青い星は翳ることなく   作:にわか物書き

15 / 16
ボチボチ感想返信していきたい反面、大分顔出せなかったから今更申し訳ない気持ちも………


絶望と憤怒

 心身を慮るメッセージが届く………黒川あかねの反応は淡白で、今までは毎回似たり寄ったりの定型文を返すばかりだった。精神的に余裕が無い、ことだけではなく、特に高い頻度でこちらの様子を伺いに来る三人の立場もまた、問題だったのだろう。反応も鈍く、通知からアプリを開くまでの動作には多くの躊躇いが見えた。

 

「………」

 

 現在進行形で多くの仕事を勝ち取り、大衆を魅了するアイドル、星野ルビー。

 彼女と比べれば数段落ちるとはいえ、着実に人気を獲得しているインフルエンサー、MEMちょ。

 

 そして………事務所の先輩とも付き合いの深い、『今ガチ』で大人気の一人、星野アクア。

 

(………わかってる)

 

 本当に心配していることは頭で理解している。だが、それをおくびにも出さず、それぞれの舞台で輝いている姿を見てしまうと………黒い衝動が沸き上がってしまうのだ。皆プロだ、それくらい簡単なことはよく理解しているし、こんなものは八つ当たりに過ぎないとわかっているのに、じわじわと湧き上がる不快感と苛立ちを止められない。そんな自分が、より一層嫌になるという、最悪のループだ。

 

 だが、そうなるのも止む無しか。確実に味方してくれる人間には、心配をかけまいと打ち明けられず、そうなれば必然的に、彼女の周囲には悪意と害意を撒き散らす者と、静観、或いは無関心を選んだ者たちばかり。更に運が悪いコトに、事務所………ララライもあまり規模が大きくない上、表沙汰にしたくない汚点があることもあり、積極的に庇い立てができない。

 その上、『今ガチ』の放送が続く限り、この悪意と害意の矛先が変わることはまずない。

 

「………ぁ」

 

 精神的疲労から睡眠時間も減り、食欲もギリギリ。そんな状態であるせいで、余計に思考はマイナス方向に向かう。だからか、メッセージの中身を目にして初めて、自身が夜何も食べていないことを思い出す。不思議と空腹を感じることは無かったが、だからと言ってこのままではよくない、と判断したのか、外の状況も考えることなく適当にメッセージを返し、そのまま外に向かう支度を始める。

 天候を把握している面々が制止メッセージを送るも、あかねはそれを一瞥だけして、一人で家を発つ。暴風雨を気にするだけの理性も働かない癖、ちゃんと体は頭が定めた目的に従い動き続け、人気皆無の夜の街へと向かっていく。運が悪いコトに、今の彼女の家には彼女を止めてくれる者がいない。

 

 異常に気付いた者たちが動いたのは、それから暫く経ってのこと。

 

「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇ………っ!」

 

 レインコートの隙間から流れ込む雨水に体温を奪われ、どんどん体力を削られていく。

 

(クッソ………こういう時ばっかりは、この足が恨めしい………!)

 

 壁に杖を、背を預け、アクアは必死に呼吸を整え、頭を回す。

 当然ながら、一般的な同年代と比べるまでもない程に体力はなく、走ることにも苦労する為、今のような緊急時には致命的なカラダだ。更には気圧の変化によるものか、腹部の古傷が疼くように痛み、余計に体力を奪っていくのだ。そこに、本人が隠れて無理をした分の疲労まで上乗せされているのだから、もう

 

「………仕方ない」

(後でフォローはするから、共犯になってくれよ………!)

 

 通話ボタンを押し、こういう時に間違いなく動いているだろう、面倒見のいい姉のような人物に繋ぐ。相手もすぐに反応して、アクアは自身の見立てが間違っていないことを、そして彼女が何かしらを掴んでくれていることを祈り、永劫にも思える一瞬の沈黙に希望を託す。

 

『アクたん!?今どこ………って待って、まさかその音!』

「そういうことだ。フォローは後でしてやるから、今は兎に角情報を」

『………今あかねの家に居るんだけど、帰ってない。今そこ以外も探してるんだけど―――』

「わかった。俺も探すから、見つけたりなんかあったら、また連絡してくれ」

『本気で言ってるの!?アクたん、その体で無茶は』

「人間ってな、死ぬときは本当に呆気なく死ぬんだ」

 

