更識姉の偽装恋愛   作:沖縄の苦い野菜

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第九話 新たなる風の予感

 

 転入生を紹介します! と、山田先生が元気よく宣言してから教室に入ってきたのは、中性的な顔立ちの男性のような制服に身を包む麗人である。

 

「お、男……?」

「はい。本国より、こちらに男性操縦者がいると聞いて。一人きりの本国の学校よりは、こちらの方がいいと判断して転入しました」

 

 この転入生、名前をシャルル・デュノアという。第二世代機の確固たるシェアを持つ『ラファール・リヴァイヴ』の開発元であるデュノア社の子息であり、俺と違って強力なバックボーンの持ち主。

 

 ――だが女だ。

 

 ぶっちゃけ、俺も楯無さんからのリークを聞いていなければ、男友達として親身に接していただろう……、いや、やっぱり親身にはなっていない。背景持ちに時間を割くほどお人好しにはなれない。

 

 だけど本当に、先に知っていて良かったと思う。もし後から知ったら、もうキチゲが発散不可能レベルで溜まってた気がする。アレだ、性癖とかに脳みそ破壊されるオタクのようなことになっていただろう。多分3回くらい死にたくなる。

 

 そして自己紹介も、よくよく聞いていればよく出来ている。

 俺はタネも仕掛けも知っているから、そんなことを言えるわけだけど。

 

 デュノアは自分のことを、一度も「男」だと明言していない。ひとりきり、だとか。男性操縦者がいると聞いて、みたいなことを言って、直接的な言及を避けている。「男?」っていう疑問に対しては、「男性操縦者が理由」という答えに対して「はい」と答えただけ。

 この時点でもう、性同一性障害とかの可能性も限りなく低いだろう。それならそれで、俺と一夏に内密に説明ぐらいくるはずだし。

 

 そして何というか、声が白々しい。楯無さんとは大違いだ。

 

 統括して、信用ゼロ。関わり合うだけ時間の無駄どころかマイナスにしかならない。クラスメイトに怪しまれない程度に接して、あとはひたすら逃げるのが良さそうだ。

 

 あと、楯無さんがリークしてくれた時点で訳ありだろうし。デュノアのことは楯無さんや先生方に丸投げがいいだろう。

 

 君子危うきに近寄らず、というやつだ。俺が徳積んでいるかは棚上げするものとする。

 

「デュノアの世話はクラス代表の織斑に一任する」

 

 自分の身内にはとことん容赦ないな。

 とも思うが、一夏って割と簡単にハニトラとか引っかかりそうだし、鈍感っぷりも現状を考えると笑えない。そう考えれば、織斑先生なりのスパルタ教育、というやつなのだろう。

 半分くらいは、多分俺を気遣ってのことだろうけど。だといいな。

 

 一夏ばかりに面倒事押し付けている気はするけど、悪いが俺は引き受ける気など一切ない。

 こちとら文字通り命と人権かけてるんだ。多少のことは多めに見てほしいと、本気でそう思う。

 

 ――キチゲ発散してぇ。

 最近、こんなことばっかり考えている気がするのは、気のせいじゃないんだろう。

 

 

 

 

 

 

 最近の日課に、放課後のアリーナを使えない時間に資料室で『ムエタイ』の試合を見る、が追加された。

 さすがIS学園の資料室というだけあって、書庫は紙媒体だけでも県立図書館クラスの蔵書がされている。電子媒体まで含めれば、もしかすると世界一蔵書数が多いのではないか、とさえ思わされる量に膨れ上がる。

 

 資料室を訪れる人間は、施設の規模にしては少ない方だ。というより、これは施設が広すぎるせいで人がいないように見えるだけだ。IS学園の生徒数を考えれば、むしろよく人がいる方だと感じる。

 

 そんな中、男の俺が歩いていれば当然視線を向けられる。ただ、一夏じゃないとわかるとすぐに視線を切られるが。バックボーンがないことに対する数少ない利点だ。あと、シャルルのことが話題になっているせいで俺の注目度がさらに落ちた気がする。

 

 棚から牡丹餅ってやつだ。思いの外いいことあるなと思いながら、俺はいつもの場所に座って、備え付けのパソコンから試合映像を漁ることにする。

 

 

 

「……やっぱ、やべぇな」

 

