おわせかふたりたび   作:タメガイ連盟員

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山に登ろう


第十話

 一見すると荒涼とした斜面をミツミとアスクは登っていた。

 

 ここは富士山。

 

 日本最高峰の山だ。

 

 ミツミが旅の行き先をここに定めたのは、かつての同級生が行ってみたい、と呟いていたことと冬に学園外で作業をしているとき、西の方にかすかにその姿が見えていたことだ。

 

 アルテミス女学園は四方を壁で囲まれているため、空以外の外部の様子を見ることができない。その壁も現在では一部が崩れてしまっているが、外が見えないことには変わりがない。壁の上部に登れば見られるが、別にそこまでする気は起きない。登るための設備もない。

 

 行き先を決めたならまずは情報収集だ。

 

 当然ながら、世界が終わるまでミツミは東京地区とアルテミス女学園の外に出たことがなく、山に登った経験はない。本の中でしか知らない存在だ。

 

 なので山に関係する本を近隣の図書館や学校の図書館から集めて読み込む。幸い、旅先を決めたのが屋内にこもっていることの多い冬場だったので読む時間はいくらでもあった。

 

 山登りというのは意外と奥が深いらしく、専用の道具があったり、山によって難易度が異なったり、その難易度も季節や登山ルートによっても変わってくる。

 

 当の富士山はルートにもよるがおおむね中級者向けらしい。なのだがその中級者というのがミツミにはいまいちわからない。だいたいペガサスは常人をはるかにしのぐ身体能力を持っているから、一般的な基準はあてにならない。

 

 それでも富士山に登る前に近場の山に一度登ってみた方がいいだろう。海への途中にいくつか山を見かけていたからそこが良さそうだ。

 

 山に登るなら冬は避けた方が良い、とガイドにもあるので春になってからだ。もちろん、その前に道具を揃えたりといった準備を整えてからだ。登山用品は例によってホームセンターに行けばいくらでもあるのでそれを頂戴する。

 

 さて、ここで問題になるのが移動にかかる時間だ。直線距離で言えば、前回、海に行ったときより少し遠いぐらいなのだが、今回の目的は富士山登頂、いったん目的地についても更に行程があると言うことだ。山頂まで登って下山するだけなら一日もあれば十分なのだが、例えば天候が悪化して停滞を余儀なくされる可能性もあるから予定には余裕を持たせたい。となると、当然旅にかかる時間が延びて学園を開ける時間が長くなる。いろいろと食用の植物を育てたりしてみたいミツミにとってそれは避けたい。当然農作業に関する経験がないので何日放置しても大丈夫なのかわからない。なので旅はできるだけ短期間で終わらせるべきなのだが、それでも旅を楽しみたいと言う気持ちもある。

 

 あちらを立てればこちらが立たず。

 

 つまりどこかで妥協しなければならない、と言うことだ。

 

 なので旅の行程を縮めることにした。富士山の麓に拠点を設けて、学園からそこまでは走って移動する。目的はあくまで登山と割り切る。

 

 富士山周辺にまともな施設が残っていないように思えるが、あの辺りにはペガサス校の1つ、『東海道ペガサス教育センター』がある。

 

 東ペはアルテミス女学園とは異なり、東海地方に八十八の分校が設置されると言う形を取っている。東北地方から南下する『プレデター』の大群を一手に引き受けるアル女とはだいぶ趣が違っていて、戦闘を避ける場面も少なくない。その分校も設置された地域によって規模が異なり、小さいところだと片手で数えられる程度のペガサスしか配置されていなかったりする。まあ、規模が大きい分校が設置される場所は危険度が高いのだが。

 

 ともかく東ペの分校なら居住区外の施設としては新しく、拠点とするには適している。問題はその分校の位置がわからないことだ。

 

 当然と言えば当然なのだが、人類が居住区に籠もって以来地図の更新などほとんど行われていない。いや、もちろん各居住区内の地図はあるのだが、居住区外に存在するペガサス校の位置が記されている地図など運営を担っている企業なり役所なりにしか存在しない。そういった場所は居住区内にあるし、その居住区は壊滅状態なので探すのも一苦労だろう。もちろん東ペの分校は東海地方のどこに分校が設置されているかわかるように、東ペの管理地域の地図はあるだろうが、直接分校にいかなければ手に入るはずもない。当然、アル女にはない。

