おわせかふたりたび   作:タメガイ連盟員

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で、一緒にいた異形ってなんなの?


第三話

 もちろん、何年にも渡るであろう対策をミツミ1人で行っていてはいつ終わるか知れたものではない。

 

 下手をすれば準備が終わる前にミツミ自身が終わってしまいかねない。

 

 しかしミツミには力強い味方がいる。

 

 あの異形の存在、名をアスクヒドラと言う。

 

 アスクヒドラ(以下アスク)は人型の『プレデター』と言う極めて特異な存在だ。人型の『プレデター』はペガサスのなれの果てである『ゴルゴン』以外には確認されていない。

 

 さらには友好的かつある程度意思疎通が可能とあっては、奇跡的と言っても過言ではない。

 

 そしてなによりもアスクの固有性質(スペシャル)がペガサスたちにとって福音となった。

 

 なお、固有性質(スペシャル)とは一部の『プレデター』が持つ特殊能力で、ペガサスもこれに似た『魔眼』を備えている。

 

 そもそもP細胞は既存の生物を生物兵器へ変貌させる存在だ。つまりそのP細胞を注入されたペガサスとは実質人型の『プレデター』である。『プレデター』とペガサスの相違点、それは前者は脳を含む全身に改造が起きるのに対して、後者は女性特有の生理現象にP細胞が過剰反応することで非活性化、改造が半端な状態で終了、脳はそのままに肉体のみが強化された存在になる。

 

 例えて言うなら昔の特撮ドラマに登場するバッタをベースした改造人間のヒーローのようなものだろう。

 

 なお、男性、成人女性に注入した場合、対象は死亡する。

 

 問題はP細胞は非活性化しているだけで、時間の経過、P細胞の機能を使うことで次第に活性化していき、最終的には完全活性状態となる。今度こそ脳までもが改造、人類の天敵たる『プレデター』――ペガサスの場合は『ゴルゴン』と呼ばれる――として完成してしまう。つまり、これがペガサスの寿命と言うわけだ。

 

 そう、ペガサスとなった少女たちは、『プレデター』との戦いの中で死ぬか、『ゴルゴン』となるか、あるいはそうなる前に専用の毒を呷り自ら命を絶つ以外にない。

 

 そんな環境に現れたアスクの持つ固有性質(スペシャル)は、ペガサスのP細胞の活性化を抑止すると言う効果があったのだ。

 

 これによって高等部のペガサスが『ゴルゴン』になる寸前だったのを救われたのだと言う。

 

 それから高等部のペガサスたちは独自の行動を始めたらしいのだが、詳しいことをミツミは知らない。アスクの存在も学園を運営する大人たちに対して秘匿していたようだった。

 

 確かに活性化を抑止できるなら戦闘中、活性化を進行させる魔眼の使用を躊躇せずに済むし、長くても5年ちょっとの寿命も伸ばすことができる。

 

 できるが、それだけだ。

 

 ペガサスである以上大人に、国家に管理される兵器であることに変わりはない。

 

 アルテミス女学園から離れることだってできない。離れようとした場合は、生徒会長による“進路指導”が待っている。

 

 有翼の存在の名を与えられながら、ただの1度も空を飛ぶこともなく、鳥かごで生涯を終えるしかない。

 

 それがペガサス。

 

 ミツミは年に夏と冬の2度、東北で増産された『プレデター』が大挙南下する、“大規模侵攻”を控えた時期にアスクと引き合わされている。

 

 これは高等部ペガサスと繋がりの深い『勉強会』と呼ばれるグループに所属している同級生の手引きによるものだ。

 

 おそらく戦闘に以外のことには関心が薄いノンポリ型でかつ口が堅いと判断されたためだろう。加えて前衛アタッカーとして優れるミツミを戦力として活用しやすくしたい、と言う考えもあったはずだ。

 

 初めてアスクと会ったミツミは特に動揺を見せなかった。それから生徒会長から彼が何者なのか、高等部で何をしているのか、と言う説明を受け、何か質問はないか? と問われたミツミはとりあえず持っていた太刀型ALISで一太刀入れた。

