更識姉の偽装恋愛   作:沖縄の苦い野菜

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第七話 第二歩へ

 

 どうにも、体当たりと一口に言っても、その中身は鍛え上げられた技術の塊であるらしい。

 姿勢を低くして相手のバランスを崩すタックル。肩から激突して、力技で相手を吹き飛ばすタックル。……このあたりは、レスリングやラグビーなどで主に発展している技術らしい。

 

 真正面から、あるいは真後ろからの奇襲。ISの速力に任せたそれは、もはや「タックル」なんて生易しい代物ではないが。それでも、相手に対する角度で得られる結果はだいぶ違う。

 

 たとえば、レスリングとラグビーの両方で発展している「フロントタックル」は、ISにおいてはカウンター技として使えるだろう。これは走ってくる相手を真正面に捉えて、走る方向とは逆方向に倒すタックルだ。相手の接近戦攻撃をただ避けて距離を取るのではなく、敢えて突撃してのカウンターが狙える技術として捉えると、馬鹿正直な正面衝突とはまるで違うことがよくわかる。

 

 あるいは、「リアタックル」と呼ばれる背後から相手の足に手をかけるタックルもまた効果的だ。『ルクス』であれば、その規格外の機動力を使い無茶苦茶な高速軌道をすることで、相手を振り回して操縦者に直接的なダメージを入れることも出来なくはない(競技である以上やるかどうかは別にして)。

 

 他にも相手に回避を強要することで動きをズラす「サイドタックル」や、相手の上半身から抱き着いて動きを封じる「スマザータックル」のような技術もあるが……今の『ルクス』ではどちらもチームプレイ前提の立ち回りとなるだろう。

 

 

 

 俺は感動した。

 何でって聞かれたら、そりゃ「選択肢が増える」からだ。

 

 今までダメージを通すためには、必ず「タックルを直撃」させる必要があった。その上で威力が「速度に依存」するものだから、決める時はいつも瞬時加速(イグニッション・ブースト)以上の速力を叩き込む必要があり、攻撃している側のはずなのに自分の首を絞めていくような戦闘を強要されていた。

 

 だが、これらタックルの技術は今までの苦しい戦闘を克服できる可能性を持っている。

 

 一番の要因は、「タックルの直撃」を狙う必要がなくなったことにある。

 

 非常に今更だが、俺に格闘術の心得はないし、足技に関しても中学生までに培われた体育の時間中のサッカーくらいでしか磨いたことがない。ズブの素人である俺が体術でダメージを稼ごうとすれば、多大な練習時間が必要になるのは必然で、そこに時間を割けば「操縦技術が疎かになる」危険性があったため、その路線は諦めていたわけだ。

 

 一方、「タックルの技術」を磨くのであれば話が変わる。なぜなら、「ISでのタックル=操縦技術の応用」だから。『ルクス』の一番の武器であり防御の要でもある操縦技術を鍛えながら、攻撃技術の上達も図れるわけだ。

 

 

 重要なのは「姿勢」だ。

 従来の俺のタックルは、機体全体を使って可能な限り当たり範囲を広くした、馬鹿正直な突撃だった。故に、軌道上に武器や銃弾を叩き込まれるのが致命傷になるし、俺の攻撃手段が「それしかない」と気づかれれば、そもそも「攻撃可能な状態」に持ち込むことに全力を注がなければいけなくなった。

 

 先日の楯無さんとの模擬戦がまさにそれだ。近接武器を速度の緩急でかわし、されども水蒸気爆発が間に合わないタイミングでの全力タックル。だが、楯無さんも俺が「ただのタックル」しかしてこないとわかっていたから。槍をよけられた瞬間に振り抜き、石突とスラスターの力で「迷いなく」受け流されてしまった。

 だが、もしもあの時。馬鹿正直なタックルだけじゃなく、低姿勢でのタックルを繰り出せていたのなら。おそらく石突でいなされることはなく、スラスターの推進力だけじゃ回避は間に合わなかった。

 

 そこで体勢を崩せて、同じような攻撃タイミングに持っていけたのなら。

 楯無さんもあの時、分身を設置する暇もなかったはずだ。五分以上に持っていけていたんじゃないか。

 

「……いや」

 

 それは甘えだ、と即座に自分自身を否定する。

 贅沢を言おう。低姿勢のタックルだけじゃなく、そこから派生させられる「足技」が欲しい。

 

 確かに楯無さんを追い詰めることは出来たかもしれない。だが、あの一撃で『霧纒の淑女(ミステリアス・レイディ)』のSE(シールドエネルギー)を全て削り切れたかと聞かれると、首を横に振る。

