おわせかふたりたび   作:タメガイ連盟員

11 / 11
山を登るよ


第十一話

 富士山の麓にたどり着いたミツミとアスクは、まず拠点候補である東海道ペガサス教育センターの分校を探すことにした。

 

 見つけるのに手間がかかると思っていたが、分校へ繋がる道が整備されていたのであっさり見つかった。考えてみれば当然だ。分校でペガサスが生活している以上、そこには生活物資を運び込む必要がある。その輸送には無人のトラックが用いられているし、これはアルテミス女学園も同じだ。アル女の場合、規模が規模だけに物資の搬入は機械によって行われるが、ミツミが見つけたコウマ分校は校舎と言うよりはログハウスと呼ぶべき規模であるため、受け取りは手作業で行われていたと思われる。

 

 コウマ分校、実は東ペ分校の中では二番目に小さく居住できるペガサスも最大四名となっている。物資置き場としては少々不足がありそうだが、長期的に使うかはまだわからないので今は置いておこう。

 

 室内はアル女の寮に比べれば殺風景と言って良い。これはある意味当然で、アル女はかなり贅沢な生活ができたが、東ペは国が管理していることもあってそのあたりは非常に吝い。それでも1年半ほど前までは居住者がいたわけで、その名残が見られるのが何とも言えない気分にさせる。

 

 そういえば、アル女に転校してきた東海道ペガサスがいたっんだっけな、とミツミは思い返す。秘密裏に転校してきたそうで、高等部で生活していたらしい。ミツミは高等部の秘密を明かされてはいたが、もっぱら中等部の施設で生活していたため、ほとんど関わることがなかった。

 

 通常、ペガサスとなる処置は小学校卒業後、12歳から行われるのだが、東ペではある大事件の影響で所属ペガサスが大量に失われた穴埋めとして、言わば『飛び級』で早い時期にペガサスとなっている。当然ながら無理をしているので活性化率は通常のペガサスより高い。

 

 そういえば、なぜそんな東ペのペガサスがアル女に来ていたのだろうか? いるのは知っていたが、経緯までは知らされていなかった。まあ、今となっては聞き出せる相手もいないから知りようもないのだが。アスクなら知っていそうなのだが、彼のコミュニケーション能力に限界があるためやはりわからない。

 

 それはともかく、登山に必要な物資はここに置くことに決定。早速物資の運び込みを始める。いつも使っているリアカーだと走った場合載せている荷物がバラバラになりそうなので、背負子というものを使って運ぶ。1度に運べる量は減るが、今回は走る前提なのでこれが最適だ。

 

 数日かけて準備を整え、富士山の頂上を目指す。

 

 富士山も他の山と同様、人が入らなくなって久しい。そのため、登山道も森林に侵食されきっていて原型を留めていない。しかし、富士山は5合目まで車道が整備されており、そこを通れば問題なかった。流石にアスファルトがあちこちヒビ割れていたり、土砂崩れで塞がれていたり、道路自体が崩落している部分もあったりと、常人ならば諦めてしまうような状態であっても、ペガサスの身体能力にとっては痛痒を感じないものでしかない。

 

 順調に5合目に到達した。ここから先は森林限界、と言うもののため、木々がまったくない。だから登山道が無事か、と言えばそんなことはない。人の手によって作られたものは、人が整備し続けなければ維持できない。登山道のあとらしきものは見えるが、ないも同然だ。

 

 富士山にはいくつか宿泊施設などがあるが、高山と言うこともあって環境が厳しいのか、崩壊してしまっているものもある。いや、環境だけが原因ではない。自然の猛威だけではこうはならない、と言う状態のものもある。ここまでの道からも、森林が円形に抉られている場所がいくつかあった。それが出来た原因とおそらく同じだろう。

 

 プラント型、と呼ばれる大型プレデターが存在していた。名前の通り、プレデターを生産する能力を持った個体だ。アル女が健在だった頃、プレデターに制圧されていた東北地方にはこのプラント型が多数が存在していたと推定されていて、これらによって生産されたプレデターたちが夏と冬の年2回、関東に向かって南下するのだ。

 

 その数、数万。

 

 この大規模侵攻と呼ばれる大移動に対処するのがアル女のペガサスの任務だと言っても過言ではない。

 

