俺に聞こえないような小さな音量で何やら呟いてから、懐から赤いチェスの駒のようなものを取り出して俺に向かってこう言った。

 

「少し、離れてなさい。これからこの子を生き返らせるから」

 

 悪魔として、だけどね。

 そう言ったグレモリー先輩は、俺を強引に押しのけるようにしてイッセーから引き剥がす。それを受けて俺は数歩ほど後退したあと、グレモリー先輩に向かって頭を下げる。

 

「悪魔だろうがなんだろうが、なんだっていい。イッセーを―――俺の友達を死から、あの『冷たい』場所から引き上げてやってくれ……!」

 

 俺の言葉を受けたグレモリー先輩は、少し驚いた顔をしたあとに、胸を張って答えた。

 

「―――任せなさい」

 

 グレモリー先輩はイッセーの胸にチェスの駒を置くと、足元に魔法陣を展開させる。それと同時に、グレモリー先輩の体を赤い魔力が覆う。

 

「―――我、リアス・グレモリーの名において命ず。汝、兵藤一誠よ。いま再び我の下僕となるため、この地へ魂を帰還させ、悪魔となれ。汝、我が『兵士(ポーン)』として、悪魔としての新たな生に歓喜せよ!」

 

 パァァァ―――、とグレモリー先輩がイッセー先輩に向かってそう告げると同時に、二人の下にある魔法陣が赤く輝いた。

 その赤い光がまぶしくて、俺は思わず手で目を隠す。

 光が収まったのを確認してから手をどけて複写眼を発動、イッセーの様子を観る(・・)。以前視たときより魔力量が増えて米粒クラスの魔力弾を出せるレベルになっていて、更には魔力の流れが人間だった時とは異なる流れ方をしていた。しかしそれは、イッセーが無事に悪魔として生き返ったことを意味している。

 そしてなにより、血まみれではあるがその傷口があった腹部に傷は見受けられないし、胸も呼吸で上下している。未だ意識は戻っていないようだが、この様子なら時期に目を覚ますだろう。

 

「よかった……!」

 

 俺が思わず声を漏らすと、グレモリー先輩がこちらに振り返った。

 

「―――ッ!? 貴方、その両眼……」

 

「え、あッ」

 

 こちらを振り返ったグレモリー先輩の言葉で、俺は自分が複写眼を消す。そして恐る恐る、グレモリー先輩の方に向き直る。

 

「……色々と聞きたいことはあるけれど、まあいいわ。今日は他にもやることがあるし。貴方、駒王学園の生徒よね? 以前学園で見かけたことがあるわ。後日、使いを出します。この子に説明するときに一緒に呼ぶので、その時にでも説明してちょうだい」

 

 グレモリー先輩はそう言ってイッセーと共に魔法陣でどこかへ消えてしまった。その場に残ったのは、イッセーの血で両手を汚した俺と周囲に散らばる黒い羽、そして一つの血溜りだった。

 ……え、この見るからにカラスでも解体(バラ)したかのような現場は俺にどうにかしろってことですか?

 

「ま、いいか……。このくらいなら、これまでイッセーの死を容認しようとしてきた罰としては軽いくらいだ」

 

 

 そう呟いて、俺は後始末をすべく行動を開始した。

 

 ―――ああ、そうだ。これは言っておかないと……。できれば本人がいるところが良かったけど、面と向かって言うのは恥ずかしいし、ちょうどいいかな。

 そう思うと、俺は小さく言葉を吐き出した。

 

「―――さよなら、人間(イッセー)

 

 そしてこれからよろしく、悪魔(イッセー)―――。 

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