 

 そもそも、それまでの攻防で一ダメージも入れられていない。その上、バリアを展開してのタックルは、一夏のような「バリア無効化攻撃」ではないのだ。絶対防御が発動してSEを大きく削ること自体は出来ても、一撃必殺の火力には成りえない。

 

 幸いなことに、『ルクス』は脚部が鳥の足のような形状をしているうえで、かぎづめのように先端が鋭利になっている。リーチの短い拳より、形状として攻撃範囲と威力が担保されている「蹴り」の方が、「機動力特化」の機体としての相性は抜群だろう。

 

「蹴り技、か……」

 

 候補に挙がるのは織斑先生と、楯無さんだ。凰はお国柄のイメージとして格闘術自体得意な印象があるが、俺は一夏じゃない。頼っても袖にされる可能性の方が高い。

 

「いや、それよりも。武術……今から?」

 

 待て、と興奮したところに理性が静止を促した。

 スポーツも、当然ながら武術であろうと。一朝一夕で身に着くものではないのは誰にでもわかることだ。果たして、今からズブの素人が学んだところで間に合うのか。間に合ったところで、身に着けた技術は習得にかけた時間の割に合うのだろうか。

 

「……いや、それは槍も剣も拳も一緒だ。むしろ――」

 

 ――今からやらなければ、取り返しがつかなくなる。

 

 これから先、まさかタックルひとつで勝てるわけもない。というより、今まで一度たりとも勝ち星を拾えた試しがない。

 そもそも、これはISなのだ。総合格闘術やレスリングならまだしも、重火器やら特殊能力やら。何でもありの競技であって、取れる手段の少なさは致命的な弱点に直結する。それが「機体での接触攻撃しか出来ない」なんていう致命的なものだ。

 

 戦闘中の駆け引きにおける手札の少なさが、いかに苦しいか。俺はこの二ヶ月近く、よく実感させられた。心身ともに刻み込まれている。

 

「やばい。やべえ、何やってたんだ俺――ッ!」

 

 まだだ、まだ間に合う。

 今からでも基礎を積めば、まだ間に合うはずだと、心に言い聞かせながら。

 

 俺は可能な限り早足で職員室に向かった。

 

 

 

 

「結論から言おう。不可能だ」

 

 世界最強から即座に否定された。

 織斑先生は滅多なことで「不可能」などという言葉は使わない。ただどれだけ難しいことか、懇々と説明してくるタイプだ。「お前に何が出来る?」とか、「これは出来るのか? やれるのか?」と現実的に理詰めしてくるのだ。

 

 そんな世界最強。織斑千冬からの即座の否定。

 

「私とて、雪片という強大な武器を手にしたからこそ、ブレードオンリーで戦えていたところが大きい。それを何の捻りも力もない体当たりだけなどと言われれば、どうにもならん」

 

 お前の体当たりは当たった試しがあるか? と続けざまに聞かれてぐうの音も出なかった。

 いや、アンタに否定されたら無理じゃん。無理に決まってるじゃん。世界最強が無理なら、俺みたいなつい先日まで一般人だった奴が、出来るわけないじゃん。

 

「織斑先生が『ルクス』に搭乗したなら、タックルだけで勝てますか?」

「……そうだな。『フラグメント・コルクス』の機体性能を限界まで引き出せたのなら可能だろう。だが、お前に出来るか? 二重加速(ダブル・イグニッション)は当然だが、個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)さえも成功率を100%にしなければまず話にならんぞ。加えて、本来ある筈の十二基のスラスターで自由自在に加速技術を引き出すことが前提だ。今此処で『三・五・二重の二・八・十・十一・十二のリボルバー、一・四旋回、六・七の旋回イグニッション』といわれて、ノータイムで実行できるレベルまで成長出来るか?」

「……」

 

 ――えっ、それ人間の言語ですか?

 という言葉を必死に吞み込んだ。だって言っていることの九割頭おかしいだろ。何だそれ、楯無さんどころか機動力自慢のアメリカ国家代表だって出来るわけないだろが!