 『肉体凶器』ギャラクシー選手。彼女の手足から繰り出される一撃一撃が、人体に対して致命傷を与える様は、震え上がるほど美しかった。

 鉄壁とも思える両腕の盾を、小さな蹴りと拳、そして相手からの攻撃を誘うことで崩しにかかる様子は芸術的だ。待つだけでなく、自ら動くことで生まれた刹那の綻びを、まるで光の如く撃ち抜いて本命を叩き込む。何度見ても息を呑んでしまう。

 いつか、楯無さんからこれだけの技術を引き出せたらな、とも思ってしまう。ただ、それはきっと身勝手な願望なのだろう。

 

 と、試合の映像が終わった。

 ギャラクシー選手の試合は必ず流血沙汰になって、最後は頭を血塗れにした対戦相手と抱き合っている。もういつものことだな、と最初ほどのインパクトはないが、目に見えて隔絶した力には圧倒されるばかりだ。

 

 さて次の映像を、と思っていると。

 ぴろりん、という音と共に端末に連絡が入る。楯無さんからだ。

 

『第二アリーナを確保したから、今から5分以内に集合!』

「やっべぇ!」

 

 ――笹食ってる場合じゃねぇ!

 勢いとしてはもうそんな感じだった。パソコンを閉じて、席から立ち上がるのに1秒くらいだったんじゃないだろうか。

 

 

 

 

 焦りに焦った俺は、運よく織斑先生に見つからず全力疾走で第二アリーナに到着することが出来た。タイムは4分53秒。

 

「た、楯無……さ、ん。無茶、ぶり……にも、はぁ。ほどがっ」

「えっと……ごめんね? まさか本当に五分以内に到着するなんて……」

 

 つまり何らかの罰ゲームと称して特訓することが前提だったらしい。この人、たまに冗談なのか本気なのかわからない無茶ぶりをしてくるんだよなぁ……。

 代わりに、そのおかげもあってこれだけ成長出来たと考えることも出来る。資料室から第二アリーナまで五分以内に到着とか、前の俺なら出来なかった。

 

「げほっ、けほ……日々の、楯無さんとの訓練の、賜物。って、やつ……ですかね……ふぅ」

 

 息もだいぶ落ち着いてきた。五分近い時間全力疾走、加えて人にぶつからないだけの注意力を発揮するのは、流石に体力も精神力も削られた。

 ただ、ISの戦闘になってくればこれを常に維持しなければいけない。そう考えると、これも予行演習と捉えることも出来なくはない。

 

「それで。何させるつもりだったんですか?」

「ふふ。やる気満々ね」

 

 バッ、と扇子を開けば「気合十分!」の文字が。

 この人、どれだけ扇子を持っているのだろうか。何というか、もしかしたらISの拡張領域に仕舞い込んでいるんじゃないだろうか、って最近は疑い始めている。

 

 ……待てよ。そう考えると楯無さん的には、これは展開時間短縮の訓練だったりするのだろうか?

 精確に違う文字の書かれた扇子を瞬時にISから取り出す技術。普段飄々としている人だけれど、努力は隠れて人一倍……なのだろう。

 

 凄い人だ、と素直に思った。

 

「……何だかミツキ君の目がいつもより輝いている気がするわ。ま、まぁそれは置いといて。今日やるのはバネの作り方ね」

「……、……バネ?」

「そっ。バネ。身体のバネをどうやって空中で作るか」

 

 先にやってみせるわね、と楯無さんが『霧纒の淑女(ミステリアス・レイディ)』を身に纏い、わずかに空中に浮いた直後。

 

「ていっ」

 

 可愛らしい声とは裏腹に、風が炸裂した。

 なんて事はない。宙に浮いた瞬間に体を捻り、指向性を持たせてスラスターを噴かせることで勢いをつけた。いわば、「スラスターでブースト」することによりバネを作ったわけだ。

 

 蹴り、などと形容していい音ではなかった。

 振りぬかれた『蹴り』は、まるで居合のような鋭さで宙を切り裂いた。炸裂した風の音は、もしかすると『ルクス』のウイングスラスターから爆発するブースト音よりも大きかったかもしれない。

 

 人の頭に直撃したなら、汚いザクロまっしぐら。ISの装甲に直撃したなら、凹んで使い物にならなくなったのではないだろうか。

 

「……、あの。これ、俺が『蹴り』って」

「…………絶対防御*1を信じなさい」

 