 そう口にしたアクアは腹の傷を………自身が初めて救えた証を押さえ、真剣な口調で

 

「俺一人無茶するだけであかねの助けになれるなら、これ以上の成果は無いだろ」

『~~~ッ!ああもう、怒られても庇ってあげないからね!』

「それでいい。俺が勝手にやって、MEMは巻き込まれた、ってことにしておくから」

 

 通話が切れてから即座にマップアプリを起動して、あかねの家の周りを調べる。

 

(飯買いに行く、って言ってたから、使うとして店は………!)

 

 人間、死ぬときは呆気なく死ぬ。自殺に至るほど思い詰める理由は数あれ、そこから実行に至る理由なんてものは、本当に些細なきっかけであることが多い。だからこそアクアは大いに焦り、苦痛と疲弊に蝕まれ、今尚冷え続ける体に鞭打ち、少しでも手掛かりを得ようと足掻いている。今も画面に映る地図から択を絞り、そこに至るルートを探り出している真っ最中で。

 

(………クソ、手が足りない!けどやるしかない………!)

 

 杖を取り、何時転んでも可笑しくない速度で地面を蹴る。虱潰しに、手当たり次第に駆け回り、その体力が限界を迎え始めた頃。とあるコンビニから黒川宅までの間にある歩道橋が見えてきた辺りで、見覚えのある背中を目撃した。声を上げようとしたものの、あちこち駆け回った疲労で大きな声を出せる余力も残されておらず、激しい雨と風で掻き消される程度のモノしか出せない。

 

「あかね!………クソッ!」

 

 疲労の蓄積、不自由な足とが最悪の噛み合いを見せている中、あかねの姿が一度消える。

 少しして立ち上がった姿を階段越しに見たアクアは一瞬安堵したものの、すぐにその様子が尋常でないことを理解し、血の気が引く。咄嗟に杖を投げ捨て、無理矢理に足を動かして階段を駆け上がれば、その時にはもうあかねは歩道橋の手摺に立ち、虚無の表情で虚空を見上げ―――

 

(間に、合え………ッ!)

 

 一瞬完全に足場を離れた体にギリギリで抱き着き、自身の、あかねの体重を使い強引に歩道橋に引き戻す。本当にギリギリのタイミングで、後先考えずに動いた結果、疲労と体の不自由、そして両腕が塞がっているという悪条件の重なりもあり、アクアは自身の無茶な行動に対応し切れず、受け身も無しに路面に叩きつけられる。

 

 完全に呆然自失していたあかねが我に返ったのは、その背中から響いた衝撃によってで。

 

「………ぇ」

 

 恐る恐る振り返った彼女の目に映ったのは、力なく倒れるアクアの姿。

 

「あ、アクア、くん………?」

「よか………っ」

 

 あれだけ力強く彼女の体を抱き込んだ腕はすんなり解け、雨水の溜まった路面に落ちた。

 あくまでアクアが気絶した原因は頭を打った脳震盪なのだが、その頭に触れれば強烈な熱を感じると共に、べったりとした生温いものが付着する。ぶつけた時に軽く切っただけの傷であろうと頭からの出血量は見た目以上に多く、呆然としている少女により深刻な混乱を齎すには十分で

 

「あ、あぁぁ………!」

 

 混乱したアタマで正解に辿り着けるはずもなく、あかねは悲痛な絶叫を響かせた。

 

>>>>>>

 

「―――あかね」

 

 その声を聴いた瞬間、ミヤコはルビーを連れてきたことを大層後悔した。

 

「………」

 

 その怒気を向けられるあかねは俯き動かず、付き添う母親が庇うように肩を抱きよせている。

 

「どういうこと?ねえ、なんでお兄ちゃんが」

「やめなさい」

 

 静かに、しかし圧を込めて口にして、涙を溜めて怒り狂うルビーを黙らせる。

 

「状態を聞いてきたけど、命に別状はないそうよ」

 

 掻い摘んでアクアの現状を話せば、ルビーは盛大に肩を落とし脱力。怒りが呆れに変わる。

 