 

 当然周りのペガサスが慌てて止めたが、当のミツミは気にした風もなく、アスクの傷口をじっと見つめるだけ。

 

 なぜ攻撃したのか、と尋ねられたミツミは

 

「本当にプレデターなのか確かめたかったから」

 

 と答えた。

 

 つまり、本物のプレデターなら軽く斬られた程度の負傷ならすぐ再生するはずだからそれでわかるからと言うことだった。

 

 もちろん、これまでにもアスクを攻撃してしまったペガサスはいるのだが、それは彼の突然の登場に驚いてだったり衝動的に殴ってしまった、と言うものでそんな理由で攻撃するなどまったくの予想外だった。

 

 自身に含むところが一切ないにも関わらず、斬りかかってきたこの少女に対し、アスクが何を思ったかは定かではない。

 

 ミツミとしては笑顔を引きつらせていた生徒会長の顔がなんだか印象に残っている。

 

 とまあ、2人のファーストコンタクトはそのようなものだったのだが、今のところ関係は良好だ。たぶん。

 

 アスクはこちらの言うことは正確に理解してくれるだが、あちらは意思を伝えるの難しいのか、はい、いいえぐらいでしか答えられない。

 

 普段、ミツミが着替えや行水をするときはこちらを見ないようにしていたり、何もないときは読書したり、食事のときは火起こしや火の番もしたりと中に人間が入っているとしか思えない行動をしているが、こういうところが人ならざる者の証明なのかもしれない。

 

 それでもアスクがいてくれてよかったとミツミは思っているし、それを何度も彼に向かって口にしている。物事はちゃんと口にしないと伝わらない、程度のことはミツミだってわかっているのだ。

 

 ミツミは日常生活で他人への依存が強かったし、孤独に耐えられたかもわからない。それに、立ち直るまでに息絶えていたかもしれない。

 

 それにアスクは普段からよく本を読んでいるだけあって博識らしく、ミツミに必要そうな本を図書室や市街地で探して持ってきてくれたのは本当にありがたかった。

 

 アスクの固有性質(スペシャル)は、正確にはあらゆる性質の液体を生成できる、と言うもので、先に述べた活性化抑止剤以外にも接着剤や野菜を育てるのに使う栄養剤と行ったものも作れたのだ。

 

 ミツミは彼がいなかったら本当にどうなっていただろう、と常々思い返すのだった。

 

 そんなわけでミツミとアスクの毎日は、物資の調達・整理、設備の修理・整備、勉強、遠出の準備が基本となっていた。

 

 遠出、いや旅と言うべきだろうか。

 

 ずっとアルテミス女学園周辺に留まっているわけにはいかない。誰もいないと言っても、直接確かめたのはアルテミス女学園と東京地区だけで、他の居住地区やペガサス校を見たわけではない。

 

 それだけではない。ミツミの中にもある思いがあった。

 

 図書室には様々な本が置かれているが、その中に風景写真を扱ったものもあった。ミツミの同級生の1人は、そんな写真集をよく眺めては決して行くことのできない場所へ思いを馳せていた。

 

 彼女はもういない。だけど、自分はここにいて、鳥かごはもう存在しない。

 

 なら、彼女の、仲間たちの思いを叶えるのが自分の使命ではないのか。きっとそうに違いない。

 

 だから。

 

「アスク、海に行こう」

 

 まず1歩。

 

 この終わった世界で、2人で旅に行こう。




 鰐口ミツミ

・戦闘バカ
 ペガサスとはプレデターと戦う存在である。
 と言う考えから戦闘以外についてはかなりなおざり。日常生活ではポンコツと言っても過言ではない。
 反面、戦闘に関しては極めて優秀であり、他のペガサスとの連携や訓練についても普段の姿からは想像できないほど積極的かつ適確である。
 なお、別に戦闘が好き、と言うわけではない。
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