おわせかふたりたび   作:タメガイ連盟員

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準備をしよう


第四話

 ミツミは東京地区で生まれ育った。

 

 家の経済状況は中の下、裕福では決してないが貧困とも言えない。

 

 そんな家に第3子として誕生したミツミは、産まれる前からペガサスになることが決まっていたようものだった。

 

 “参人壱徴兵法”

 

 追い詰められた日本政府が打ち出した法律であり、これは子を3人1単位として考え、その内の1人を男性だったら自衛隊、女性だったらペガサスにする制度だ。

 

 選択権は親にあり大抵の場合、第1・2子は徴兵を逃れさせ第3子を国に差し出すことになる。

 

 そうすれば家には支援金が支給されるし、逆に出さなければ重税を課される上、世間から非難を浴びることになるから、例外となるのはよほどの金持ちだけだろう。

 

 当然、経済的に余裕のない鰐口家にとって、この制度による支援金は喉から手が出るほど欲しいものだ。12年間育てなければならないが、それでも魅力は失われない。

 

 つまり、ミツミは家族にとって最初から失われていた存在なのだった。

 

 ミツミは小さな頃から聡い子供だった。小学生になる頃にはペガサスがどういうものか、自分がいずれそれになることも理解していた。

 

 そして思い切りが良すぎた。

 

 彼女は家族との関係を最低限のものにしてしまうことに決めたのだった。

 

 思い切りがいいどころではない。あまりにも極端、破壊的とすら言える。

 

 育てられる恩も、ペガサスになることで帳尻がつくのだからそれでいい。

 

 だから挨拶と返事ぐらいしか言葉を交わすこともないし、兄姉の名前なんて覚えすらしなかった。事実として、アルテミス女学園で過ごすうちに顔すら忘れてしまっている。

 

 それでいて家の外では友達と遊んだりと年相応の振る舞いもしているのだから何と言うべきかわからない。

 

 あるいは家族との断絶を作ったことに耐えかねていたのかもしれない。彼女の友達が、みな似た境遇であったことは無視できる要素ではない。

 

 だからこそだろう、ペガサスとなった彼女にとってアルテミス女学園こそが家であり、仲間たちこそが家族であった。

 

 『プレデター』と戦うことよりも仲間を、家族を失うことの方が怖かった。

 

 誰もより熱心に訓練もしたつもりだし、戦闘でも積極的に前に出続けた。出過ぎて先輩に怒られることもままあったが、そこはいい。

 

 ミツミにとって、これまでの2年間はペガサスになる12年間を上回るものだった。苦しいこともあったが、それでも輝かしい日々だった。

 

 もう誰もいなくなったとしても、その日々が色褪せたりはしない、させたくない。

 

 

 

 旅をしようと決めはしたが、アルテミス女学園を放棄するつもりはない。なぜならここがミツミの家だからだ。旅に行くなら帰る場所が必要だ。 

 

 なにかをすると決めれば即座に行動に移すのが彼女の美徳ではあるが、これからはそうはいかない。今までは周囲がフォローしてくれたが、もう自分とアスクだけしかいないのだ、事を起こすには慎重になれなければならない。

 

 まずは目的地を決めよう。

 

 漠然と海に行くことは決めたのだが、どこの海を行きたいと言う考えがあるわけでもない。写真集にあったようなところを見られたらいいな、程度のものだ。

 

 公共施設から持ち出してきた地図を広げてみる。

 

 アルテミス女学園は関東地方を流れる利根川の東岸、旧茨城県西端に位置する自治体があった場所に設置されている。

 

 利根川に架かっていた橋はアルテミス女学園の物資輸送用に残された東北新幹線の高架橋を残して破却されている。これは『プレデター』を東京地区へ近づかせないための防衛策の一環で、他の川も似たような状況だ。当然小舟の類いも残っていないから川を渡るのは困難と言わざるを得ない。

 