 

「タックルひとつで勝ち抜くとはそういうことだ。それを通すための駆け引きを全て、超越した操縦技術によって補う必要が出る。言っておくが、加速だけじゃない。静止と減速の技術さえ同様だ。何の枷もなく、何の不自由もなく、この世界のどんな存在よりも自由自在に空を飛べるだけの技術。それがあって初めて、成し遂げられる偉業だ」

 

 ――頭おかしいよ。

 俺は素直にそう思ったし、俺が今までやろうとしていたことがいかに愚かだったかよくわかる。

 

 いつかは出来るようになりたい、という願望はある。だが、たった「三年」でやれ、と言われたらもう何も言えない。というかそんなこと出来る技術があるなら、流石にどこかの国が全力で守ってくれるだろ。アメリカとか、イギリスとか。

 ――日本? 冗談きついわ。

 

「あの、タックルの種類を増やせば――」

「ほう? なら言ってみろ。その種類とやらを」

捨て身タックル(バードストライク)、低姿勢のタックルに、後ろからの組み付きと――」

「馬鹿者め。ISは空中戦が基本だ。地上戦の常識が通用するとでも思っているのか?」

「あっ」

「そもそも。速力に任せて当身など衝撃が分散されて威力に乏しい。ダメージが入るのは衝突した瞬間と、相手を壁や地面に叩きつけたときだけだろう。加えて、空中は360度逃げ場がある分、衝撃も逃げやすい。宙に浮かぶ風船に、全力で張り手をするようなものだ」

 

 ――あー、なるほどね。完全に理解した。

 だから頭痛いし泣きたいし叫びたいし発狂したい。穴があったら入りたいしそのまま埋まっていたい。私は貝になりたい……。

 

 ……でもこの人、宙に浮かんでいる風船に張り手したら普通に破裂させそうだよな。

 

「何か言いたいことでもあるのか? ん?」

「いえ何も」

 

 即答する。誰だって自分の命は惜しいのだ。俺だって、こんなくだらないことで死ぬのは真っ平ごめんである。

 

「……やっぱり、『蹴り』も選択肢に入れるしかないですか」

「妥当だな。武器を握ったとして、機動力に振り回されるのがオチだろう。手甲鉤、腕部につけるエネルギーブレードであれば邪魔にはならんだろうが、あれらは扱いが少々難しい」

 

 織斑先生の言葉を聞いて、覚悟が決まった。

 もう、俺は操縦技術を磨くだけの段階からは抜け出してしまったんだ。それはつまり、成長したということだ。

 

 長かったような、短かったような。

 俺はようやく、はじめの一歩から、次の一歩に踏み出したわけだ。

 

「俺、『蹴り』を武器に頑張ってみます」

「あぁ。そうだな……『蹴り』の技術を学ぶのであれば、『ムエタイ』を参考にしてみるといい」

「『ムエタイ』?」

「立ち技世界最強、と称される格闘技だ。実際に資料室で試合映像を見てみるといい。感じ入るものがあるはずだ」

「わかりました」

 

 世界最強が言うことだ。何か必ず意味があるだろうし、質問をすれば答えてくれる人でもある。

 なら、まずは自分で見るのがいい。そして疑問に思ったら聞きにくればいい。それが許される環境であることは、恵まれていると思う。

 

「今日も、ありがとうございました。失礼しました」

「あぁ。またいつでも来い」

 

 

 

 職員室から出て資料室に向かっている時に、ふと思い出した。

 

「……あれ。織斑先生って、『ルクス』に乗ればあのめちゃくちゃな条件で――」

 

 ブルッ、と全身に震えが走った。

 まぁうん。この話はもう考えちゃいけないな、って頭が拒否反応を示している。

 

 俺はもうそのことを忘れることにした。どっちにしても常人には出来ないことだ。つまり不可能なのだと結論付けた方が、健康にもいいだろう。

 

 

 

 ――やっぱ織斑先生ってやべぇわ。

 俺はつくづく、そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

「ところで山田先生。この生徒についてだが――」

「あ、あー……えっと。その子なんですけど……」

「……頭が痛い話だが、他に適役もいない。加えて、あいつの抱えている爆弾は多すぎる。我々だけでは……情けないことに、なにも足りない」

「わかりました。それでは、こちらから話をつけておきますね」

「あぁ、頼む。私が出ては、強制と捉えられかねん」

「ふふっ。了解です」

 

 事態は、刻一刻と変化する。

 

 

 

 ――さぁ、次の一歩に踏み出そう。

 

 

 

 

 




たくさんの評価、感想の方をまことにありがとうございます! 日間ランキングにも載り続けていること、過分な栄誉と存じます。

これにて、プロローグとも呼べる部分が終了、といったところでしょうか。
ここからは物語が、人間関係が動き始める第二歩目に突入。

オリ主の成長は、ようやく第一歩目を踏みしめ終えて、第二歩目に進みます。
彼の周りは大きく変化し、成長の方向も次の段階へ。そして、ここから先の原作イベントは第二巻に突入。

もし、ご興味が尽きず、お時間を許していただけるのであれば、この二次創作にお付き合いいただければ幸いです。



それでは、第二歩目でお会いしましょう。


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