 楯無さんが目を逸らした。俺も目の前の現実から目を逸らしたくなった。

 

「これ、装甲がない部分に直撃したら……『ルクス』の出力考えると、内臓破裂とか――」

盾殺し(シールド・ピアース)が直撃したとしても、一応骨が折れるまでしか確認されてないわ。だから、大丈夫」

 

 じゃあ何で目を逸らすんですか、とは聞けなかった。

 そもそも、直撃したら絶対防御ぶち抜いて骨は折れるんですね、とか確認する空気でもなかった。

 

「というか、これ『ルクス』に搭乗しての威力訓練はどうします? 明らかに訓練でも人に向けちゃいけない威力になりそうな気が……」

「そこはお姉さんに任せて。うちの子の『アクア・ナノマシン』の防御力は一級品だから。展開したヴェールを貫通出来れば上出来よ」

 

 なるほど、と思わず頷いた。

 『霧纒の淑女(ミステリアス・レイディ)』の『アクア・ナノマシン』から繰り出される攻防一体の水は、自由自在にその形を変化させる。防御力に全能力を振り切って、防壁のように宙に展開すれば威力の確認として申し分はない。

 

 ただ一点。完成したら誰もがドン引きするような威力になるんだろうな、っていう予感は置いといて。

 

「さて。とりあえず静止状態から今の行動を確実に成功させることが今回の目標よ。……はっきり言うけど、高速戦闘下においてこの『蹴り』を放つのは至難の業よ。今のは完成形だけど、万全な状態で『蹴り』が放てるとは思わないで」

 

 言われてみて、確かにその通りだと思ってしまった。

 何せ、タックルを当てるだけでもまだ十分とは言えないのが現状だ。最低でも代表候補生クラスに当てるには、未だに操縦技術が足りていない。

 

 そして今度は毛色の違う『蹴り』の習熟と来た。

 

 見た限り、この『蹴り』の要点は単純だ。

 

「スラスターを上手いこと噴かせて、『蹴り』の勢いに乗せられるかどうか」

 

 威力はその一点に直結する。

 タックルとはまた違い、『蹴り』は瞬間の速度が大切なのだ。当てる時にどれだけの速力と重さが乗っているか。

 

 戦闘中にこれを最高威力で繰り出すということはつまり。

 高速飛行中(軽く見積もってマッハとかいう単位がつく)に敵に何とか接近しながら、その速度を落とさずに体を捻り回転。スラスターを別に噴かせて『蹴り』の勢いをブーストしてぶち当てる。

 つまり高速飛行中に『バネ』を作りながら回転とかしなきゃならねぇ。当然他のウイングスラスターは瞬時に切らないといけないし、同時にバネを作るためのウイングスラスター点火だって必要。その上で、進行方向がブレないための機体制御まで同時にしなきゃならない。

 

 もっと細かく細分化するなら。

 

1.敵へ接近するための加速が必要。

2.接近する直前に『バネ』を作るために、自身回転するためのウイングスラスターの点火が必要。

3.「2」と同時に他のウイングスラスターを機体制御に回して微調整。ここがブレるとあらぬ方向に飛んでいく。

4.上記の機動は全て「相手の攻撃を掻い潜って」行われるものとする。

5.『蹴り』を迎撃、防御、直撃した後の速やかな行動移行が必須。

6.「1」へ戻る。

 

 頭を抱えたいのは機体制御だ。

 何が問題かと言えば、「敵方向へ加速しながら」蹴りの威力を上げるために「バネを作るための回転と加速」をしなければならないところだ。

 

 身体が回転すれば、当然噴かせているウイングスラスターの推進力の方向性も変わる。ウイングスラスターの加速力を一定方向に保つためには、「常に加速したい方向へ噴出孔を向ける」必要がある。これだけでも至難の業であるのに、問題はまだある。

 

 それが「加速すればするほどバネを作るのが難しい」点にある。要因は加速中に急に回転を加えることの多大な負荷だ。

 ハッキリ言うが、高速戦闘下で何も考えずに繰り出せば、おそらく俺の肉体が重力でイカれる。「最初から回転しながら」なら負担も少ないが、そんな強靭な三半規管は持ち合わせていないし、あからさまに「何かしますよ」といったアクションを取ることの如何に無謀なことか。

 

