青い星は翳ることなく 作:にわか物書き
今ガチにみなみが加わって程なくして、凡その構図が再構築された。アクアとMEMちょの姉弟距離に食い込み、積極的にアプローチをかけるみなみたち三人と、ゆきを中心に据えた四人。のほほんとした空気の強い三人とは対照的に、ややダークでどろどろとした四人の人間関係が構築されたことで、これまでとはまた違った構図が形作られている。
中でも、アクアとMEMちょの絡みが崩れることがファンに恐れられていた中で、みなみは二人の絡みを崩すことなく溶け込み、最初からいたように錯覚させるのほほんとした空気を醸し出していたことが、番組スタッフにとっても望外の幸運だった。その上で、アクアにさらりと、しかし確実にアプローチをかけているのだから、見栄えもいい。
一方で―――
「んー………」
「どうしたのさ、難しい顔して」
「ちょっと考え事」
ルビーは目を閉じ、画面越しでもわかる焦りを見せている知己に思考を巡らせる。
(明らかに向いてないし………お兄ちゃんが別軸確立してる以上、フォローも難しいでしょ)
アクアもMEMちょも、基本的に他人に気を回す人物だ。
が、別軸の主体となっている以上、それも望めない。
「あら、黒川さん。そういえば、ルビーちゃんの知り合いだったわね」
「そういうエリカさんは、学校の先輩でしょ?」
「といっても、同じ学校というだけよ?部活動もやってないし」
「というより、あたしたちのスケジュールだと出来ない、だけどね」
凛とした声の主が雑誌から視線を上げ、どこか寂しそうに零した。
「そーゆーハナシはナシで、楽しい話題にしようよ。みんな誰推し?」
「「「アク」」」
「アクアさん抜きに決まってんでしょ!満場一致不可避だっつーの!」
緩いウェーブのかかった銀灰の髪を振り乱し、紫色の瞳の少女がソファから跳ね起きる。
黙ってさえいれば、すまし顔のままでいれば、クールでミステリアスなダウナー美少女で通る、その実軽く愉快な性格をした少女、白雪シオンが声を荒げれば、皆揃って苦笑を浮かべる。そんな中で最初に口を開いたのは、エリカ、ルビーと共に新生B小町としてデビューした深い青髪の少女だ。
「あたしはノブとケンゴかな。勉強になる」
ルビーのそれより深く、濃い赤の瞳を持つ天道ひなたが即答すれば、納得の声。
後ろ髪だけ伸ばしたウルフカットのイケメン美少女の配信動画には、その凛々しい美声を存分に活かしたモノが多く、彼女が異性のモデル等に着目するのは、出来ることの幅を広げる為だ。女性的なファッションより男性的、中性的なファッションの方が似合いやすい為、そういう意味でも男性向け雑誌に多く目を通している。
「ウチもノブは見てるね。ダンス見る機会は無さそうだけど」
「シオンさんは鏡見てればいいんじゃないかな?あとメムさん」
「あおちゃん辛辣じゃない?あとそれどういう意味よ」
ふんわりとした亜麻色のボブカットを揺らす日下部あおいに抗議するが、聞き入れられず。
「私は………私も男の子の人たちかな」
「私はゆきさんと黒川さんね。欲を言えば、黒川さんにはもう少々肩の力を抜いて欲しいけど」
赤みが強いピンクの髪先を弄り、エリカが困ったようにはにかむ。
「こう、危うい感じがして、心配が先に来てしまうの」
「わかる。あかねってこう、真面目なんだけど不器用というか………危なっかしいよね」
「リアリティーショーの負の一面だよね。ここまで明確過ぎると、尚更」
ひなたが口にした通り、良くも悪くも今ガチの構図は明確だった。
一つは、穏やかな空気を醸し出すアクア中心の軸。三角関係のような過激なモノは期待できない一方で、言い換えればストレスなく見ることが出来る為、これまで敬遠していた層を取り込むことに成功していた。それでいて、みなみがしっかりアプローチもかけているなど、恋愛面での見応えもしっかりだ。
もう一つは、鷲見ゆきを中心とした四人の描く恋愛模様。アクアとみなみ、通称アクみなと比べ踏み込んでおり、その分男女二人ずつの四角関係による緊張感がウケている。一方で、アクアとMEMちょの絡みに自然と溶け込むみなみと異なり、こちらはややあぶれ気味になってしまう者が出ている。特に、性格等の関係からケンゴとあかねはあまり目立てていなかった。
「観客ってのは無責任だからねー。この子、その内燃えるんじゃない?」
「シオンさん、不謹慎」
「いや、こういう子はヤられるよ。主に制作側に」
「「「「生々しいからやめて」」」」
芸能界でそれなりに活動してきた以上、皆裏側も知っている。
綺麗なだけでないことなど、百も承知で生きているのだ。
「けど、その辺察してるっぽいね。上手いコト絡めるトコは絡みに行ってるし」
