学園に到着したミツミはまずアスクと共に設備の確認を始めた。
1週間ほどの外出で何か異常があるとも思えないが、念のためだ。既存の設備はともかく、手作りの用水路は気になってしまう。
とりあえず、問題はなかったので、リアカーの荷物を下ろしていく。あとで消費した分量と記録とを照らし合わせるので、備蓄とは別にしておく。
時間は昼過ぎ。丁度良かったので食事を済ませ、さあ、次はどうしよう。
洗濯をしたいが既に昼過ぎ、これから始めても、1週間分の量だ、干すときには日が傾いてしまっている。屋内に干す場所は用意してあるが、できれば日が出ているときに干したい。
……洗濯は明日の朝にしよう。乾かすのがうまくいかないと臭いが残ってしまう。となると、翌日の天気が気になるところだが、たぶん大丈夫だろう。雨が降ってきても日中なら室内干しでもなんとかなるはずだ。
日課の作業を終わらせて、今回の旅の反省会を行う。
物資の消費量は概ね予定通り。余分な日数がかかることを予想して多めに持っていったのだが、当然余っている。
食料品は問題なかったが、もっと暑い時期に旅するときは少し気をつけないといけない。食中毒への耐性はあるが、食べ物の腐った臭いは正直かなりきつい。
着替えも今回は全日程分用意したが、今後移動距離と日数が伸びればどこかで洗濯日でも設けないと持ち物が着替えで膨れ上がってしまう。
となると問題は洗濯日の天気だ。そうと決めた日が1日晴れになるとは限らない。一応昔の天気予報のやり方は調べたがせいぜい参考になる、程度でしかない。
もし雨が降ってきても、この学園のように洗濯物を屋内にしまえる場所を滞在地にするしかないだろう。
テント泊は慣れればなんてことはなかったが、既存の建物に宿泊するのは問題があった。
ほとんどの建物がそうなのだが、人が使わなくって何十年も経っている。学園の周辺は当然、旅の途中で見た家々はかなり荒れていたし、使い物にならなくなったものも多い。海で使ったあの売店も実はあちこちに雨漏りがしていたのでアスクに塞いで貰ったぐらいだ。
学校の校舎などは比較的マシだったから、使うとしたらそこにした方がいいだろう。荒れていることには変わりないが。
それに今後旅の行き先が遠くになれば、どこかに物資を貯めておく場所が必要になってくる。
片道100kmの往復でも1週間かかったのだ、そうした場所を設けないといけなくなるだろう。持ち運べる物資の量には限界があるからだ。
その気になれば、ペガサスであるミツミは今回の旅でかかる時間を1日に短縮してしまえるだけの身体能力がある。しかし、それでは単なる移動で旅とは言えないだろう。
なので旅はきちんを計画を建てる必要がある。その通りにいかない可能性もあるが、それもまた旅の醍醐味だろう。なにしろ事前に地図で調べてもその地図が何十年も前のものだったりするし、『プレデター』対策や災害で道や橋が壊れてしまっていることだってある。
ただ今年中にもう一度、とはいかない。
なにしろこれから冬が来るからだ。
世界がこうなってから冬を迎えるのはこれが初めてだ。なのでそれに向けた対策が必要になる。
ペガサスは暑さ寒さにはそれなりに耐性があるが、暑いものは暑いし、寒いものは寒い。ものには限度というものがある。
つまりは寒さ対策、暖房器具と燃料を揃える必要がある。
かつていた高等部ペガサスである■■■ならば冷房も暖房も自作して、動力源も発明してしまうだろうが、あいにくミツミにそういった知識も技術もない。
たき火だけでは屋内では使えないのでかなりつらいはずだ。なので暖炉もしくは薪を使うストーブを自作するか探し出す必要がある。
暖炉は作れなくはないと思うのだが、住まいである寮を大きく改造しないといけないので時間的なことを考えると止めた方がよさそうだ。
となると薪のストーブだが、こちらはホームセンターを探し回って見つけることができたので使わせてもらうことにする。どうやら、『プレデター』が現れる前に、アナログな生活をする、と言うのが流行っていた名残らしい。
こちらも煙突をつけないといけないのだが、壁に1カ所穴をあければいいのだが改装も簡単だ。
となると次は燃料である薪だ。木なら街路樹や公園に生えているものがあるから当面困ることはないのだが、本によると切ったばかりの木は薪に向いていないので1年ぐらい乾かさないといけないらしい。となると来年用に何本か切っておかないといけないのだろうか。そもそも何本ぐらいいるのだろう?
