青い星は翳ることなく 作:にわか物書き
その日、アイはムンクの『叫び』となっていた。
「~~~~~!?」
「あはははは!アクアくん人気ですね~」
人気女優の片寄ゆらが楽しそうに、しかしどこか不快そうに笑い、スマホの画面を消す。
「アクア盗られちゃうよぉ!?笑い事じゃないよ!」
「先輩先輩、よく見てくださいよ。アクアくんの対応、脈ありに見えます?」
「でも、一目でわかるくらいおっぱい大きいんだよ!?私より!ゆらちゃんより、も゛?!」
「ちょっと落ち着きましょう?」
荒ぶるアイの脳天へと、サブマネージャーが躊躇なく手刀を落とし、黙らせる。
「若手の人たちが困ってるじゃない、全く」
「あはは………お手数おかけします、カナンさん」
「さん付けはいりませんって、何度も言ってるじゃないですか」
かつてはB小町の一員として活躍していた清楚系の美女、カナンが苦笑を零す下で、アイが復活。
「せめて事前に言ってよ!」
「言いましたよ?聞いてなかっただけです」
「言ってましたね、振り下ろす直前に」
社長でもある壱護の代理の側面もあるサブマネージャーだが、アイドルではないアイの一面を、否応なしに散々に見せつけられた結果、かつてのセンターに対する扱いはかなりぞんざいなものになっていた。かつての壱護であれば苦言を呈したような所業だが、それを受けるアイがどことなく嬉しそうであるのは………
「ところで、アクアくんのお相手の子………寿さん、陽東高校の芸能科在籍らしいですけど」
「知らなーい」
「相変わらずかー。アクアくんも社長さんたちも大変そうですね」
「社長は………別にいいんですけど、アクアくんが気の毒ですね」
贔屓の経験があるからか、カナンからの対応は厳しいの一言。アイに対しても同様だが、彼女にとってはその厳しさが嬉しく、でろでろに甘やかされるより心地よかった。何より、今のカナンとの関係は、B小町のアイだった頃では絶対にあり得ないもので、もっと早くこうならなかった現実への恨みもあれど、仲良くなれた喜びの方が強かった。
「だってさー!ルビーってばさー!」
「はいはい、先輩への敬意が足りない生意気な、リスペクトは欠かさないいい後輩ですよね」
「そうそう、可愛くて生意気で健気な子ですよねー」
「うるさいうるさーい!」
嫌よ、嫌よも何とやら。アイ自身、ルビーのことは未だ心の底から愛しているのだ。
好きだからこそ、嫌ってしまう。愛しているからこそ、黒い感情を抱き、向けてしまう。
「あの子のグッズ一通り買い揃えてるのに、ですか?」
「ぐふっ!?」
「休憩時間とか、ルビーちゃんの歌ばっか聞いてますよねー」
「ごぱっ!?」
「………そういえばアイさんの鼻歌って、B小町のルビーちゃんの持ち歌ばっかじゃ」
「やーめーてーッ!?」
外野まで加わっては、もう対処できず、アイの意外な一面が共演者たちに広まっていく。
幸い、ルビーがアイに対して生意気めなこと、またパフォーマンスが素晴らしいことを知る人物は多く、日頃の当たりの強さも、ルビーへの厄介ファンぶりもある程度納得されている様子。流石に、この場でアイとルビーたちに血縁関係があると知っているのは、サブマネージャーのカナンくらいなものだ。
「てことは、アイさんの最推しってルビーちゃん?」
「私はエリカさんかなー、歌綺麗だし」
「あおいちゃんの健気な感じが好きかなー………趣味は兎に角」
「う、うちはひなたさん………あの人の声、最高」
「ちらっと見ただけだけど、銀髪の子の人気はどうなんだ?」
「「「シオンちゃんかぁ………」」」
「待て、なんだよその反応は!」
いつの間にかB小町の話題に移り、ファンをしている者たちが盛り上がる。
「やっぱ人気ですね、あの子たち」
「先輩、ルビーちゃん布教のチャンスですよ?」
「しないから!」
現在のB小町に対する羨望、嫉妬もある。自分も敗けていない、という意地がある一方、最愛の娘の輝きを一番に評価して欲しい、という親心もあり、アイの胸中は複雑極まっている。ルビーが一番であって欲しい一方、かつての自身のように関係が壊れないで欲しい、という親心もあり、一言では表し切れない複雑怪奇な感情が渦巻き続けている。
黒いモノも向けているが、ルビーは間違いなく、アイの最愛の娘なのだから。
「大体、ルビーは歌もダンスもまだまだで―――!」
そこから始まるのは、アイによるダメ出し………またの名を、厄介ファンの語りであった。
