青い星は翳ることなく 作:にわか物書き
リアルの都合、展開が思いつかないエトセトラ………誠に申し訳ない。
今後もちょくちょくトぶかと思いますが、よろしいという方はどうかお付き合いお願いします。
『視聴者がキミたちに求めてるのはカゲキなもので―――』
番組スタッフの言葉が反響する一方、優しい言葉が重なって響く。
『ありのままでいいと思うぞ。無理して―――』
優しい年下の言葉は、しかし聞いてしまった社長とマネージャーの会話に塗り潰される。
自分が不甲斐無いからと、責任感が強くて真面目な少女は追い詰められてしまう。
(わたしが頑張らないと………!)
マネージャーが持ち込んでくれた機会をふいにしたくない余り、少女の熱意は暴走していく。
そう、暴走。黒川あかね自身、自分でも止められなくなっていたのだ。
「………ぁ」
咄嗟のフォローができるだろう二人は、不運なことにこの場に居ない。
頭が真っ白になっている少女に、彼が、彼女が即決できたであろう判断ができる筈もなく、友人たちの善意以外に意識を向ける余裕もない。自己主張が希薄であったことも災いし、この状況における適切な行動を取る、つまりはスタッフたちに釘を刺すという選択自体が浮かばず、自身に向けられるカメラがどこからどこまでを記録しているのかなど、頭に浮かびもしない。
だから、この先に待ち受ける悲劇は………必然だったのかもしれない。
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「案定燃えたね。しかも自爆して」
「白雪さん」
「シオンちゃん」
アクアとMEMちょの咎めるような声に、プチ炎上常連は、視線をメモから二人に移す。
「ちゃんとアドバイスはしたんでしょ?なら後はどうしようもないじゃん」
「………いや、俺が甘かった。あかねの意思を無視してでも、スタッフに」
「それやったって意味薄いって、一番わかってる癖に」
配信中の言動やらでしょっちゅう恒例行事の如く小火騒ぎ程度のプチ炎上をしているが、シオンという少女は普通に切れ者の部類だ。だから二人の後悔を察しつつ、聞きたくないと分かっている現実を突き付けて、視点を後ろから前に向けようとしているのだ。その図太さも、プチ炎上を一種の芸風として確立できた一因か。
「ウチらがアクアさんに何言っても変わんないのと一緒。人間、簡単に変われりゃ苦労しないよ」
「うぐ………」
「ただ、ちゃんと気にかけないとダメだよ。バックレ出来ない辺り、絶対クソ真面目ちゃんだし」
「そこはわかってるよぅ」
「それと、上辺の言葉はあんま信じないように。そこのヒト見てりゃわかると思うけど」
「俺のこと嫌いなのか?」
「いや、一番使い勝手がいい例だから」
「うん。アクたん引き合いに出されると、危機感が増すというか」
悲しいコトに、説得力という意味ではアクアの日頃の行いが一番大きかった。
「たぶんだけど、親御さんにもノーコメだろうから、ホント気を付けた方がいいよ。この手のは、痩せ我慢してる重病人みたいなもんで………あっちが心変わりするまでこっちが粘るか、痩せ我慢の限界になってこっちが動かざるを得なくなるか、のクソみたいなチキンレースするっきゃないの」
親、まではわからないが、少なくともアクアは大輝から、『大丈夫、の一点張りで取り付く島もない』との嘆きを聞いている。あちらもあちらで気にかけているようだが、当の本人が無理をしてでも大丈夫と言い張っている以上、無理に踏み込むことも難しいようだ。
「………ホント、最初の頃とのギャップが凄いというか」
「もうちょっと頻度が落ちてくれれば、完璧なんだけどなぁ」
アクアが嘆くのも無理はない。本人なりにコントロールしていようがいるまいが、プチ炎上を恒例行事にされては、精神衛生的にも大変宜しくない以上、仕方がない。それなのに、プチ炎上の原因となっている配信における振る舞い自体が魅力の一つとして確立されてしまっている以上、迂闊な自粛は武器を一つ失うことを意味しているのだ。
「あー、あとアクアさんも把握してるだろうけど、エリね」
「………ああ」
わざわざアクアとMEMちょに炎上の件を振った大きな理由のもう一つを切り出せば、特に大きな影響を受けている一人としてアクアも渋面を作らざるを得ない。一番悪いのは当然、悪意を以て荒らし炎上させている者、お門違いな正義感で害意を振り撒いている者たちなのだが、だからこそ、少し調べれば同じ学校に通っていると分かってしまうエリカの存在は、非常に扱いが難しい。
「結構参ってるみたいだけど、気安く休ませてあげられないのが痛いな」