 じゃあその負荷は「PIC」を微調整すれば理論的に可能じゃないのか? と言われるとそれも不可能だ。

 たとえ「PIC」によって慣性関連の負荷を全て軽減したとするなら、同時に「劇的な速度低下」がもたらされて、まともに接近が出来なくなってしまう。寸止めから接近、蹴り上げるとかなら可能だが……その時の『蹴り』の威力が苦労に見合うかと聞かれれば微妙なところだ。

 

「……人間の反応速度の限界を超えられたらな」

 

 あるいは、『光速』に至ることが出来たのであれば。それらすべての問題をすべて解決した上で、俺が最強だと言い張れるが。そんなことはもちろん出来ない。というかISで『光速』に至ったらおそらく俺は死ぬし、相棒も死ぬ。

 

 

 

「いや、もっと柔軟に。――接近と攻撃のフェイズを分ける?」

 

 そうだ。接近と攻撃のフェイズを分けることは可能だ。

 具体的には、相手の近接戦間合いまで接近した後に、「瞬時停止」と「軌道変更」と「蹴り」の三択を迫る。今の俺の操縦技術なら、『蹴り』さえ完成すればギリギリ可能だ。あるいは、訓練することで辻斬りみたいに横をすり抜ける時に蹴り抜くことも可能だろう。

 

 つまり、接近する際には攻撃のことはすべて忘れる。ただ「近接間合い」に行くための駆け引きだけを行う。

 「近接間合い」に持ち込めたら、持ち前の操縦技術を用いて「接近戦の駆け引き」に切り替える。

 

 タックルと違い、蹴りには様々な種類がある。

 フィクションの中で言えば「飛び蹴り」何かを筆頭に、現実的なものは「回し蹴り」「踵落とし」「サマーソルト」「膝蹴り」など。流派を分ければ、もっと多くの分類をもつほど多彩な選択肢がある。何と言っても、これらは「攻撃が飛んでくる角度」がまるで違う。つまり、相手が回避しなければいけない方向が違うのだ。

 

「良い着眼点ね。一度のアクションに全てを詰め込む必要はない。そして、必ずしも『最大火力』を叩き込む必要もない」

「っ――んむっ」

 

 すぐ耳元で楯無さんの声が聞こえたと思って振り向くと、扇子が頬に食い込んだ。地味に痛い。

 

「考え込むと周りが見えなくなるのは悪い癖ね」

「す、すみません……」

 

 扇子が頬から離れたかと思うと、楯無さんは一歩距離を取って、自分の手に扇子を叩きつけて打ち鳴らす。

 パチン、と乾いた音が俺の意識を切り替える。

 

「さっ、まずはやってみせて」

「はい! ……やろう、『ルクス』」

 

 

 宙に浮く。

 十枚羽を揺らした。

 

 身体を捻り、その瞬間にウイングスラスターを噴かせて――

 

 

「うおぁぁああああああ!?」

 

 全身できりもみ回転しながら加速し、俺はアリーナの壁に激突した。

 

「あっちゃぁ……」

 

 やっちゃった、みたいな声が聞こえてきたが。それどころじゃない。

 

 まるで別物だった。

 今までは推進力を常に一定に保つための調整をしていた。真っ直ぐ飛ぶために。あるいは自分の飛びたい方向に行くために。ウイングスラスターの指向性と噴かせる威力の調整を行ってきた。それで成功していたし、それのおかげで操縦技術はめきめきと伸びていった。

 

 だが、今回は違う。

 ウイングスラスターを噴かせた瞬間に「全身を持っていかれた」。まるで思い切り引き抜かれた大きな蕪のように、すぽん、と飛んで行った。

 

「うっそ、だろ……」

 

 一ミリも制御なんて出来なかった。ウイングスラスターの出力に完全に翻弄されていた。

 

「スラスターを噴かせるのは一瞬よ」

 

 楯無さんからの指摘が入る。ひっくり返っていた俺はすぐに立ち上がって、所定の位置に戻ってもう一回、宙に浮く。

 

 右回転。その方向に合わせて、最小限の出力。まずはバネを作る、という感覚を覚えるために

 わざと威力を低く抑えて、体を捻り、ウイングスラスターを噴かせる。

 

「うおっ、と――」

 