元々音痴だった歌唱スキルへのダメ出しに始まり、社長夫妻と共に選出したメンバーと比較しての欠点、改善点をつらつらと指摘していく。なまじ完璧主義者である為、本当に徹底的に追及していくが、本当によく見ている人間でなければ気付けないような内容であることをアイ自身は自覚していない。
更には、ルビーの仲間たちもしっかり評価すべきところを評価し、欠点も指摘している。
それこそ、カナンが真面目にメモを始める程徹底的に、妥協も忖度もなく。
((((厄介なタイプのガチファンじゃん))))
アイが冷静さを取り戻したのは、カナンがその頭に再び手刀を振り下ろした後であった。
>>>>>>
今ガチ参加後、己の感情を自覚したみなみは、より距離を縮めていた。
「アクア、そこ代わって」
「だーめ♪」
「むぅ………みなみに言われたら仕方ない。日々の疲れを癒すのに専念しよう」
「いや専念しようじゃなくて!お兄ちゃんもちょっとは抵抗する!」
アクアと密着するみなみが楽しそうに声を弾ませ、ルビーが食って掛かる。
「そこは私のポジションなんだから!」
「あ、そっちなん?」
「膝は………あおいちゃんになら貸してあげなくもないけど、隣は譲らないから!」
「あ、そっちはええんやね」
「あのロリっ子、そんなに懐いてるんだ」
「14だぞ」
「合法じゃん」
「いやアウトだろ」「アウトだよ」「アウトやね」
「まるで人をロリコンみたいに………」
泣き真似をしたフリルだが、すぐにあることに気付く。
「待って。アクア、あの子を膝に………?!」
「まあ、偶に」
「今度苺プロにお邪魔していい?いいよね、よし決まり」
「ちょっと待てぃ!」
「流石にそれはどうなん?」
「私、妹居ないから気になるんだよね」
「あの子、オフだと人見知り激しいからどうだろな………」
事務所内ですら一人で出歩きたがらない少女を思い、アクアは苦笑を浮かべる。
まず間違いなく、この押しの強いマルチタレントは怖がられてしまうだろう、と。
「むむ………オフの様子は初めて聞いた」
「そりゃあ、みんなオフの様子は見せて………シオンは割と見せてるね」
「あれでファン層が二分化されてるからな、白雪さんは」
「私は好きだけどね、あのミステリアスな感じからお出しするクソガキムーヴ」
さらりとアクアが用意したおかずを平らげて、フリルはどこか楽しそうに笑う。
「あれのお陰で、偶にお姉ちゃんにボコボコにされる時の可愛さが際立ってるよね」
「「「………ドS………」」」
(けど、なんとなくわかるかも)
軽く引かれ、距離を置かれるフリルだが、ルビーは内心密かに同意していた。
「待って。冷静に考えて………B小町のゲーム配信における、悲鳴需要を」
「だいぶ前、日下部さんを泣かせた参加者が袋叩きにあってたな」
「私は悲鳴が聞きたいだけであって、泣かせたいわけじゃないの。そこは勘違いしないで」
「キメ顔で何言ってるん?」
「ちなみに、私の悲鳴はどんな感じ?」
「ルビーちゃん?」
「汚い悲鳴だけど、可愛らしさもあるから全然オッケー」
「汚いって何!?」
尚、ルビーの悲鳴人気は中堅くらいである。
「あー………なんかわかる気するわぁ」
「みなみちゃん、あとでお話」
「実際、そんな綺麗じゃないな」
「お兄ちゃんまでぇ!?」
「こればっかりは比較相手が悪いよ」
尚、悲鳴人気とは別に、リアクション面での人気はシオンに並び高い。
「私は好きだよ、ルビーの悲鳴………と、リアクション」
「そういうのはロリ先輩の役目だよ!」
「お前………有馬に怒られるぞ」
「有馬………そういえば、あの人も苺プロだっけ。次の仕事とか決まってるの?」
「伝手で貰えた、今日あまの時よりデカいネットドラマの出演が決まってる」
彼ら四人だけだからか、アクアはすんなりと話した。
「随分時間がかかったね」
「一時的に盛り上がったけど、下手な役をやらせるとまた振り出しだ。なら、多少の時間をかけてでも、有馬の持ち味を最大限引き出せる役を待った方がいい。完全に話題が下火になってからも覚悟してたけど、運が良かったよ」
「随分大きな借りを作ったんじゃない?」
「安いもんだよ。有馬以外の役者も、舞台も、求められる演技も、全部がアイツの持ち味を最大限に引き出せる環境だ。がっつり関われないのは心配だけど、出来得る限りのアドバイスはしてあるし、あっち側にもガンガン無茶振りするよう頼んでるから、そう難しくはない………ハズ」
最後に不安を見せてしまったのは、有馬かなと接して気付いた問題からか。
「そこはもう、ロリ先輩を信じるしかないでしょ」
「それはそう、なんだがな」
「そこまでお膳立てしてダメなら、もう駄目だろうね」
ルビー、アクアが気にかける一方、フリルは大分ドライな対応を見せる。
