道を2つの人影が進んでいる。
一方はリアカーを引きながら、一方はその隣を歩きながら。
道路は長年整備されていないせいかあちこちに亀裂や段差があり、そこをリアカーが通る度にガタゴトと音を立てる。その音には積み荷が揺れ、ぶつかるそれも含まれていた。
積み荷は缶詰、アルファ米をはじめとする保存食に飲料水、それにテントや飯盒と言ったキャンプ道具。雨に備えてのものだろう、その上にはビニールシートがかけられている。
一方は10代半ばの少女。紺色の上着とスカートと言う組み合わせの制服を着て、ボブカットにした金髪を輝かせている。その背中には大きめのリュックサック。リアカーの積み荷と合わせて、どこかへ遠出をするかのような出で立ちだ。
そしてもう一方は西洋甲冑のようなものを身に纏った男、のように見える。いや、果たしたこれは人間なのだろうか? 兜に見える目の部位には「一」の字のようなスリットがあり、そこから見える光からそこにあるものは単眼であると思わせる。それに肩と腰からはそれぞれ4本ずつ管が生えており、よくよく見れば甲冑にも隙間らしいものは見当たらない。
彼は、いや、これは異形、あるいは人外と呼ぶべき存在なのだ。
「ねー、アスクー。やっぱりわたしも引っ張るってー」
しかし少女はそれを気にしない。まるで友人のように接している。つまりは彼女にとって異形の存在は当たり前のものなのだろう。
少女が異形の顔を覗き込む。異形は僅かに頭を傾けるだけで、少女の提案を受けるつもりはないようだ。
「ごーじょーだね、アスクは」
断られた少女は気にした風もない。こうしたやりとりが日常茶飯事であることがわかる。
少女は異形の何歩か先に出て、周囲なんとなし眺める。
2人が進んでいる道はかつて国道として整備されていたもので、2人で歩くにはあまりにも広い。路肩にはとうの昔に動かなくなった車が何台も放置され、住宅や店舗と言った建造物も多くが緑に劣勢を強いられ、ものによっては敗北していた。
当然と言うべきか、周囲には人どころかそれ以外の動物の気配すらない。
周囲だけではない。ここまで通って来た、そしてこれから行く先にも誰も何もいない。
いるのはただ1人の少女と1体の異形だけ。
終わってしまった世界にただ1人と1体だけ。
これまで人類は幾度も躓きと危機を乗り越えながら、母なる地球のみならず穢すべき沃野を目指し続けていた。
しかしその暴走は人類の天敵の出現により停止を余儀なくされた。
後に『プレデター』と呼称されることとなる生物兵器群の出現である。
これにより、人類の活動は大幅に制限されることになり、またその生存域も後退していった。
無論、これに対し人類はあらゆる手段でもって『プレデター』に対抗した。
その対抗手段の1つが『ペガサス』であった。
『プレデター』が持つ細胞、プレデター細胞(これ以降P細胞と表記)を12歳から18歳の少女に注入することで誕生するそれは対プレデター兵器の中でも効果的かつコストに優れたものであった。
その殆ど全てが数年の内に死に至るとしても、通常兵器を揃えるより遥かに安価なのだ。
人権、人道なるものが過去のものとなり、人間そのものを戦争資源として消費するより他なくなるほど人類の黄昏は濃厚であった。元より戦争資源の最たるものは人間だがより露骨になったと言うべきか。
そしてそれは日本においても同様であった。
殊に近代国家として必要な資源を輸入に頼る日本にとって、海洋を『プレデター』に支配されたことは国家存亡の危機に等しかった。航空機での物資輸送は継続されているものの、船と航空機では輸送量・コストがいずれも違いすぎる。
となれば通常兵器の運用にも制限がかかる。そのような状況では人類の抹殺を目的とする――としか考えられない『プレデター』に対抗するのは困難であり、それ故基本的に人間と言う資源しか必要としない『ペガサス』を主兵器として扱うことは日本の国情に適していると言えた。
日本国内には9つのペガサス校が設置されている。校、とは言うものの、『ペガサス』が10代の少女であるから学校と言う体裁を取っているに過ぎず、実態は『ペガサス』訓練施設及び対『プレデター』防衛拠点である。
そのうちの1つが『アルテミス女学園』である。ペガサス校の最古の1つであり、最大人数を誇る東京地区防衛の要である。
そんなアルテミス女学園から始まった変化。
後に、世界を変えるかもしれない変化が。
ああ、しかし。
そんな変化も、唐突に起きた世界の終わりの前には、何の意味もなかったのだが。
もうちょい書きためるつもりでしたが、原作者様の誕生日なので投稿しちゃいます。