 

 つまり、最低でも一度分校のいずれかに行かなければならない。だが同時に懸念もある。拠点として使用できる状態であるかどうかだ。

 

 あの破局の日のあと、アル女と東京地区を壊滅させた『プレレター』の集団は次なる標的である名古屋地区へ進軍するためには、東海地方を通過する必要がある。そこに配置されている東ペのペガサスたちもその迎撃に出たはずだ。その結果は、言うまでもない。となると、分校も被害を受けている可能性がある。なので富士山に近く、かつ利用可能な分校を探す必要がある。

 

 それを確認するためにも一度東海地方へ行く必要があるだろう。移動ルートの確認にもなる。それから物資も運ばなければならない。走るとなるとリアカーは使えないかもしれない。ミツミとアスクのパワーとスピードであれを引くとなると、途中で荷物を落としかねないし、壊してしまっては元も子もない。なのでできるだけリュックサックなどを背負っていくことになるだろう。 

 

 ともかく、やることが多い。

 

 いつものことだが。

 

 ともかく、優先順位をつけて一つずつやっていくしかない。

 

 春を迎え、農業の準備と登山旅の準備を始める。

 

 農業に使うのは学園周辺のかつては畑だったと思われる場所を使う。農地にするには雑草を取り払ったり耕したりしなくてはならないのだが、これはアスクがとんでもない勢いでやってくれた。こんなに必要ないってぐらいの土地を耕している。

 

 余分に耕してしまった土地はどうしたものか。食べるのは2人しかいないから余分に何かを育てても無駄になってしまうし。そっとしておこう。

 

 最初は米を、と思っていたミツミだが意外と手間がかかることがわかったので来年の種籾用と試しで少しだけ作ることに。それから米に代わる主食としてじゃがいもを育ててみる。これなら少し離れていてもそんなに問題はない。はずだ。

 

 流石に周囲のホームセンターには使えるものがなかったので、種芋は東京地区の農業区画からもらってきた。

 

 続いて登山の準備だ。

 

 道具を揃えて早速目星をつけていた山に登ることにする。

 

 看板には筑波山、とある。ロープウェイやケーブルカー、神社などがあるらしいが当然ながら長らく放置されているので半ば朽ちかけている。

 

 登山道も植物が生い茂り、どこか道なのかよくわからない有様だ。ALISで切り開いて進まなければならなかった。さして苦労せず頂上についたが、ひたすら植物を払うばかりだったのでいまいち達成感がない。海に行ったときはあんなに楽しかったのに。

 

 富士山だったら違うのかな、と思いながらミツミは下山するのだった。

 

 学園に戻ったミツミは、次に富士山へのルート構築に入る。

 

 東ペ分校の正確な位置はわからなくてもおおよその場所は予想できる。ペガサスによる戦力が必要となる場所、つまり危険度が高いか人間にとって重要な場所、と言うことになる。そして東海地方において重要な場所は居住区である名古屋地区、そして名古屋地区と東京地区を結ぶ旧新幹線路線だ。つまりこの近辺に設置されている可能性が高い。

 

 なので、アル女の近くまで敷設されている路線を通って東京地区へ、そしてそこから西へ進めば東ペの管轄地域に入ることができる。そこから東ペ分校を探し出せば良いのだが、ミツミは分校の外観を知らない。なので手当たり次第探すしかない。看板か表札でもあればいいのだが。

 

 ともかく、現地に行くしかない。今回は探索時間もあるので向こうで一夜を明かすことになるのでアスクにも同行してもらう。キャンプ道具も一泊分だけなのでアスクと2人なら背負っていける。

 

 1つのことをするのにやらなければいけないことだらけ。

 

 旅って難しい。

 

 そう思うミツミであった。




破局の日、東京・名古屋と言った居住区にも水陸両用型に改変された鯨型の超大型プレデターが市壁を破壊、体内から多数の小型プレデターを居住区に流し込むことで居住区を壊滅に追い込んでいる。これにアル女を突破したギアルス・独立種集団が合流、線路伝いに各居住区・ペガサス校を蹂躙していった。
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