中尉は意識を覚醒させる。
フリップナイトを誘導しきった後どうなったのだろうか。
ここは地球か、それともJAMの幻影だろうか。
雪風は無事か。
覚醒直後の重い頭で考える。
カーテンに囲まれたベッドの上にいた。
ここは病室らしいが生命維持装置などの機器は見当たらない。
体を起こそうとするとベッドが軋んだ。
「あっ、起きましたか?でも、もう少し安静にしておいた方がいいですよ。」
「ここはどこだ、地球か。」
「地球以外のどこだと言うんですか。」
「ここはどこの基地だ。」
「基地?自衛隊の人なんですか?でもFAFなんて部隊はあったかしら。」
「自衛隊?日本軍ではないのか」
「旧軍は解体されてもうないはずよ。大丈夫?記憶が混乱しているみたいだけど」
「おれは正常だ。で、ここは何処なんだ。」
「日本ウマ娘トレーニングセンター学園だけれども」
聞いたことのない言葉が幾つかある。
ウマ娘とはなんだ?馬ではないのか?
それとどうも日本軍が存在していないらしい。
FAFは...あれを信じている地球人は少ないのだった、聞いても無駄だろう。
それと自分の体にはケガはないらしい。
フライトスーツが傷ついていない。
いや、JAMにコピーされた可能性がある。今の自分はJAMだと思った方がいいだろう。
だが雪風に会ってみないことには判別は難しい。
「フムン」深井中尉はそう返した。
「じゃあ、雪風がいるところを教えてくれ、機体はどこの基地に運びこまれたんだ?」
「雪風?雪風は貴方の機体なの?」
「そうだ」
「ごめんなさい、そういったことには詳しくないの」
「そんなはずはない、FAFが空中空母で南極から撤退してきたんだ少なくともニュースにはなるはずだ」
「あなたの服にもFAFってあるけどそれって何なの?あと空中空母なんてSF小説でしか聞いたことないし、南極に何かが現れたなんてニュースはなかったわ」
「そんなばかな」
そう話していると病室のドアが開いた音がした。
「あっ、警備員さん、夜分遅くにご苦労様です。」
「そちらもな、起きた直後ですまないが身元を教えてくれないか?」
そう言われるとカーテンが開けられた。
零は看護師と思われる人と警備員の姿を見た。
女性であるもののそれには尻尾と耳が付いていた。
「尻尾と――なんだその耳は。」
「なんだ、ってそりゃあウマ娘だからさ。」
「そんな地球人など知らないのだが。」
JAMはいつどこからこんなものを造る必要があったのか。
「とにかく身元を教えてもらおう。」
「フェアリィ空軍・戦術空軍団・フェアリィ基地戦術戦闘航空団・特殊戦第五飛行戦隊・B-503・パーソナルネーム雪風・パイロット・深井零中尉」
「...フェアリィ空軍ってどこの国の空軍だ?」
「国ではない、惑星フェアリィのJAM迎撃の為の空軍だ。」
「惑星フェアリィってそんな惑星は知らないぞ。出身地でいいから喋ってくれ。分かりやすい噓は吐くな。まさかフェアリィ星人だなんて言うんじゃないだろうな。」
「出身は日本、それと私はフェアリィ星人だ、名付け親はリン・ジャクスンという記者だ。ジ・インベーダーという本を出している。」
「噓は吐くなと言ったはずだが」
「噓はついていない、まさか犯罪を犯してフェアリィへと送ったくせに撤退したら再逮捕ということか?」
「な、犯罪者だったのか!?」
「フェアリィにいる奴らの大半は犯罪者だったが」
「話が噓だとしてもあまりに妄想が過ぎるぞ。警察を呼んだ方が良さそうだ。」
「あんたらはJAMの脅威を忘れているとジ・インベーダーの著者に言われたが本当のようだな。JAMの脅威がすぐそこに迫っているのにか」
「あんたの妄言に付き合っている暇はない。」
警備員と零のやり取りを看護師は耳を横に寝かせて怯えたように聞いていた。
