東方黒猫伝   作:モンです

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遅くなり、申し訳ありません。


第三話

 見知らぬ場所に飛ばされ、そこで出会った少女の子分になるという珍しい事態に陥っている俺だが、実はそれほど慌てていなかった。理不尽な展開は今まで何度も遭遇している。スヴェンと姫っちがいきなり消えてしまったときもあったし、俺が子供になった時もある。トラブルには慣れざるを得なかったのだ。

 

「幻想郷、か」

 

 幻想郷と呼ばれるこの場所には、時代とともに忘れられた様々な者達が住んでいる。東の国で有名だったカッパ、テングといった妖怪や、これまた東の国で生まれたかぐや姫という物語の中の人まで好き勝手している、らしい。とても信じられない話だが、チルノ親分本人が妖精なのだから信じるしかない。これはもう見て回るしか……調査するしかないだろう。

 

 実際、俺をこの世界に連れてきたのが誰か、何のためかもわからないのだ。何の手がかりもない以上、手探りで探すしかない。

 焦っても意味はねェ。ゆっくりと帰る方法を見つけるべきだ。

 

 だから俺が幻想郷の話を聞いて長居すると即座に決断したのは、決して面白そうだったからではない。そんなスヴェン達が怒りそうな理由ではないのだ。

 

 それ以外にもいろいろ談笑していたらいつの間にか夕方になっていた。親分は「明日遊んでもらうからね!」と言うと、さっさとかまくらで寝入ってしまった。話疲れたみたいだ。妖精なのだから俺よりも年上なのだろうが、見た目通り精神は子供なのだろう。早寝早起き、寝る子は育つって奴だ。

 

 まぁ、俺もつられて寝てしまったんだが。こんな状況だ、休める時に休んだ方が良いからな。

 

 次の日の朝。昨日見た濃い霧が消え去り、朝日が湖に差し込んで輝いていた。日の出と共に起きた俺は軽く体を動かした後、左腰に提げているハーディス(黒い装飾銃)の手入れを始める。それと同時に弾薬と弾丸の数を確認していた。使っていないため、まだたんまりと残っている。が、果たしてこの世界で弾薬などが売っているのか。もしかしたら補給できないかもしれない。そこらへんも考えて撃たなきゃな。

 

 果たして撃つ機会があるのかとも思ったが、基本的に人間は妖怪に襲われるらしい。特にここ、霧の湖は妖精や妖怪が集まりやすい場所のようで、気をつけなさいと親分は言っていた。油断しないようにしよう。

 

「おはよぉ……」

「おっと、起きたか親分。おはよう」

 

 ハーディスの手入れが終わるころ、目をこすりつつかまくらから親分は出てきた。のろのろと湖で顔を洗い、というか頭を突っ込んだ後に犬のようにぶるぶると水を切っている。

 親分、女の子としてそれはどうかと思うぜ。

 

 少し呆れながら親分を見ていると、目が覚めたのだろう。突然機敏な動きで振り向き、

 

「さぁ、遊ぶわよ!」

 

 とこちらに指差した。

 ……切り替えはやいな。

 

「そーだな。何して遊ぼうか」

「冒険するわ! そしてみんなやっつけて、私がさいきょ―だと世界に知らしめるのよ!」

「朝から全力すぎじゃねぇか!?」

 

 ついてきなさいっ、と親分は言い放った。聞くだけだと冗談のような言葉だが、親分の目は本気だ。この様子だと誰彼構わずに喧嘩を吹っ掛けそうである。きっとできたばかりの子分である俺に、自分の勇姿を見せつけようとしているのだろう。

 

 しかしそのためにみんなやっつけるとは。さっすが俺の親分、スケールが違うぜっ。

 ……うん、他の遊びにしようと言いたい。

 

 いや、冒険するのは俺としては探索が進んでありがたい事なのだが、さすがにその途中で何度も戦闘をしたいとは思えない。そもそも親分の強さが分からないから、どうしても心配してしまう。なんせ見た目はただの女の子だ。危ないことはしてほしくねぇ。

 

 くっ、何か親分の考えを改めれるようなものはねェのかッ。

 

 右を見ると、湖に流れ込む川が見える。ここからでも川の底が透き通って見えるほどきれいだ。釣りとか親分は好きかな。いや、それよりは体を動かす遊びの方が好きそうだ。

 

 ならばと左を見ると、廃洋館が目に入る。あそこを探検するのはどうだ。……だめだ、あんなボロい屋敷に入ったら崩れて生き埋めになりそうだ。遠目から見てもなんで立っているのか分からない程ボロボロだ。むしろ俺が入りたくない。

 

 希望を捨てずに前を見る。湖しかなかった。昨日見た時よりも小さく見える。霧のせいで全貌が見えず大きいと錯覚したのだろう。

 

 ……これくらいの大きさなら泳いでも危なくはないか。泳ぐのもいいかもしれない。しかし親分はここに住んでいるんだから、もう泳ぎ飽きている可能性もある。でもこれくらいしか思いつかないし、言ってみるか。

 

 実際、あそこに泳いでいる人達もいるしな。

 

「……えっ」

「どうしたの? はやく行くわよ」

「いや待って親分、あそこにダイナミックに湖を泳いでいる人達がいるぞ」

 

 湖の真ん中あたりに居る二人の人影を指さす。二人はなぜ今まで気づかなかったのか不思議なくらい大きな波音をたてて――争っていた。緑色の大きい人が近距離で一方的に攻めたてる。もう一方の青く小さい人はうまく躱し、受け流しているが、防戦一方で不利は否めない。しかしどちらも水の中とは思えないほどの身のこなしだ。

 

「あら、河童じゃない」

「へぇー、あいつらがカッパってやつか」

「そうよ。たまに川からここに流れてくるのよ。ちょうどいいわね。今からあたいの域に勝手に入ってきたあの子たちをたたき出してやるから、見てなさい!」

「待ってくれ。なんだか近づいてきてるみたいだぜ」

 

 カッパ達から視線をそらさず、意気込む親分を止める。親分一人を突っ込ませたくない。

どうやら青い方のカッパは俺たちに気づいているらしく、こちらに向かって後退し始めていた。こちらを巻き込もうとしているのか。左手をハーディスに触れ、警戒を強める。

 

 ――ドゴォ、と音がして青いカッパがこちらにはじけ飛ぶ。

 

 そのままの勢いで俺たちの右側に着地して、殴られた腹を押さえた。青い、少女のようなカッパはこちらに目を向ける。

 

「すまな、いけど、助けてくれ。盟友っ」

 

 

 

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