青い星は翳ることなく   作:にわか物書き

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求められる青い宝石

 星野アクアマリン、アクアは客観的に言ってイケメンである。

 

「ふふ………なんかええね」

 

 みなみも十分過ぎる美少女であり、二人のいる空間の顔面偏差値は凄まじいものだった。

 

「本当にいいのか?カラオケとか、他にもあるけど」

「ええのええの。こうやってちょっとずつ、ね?」

 

 ごくごく普通の、カフェの片隅の席で対面する美少年と美少女。

 最低限の変装に加え、窓辺から離れた片隅ということもあり、幸いながら注目はされていない。

 

「うちとルビーちゃんたちとじゃ、色々違うやん?せやから、色々知りたいんよ」

 

 どうしてうちはさん付で呼ぶのか、とか。

 いたずらっぽい微笑に、柔らかな声に反し、籠った感情は驚くほどにしっとりとしている。

 

「フリルはそうお願いしてたし、ええねん。けど、今ガチの人たちはちゃうやん?」

「………そうだな。それじゃあ、これからはみなみって呼んでいいか?」

 

 ごくごくすんなり、呼び捨ての権利を獲得したみなみは一瞬呆気に取られてしまう。

 理由を問い詰めたい気持ちもあったが、みなみは確かな達成感を噛み締めることを選んだ。

 

「うん、うん!改めて、よろしくやね」

(………そんなに喜ぶ程のことかな)

 

 みなみのテンションの上がり様に内心首を傾げるアクアだが、馬鹿正直に口には出さない。

 

「折角だし、何か頼む?奢るよ」

「いやいや、うちの方が稼いでるし、ここはうちが」

「こういうところでくらい、格好つけさせてくれよ」

「うちから誘ったんやし、気にせんといてよ」

 

 などと笑い合い、それぞれ思い思いの注文をして、再び向かい合う。

 

「あんまりそう気を遣われると、男としての自信がさ」

「そういうの、気にするんやね」

「そりゃあ気にするさ。この足だからか、みんな過保護気味でさ」

 

 華奢で儚げな美少年だが、中身………前世は健常な一般人男性だ。

 その認識が抜け切っていないのか、アクアは周囲からの過保護に思うところがある様子。これに関しては、その認識が抜け切らず、客観的に見ると我が身を顧みないような行動をするアクアにも非がある。斎藤夫妻も星野母娘も、等しくあの事件をトラウマとしているのだから、当然としか言いようがない。

 

「気持ちもわかるんやけどなぁ」

「みなみ()()にもそう思われてるのかぁ」

「それはちょっとズルない?」

 

 アクアの切札に呻き、半目で睨む。乙女に対しあまりに酷過ぎる攻撃であった。

 

「なんのことかな」

「アクアさんが押し倒しやすそうなのがいけないと思うんよ」

「なんて?」

 

 ルビーが聞いていれば即接近禁止命令モノの発言である。

 

「アクアさんは見てて危なっかしいなぁ、って話」

「そんなことないだろ」

「いやぁ………」

 

 華奢で儚げで、淡く輝くような美貌。その容姿に似合った身体能力といい、性格といい、心配になるような要素が多い人物だ。比較的に付き合いの浅いみなみですらそう感じるのだから、当然身内の面々はより一層心配し、警戒し、過保護にもなってしまう。彼が足の自由を失った事件が事件なだけに、尚更だ。

 

 一方、自分のことに無頓着なアクアは彼らの心を知らないようで、唇を尖らせるばかり。

 

「そりゃあ、心配になるのもわかるけどさ。俺だって男なんだし………」

「せやねぇ。けど、ルビーちゃんたちが心配するのもわかってまうし、うちからは何とも」

 

 お冷で口を濡らし、みなみは改めてアクアを凝視する。

 華奢で儚げな姿は成程、庇護欲をそそる。身長も同年代と比べやや低く、その上でこの美貌だ。金色の髪も、宝石のように綺麗な青い瞳も、涼し気で柔和、温和なその顔立ちも、そこに浮かぶ微笑すら、見る者を魅了する輝きに満ちている。あらゆる意味で、放っておける人間ではないのも当然だ。

 

「正直言うけどうち、アクアさんのことあんまり知らんのよね」

「そりゃあ、学校の昼休みくらいしか話してないし」

「うん。せやから、アクアさんの言い分も教えてくれへんかな、って」

 

 アクアの味方をする材料を探す一方、自身の欲望にも素直なみなみであった。

 

「………流石に、料理の後毎回怪我は無いか、って心配するのはどうかと思うし」

「わぁ。確かにそれは、ちょっと過保護すぎるやもしれへんな」

 

 アクアの怪我の原因は、包丁のような刃物である。

 