「現状、黒川あかねをシロに出来る材料が無さ過ぎるから尚更ね。体調悪いんだな、じゃなくて黒川あかねのせいだ、って方向に持ってかれたらウチらのファンってコトになってる、或いはそう振る舞いたいアンチ辺りが余計に荒らしにかかりかねない。下手に擁護すると、今度は」
「ストップ、ちょっと私胃が痛くなってきた………」
「若いのに大変だねぇ」
あかねと交流があり、こういった事態を誰よりも忌み嫌うルビーが沈黙せざるを得ない理由だ。
表に出ている情報の中にあかねをシロに出来るものが少ないせいで、迂闊な発言はそのまま彼女への害意を加速させるどころか、その矛先がB小町にまで向けられかねない。だから、ルビーは心を押し殺し、沈黙を貫いている。貫けているからこそ、騒ぎが無駄に大きくならずに済んでいる。
「ルビーとエリのフォローはお願いね。ウチ、そういうの苦手だから」
「そこまでわかってるならこう、さあ!?」
「MEMの言いたいこともわかるけど、こればっかりは仕方ない。俺の方から声かけとく」
「アクたん、甘やかしすぎじゃない?」
「ウチがケツ蹴ってアクアさんが甘やかす、これくらいでいいのよ」
MEMちょの苦言をスルーして視線を戻そうとしたシオンだが、その手がポケットに伸びる。
「あ、マネジから。エリ迎え行くって」
「………そんなに酷いの?」
「たぶん、主目的は聖園さんの保護だな。物好きに色々聞かれてるだろうし」
「だろうね。ひなたは同性なら黙らせやすい、あおちゃんは下手に突くと黙る通り越して涙目になって周りがキレる、けどエリってそういうのがあんま無いから。ウチみたく口が悪い訳でもなし、格好の餌食だろうからまあ、妥当でしょ」
そう評していれば、乱暴にドアが開け放たれる。
「………ルビー」
「あー!もう!なんなのよ!」
「その感じ、社長さんらが頭抱えてる?」
「そうなの!」
シオンの声に反射同然の速度で反応し、ルビーの口から激情を込めた言葉が放たれる。
「誰も悪くないのに外野のせいでこっちまでって、ホントふざけんなって感じ!」
「わかるわー。下手すりゃリスケの嵐になるし………たぶん大丈夫だけど」
「………そうなんだよね。ここで下手にエリカさん周りを動かすと、余計勘繰られるから」
伊達に芸能界でやってきたわけではなく、ルビーもその辺は理解している。
「どっちにせよ、今日のみんなで配信は切替にゃだけどね………なるだけ非視聴者参加型で」
「………だな。下手に煽りに来るやつが来たら目も当てられない以上、仕方ない」
「お陰でこっちでやるゲーム洗い直し。ハードとか諸々事務所保管でよかったわ、マジで」
「あ、そのメモってそういうのだったの?」
「逆になんだと思ってたのさ」
メモを千切り、紙飛行機にして飛ばした先のアクアはそれを受け取り、広げる。
「サンキュ」
「あとはエリとかひなた、あおちゃんのコンディション次第で調整ヨロ」
「言われなくても」
唯一通信制通いの少女はアクアに手を振りつつ立ち上がり、セッティングのため部屋を出る。
颯爽と姿を消した年上の後輩の姿を見送り、ルビーは複雑な思いを飲み込み、二人に向く。
「………そっちはなんか、連絡受けてる?」
「残念ながら」
「こっちから声かけないと何も………シオンちゃんが言ってるの、強ち間違いじゃないかも」
「なんか言ってたの?」
「今のあかねは痩せ我慢してる重病人だー、って」
痩せ我慢している重病人、というフレーズにルビーが固まり、一切の音が届かなくなる。
星野ルビーとなる以前。天童寺さりなであった頃の経験があるからこそ、あのやる気なさげで口の悪い後輩の言葉の重みが尋常ではなく、急速に血の気が引いていた。なにせ、事の重大さを理解できた一方で、現状を上手く打開する手段も、あかねの本音を引き出す手段も浮かばない。言ってしまえば、かつての自分と同じ―――
「―――ビ―――ル―──ビー!ルビー!?」
「えっ?あっ、ご、ごめん!考え事してた!」
真っ青な顔で立ち尽くしていたルビーを引き戻したのは、兄の必死の叫び。
なるべく深刻な空気にならないよう、努めて明るく謝罪する中でも、その思考は冷え切り、次々最悪の未来を浮かべ、そこに至る可能性を潰す術を必死に模索している。が、事務所が別である為強引に動くわけにもいかず、友人として無理に接触したとして、華々しいルビーからの気遣いで今の彼女が前向きになれるかどうか。
そこまで思考が及ぶからこそ、『痩せ我慢の重病人』呼びがこれ以上なく的確だと思わされる。
「失礼しますね」
「あ、芽依さん!ってことは」
「こんにちは、ルビーちゃん」
運がいいのか悪いのか、そんな思考は新たな来訪者たちのお陰で一度有耶無耶に。
「エリカさん!やっぱり学校で」