「雨に濡れて体調崩すって、んなアホな………って、無茶しないって言ってたじゃん!」

「そうね。頭の傷も軽いものだから痕も残らないらしい、けど………」

「けど?」

「大分無茶したせいで、暫くは車椅子生活ね。」

「「………」」

 

 ルビーから表情が消え、あかねがこの世の終わりのような顔になる。

 

「といっても、時間さえかければこれまで通りに戻れるらしいから―――」

「ミヤコさん」

 

 鋭く変わった声が聞こえた瞬間、ミヤコは額に手を当て天井を仰いだ。

 

「………何をするつもり?」

「これ、使()()()よね?」

 

 あかねが驚愕と共に見上げた先のルビーは、声に反し恐ろしく冷え切った顔をしている。

 

「………ルビー、ちゃん?」

「私ね、今頭の中ぐっちゃぐちゃで、あかねに言いたいことも上手く言えないけど」

 

 深く息を吸い、吐き出して、どす黒い光を宿した目を鋭く細める。

 

「お兄ちゃんもあかねもここまでなったんだもん。好き放題した奴らに一発かましてやらないと」

「………けど、アクアさんは」

「お兄ちゃんも起きたら同じことすると思うよ」

「そうは言うけど、勝算は………いえ、アクアがやろうとしてると考えると、あるんでしょうね」

「少なくともゼロにはできる筈だよ」

 

 そう口にして、ルビーはあかねを一瞥だけして来た道を戻っていく。

 そちらからはMEMちょを始めとする今ガチ参加者一同が小走りで来ており、MEMちょは疎か、みなみすら一瞬怯んで足を止める程の圧を放っていた。しかし、当のMEMちょが危惧するような反応を示すことなくルビーは素通りし、頭痛を堪えるように頭を抱えたミヤコが代わりに軽い挨拶をして、その後を足早に追いかけていく。

 

(る、ルビーちゃん、思いっ切りキレてるぅ………っ)

「やっぱりルビーちゃん、怒り狂ってたね………」

「ほ、星野ルビーって、あんな怖い娘だったんだな」

「いやぁ、アクたんとか最推しが絡まないとそうそうああはならないからね?」

 

 一応のフォローを入れたMEMちょだが、内心ではルビーの最推しことアクアの母が不在である現実に心底安堵し、また心を痛めた。あれだけ息子を溺愛している人物が、その有事に仕事のせいでいち早く駆け付けることが許されない辛さが如何程のものか………事実として、現在進行形で彼女のマネージャー、そして社長は胃が痛い思いをしながら仕事に打ち込んでいる。

 

 MEMちょ、みなみたち一行があかねと接触している時、社用車の中のルビーは

 

「………」

「アイのこと?」

「ううん。私だってこの業界でやってるんだもん………アイのコトだって………」

 

 投げ出せないことはわかっている。安易にそれをやった人間の末路も含め、多くを見てきた。

 アクアが実子であると公表できているなら兎に角、そうではない以上、尚更仕事を投げ出した場合のリスクは計り知れない。理解のある人物が上に居るならばまだしも、そうでないなら今後に大きく響き、アクアは疎か、ルビーが愛してやまない輝きが、二度と大舞台に出られなくなる可能性まで出てくる。

 

 だから、理解しているし、憤りもない。一報を聞いた時の衝撃を思えば、同情の方が勝る。

 

(………ホント、ヤだな、こういうのは)

 

 業界に揉まれて多くを学んだ。その成果を、こんな形で活かすことになるとは………

 

「もう一度聞くけど、上手くいく確証はあるの?」

「最低でもマイナスはゼロに近付けられる。そこから先はあかねと………あの子たちの役目」

 

 何度目かの深い、深い深呼吸をして、思考を整理する。これからやることは、一人の友人の人生を、冗談抜きに左右する一手。兄がいる以上、この一手が成功すればそこで成功したも同然だが、ここで躓いてしまえば後が無い………文字通り、全てが掛かっているのだ。B小町の名を背負っての最初の一歩と同等か、それ以上の重圧がかかるのも当然と言える。

 

(大丈夫、私が何とかすれば、後はお兄ちゃんがやってくれる………だから、覚悟を決めろ!)

 

 手元のメモに羅列した内容を睨み、何度も頭に叩き込む。

 

 

 そして翌日。彼女の覚悟が、そして望みが叶った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。