「光るものがあるのはいいけど、アクアがいなくちゃ輝かないなら、それは無いも同然だよ」
「耳が痛いな」
「厳しいコト言うけど、こればっかりは有馬かな次第だからね」
みなみを置いてけぼりにした三人の会話は、そこで一旦の終わりを見せる。
「ちなみに、ここにいる有望株へのアドバイスはない?」
「残念ながら、今の俺じゃフリルを今以上に輝かせることは出来ないな」
「じゃあ、うちでマネジのバイトでもしてみる?いい経験になるよ?」
「ストーップ!ソレ絶対引き抜きに繋がるやつでしょ!?」
「ソンナコトナイヨー」
「あ、それならうちの事務所とかどうやろ?フリルのトコ程やないけど、大手やし」
「そこもッ!」
フリルはまだしも、みなみは狙いが完全にガチである為、ルビーも猫の如く威嚇。
「気持ちだけ受け取っておくよ。二人ともありがとう」
「甘やかさない!」
「えー。いいじゃん、もっと甘やかして、ほら」
「うちも一人っ子なんやで?甘やかして~」
「ええい、散れ散れぃ!お兄ちゃんは私のモンじゃー!」
「いや、誰のものでもねぇよ」
ルビーの言い分に呆れるが、シスコン兄貴はそれ以上は何も言わない。
「それに、別に甘やかしてもいないだろ」
「なら甘やかしてー。この後仕事なんだし」
「フリルを甘やかすなら私もー!」
仕事が入っているルビー、フリルは昼休みが終わる前に学校を離れねばならない。
一方で、みなみは今ガチへの参加の関係で他の仕事は大分落ち着いており、これまでより学校にいられる時間が増えている。が、ルビーにとっては幸いというべきか、学科が違うため、昼休み以外で一緒になる時間はほぼ無い。それこそ、放課後が空いていれば、といった程度だ。
「お前ら………多忙なのは知ってるけどさ」
「いいじゃん。イケメンの甘やかしがキくのは、ひなたの動画人気が実証してるよ」
「知ってる?あれ、お兄ちゃんに甘やかされたのに着想を得てるんだよ」
「初耳なんだが。ていうか、そんな甘やかしたか………?」
「ほら、思い詰めてたとき!配信の方向性で!」
「ああ、あの時………目元に隈が出来てたから、膝を貸しただけなんだけど」
「………アクアさん、もしかしてやけど、頭撫でたりとかは………?」
「………あっ」
「「「してたの!?」」」
衝撃の事実、妹も知らなかった様子。
「しゃ、写真とかは………?」
「ある訳ないだろ」
フリルが膝から崩れ落ちた。
「あとで問い詰めなきゃ」
「やめてやれよ。天道さん、かなり繊細なんだから」
「詳しいんやね」
「ルビーと一緒にアイドルデビューした人だからな」
付け加えるなら、中性的な美少女からイケメン美少女への変遷を間近で見てきた一人でもある。
「繊細ではあるけど、妹である私に黙ってる時点で結構図太いと思うの!」
「ふむふむ、もっと詳しく」
「えーっと、ルビーちゃん?フリルもやけど、そろそろ時間………」
「「あっ」」
「げ、もうこんな………ご馳走様、アクアのお弁当、美味しかったよ」
「それじゃあ行ってくるけど、特にみなみ!節度は持ってよね!」
「いや、うち何の心配されてるん?」
慌てて時間を確認した二人が走ってその場を後にすれば、アクアとみなみが残される。
「ルビーもだけど、フリルもいると賑やかでいいな」
「ふぅん」
失言、という程でもない。事実、みなみは二人ほど盛り上げられるタイプではないからだ。
「ところで、アクアさん」
だが、想いを自覚したみなみには、少々酷な発言だったと言わざるを得ない。
「うち、今日一日オフなんやけど、アクアさんは放課後空いてる?」
二人程盛り上げることが出来ないのは事実だ。けど、同性と比べられるのは少々面白くない。
「今日は………まあ、今日一日くらいなら空けられるけど」
「せやったら………放課後、ちょこっとデートしぃひん?」
だから、仕掛けることにした。
軽い雑記
・アイ
星野ルビーの厄介オタク。彼女以外のメンバーにも厳しかったり。
黒い感情はあるけど、それと同等以上の愛情もある、とにかく複雑な関係。
・片寄ゆら
アイの後輩。アクアとも知り合い。アイがいるからカミキの影もない。
・カナン
元B小町のメンバーで、現アイのサブマネージャー。
アイドル時代よりアイに対し辛辣な対応が目立つが、仲自体は昔より良好。
・白雪シオン
名前だけ出た新生B小町のメンバー。ミステリアスな美少女の皮を被ったクソガキ。
・日下部あおい
名前だけ出た以下略。最年少の14歳だが、年齢以上に幼い容姿の人見知り美少女。
・天道ひなた
名前だけ以下略。ルビーの一個上のイケメン美少女、声もいい。