「直接聞かれることは、幸いにも無かったわ。みんなに感謝しないと」
「いい友達に恵まれてるんだな」
「本当にね」
明るく努めてはいるが、付き合いの長い面々から見れば憔悴を隠し切れていない。
「それじゃあ、悪いけど私はこれで」
「すみませんでした、芽依さん」
「いいのいいの。子供らしく、大人にちゃんと甘えなさいな」
そう笑った芽依が立ち去ってから、エリカはアクアの手を掴み、ソファへ。
「み、聖園さっ!?」
「………エ~リ~カ~さ~ん?」
「えーっとぉ、お姉さんは甘いもの用意してくるねー!」
そのままアクアを抱き締め、ソファに横になったエリカへとルビーが底冷えする声と威圧を以て迫り、MEMちょは逃げるようにその場を立ち去る。が、弱みを隠さなくていい環境になってタガが外れたのか、泣いてこそいないながら、エリカは縋るようにその胸元に顔を埋め、沈黙している。
「………お疲れ様」
それだけ口にして、アクアは優しくその頭を撫で、受け止めるように抱き締める。
年上のプライドにも配慮したその対応に甘え、エリカは慈愛と温もりに満ちた抱擁に身を任せ、荒み、傷付いた心を休める。自身への悪意より他者への悪意の方が堪える、というなんとも難儀な質をしている心優しい少女を、傷付いた彼女を慰撫する兄を、ルビーは何とも言えない顔で睨む。嫉妬が強い一方で、黒川あかねに対する誹謗中傷の酷さはルビー自身も目にしており、その分同情も大きい。
「………ん!」
「ルビー?」
「私も傷ついてるの!慰めてー!」
「………そうね。いいかしら、アクアさん」
「仕方ないなぁ」
エリカがずれ、アクアが腕を広げれば、ルビーもそこに喜々と飛び込む。
「うぇへへぇ………」
「ったく」
他人様にお見せ出来ないような顔で胸板に頬擦りするルビーに呆れつつも、アクアはその頭を優しく撫でる。立場上余計なことを言えない分、ストレスを溜め込んでいるのはルビーも同じで、気性を考えれば彼女も大分無茶をしているのだろう。文字ではなく声で直接聞く機会の多いエリカ程ではないのだろうが、こういったものは比較していいものではないと、アクアも理解している。
理解しているからこそ、こんなその場しのぎしか二人に出来ないことが、もっと辛く、苦しい思いをしているであろうあかねに対し何もしてやれないことが、今は何よりもどかしい。結局のところ、番組を除けば繋がりがそこまで太くもない以上、今の二人のようにあちらから一歩踏み出してくれなければ、何もできないのだ。
「………お兄ちゃんも、無茶はしないでよ」
「してない」
「本当?」
「本当本当」
そう笑っているが、実のところ嘘である。
「………エリカさん」
「すぐバレちゃったわね」
「いや、ちょっ」
「こんにち………は」
「ちょっと、タイミングが悪かったかな?」
「いやベストタイミング!」
ルビーが叫ぶ先には、真っ赤にした顔を手で覆う………ようで、指の隙間からガン見するあおいと、呆れ気味に頬を掻くひなた。とはいえ、過労常習犯であるアクアが相手であることもあり状況はすぐ把握できたようで、すぐにソファに横倒しにされた彼の周りへと集まる。傍目には羨ましく見えるかもしれないが、実際はお説教か大人しく休むかの二択である。
そして、勝ち目が皆無ということもあり、アクアが選ぶのは常に無言の休息だ。
「全く。キミが体を壊すと、皆が困るんだけどね」
「流石に言い過ぎだろ」
「みんながみんな、ルビーさんみたいに面の皮厚くできるワケじゃない」
「あおちゃん?もうちょっとマイルドな言い方出来ないかな?」
こてん、と可愛らしく子首を傾げているが、相も変らぬ謎の口の悪さにはアクアも苦笑い。
(………本当、気を付けないとな)
二重の意味で決めたアクアの覚悟は、幸か不幸か姦しく談笑する少女たちに悟られなかった。
軽い雑記
・星野アクア
軸が別れてしまっていた都合から距離を置いていたため、リアルタイムではフォローできず。
あかねの希望通り特に何もしなかった結果、炎上したため、原作よりメンタルが………
・白雪シオン
B小町の炎上担当(自称)、視点の広さ、思考の速さはゲーマーの嗜み、とのこと。
不真面目そうで肝心なところは真面目だが、だからこそ敢えて空気を読まないことも。
・聖園エリカ
マネージャーの芽依にお迎えして貰ったB小町の清楚担当、あからさまな陰口でメンタル限界。
今回のアクアへの甘えは邪念ゼロの純粋な甘え………歳下に甘えるくらいには限界だった。
・星野ルビー
B小町の荒れてるリーダー、炎上騒動に迂闊に発言できずストレス溜まりまくり。
シオンの発言であかねに構う頻度を増やそうかと考えているようだが………