日課を終え、あとは就寝するだけなのだが、それだと味気ないので、眠るまでの時間は読書時間になっている。
ここ最近ミツミが読んでいるのは、20世紀末から21世紀初頭にかけて刊行された世界的ベストセラー小説シリーズ、その翻訳本だ。
読書時間を作った当初、ミツミはサバイバルガイドと言った自分達の生活に必要となる知識を得るためになる本ばかりを読んでいた。もちろん、それは必要だからそうしているのだが、リラックスできているとはまったく言えなかった。
最初の旅は大凡の生活構築ができたと判断されたからこそ実施したのだ。それから帰還した今、ミツミがこうしてエンターテインメント小説を読んでいるのは、彼女がようやく憩うことができるようになった証左だろう。
ミツミはいつもベッドに入る前にアスクに今日読んだ本の話をする。このときばかりはミツミも年相応の少女のように、楽しげにしている。
娯楽として本を読む、と言う行為に慣れていないミツミは読むのにだいぶ時間をかけているし、こうして誰かに話すことで内容を咀嚼しているのだろう。
しかし今日のミツミは本を読んでいる間にうつらうつらと船をこぎ始めたので、彼女が読んでいる本を開いているページにしおりを挟んで机に置く。
ミツミをベッドに運び、掛け布団をかけてあげる。まだ眠れないときはこのタイミングで一旦目覚めるが、そうした様子はない。このままおやすみだ。
薪ストーブは新たに薪をいれなければそのうち消えるので薪投入口であるドアを閉めるだけで良い。
読書用の照明として使っていたカンテラの火も消す。これも燃料である油が必要なため無駄遣いはできない。
誰かが侵入してくるわけではないが戸締まりも確認してからミツミの傍らに腰を下ろす。
ミツミが眠った以上、アスクがやることはない。
ミツミの傍らから離れようとすると、彼女を起こしてしまうので夜が明けるまでこうしているしかない。
そうなると、自然と過去を思い出してしまう。
とは言え、アスクの記憶はここ2年のものしかない。
現在の意識が覚醒してからまだそれしか経っていないのだ。
最初の1年は怒濤の如くだった。
同胞やペガサスたちとの出会い、彼女たちの苦悩に触れ、大規模侵攻を共に戦い、そして。
アスクヒドラが瓦礫で埋まった地下から地上に這い出たのは、事態の開始から40時間は過ぎたあたりだろうか。
事態の変化はあまりにも急激だった。
まず東北方面へ偵察へ向かっていたアスクの仲間、識別番号03――プテラリオス、ついで識別番号02とも連絡が途絶した。
異常事態の侵攻はそれ以前からわかっていた。
月に存在しているコントロールタワー、即ち『プレデター』のHQから全『プレデター』への命令変更が行われていた。
『4320時間以内での目標達成』が下達されたのだった。
遙か昔から、1億8千年前から存在している識別番号02ですらこのような命令を受けたことはないと言う。
『プレデター』側の変化はこれまでにもあった。かつての人類の99%を抹殺した恐竜型プレデター『ギアルス』の投入と言う事態は起きていたが、これほど急なものはなかった。
コントロールタワーで何かがあったとしか思えないが、確かめるすべはない。
アスクもこれをなんとかペガサスたちに伝えようとしたが、ペガサスたちもできることは限られている。
結局のところ、『プレデター』と戦って勝つ以外に生きる道はないからだ。
仲間2人との連絡が途絶えた状態で南下、進撃してきた『プレデター』集団の数は100に満たなかった。
問題はその全てが『ギアルス』、『プレデター』の進化体である独立種で構成されていることだった。
そのどちらにもアルテミス女学園のペガサスたちは対処法を研究してきた。しかし、それらが大挙して押し寄せてくるなど想定外だった。
結果、戦闘開始から半日も経たない内に学園の主力である高等部のペガサスの全滅、中等部のペガサスも半数が失われたことで生徒会長である蝶番野花は残存ペガサスの学園内への撤退を指示、籠城を決定した。
これはなにか名案があってのことではない。ただ単に『プレデター』と戦って死ぬか、毒を飲んで自害するかを決める時間を残ったペガサスに与えるためだった。
終わりだった。
主力を失った以上、アルテミス女学園は『プレデター』に蹂躙されるしかない。
アスクと接触してからアルテミス女学園の自立を目標として様々な手を打ってきた。それがほんの数時間で崩れた。
あれこれやってきても終わるときは一瞬だ。
蝶番野花は籠城決定後、アスクを高等部寮の地下に押し込んだ。当然アスクは抵抗したが、彼女の懇願に折れるしかなかった。
地上に出たアスクが見たものは、無惨に破壊されたアルテミス女学園の施設と、ペガサスたちの遺体だった。
見覚えのあるペガサスも、見覚えのないペガサスも誰もが物言わぬ姿となっていた。
通常、そうした遺体は『プレデター』が処分してしまうのだが、東京地区への進撃を優先したのか、そのままうち捨てられていた。
アスクはその1人1人を共同墓地へ運んだ。また、瓦礫に埋もれている者も掘り出していった。
火葬場を使うことはできなかったので、共同墓地に穴を掘って丁寧に埋葬していった。
大凡校内の遺体を埋葬し終え、『街林』へと出たアスクは高等部ペガサスらの遺体を収容を始める。
1人見つけるごとに彼女たちとの思い出がよみがえり、手が止まる。
そして、アスクが最初に出会ったペガサスを見つけた。
喜渡愛奈の姿は、遠目には眠っているようにしか見えなかった。いや、頭部の右半分が失われているのだから、そんなはずがない。
傍らには下半身のない久佐薙月世が寄り添うように事切れている。ここまで這いずってきたのだろう、血の跡がうっすらと地面に残されている。
アスクはその場に崩れ落ちる。
なぜ、涙を流すことができないのか。
なぜ、慟哭の叫びをあげることができないのか。
なぜ、なにもできなかったのか。
仲間と共有していた、ネット掲示板のようなそれには、声を出せない代わりのように、アスクの嘆きが羅列されていった。
最後に残っていたはずの識別番号04もとうにやられてしまっているのか、何の反応もない。
彼女らも埋葬し終え、どうすべきか何も考えは浮かばなかった。
校舎でも直そうかと思っていたところに、ふらりと人影が現れたのだった。
それがミツミだった。
眠るミツミを見つめながら、改めて思う。
彼女が生きようと思う限り、自分も生き続けよう、と。
コントロールタワーからの指令を考えれば、既に『プレデター』の目標は達成されているはずだ。
であるならば『プレデター』はその機能を終え、元となった生物へと回帰していっているだろう。
自身がなぜそうなっていないのかはわからない。
けれど、ここにある限りは彼女を守り続けよう。
本作はソシャゲとしての「くるがい」が存在していて、その二次創作ドット絵ゲーム「おわせかふたりたび」のリプレイ小説、と言うコンセプトになってます。
作中であれこれ作ることが多いのはそういうことです。