「あの人気遣いの鬼だからねぇ~。ウチが言うまでもないだろうケド」
「アクアさんがいなかったら、シオンたちと会う前に空中分解してたよ」
「そうだね………結構広がっちゃってたからなぁ」
「今でもルビーちゃんがダントツじゃない」
エリカが微笑を浮かべている事実が、彼女たちの関係を何よりも雄弁に語っている。
「そうね。けど、あたしたちは敗けないし、敗ける気も無いよ」
「なにをー!私だって敗けないから!」
「総合人気はトップだよね、総合人気は」
にやにや笑うシオンの言葉通り、全体で見れば未だルビーがトップだ。
が、それぞれが自身の強みをネットで配信している為、個々の人気は決して敗けていないのだ。
「それじゃあ、今度歌コラボしてみましょう?」
「音痴イジメはんたーい!」
「ルビーちゃんも十分上手になっているじゃない。昔と比べれば、だけど」
「エリカの上達がエグすぎるんだって」
「そりゃあ、好きな人に褒められること以上の劇薬は無いからね」
「もう、茶化さないでちょうだい」
無論、それだけではない。
ルビーが比較的わかりやすい性格だからこそ、彼女の苦悩を察することが出来た二人は奮起し、深く関与していたアクアがそれに応えていったことによるものだ。それだけ二人はルビーを意識し、対抗心を燃やすと同時に慮ってもいたのだが、そのことを口にするとヘンに調子に乗るのが目に見えている為、互いにそのことを口にだけはしない。
「そういうひなたこそ、芽依さんに聞いたわよ。声優のお誘いが来たんですって?」
「やるなら引退後だよ。まだまだ未熟な上、そっちに注力してたら皆に置いて行かれちゃう」
「そだね。ウチらのセンターがバリバリ成長中だし、皆そこまで器用じゃないし」
「ルビーちゃんが進んでるんだから、私たちも進まないと」
四人とも、アイドルとして輝くルビーを好いている一方、その姿を目標としている。
同時に年上三人は生意気目な妹分として、唯一年下のあおいはやんちゃな姉貴分として慕ってもいるのだ。関係が拗れなかった一因には、そんなルビーの人柄もあったのだろう、母と兄の前では無駄に高い演技力を発揮している彼女だが、良くも悪くもメンバーたちの前では常に取り繕うことなく過ごせている様子で。
「いつか、アクアさんの最推しになってみせる………!」
「そうなると異性として見て貰えなそうなのよね」
「いいもん。あの人年下好きじゃないっぽいし」
異性として見て貰えずとも、意識して欲しいといういじらしさは、ルビーにも覚えがあって。
「みんな、入るぞ」
「はーい!」
その姦しい空気は、話題の人の声によって一瞬で引き締められた。
「アクアさん、ちゃんと寝てるよね?今ガチは大丈夫?」
「大丈夫、ちゃんと休んでるから」
「信頼って失うのは一瞬だけど、取り戻すのはしんどいんだよ?」
「痛いトコ突くなぁ」
苦笑する前科持ちを軽く弄りながら、人気アイドルたちはいつもの動画撮影に取り掛かった。
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有馬かなは苺プロ所属以前はフリーで活動していた。
「いい感じね。新しい一歩としては上々じゃないかしら」
その為、こうして飾りや打算なしに褒められるのは、随分と久し振りだった。
「い、いえ、そんな」
「今日あまよりやる気のある作品だから、その分効果も大きいわね」
アクアに勧められた現場は、かなの秘めたポテンシャルを、十全とまでいかずとも引き出せた。
「まだまだ、これからですよ」
「そうね。まだ収録は続くから、しっかり休んでちょうだい」
ミヤコの優しい言葉が染み渡ると同時に、その言葉で自分を奮い立たせる。
事実、あくまで一歩踏み出しただけであり、ここから次第で幾らでも落ちこぼれる。あの頃には戻るまいと奮起する中、ミヤコはその胸中を知ってか知らずか『気負い過ぎないように』と軽い苦笑と共に釘を刺し、呼び出した本題へと移る。有馬かなという女優の今後に関する、重大な内容にだ。
「それで、これからはどうしましょうか」
「これから、ですか?」
「有馬さん自身で仕事を選ぶか、アクアを通すかよ。今回、アクアが選んだんでしょう?」
そう、ここは重要だ。アクアの手を借りるということは、彼の時間を使わせることなのだから。
「今すぐ決めなくていいわよ。あの子はやる気だし、二人で話し合って決めなさい」
アクアの仕事に、B小町の動画関連の諸々があるのはかなも承知の上。その為、このまま身を引く気もある一方、なりふり構わず選んでいた仕事に無かったやりがいを、やりやすさを強く実感してしまい、このまま全てを委ねてしまいたい気持ちも本物だった。厳しいことを言いながらも親身になり、手を貸してくれる人間など、彼女の人生にどれだけいたか。