 このため、東京地区へ向かうのは高架橋を通るしかないのだが、これも一部が崩落するなどしていてそれなりの荷物が必要な旅の道として使うには不向きだし、そもそも鉄道なので人が歩くことなど想定していない。

 

 海に行くだけなら方位磁石にしたがって東に進むか、利根川沿いに歩けばいずれは着くだろうが、川沿いの道はこれまでの水害などで使えなくなっている可能性がある。

 

 今回の旅程は今後更に遠くへ向かうことを考えた予行練習のようなものだ。なのでできるだけわかりやすいルート、大きめの道路を通ることにする。

 

 地図と照らし合わせながら進めば大丈夫……ではなさそうだ。

 

 これまで見てきた地図は学園周辺と言う限られた範囲のものだけで、それも戦闘のためであって移動ではない。

 

 となると、1度地図を見ながら移動する練習をした方がいいだろう。

 

 ともかく、目的地は県立の海浜公園を目指すことにした。

 

 それから食事。これは何度も野外でたき火を使った調理をやっているから大丈夫だ。アスクは食事を必要としないが、一緒に食べた方が好ましい。なので持っていくのは2人分。学園から海までは90kmほど。徒歩移動だから2日と少しで着く計算だ。途中で道が使えなかったりして迂回しければならないかもしれないから、余裕を見て往復10日分×3食×2人分=60食を持ち歩くことになる。

 

 食料だけなら大きめのリュックサックに背負っていけばいいのだが、飲料水も必要になるし、調理道具や寝泊まりするためのキャンプ道具、着替えとあれがいるこれがいるとリストを作っていく内に持ち物の予想外の膨大さに唖然とした。10日でこれだともっと遠くに行くときはどうするんだ。

 

 ……そのときは、そのときまた計画を立てよう!

 

 『プレデター』が現れる前は旅が流行っていたらしく、図書館にも旅行のガイドブックや観光名所案内の本がいくつも置いてあった。それも日本の中だけではなく海の向こうに行くことも珍しくなかった。まあ、お店は機能していないにしても、“国宝”や“重要文化財”と呼ばれるものはまだ残っているから、そうした場所を巡ってみるのもいいかもしれない。ミツミにはいまいちその価値はわからないのだが。

 

 行く先々に空き家なんていくらでもあるのにわざわざ野営するのは、空き家だといちいち中の掃除をしないといけないからだ。拠点として使うのならともかく、そのときだけ使うのにそんなことをするのは正直面倒だし、空き家であるからには施錠されているのを壊して入るのにも抵抗がある。それに建物の中には小型の『プレデター』が潜んでいることがあったのも敬遠したくなる原因だ。

 

 3日ほどかけて地図を見る練習と物資の準備を整える。

 

 物資はリアカーに乗せていくことにした。それなりの重量になるが、ペガサスの身体能力なら苦にならない。

 

 このリアカーー、市街地のホームセンターから持ち出したものだが何十年も放置されていたため、アスクに補修してもらっている。それにしても、ホームセンターと言う場所はすごい。キャンプ道具もここで揃えられたし、災害生活ガイドに書かれていたものはだいたい置いてあった。しかも同じような店舗が市街地にはまだいくつもあるのだから驚きだ。旅の途中で見かけたら地図に場所を記録しておこう。

 

 出発当日、高等部寮の扉に施錠をする。誰もいないのだから意味の無い行為だが、こういうのは気分だ。

 

 リアカーのハンドルの内側には既にアスクが収まっていた。なんで?

 

「アスク、それ、わたしの荷物ばっかりなんだからわたしが引くよ?」

 

 しかしアスクは頑なだった。まるでこれは自分の仕事だと言わんばかり。ここで問答を(アスクは答えられないが)しても仕方がない。

 

 半壊した正面門から出て、学園に振り返る。

 

「いってきます!」




アスクヒドラ

識別番号01
原作の主人公。何が起きたのか知っているが伝えようとするとフリーズしてしまうので伝えられない。
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