 着地する時には、三メートル半も移動していた。

 これじゃあ無駄な勢いに流されて、『蹴り』の威力にも欠ける。もっと鋭く、体をしならせる必要がある。

 

「ミツキ君。いい? もう一回見ていて」

 

 そう言って繰り出される、楯無さんの『蹴り』は完成されている。

 スラスターを噴かせたのはほんの一瞬。されども、インパクトは絶大で、暴風にも似た風を切る音が恐ろしい。

 

 まさしく技術の結晶といえる。

 高すぎる目標に、思わず空笑いが出そうになる。それを必死に押し殺し、表情を引き締める。

 

「はぁッ!」

 

 見よう見真似、上等だ。

 俺はいつだって、そうやって覚えてきた。楯無さんから、山田先生から。机上の空論は織斑先生に相談して、身に着けてきた。

 

 実践だ。数をこなせ。時間を使え。頭で考える前に体で覚えろ。

 

「……んー、やっぱり……」

 

 

 

 この日の『蹴り』の訓練は、一歩も前進することはなく。

 ただ時間ばかりが過ぎてしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「……これは?」

 

 資料室の机の上に忘れ物があった。

 IS学園の生徒に、一人一台は配られている学習と連絡用の携帯端末だ。

 

 この携帯端末はそれぞれに識別番号が設定されており、先生に渡せばすぐに本人に返却されるだろう。

 

「……」

 

 それを見つけた少女は、すぐに教師のもとに届ける――ことはない。

 また取りに来るかもしれない、と思ってその席に座る。何より、完全下校時間になる前に、少しでも多くの調べ物を済ませておきたかった。

 

「――あっ」

 

 パソコンを開くと、途中だったのだろうか。スリープモードから起き上がり、パスワード入力画面に入る。ちらり、と横の席を見てみると、隣は既に人が座っている。二つ横は空いているが、わざわざ移動することだろうか。

 

「……」

 

 数秒の思考の後、そのままパスワードを入力して立ち上げる。

 

「えっ?」

 

 その瞬間、目に入ってきたのは動画であった。

 少女にとって馴染み深く、とても見覚えのある人の動画。

 

「どうして……?」

 

 興味があるのだろうか。

 もしかしてファンなのだろうか。

 

 あるいは、暇つぶしにたまたま見つけてしまったのか。

 

「……」

 

 少女は、何となく。

 何の気なしに、検索履歴を確認すると。

 

 そこにずらりと並ぶ、『ムエタイ』の試合動画の履歴の数々。その全てが、元世界チャンプのギャラクシー選手の試合映像であった。

 

「――っ」

 

 忘れ去られた携帯端末に視線がいく。

 もしかしたら同好の士かもしれない。話の合う人かもしれない。そんな好奇心が顔を覗かせる。

 

「そう、ですね。もし、再びここに訪れなければ――」

 

 ――直接届けるのも、いいかもしれません。

 果たしてそれが先生方に許可されるかはさておき。

 

 

 

 久しぶりにその動画を見た後、彼女は自身の調べ物を手早く片づける。

 結局、端末の持ち主は彼女が立ち上がるまで現れなかった。

 

 ならば仕方ない、と彼女は忘れ去られた端末を手に取り、外に出る。

 

 夕日に照らされた褐色の肌。緑の髪を揺らして、踊るように足が進む。

 新たな学友。ともすれば、親友になれるかもしれない存在に期待を持って。

 

 両手で大切そうに端末を抱えながら、彼女は教員室に向かうのであった。

 

 

 

 

 

*1
ISの操縦者保護機能。操縦者の命に関わる緊急時、IS側が判断して発動するシステム





たくさんの評価、皆様の感想、ランキングへの掲載。どれも大変励みになっております。
毎度のことではありますが、改めて。こちらの二次創作にお付き合いいただきまして、まことにありがとうございます。



……さて。
特筆して描写しなかったのには訳がそれなりにありますが。

あくまでオリ主君の主観が大半ですし、クラスリーグマッチとか端折ってますし。
加えてちょっと考察してみると、この状態でも辻褄合うなぁ、と思ったり。

というか簪だって存在がたった一行しかほのめかされていない時点で、主要キャラ全員が描写されているわけもなく。

次回にも、ご期待とお付き合いいただければ幸いでございます。


PS.ラウラはこの後ちゃんと転入してきます。今回はアニメ版の方に準拠しただけです。
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