悩みながら退出したかなの足は、自然と同刻に行われている収録現場へと向かっていた。
「ぎゃあああああああ!?ボムのタイミング的確すぎない!?」
「へっへーん、どんなも、んげぇっ!?」
「あ、名前、K・Sって入ってる」
「………今日こそぶっ潰す!」
「今度は、敗けない………!」
「………私は隅っこで大人しくして………きゃああああああ!?」
「今日もこの構図か………ちょ、待って!今それはやめっ」
五人のアイドルがプレイしているのは、国民的大人気作品の派生作、多人数向けレースゲームの対戦モード。B小町五人のチームと、参加視聴者がランダムに振り分けられたチーム複数による対戦中のようで、ヒートアップする者と控えめに楽しもうとして追い回される者とで分かれている。前者は特に負けん気が強い者たちで、後者は比較的穏やかな者たち………共通点は、皆何かしらリアクションが面白い、ということくらいか。
「有馬も見に来たのか」
「………別に、そんなんじゃないわよ。ていうか、止めないでいいの?アレ」
「いいんだよ、アレで」
良くも悪くも、個々を押し出すことを目的とした配信である以上、言うべきことはない。
シオンは比較的燃えやすい、燃やされやすい一方、無視を基本としている為大事になる前に鎮火してくれる。その上、当の本人が対部外者にはかなり図太いタイプであり、他メンに飛び火しない限りは完全無関心を貫けるため、そもそも炎上するな、という基本的なもの以外の文句はあまり出ない。
「心配じゃないの?特にあの口悪いの」
「白雪さんは………入ったばっかの頃の方が危なっかしかったし、今は大丈夫だよ」
「あんたがそれ言う?」
かなのストレートな言葉は、同時にアクアを知る大勢の総意であった。
「………まあ、有馬が心配してるようなことは無いよ」
「そ。ならいいけど」
「ある意味、あの中じゃ一番図太いからな」
「その辺大事よね、特にこの業界じゃ」
良くも悪くも今の時代、外部の声というのはダイレクトに届く。SNSを眺めているだけでも、否応なしに不快な情報が流れ込んできて、その時の心境に構うことなく、醜いモノを叩きつけてくる。平常時なら兎に角、気が落ち込んでいる時などに目にしてしまえば、それこそこの世の終わりとすら思える程にクるモノを無視できる図太さというのは、ある意味羨ましくもあった。
特に白雪シオンの場合、ネット配信で見せる姿から良くも悪くも燃えやすい。
「あれで炎上気にせずやれるとか、無敵じゃない?」
「………図太すぎるのも問題だけどな」
放送できるラインぎりぎりのワードを並べ、元アイドルに執着するシオンが荒ぶる隣では、密かな要注意人物が地味ながらも的確なアシストと妨害を行っている。視聴者参加型のゲーム配信恒例の激戦の中、ルビーはちゃっかりエリカとひなたの方へと逃げ込み、汚い悲鳴と可愛らしい悲鳴とが重なり合う羽目に。
かなが思っていたものとは少々異なっているが、皆………ありのままの姿で、輝いていた。
「待って、ルビーちゃんこっち来ないで!私たちも巻き込まれ………いやああああ!?」
「あいつ!あいつちょっと可笑しいんだって!ほら、ほら、ほらぁ!」
「わかった、わかったからこっち来ないで!見境なしだから!あいつ見境なしだから!」
ぎゃーぎゃー楽しそうなその姿に、かなも自然と肩の力を抜いて笑みを浮かべていた。
しかし、画面越しに見る一人は異なる感想を抱いたようで、指先に力を込めていた。
「………いいなあ」
私室で零したその声は、誰に届くでもなく虚空に溶ける。
ありのままの姿で輝く者がいる一方、そのままでは輝けない者も、確かにいるのだ。
軽い雑記
・星野ルビー
B小町の悲鳴が汚い子、トップオブトップ。
年上が多い分可愛がられている。
・聖園エリカ
B小町の悲鳴が可愛くて清楚な子、みなみ以上のダイナマイトボディ。
落ち着いた雰囲気の才女だが、実はスポーツ全般壊滅的。
・天道ひなた
B小町の悲鳴が可愛いイケメンな子、上から三番目だが十分凶器的なボディ。
声優の誘いを受ける程度には声の使い方が上手く、音声動画は一種の凶器だとか。
・白雪シオン
B小町の見た目と中身が一致しない子、黙っていればスタイル抜群のミステリアス美少女。
アホっぽいけど頭がいい、インドア風で運動神経抜群など、ギャップがすごい。
・日下部あおい
B小町のマスコット担当、言動と中身が意外と食い違う美少女。
現B小町最年少のためマスコット的人気が高い一方、趣味等で見せる一面のギャップがすごい。