「(ミヤコさんちの)来客対応だって、俺の方が近い時でも無理矢理代わりに行くし」

「そら、その体やし、無理させたくないんやろ」

 

 アクアが刺されたシチュエーションを思えば、当然の対応という他ない。

 

「あとは―――」

 

 アクア視点の過保護要素を次々挙げていくが、大体は妥当なものばかり。

 普通の男子からすれば耐え難いものであっても、アクアの身体を思えば納得しかないのだ。

 

「………うん、しゃーないことやと思うわ」

「みなみさん?」

「しゃーないから、今日くらいはアクアさんの好きにしてええよ」

 

 さん付け呼びは流石に辛いのか、速攻で折れたが。

 

「それじゃあ、今日は俺のおごりで」

 

 ほんの僅かでも男としてのプライドを満たせてか、どこかご満悦なアクア。

 その姿が妙に微笑ましく、庇護欲を、またイケナイモノをそそるのだが、みなみは耐えた。

 

「せなら、いっぱい食べちゃおっかな♪」

「太るぞ」

「デリカシーとかないん?」

 

 尚、妹は疎か実母、果てはあのB小町にすら突き刺しているワードである。

 言われる場合は大抵、アクアが差し入れた手作りお菓子を爆食いしているのが原因なのだが。

 

「グラビアって体型維持、大変なんだろ?」

「暫くは仕事量減らしとるし、大丈夫や………たぶん」

「寧ろ、仕事減らしてる方が気が緩んだり運動量が減ったりで」

「やーめーてーやー!」

 

 脂肪が腹ではなく胸に溜まるとはいえ、年頃の乙女としては聞きたくない話題である。意中の男にそれを指摘され、あまつさえ本気で心配されるとは、なんという罰ゲームか。罵るように耳元で囁かれれば、新しい性癖が拓けたかもしれないが、本気で、且つ真剣に心配されては、邪な気持ちより羞恥心が勝ってしまう。今ガチ関係で仕事を減らしている分、余計に深く突き刺さるのだ。

 

「うぅ………た、たぶん水着回とかは無いし、大丈夫………」

「そっちは鏑木さんも配慮してくれてるから大丈夫だ」

「………」

 

 海にしてもプールにしても、アクアの足では万一のリスクが跳ね上がる。

 無論、彼らもそんな馬鹿な真似をするような人間ではないが、番組側としても不用意にリスクを負うような真似はしない、ということだろう。アクアとしても、過去の傷跡を見られるのは好ましくなく、ヘンに気を遣われるようなことになるのは御免であった。そういった意味では、鏑木はよく便宜を図ってくれていると言えよう。

 

「それ以外はさっぱり教えて貰えなかったけどな。やっぱ口硬いわ」

「知り合いなん?」

「元々、裏方参加の予定だったんだよ。ギリギリでドタキャンされたせいで急遽俺が、ってワケ」

「なんや、それ。そのやらかした奴、今どないしてるん?」

「知らない。わざわざ知りたいとも思わないし………と、来た来た」

 

 注文したスイーツ類と飲み物が配膳され、話が一旦途絶える。

 仕事の話を切り上げた二人は、それぞれ甘いモノを堪能し、自然と話題を切り替えていく。

 

「ん、美味しいね」

「ああ。こういうのもいいな」

「普段は違うん?」

「家族といるのと友人といるのとじゃ、そりゃあ」

 

 あくまで友人扱いだが、もう暫くの辛抱だと言い聞かせ、みなみは我慢した。

 

「せやったら、また二人でデートしない?今度は別のお店で」

「お互い、気安くやれる立場のままだったらな」

「せやね」

 

 軽く笑い合い、みなみは想像する。今ガチの後、カップルとして成立した場合を。

 

(こうやって変装せんでも、堂々と出歩けるようになるんよね)

 

 アクアの足を心配する気持ちもある一方、気を遣い過ぎては本末転倒。あくまで程々に、しかし自由に彼とデートし、買い物を、買い食いをして、思い出を作って、そして………そんな妄想を膨らませて、慌て気味に頭を振る。不埒な妄想をした自身に嫌悪感を抱き、またそんな状況が似合ってしまうアクアに内心で逆恨みの呪詛を一通り吐き出して

 

「………アクアさんとうちが付き合ったら、ルビーちゃんも大変やろなぁ」

「もしかしたら、セクハラされるかもな」

「いやぁ、そんなまさか」

「聖園さん相手にも、殺されかけるまで割と親父臭いことしてたし」

「いやえらい物騒やない?なにされたん」

「膝枕してたら、胸が顔に乗っかってな」

「………あのボリュームが、顔に」

 

 聖園エリカといえば、新旧合わせてもB小町最胸の人物である。

 ルビーの顔を圧迫し、危うくも幸せな死を迎えさせかけた凶器は、みなみもよく知っていた。

 

(………もしかして、あの人がおるからかな?)

