「盟友?」
どこかで会ったことがあったか、と一瞬考えるも直ちに放棄。青いカッパは敵対する意志がなさそうだが緑のカッパは違うようで、無言で俺に突進してきた。水の中から軽量級のボクサーに匹敵する俊足で迫りくる。即座に横に跳ねつつハーディスを抜き、肩と足を早打ちした。
着弾した弾は狙った部位に正確に穴をあける、が。すぐさま穴は塞がり元通りとなった。
「マジか!」
「ガァァァァア!!」
全く効いた様子のない緑のカッパは迷いなく間合いを詰めて俺の腹部へ強烈な打撃を食らわせる。咄嗟に衝撃を体ごと後ろに流したが完全とはいかず、空中に放り出された。息をつくどころか着地すらする間もなく緑のカッパは新たな攻撃を繰り出す。
これは一発くらう必要があるかとカウンターを覚悟した。
「あたしの子分に何してるのよ!」
そこへ親分の声が聞こえた。声と同時に緑のカッパの足元が凍る。
「ナイスだ親分っ」
ガクリと膝をつく緑のカッパへと着地と同時に低い姿勢で肉薄する。
出し惜しみはしねェ。躊躇いなく敵の懐へ入って、体ごとハーディスを回転させ本気で野郎をブッ飛ばす!
「黒爪!」
胸元に四つの爪が走る。緑のカッパはトラックで撥ねられたかのように吹き飛び、湖に放り込まれた。
……どうにかなったか。だが、仕留めてはいねぇだろうな。銃弾食らっても再生してたし。どうすれば対処できるか考え付かない以上、早いとこトンズラした方が良いだろう。
「あんたやるじゃない!」
「親分もなっ。じゃーさっさと冒険行こうぜ」
「そうだったわね。ついてきなさい!」
いつの間にか気を失っている青のカッパを肩に担ぐ。さすがにこの場に放置できるほど良心は捨ててない。色々事情を知っていそうだしな。
「この子も連れて行っていいか?」
「かまわないわ。親分はかんよーなのよっ」
親分はふんすと胸を張って上機嫌に飛んでいく。俺はカッパが落ちないようにしっかり担ぎ直し、小走りで後を追った。
ふらふらと自然豊かな幻想郷を歩くことしばし。
幸い緑のカッパは追ってこず、青いカッパは未だに目を覚ましていなかった。見たところヤバい怪我はしていないようなので直に気がつくだろう。
「むー。なかなか妖怪がいないなー。さては、私を恐れてにげているのね」
「そうそう。親分から漂う強者の雰囲気にみんなビビっちまってんのさ」
「なら仕方ないわね」
親分は頬を持ち上げた。そうして耐え切れずににひひと笑った。俺もつられて笑う。チルノ親分は本当に褒められ慣れてないようだ。こんなにも威張っている女の子が、ちょっとしたことで喜ぶことがおかしかった。
別にお世辞を言っているわけじゃない。実際に親分は氷を操るというトンデモ能力を持っているし、カッパの足元を一瞬で凍らせるアシストは見事だった。勢いづいたカッパを彼女が崩してくれたおかげで苦も無く撃退できたのだから。
最初に自慢げに能力を話してくれた時は「親分スゲー」なんて言葉しか出なかったけども、今なら「親分スッゲーなっ!」位は言えそうだ。頭が少し弱いのかなと思っていたが、それは訂正する。他は分からないが、少なくとも戦闘に関しては彼女は頭が良いのだろう。頼もしい親分ができたのは俺としてはすごく嬉しかったりする。
――だけど問題がないわけじゃない。
一つは妖怪に撃った銃弾がまったく効かなかったこと。確かにあの時緑のカッパの肩と足を貫いたはずだが、ひるんだ様子も見せずに瞬時に回復しやがった。これは完全に予想外だ。あいつ個人の能力だったらいいが、妖怪全体があれだったら俺の手には負えねェ。ほとんど親分頼みになってしまうかもしれない。もっと妖怪について知って早いとこ対処法を編み出すべきだ。
もう一つはあのカッパの異常性。いきなり戦闘になったもんで何も考えてなかったが、どうも正気には見えなかった。まるでかつて見たドクターに変な薬をうたれた掃除屋のように凶暴で破壊を求めていた。そもそもカッパ同士で殺し合いをするのか? それが妖怪の性です、と言われたら何も言えないがどうにも違和感がぬぐえない。
きなくせぇ。厄介事のにおいがプンプンしやがる。……面白そーげっふげふん。
イヤーマキコマレタクネーナー。
ま、ここまで考えても結局気を付けることしかできねぇんだけどな。下手な考え休むに似たりだ。親分と共に行動あるのみってことだな。
「そういやチルノ親分、今はどこに向かってるんだ?」
「ふふ、ねえトレイン。あなたは戦うために必要なものは何かわかる?」
「そうだなー。一番必要なのは飯かな。腹が減ったら戦はできないしなっ。つーか今日まだ飯食ってねェ……」
「その通りよ! いくら私が最強とはいえ、ごはんを食べなかったら力が出せないわ。食べなくても生きてはいられるけどね。でも、トレインには食料が必須よ。つまり、物資の補給路を確保しなければならないわ!」
「ほーう、それすなわち?」
「霧之助の店を乗っ取るわよ!」
「犯罪ッ!?」
途中まで軍師みたいに賢い雰囲気だったのに、なんで結論を滝のごとく堕としたんだよ親分……。一応、俺はそういう奴を捕まえる側なんだけど。
――いや、待てよ。むしろ幻想郷では当たり前なコトなのか?
断言している親分を見ていたらそんな気がしてきた。ここは非常識が常識である幻想郷だ。外で掏ったらしょっぴかれるが、此処では「こんにちは、今日もいい天気ですね」みたいなもんかもしれねェ。さっきのカッパの争いもただの激しい会話だったって可能性もある。つまり霧之助って奴の店で何もしないのは逆に失礼になっちまうのか。
「見えたわ、あれよ!」
親分の指差した方を見ると、古ぼけた家がぽつりと立っていた。香霖堂と書かれた看板が扉の上に打ち付けてある。
店の前にはガラクタが積んであり、そこはかとなく不安をあおって来る。狸の置物はともかく、ナンバープレートが壁に貼ってあったり冷蔵庫が横にして置かれてたりするのは斬新すぎてわかんねぇ。
「この店大丈夫かよ……」
「多分平気よ。行くわ、準備は良い?」
「いつでもオッケーだぜ」
扉の前で互いに頷くと、一気に店内へ侵入した!
「……おや、いらっしゃ」
「この店は私がもらったわ!」
「あげた覚えはないよ!?」
「固いこと言うなよ、俺とあんたの仲だろっ」
「いや誰だいキミはっ!?」
ゆったり寛いでいた店主は、突然の事態に飛び上がった。