 ミツミ自身も破局の日を含めれば4度の大規模侵攻戦を経験している。プレデター側に交渉だの何だのと言った概念はないため、当然ながら殲滅戦だ。そしてペガサスの被害も小さくない。ミツミも少なくない同級生を失っている。

 

 ではそのプラント型を倒してしまえばプレデターの出現を抑えられるのではないか、と思ってしまうがそう簡単にはいかない。

 

 まずペガサス校は基本近隣の居住地区の防衛が目的であるため、そうそう離れるわけにもいかない。出現場所も一定ではないし、当然ながらプラント型の周辺にはその護衛や生産されたプレデターが多数いるため、討伐遠征を行うのは困難なのだ。そのため、プラント型は自衛隊の戦闘機による爆撃で撃破することになっている。とは言え、自衛隊の活動にも限界はあるため、プラント型の討伐は遅れに遅れていたのが実情であった。

 

 そして、この富士山にもプラント型は度々出現しており、それを撃破するための爆撃が行われていたわけだ。

 

 その結果が穴だらけの富士山なのだが、人類が滅んだあとで美しい自然が残っても仕方がない、と言うことなのだろう。

 

 ミツミも本で知ったことなのだが、山には森林限界なるものがあって、一定以上の高さの山には木々がほとんど生えないそうだ。富士山の写真を見て、なぜ緑色じゃないのか、と思っていたがこれがその原因だと知って感心したものだ。

 

 途中、休憩所か宿泊施設らしき建物跡があったが特に見るべきものもないので頂上へ向かってまっすぐ進む。本来の登山道はジグザグになっているのだが、登山道を示すものは残っていないし、登山経験がないに等しいミツミとアスクにはこれが最適な登り方だった。それにペガサスの身体能力なら高山病と言った問題も無視してしまえる。

 

「ここが日本で1番高い場所……」

 

 頂上についたミツミがぼんやりと呟く。

 

 思えば、これまでのミツミにとっての世界は生まれ育った家や学校周辺、ペガサスになってからはアル女とその周りの旧市街地だけ。

 

 世界にミツミとアスクだけになってしまってからいくら行動範囲は広まったものの、アル女周辺に留まっていた。

 

 つまるところ、彼女にとって世界の広さを実感できる経験は皆無だった。

 

 それがどうだ。

 

 去年地上から見た海は果てなく続いているし、遥か高みにあると思われていた雲は眼下にある。

 

 目をこらせば、アル女だって見えるかもしれない。

 

「あっ! ねえ、アスク、あれ、アルテミスじゃない?」

 

 ミツミの指さす方向にそれらしい四角い構造物がうっすらと見えていた。アル女の外観は建っている場所には不釣り合いなもので、だからこそ見つけられたのだろう。

 

 ミツミはアスクと手を繋ぎながら火口を一周する。

 

「すごい、すごいね、アスク!」

 

 頬を紅潮させ、興奮気味にアスクに話しかけるミツミ。

 

 これまでこうして自身の感情を表に出すことはなかった。海に行ったときが初めてのことだったのではないだろうか。

 

 ミツミは幼いときから自分がペガサスになると理解していた。それが遠からず、家族と離ればなれになることだともわかっていた。

 

 だからミツミは家族との関わりも最低限にしてしまい、感情を表すことも控えていた。

 

 それはアルテミス女学園に入ってからも続いた。

 

 アル女での日々はあまりにも過酷であり、ごく限られた範囲の人間関係しか持てなかった。

 

 まことに皮肉なことに人もプレデターもいなくなったことで、ミツミが押さえ込んでいたものもなくなった。

 

「ね、ね、今度はあそこに行こうよ」

 

 無邪気に言うミツミは、自身の変化に気づいているのだろうか。

 

 ミツミが旅をしようとしたのは、自分のためではなく、亡き仲間の願いを叶えるためだ。

 

 それがどうだ。自分の意思で、旅をしようとしている。

 

 空駆けぬペガサスはようやく天へと羽ばたこうとしていた。

 

 そして、物言わぬ人型プレデター、アスクヒドラは彼女の傍らにあり続けるだろう。

 

 おわった世界で、ふたりきりの旅を。

 

 




これで本作は完結となります。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
話を続けようとすればできるんですが、同じことに繰り返し(場所を決めて、準備をしてそこに行く)になるのでここで締めます。

余談。
原作者様によると、おわせかの環境では高等部1年と3年はなんだかんだで適応するけど、他はきついとのこと。
2年生ェ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。