これまでは倒れた木や落ちている枝、例によってホームセンターにあった薪を使っていたがそれだけでは今後不足するのは明らか、なので伐採して確保していく必要が出てくる。
市街地にある木も1人で使う分には間に合うように思えるが、実際の消費量がまだわからないので気がついたら根こそぎ切り倒していた、なんてこともありうる。そうなると木が多くある場所に保管場所を作って、そこから学園まで運んだり……それはまあ、この冬を終えてから考えよう。
当然、薪はどれだけあって、どれだけ使ったか記録する必要もある。重量を量るために農家から大きめの秤を持ってきてある。
あとは衣服だ。冬物を倉庫から引っ張り出して、夏物を仕舞わないといけない。防虫剤を一緒にいれないといけないのだが、これは在庫があるから使っているが当然これも使えなくなるので代わりになるものを調べておかないといけない。それに厚手の毛布も用意しないと。
いつかなくなると言えば食料品もだ。
主食の米にしろ、缶詰にしろ食べきってしまえばおしまいだ。その前に自分で作らなくてはならない。
当然ミツミに(アスクも)農業に関する知識・技術はない。本で勉強しながら試行錯誤するしかないが米はできるまで何ヶ月もかかるらしいから、きちんとできるようになるまで何年もかかるかもしれない。なので早めにやり始めないといけない。
となると、その間は旅に出ている暇なんてなくなってしまうんじゃないだろうか? いや、収穫は今ぐらいの時期になるから冬場ならできるだろう。
それと缶詰がなくなったら、肉や魚を食べられなくなってしまう。当然、自分で獲って捌かないといけない。できるだろうか。
動物を捕まえるのはそう難しくないだろう。だが動物を捌いた経験などない。学園が稼働していた頃の食事で提供されたチキンステーキだって調理済みの状態で出てきたのだから当然だ。
未知・未経験尽くし。
冬に向けて、今後に備えてやらないといけないことは相変わらず山積みだ。
ひとつひとつ、片付けていくしかないだろう。
時間は過ぎて12月末、1年の終わりが近づいてきている。
冬の生活は今のところ順調だ。薪ストーブはちゃんと機能していて、屋内にいる間は寒い思いをせずに済んでいる。
それに薪ストーブは料理にも使えるので一石二鳥だ。
ミツミは季節の行事への関心が薄い。なので新年に餅を食べるだとかは特にしない。
しかし何事にも例外はある。ミツミであって、これだけはしないといけない、と思うものはある。
この日に向けて、アスクと一緒にあるものを用意していた。
それを持って、ミツミは学園のある場所へ向かう。
アルテミス女学園内にある共同墓地だ。
ここには、これまで死んでいったペガサスたちが、少なくとも回収できた彼女たちの遺骨が眠っている。
そこには既にアスクがいた。
ミツミも月に1度はここを訪れていているが、ミツミの知る限り、アスクは毎日通っている。
だからここは学園内のどこよりも清掃が行き届いている。
彼なりになにか悔やむことがあるのだろう。
いや、それはそうだろう。
彼が今ここにいると言うことは、彼が何もできなかったことに他ならないのだから。
既に掃除は終わっているので、ミツミは持ってきた造花の花束を墓地に置かれた石碑に供える。
その石碑の周りにはいつくもの人工物が突き立てられている。
いずれも高等部ペガサスが使用していた、彼女たちそれぞれに与えられた専用ALIS。そして槌、片手剣、杭と言った
それが墓標代わり、あるいはそれぞれに花の名前がつけられていることから、手向けの花としてそこにあった。
ミツミとアスクはそれらに手を合わせる。
今日は12月25日。
アルテミス女学園の最後の戦いが始まった日であり、破局の日の始まりであった。
破局の日
12月25日、例年よりひと月以上早く始まったその大規模侵攻は時期だけでなくその様相も異なっていた。それが世界の、人類社会の終わりの始まりとは誰も気づいていなかった。