 

 みなみ自身、グラドルということもあり視線には他人より敏感な自信があった。その彼女が確信を持って言えることが一つあり、それはアクアの下心について。ふとした拍子に彼女の巨乳に視線を向けてしまうことこそあれ、不快になるような下心を以て目を向けてくることは殆どなく。そもそも、視線をやる頻度自体が、同年代男子と比べても異様に少ないように体感していた。

 その原因として浮かんだのが、動画撮影等で交流しているというアイドル達。フリルが絶賛していたように胸が大きい人物が多く、その上美人揃いときた。みなみ自身、顔も悪くはないと思っているが、あのルビーと肩を並べ、自らを磨き上げ続けた彼女たちには及ばない、とも思っており、これは由々しき事態であった。

 

「もしかして、アクアさんも?」

「………内緒で頼むぞ」

「言うてみよ」

「ソファで休んでたりすると、偶に………あとは、強引に寝かしつけられたりとか」

 

 嫉妬より先に心配が来る内容に、みなみは目を瞬かせたのち、半目で睨んだ。

 

「ちなみにやけど、最近はちゃんと寝とるんよね?」

「………」

「ちょい」

「大丈夫、健康に悪影響が出ない程度には寝られてる」

「それ大丈夫やない人間の言い訳やで」

 

 アクアはみなみの背後に鬼神の影を見た。

 

「デートに誘ったうちも悪いけど、アクアさんも自分の体に気使ってな」

「いや、みなみは悪くないよ。それに俺だって、健康な訳だし」

「それで後で倒れたりして欲しくないから言ってるの」

 

 語気は強く、視線も鋭い。アイやルビーを思い出す気迫だった。

 

「わかった、わかったよ。仕事が無い日はちゃんと休むから」

「ホントやね?」

「本当本当」

「ルビーちゃんに確認するから」

「………それは勘弁して欲しいな」

 

 ルビーと別居中ということもあり、そこは少々困るラインだった。

 

「それなら、ちゃんと体、休めてね?」

 

 純粋に心配しての言葉と在っては、アクアも無下には出来ない。

 無下には出来ないのだが、他人の為なら幾らでも無茶をしてしまう為、効果は一過性だ。

 

「わかった、みなみの言う通りにするよ」

 

 だから質が悪い。嘘を吐く気はないのに、結果的に嘘にしてしまうのだから。

 

 だが幸いなことに、みなみとの約束は暫くの間、しっかりと守られ続けた。

 

>>>>>>

 

 星野アイは、子供たちを心の底から愛している。

 

「………ごめんね」

 

 だから夜、眠っている時ですら魘されて、謝罪の言葉を口に出してしまう。

 

「ごめんね、アクア………ルビー………!」

「大丈夫だよ、アイ。アイが生きていてくれるだけで、俺は幸せだから」

 

 魘され、涙を流し謝罪する母を抱き締め、アクアは優しく頭を撫でる。

 雨宮吾郎としての面が強く出ている彼は、今ではアイに無くてはならない存在になっていた。

 

「だから、そんなこと言わないでくれ」

 

 元より、アクアは自身に価値を見出していなかった。

 いや、今でも見出せているか怪しい。なにせ、こうしてアイに負担をかけているのだから。

 

(………あの時、どうすればよかったんだろうな)

 

 あの日、アイを救えたことに後悔はない。だが、自分の存在がアイとルビーの仲を引き裂いて、周りに大きな負担をかけてしまっていることが、何よりも辛かった。五体満足であったなら、或いはいっそ、あそこで死んでいたなら、アイたちにそう負担をかけることは無かったのだろう、などと、アイたちが知れば怒り狂うようなことを考えてしまう程には。

 

 幸か不幸か、追い詰められているアイの存在が、アクアの生きる理由になっていた。

 

「アクア、いかないで………みすてないで………!」

「アイを見捨てたりなんかしないよ。だから、安心してくれ」

 

 アイの恐怖、不安をアクアが受け止め、和らげる。お陰でアイは壊れずに済んでいるが、アクアがそうして受け止めてしまうからこそ、より深く依存してしまう。このままではいけないと、アクアも理解している一方、そうして突き放してしまえばアイが壊れてしまうことも理解していて、だからこそこうして彼女から離れられない。

 

 歪ではあるが、二人の関係はまだ、ギリギリ家族として保たれている。




本作アクア

・原作より小柄で華奢
・体力もなく、軽い
・普段は杖を使って歩いている、短時間なら杖無しでもいけるがキツい
・精神的マイナス要素がほぼ消えている為、イマジナリーがいない
・同じ理由から、原作より輝いている


・成功体験のせいで、原作以上に命に頓着が無い
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