警備員がデスク上の電話から警察へ通報しようとした。
が。
「おい、電話が通じないぞ。ウマホでやってみろ。」
「だめです、圏外になってます。」
「破壊工作とは、お前何者だ?」
「何もしていないが。」
「ならこれは何だ?」
そう言ったそのとき、デスク上から音が鳴った。
それはミサイル警告音だった。
零は警備員の脇をすり抜けデスク上のそれを取った。
それはBANSHEEに乗艦したときに雪風の状態等をモニタしていた端末だった。
その画面には<DANGER IMMINENT Lt.FUKAI>とEW RDYの文字が表示されていた。
すると隣りのベッドのカーテンから誰かが飛び出す。
それは深井中尉の前に立ちはだかる。
灰色の髪、髪の縁から少し離れた部分にフェアリィの空のような薄い緑色の線が流れ、中央に集った髪には白い部分がある。
顔立ちは凛としながらも幼げを感じさせる。
目の色は紫色の透き通った、凍るような色。
そして端末には続いてこう表示された。
<YOU HAVE CONTROL_ Lt.FUKAI>
「雪、風なのか?お前は。」
<YES>
どうやらそうらしい。
「離れなさいそこのウマ娘!危険だ、その男は!」
警備員がそう呼ぶが雪風は動かない。
それどころか
「うわっ!ウマホが!なんだこれ?!」
警備員の持っていたウマホの画面が電話アプリケーションからウマッターに切り替わりI HAVE CONTROL_/B-503YUKIKAZEと連投し始める。
仕事用のウマホのためウマッターどころかインストールアプリもインストールしていないのにだ。
「わかった!やめてくれ雪風!通報しないから!」
警備員がそう叫ぶとウマホの画面が元に戻り、端末からの警告音も止む。
「これはたづなさんや秋川理事長の指示を仰ぐしかない。」
そう言うと病室から出ていった。
「えっと、雪風でいいんですかね?お名前は。」
「そうだ」
「いえあなたに聞いていないのですが...」
「ではこれで確認しろ」
零は看護師に端末を渡す。
「使い方が分からないのですが...」
というと画面に<MODE INTERSEPTION RDY FOR ACTION.>と表示される。
「これは..?」
「雪風が気を利かしたようだ。音声認識で答えることができる。」
「あー、えーと、ユキカゼでいいんですよね」
<B-503YUKIKAZE>
「名前の文字数オーバーしちゃうから雪風でいいかしら?」
<MISSION PLAN UNKOWN>
<REASON FOR CHARACTER LIMIT>
「えーと?」
「名前の文字数制限を行う理由を答えろ、だそうだ」
「あー、ウマ娘の名前はね日本ではカタカナで9文字、アルファベットで18文字以内っていう取り決めがあるの」
<IS FIGHTER>
「??」
「私は戦闘機である、だそうだ。ウマ娘ではないからその取り決めには違反しないだろう、と考えてるようだ」
「でも今の貴方はウマ娘だから従ってもらうわよ」
「アルファベットでYUKIKAZEでいいわね、数字は使えないから」
<UNACEPTABLE>
「仕方ないのは仕方ないからね!いい?」
<OK>
「で、ユキカゼは戦闘機だって自分をそう認識しているみたいだけどどうしてか聞いていいかしら?」
「それは理事長とやらに会ってからでいいか?ただ話せなくなることもあるかもしれないからそのつもりで。」
「分かったわ。」
「そういや名前を聞いていなかったな」
「ええ、私はコティングリーっていうの。この保健室の養護教諭をしているわ」
「そうか、何かと世話になるかもな。よろしく」
ウマ娘という生物のいる世界、雪風がウマ娘と化したこと、そしておそらく来ると思われるJAMへの備え、零は様々なことを考えながら理事長を待つこととした。